第55話 誰にも言いませんから

 そこにはエルフの男女が一組いた。


 「レイナっ! ロイっ!」


 とフラウが声を上げた。どうやら同郷の者のようだ。


 「フラウどうしてっ! それに良く無事で――」


 女性のレイナと呼ばれた方が返事をするが、すぐに声が止まる。視線の先はフラウの首だ。そして次は男の方が声を荒げて言ってくる。


 「貴様らフラウに何をしたっ! 事と次第によれば――」


 「黙りなさい」


 「ぐわああああっ!」


 そうピュリー会長が命じると、途中で悲鳴に変わった。すぐに声は止んだ。声を発すると苦痛が流れるのだろう。やはり俺の契約魔法みたいに、強制的に声を出せなくはできないようだな。


 「それで事情は察しの通りです。おいくらでしょうか?」


 あっさりとその言葉を言うと、フラウのが驚いた表情をした。エルフの2人もだ。


 「残念ながら現状ではお売りすることはできません」


 「現状では?」


 言い方が妙に引っかかった。それと共にある可能性を思い浮かべた。


 「はい。察しているかもしれませんが、この2人は犯罪奴隷なのです」


 「そんなっ!」


 フラウが絶望の声を上げた。やはりか。詳しく聞いてみると、ここに来る前の奴隷商の時に脱走を試みたそうで、それが失敗し犯罪奴隷になったそうだ。おぅ、やるなら失敗するなよなっ! 更に聖王国の国内でやったらしく、違法奴隷から犯罪奴隷となった分けか。まあ神教国で脱走するのは難しかったのだろうがな。タイミング悪いな。


 「でも王宮と伝手のある、あなたなら何とかなるでしょう?」


 っとウインクしてくる会長。正直背筋に悪寒が走った。なんて恐ろしい奴だ。悪魔よりも恐ろしいぜ。


 「まあ、なんとかなるでしょう。してお二人のお値段の方は?」


 「エルフは珍しいから2人で金貨300枚ね。でも正直犯罪奴隷で反抗的。買い手に困っていたからオマケして250枚でいいわよ」


 案外安いな。なので<分析>を使用してみる。すると、男性の方は魔法が使えないみたいだ。女性の方も2属性でフラウより安い理由がよく分かった。


 「分かりました。手付け金は金貨100枚で良いですか? 残りは許可書と共にで」


 「いいわよ~。話が早くて大助かりだわ。他にも見ていくわよね?」


 「ええ、お願いします。それと、その間フラウと彼らと会話してても良いですか?」


 そう尋ねると会長は快く頷いてくれた。なのでここはフラウとアルテナを置いて、アビスと他の奴隷を見に行った。別のところへ行きかけたところで、檻から悲鳴が聞こえて、命令解除するの忘れてたことを思い出し、解除しに戻るのだった。


 「あら、私ってお茶目さんっ♪」


 ノーコメントである。とにかくこちらに矛先が来たら、アビスに逸らすことにしよう。出番だぞ護衛よっ!


 他の奴隷では神教国出身の者が結構いたので、その者を多めにピックアップした。能力面では<分析>を駆使したため問題ないはずだ。この中から性格面でフラウとアルテナに選んで貰おう。


 会長は俺の選んだ人たちを見て、頻りに眼力を褒めていた。会長の眼が光ったのが怖かった。ちなみに何故、屋敷用の奴隷を雇うのか。それは裏切られないからである。これからメイドとかを雇ったとしても、どこかの派閥の紐付きの可能性が高い。それに対する牽制でもある。


 警戒していると見せるだけでも、向こうは動き難くなるはずだ。それだけでもありがたい。ついでに育てて将来、商会で戦力になればとも思っているが。


 考え事をしている間にフラウとアルテナが戻ってきていた。なので事情を説明して選んで貰う。そして20人ほどの人数から約半数の10人を選んだ。


 この人たちは全部で金貨50枚と大した額では無かったので、即金で払いお持ち帰りすることにした。


 そして商店の外に出た。うちの者を馬車で呼んでいるのだ。来るまでお茶でもと会長に誘われたが、ハッキリと断り外に出てきたのだ。会長はとても残念そうだったが、こちらはアルテナ以外はホッとしていた。


 「よろしかったのですか?」


 フラウが俺に聞いてくる。その顔は喜んで良いのか、どうしたらいいのか分からないっと言った顔だった。俺は少し迷いつつ告げる。


 「結局犯罪奴隷と言うことは変わりない。と言うことは奴隷から解放はできない。能力は十分だ。忠誠面もフラウがこちらに居るならば問題無いだろう。結局は良い買い物と俺は思っている」


