アイリーン・ベッドフォード 2
「はぁ・・・・・・」
「お嬢様?どうかしましたか」
「ううん、なんでもない」
私のため息を聞き止めたメイドのリリアが心配そうな眼差しを向けているのを感じるが、本当になんでもないのだ。
ただ自分の平凡さを改めて認識して、少しショックを受けただけだから。
元々平凡な一般市民ではあったのだけど・・・・・・。
それでも伯爵令嬢として転生したのだから、色々と淡い期待を抱いていた。
父様も母様も格好良くて美人だし、その血を受け継ぐ私もきっと・・・・・・!!
なんてそれまでに描いていた夢は、自分の姿を鏡できちんと認識した瞬間に吹き飛んだのだけど。
チョコレート色の髪に、琥珀色の瞳。
茶色と表現するのは可愛くないからあえてそう言うけれど、言ってしまえば地味な色彩の平凡な顔の女の子が鏡に映っている。
可もなく不可もない平凡な顔付きに、3歳児にしては平均よりも小さな背。唯一誇れるのは図書室によく籠っていたおかげで保たれた、肌の白さくらいだろうか。
いいところ中の上くらいとしか言えない顔に、私はリリアに気付かれないように小さくため息を吐いた。きっと心優しい彼女は、私が自分の顔を卑下していると知ると悲しむだろうから。
何度見ても目の前の顔が変わるわけではないが、それでも少しばかり神様を恨みたくなるのは仕方ないことだろう。
父親は同じチョコレート色の髪に、アクアマリンみたいな綺麗な瞳。
母親は太陽にあたるとキラキラ光る金色の髪に、同じ琥珀色の瞳。
兄はそんな二人の良いとこ取りで、金色の髪に青い瞳をしていて、妹の贔屓目なしにしても本当に王子様みたいに格好良い。きっと将来はイケメンに育つことが分かる顔付きに、どうしてこんなに兄妹で差があるのかと再びため息がこぼれそうになる。
どうせならどちらか一つ、両親の良いところを受け継ぎたかったなぁ。
せめて外見くらいは、夢見たお姫様に近付きたかったが、今更嘆いてもどうなることでもない。
家族は私のことを可愛い可愛い、と言ってはくれるがそれが身内贔屓なのは明らかだ。
「アイリーンはかわいいよ」
「本当に、アーシャは私の自慢の娘だ」
「アーシャは妖精さんみたいねぇ」
なんていう言葉は私が他の子達よりも小さくて、家族だから出る言葉で女の子の言う可愛いと同等だ。
見た目は三歳児でも、中身はアラサー女子である私はきちんと自分の外見偏差値を客観的に判断出来るので、将来に無駄な期待をするのは早々にやめる事にした。諦めたともいうが。
だってシンデレラも白雪姫も眠れる森の美女も、お姫様は全て可愛くて綺麗だからこそ王子様に出会い、見初められたのだ。そうでなければ出会った瞬間にダンスのお誘いなんてしないだろう。
平凡な女子にシンデレラ・ストーリーや、王道イベントなんてものは無縁のものだ。
だから私はそんなものはすっぱりと諦めた。
夢見るのは自由だけど、それで自分の時間を無駄にはしたくないし、なにより勘違いして破滅に向かっていく悪役令嬢なんてものにもなりたくはないから。
私が望むのは、あくまでも幸せで文化的な最低限度の生活だ。
趣味だったお菓子作りをしたり、絵や小説を描いたり、おしゃれを楽しんだりとしながら、前の人生で出来なかったこともして、今度こそ幸せで後悔しない最後を迎えたい。できれば自分の趣味で埋め尽くされた綺麗な庭付きのお屋敷でのんびりと過ごす老後を希望したい。
その為に私がどうすれば望んだ未来を手に入れられるだろうかと、そればかり考えるようになっていた。
まずは情報収集だろう、この国のことも、世界のことも私はまだ何も知らないのだから。そう思いますます図書室に籠りがちになるという、私の幼児らしからぬ姿を家族が心配していると知ったのは、かなり後になってからだったけれど。
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