第4話 2つの顔

またお母さんはイライラしている。


ミドリは気配を察知し、読んでいた漫画で顔を隠した。


お母さんは仕事から帰ると、掃除機片手に部屋に入ってきて、ガーガー掃除機をかけながら文句を言う。


「床のものを拾って片付けてちょうだい。全くだらしのない…。」


お母さんがくるりと背を向けると、お母さんの後ろ頭にもう一つお母さんの顔があった。


ミドリはビックリしてもう一つの顔を見つめると、今度はその顔が話しはじめた。


「疲れた。家事はきらい。まだ料理もゴミ捨てもあるし…。ああもう寝てしまいたい。」


後ろ頭の顔は泣きそうだった。


お母さんはドスドス階段を降りて、今度はキッチンでガチャガチャお皿を洗っている。


ミドリは気になってキッチンへ行ってみた。


お母さんの足元では双子の弟たちがスカートと足を引っ張って、何か訴えている。


お母さんはムスッとした顔で何かをトントン切りながら、


「危ないから離れてなさい。」


と弟たちに言っていた。


「ミドリ、宿題終わったの?」


「終わった。」


後ろの顔を見ると、やっぱり悲しそうで、目が合うとミドリに向かって言った。


「私には無理なのよ。こんな、3人も子どもを産んで、うまく育てることが難しいの。今だってニコニコしたいのに、出来ないのよ。自分がこんなに出来ないなんて、知らなかったの。」


「お母さん…、ゴミ捨ててこようか?」


ミドリが言うと、お母さんはムスっとした顔のまま


「お願い。」


とだけ言った。


「ありがとう、ミドリ。こんな、出来ないお母さんでごめんね。イライラしたお母さんでごめんね。」


後ろ頭の顔はそう言った。


ごはんを食べ終わり、見ると後ろの顔はなくなっていた。


また、出てこないかなあと、ミドリは思った。

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