 そうエルフと言うだけあって、知識面などは非常に優れていた。俺の知らないことを沢山知っていることだろう。フラウはそれを聞いて、納得していないけど、納得しておいてあげます。と言った顔をしていた。なんだかムカツクがまあいいや。


 丁度奴隷の競りが行われていたのでそれを見物する。少女があられもない姿で、舞台に上げられたりしていたが気にしない。どちらかと言うと、<分析>を使って能力などを見ていた。


 主に掘り出し物無いかなーっと思ってだ。決して舞台が気になった分けじゃない。気になった分けじゃないからなっ。


 さてフラウの冷たい視線と、アルテナの含みのある笑みに耐えられないので移動しよう。そこでふと市場の隅に視線がいった。そこには<分析>を使わなくても分かる傷病によって苦しむ奴隷たちがいた。全部で20人以上いる。


 気になったのでそこの酷い顔をした主人に尋ねてみた。


 「ここの人たちは?」


 「ああ?」


 胡乱げな視線を返される。少し苛立つ視線だったので今度は強めに言う。


 「ここの人たちはあんたのか?」


 「あっ、はい。そうです」


 「病気や怪我をしているようだがなんかあったのか?」


 「それが運んでいる際に馬車が横転しまして、その時に怪我を……そしてすぐに治療ができなかった所為か、病気になる者も出てきた次第でして……もう終わりだああああ」


 主人は事情を話している間にどんどん顔色を悪くし、最後には嘆きの叫びを上げていた。きっと商いが頓挫したのだろう。何事も余裕が無いとダメだな、っと改めて教えてくれた。


 「してここにいる奴隷たちはどうするんだ?」


 「もう売れませんし、私には薬を買ったりするお金もありません。私と共に死を迎えるだけです」


 ひ、ひでぇ。酷い奴隷商のお手本だなっ! そう思うとピュリー商会は良いとこだと分かる。会長はアレだが。


 そしてこの奴隷たち見殺しにするのは気が引ける。20人強だと住む場所とかには困りそうだが……。


 「これらの奴隷は全部でいくらで売るつもりだったんだ?」


 「何を聞くんですか……まあ、全部で金貨50枚くらいでしょうか? 大金です。私が破滅するには十分過ぎます」


 20人強でそんなものか……いや結構大金か。最近感覚が狂い始めている。一般家庭の年間生活費が金貨5~7枚。普通ならば10年弱の生活費っ! 高いっ! よし俺に庶民感覚が戻ってきたぞー。


 「金貨25枚で全て買い取ろう」


 さっきの庶民感覚はどこに? そう聞かれてしまいそうなことを提案するのであった。だってなぁ。勿体ないからな。


 「え? 本当ですかっ!? 病気の人や怪我してる人ですよっ?」


 「ああ、問題ない。良い治癒師を知っている。治癒師に見せるから、その分は値引きと言うことで半額の金貨25枚で良いか?」


 「それは勿論構いませんっ! いえ、お願いしますっ!」


 こうして取引は成立した。あれ……また増えたな。まあ主人はスゴイ喜んでいたから良しとしよう。フラウには白い眼で見られたがな。一方アビスはさすが慈悲深い、とか見当違いのことを呟いてたな。


 そして迎えに来てくれた馬車だが、まずフラウと共に先に買った10人を乗せて行ってもらう。その人たちを降ろした後、追加の馬車をもう一つと共に戻ってきてもらうことにした。馬車を待っている間、アルテナがニヨニヨとした笑顔で俺に聞いてくる。


 「気に入った子が居たんですか~? 誰にも言いませんから私にだけ教えて下さいよ~。ねえ?」


 これ絶対ダメな奴だ。きっとエーシャ姉に言ってトラブルを起こすんだ。そしてそもそも――


 「気に入った人が居たから買った分けじゃねー。凄腕の治癒師を知ってるから買ったんだ」


 「自画自賛ですか~。さすがです~。それで? ホントのところはどうなんです? 誰にも言いませんから~、教えて下さいよ~」


 う、うぜぇ。これは相手をしたらダメだな。無視するのが一番だった。その後もしつこく絡んできたが無視した。そしてようやく馬車が来て、帰れることになった。だが、帰ってからがまた大変なんだけどな。


 そして結局、本日も冒険者ギルドに行くことができそうにないと悟るのであった。




ライル「見よ、俺の慈悲深さをっ!」

アルテナ「それは置いといて。で、誰が気に入ったんですか? お姉さんに言ってみー。言ってみー」

ライル「うぜぇ、違うからなっ! そんなんじゃないからなっ! フラウも分かってるだろ?」

フラウ「はいはい」

ライル「なんか扱いがひでぇ……。アビスっ! お前は分かってくれるよなっ!」

アビス「この状況で私に話しを振らないで頂きたい」

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