溶ける愛

一粒の角砂糖

溶ける愛

『俺、あいつのこと好きなんだよね。』


その画面に表示された一文でお人好しな少年の恋は蒸発した。

彼女は美しかった。可愛かった。

彼女は純粋だった。天然だった。

だかそれも少年の元にはもう、帰ってこない。

あの人は前

『来年3月に絶対会おうね!』

と言っていた。

その言葉が刺さる。

その約束が果たされることは無かった。


親友に一言


『自分もその子好きなんだ。ごめん。』


と言える勇気のない少年は譲る他なかった。

自分よりもそいつの方が彼女を幸せに出来ると願うことだけしかできなかった。

だから、勇気を振り絞った上で少年は彼に告げた。


『俺もあいつのこと好きだから幸せにしてやれよ。』


その後友達からという告白にしては微妙なラインの成功を収めた親友。

彼にとってはもうただの憎い恋の障害物なのかもしれない。

そして少年は泣いていた。

自分の恋を踏みにじった親友への恨み?

2人の幸せを願って?

否。


『日常が消えるのが怖かった』から。


それほどまでに少年は彼女を愛していた。

当たり前になってしまうほど、互いに連絡を取っていた。

たとえこの関係がただの【SNS】上の関係だったとしても。

それが例えものすごく立派で伝統のある塔だとしても心柱が折れようものなら

崩れ去るまもなく砕け散り、飛散する。

これも言いすぎ?そんなことは無いだろう。

少年の感情は爆発し、家の自室で泣き叫ぶ。

頻繁に電話し、DMし、感情を共有しても、距離に阻まれて、ぽっとでの障害物に阻まれ、一度も会えなかった少年の心は悔しさで埋まっていた。


『こんな小説みたいなことあるかよ…っ!』


ネットの仲良し3人の肩書きは葬られ、今となっては、カップルとぼっちだ。

これはもうどうしようもない事実であり、避けることの出来ないものだった。


少年は、この激高した感情が二人の恋を邪魔しないために。

彼女への別れを告げるための文章をスマホのメモ機能に打ち始めた。

考えなくとも指が進む。

これまでに会わずとも共有した思い出が頭を過ぎってゆく。

気がつけば1000文字を軽く超えていた。

少しこれを送るのは……と躊躇いの心があったがどこ一つとっても少年からしたら大事な大事な気持ちだった。

自分ですら伝えることを遮ろうとするのならそれはもう死を意味するほど深刻な物だろう。

よく読み直し、誤字脱字がないことをよく確認した。

あとはコピーをして、LINEのトーク画面にペーストをして、あとは送信ボタンを押すだけ。

少年の頬は既に濡れている。

そしてそんな少年はボタン押す勇気もなかった。

まだ離れたくなかった。

まだ別れたくなかった。

まだ話してたい、必要とされたい。

押そうとする度、涙が溢れて止まらなくなる。

そして葛藤の末、少年の心のダムは送信ボタンを押した瞬間に決壊した。


感情だけに染められた文章は、LINEのシステムでは、全て収まらず、【すべて見る】というボタンが長い吹き出しの中に出来るほどであった。

少年は二度目の嗚咽のなか、最後に二人の思い出の詰まった一枚の写真を彼女に送り、ケータイを投げつけるようにして机に置いたあと、布団に泣きついた。

しばらくしたあと少年は震えるケータイに気づかぬまま、眠りに入った。

泣きじゃくり、寝落ちした少年は目を覚ます。

投げつけたケータイを手に取り、画面が少し割れたことに後悔しながら、通知を見ていた。

その通知は少女と、親友からのようだ。

少女からはごめんね。とだけ来ていた。

胸の内が痛い。ただこれが彼女なりの気遣いなのは分かっていた。

怒れる心を休ませれたのはここまでだった。

親友だったやつのメッセージを見た彼は、すぐさま家を飛び出した。


翌日、この2人の死体と血に濡れた少年が気を失っているところが見つかったそうだ。

少年のケータイには少女が男に強引に襲われているところが映っていた。

充電は少ししか残っていなかった。

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溶ける愛 一粒の角砂糖 @kasyuluta

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