第54話 なんかトラブルでも起きないかな~

 夜遅くにある場所にてある派閥に寄る話し合いが行われていた。それはある上級貴族の屋敷で行われ、その一室には同じ派閥のメンバーが20人余り集まっていた。


 「そうか、オーガスト家の悪魔殺しの勧誘には失敗したか……」


 「旨い話を提示しても全く反応しなかったのです」


 眉間に皺を寄せている2人の内の1人はライルと話していた大臣である。もう1人は更に歳を取った人だった。大臣が目上の様に接していることから、先代大臣だったのか、もしくは大臣の恩師か何かなのか、少なくとも派閥の重鎮であるのは確かである。その他の2人以外の人たちも顔色は優れない。


 「外務閥は国内のこと故に出遅れ、軍閥の奴らは油断から惚けている。その隙を突くことができたと言うのに……」


 別の1人がその様なことを言う。


 「これからは他の派閥の妨害なども考えねばならぬな」


 「そもそも何故オーガスト家ばかりに麒麟児が産まれるのだ? 何か秘策でもあるのか?」


 「そうだな……。次期当主も王立学校に通っている時には、既に麒麟児と言われていたしな。次男の方も頭の良さはズバ抜けておる。長女も魔法が使えるしな。少々性格に問題があるようだが」


 長女の扱いはここでもこんな感じであった。当の本人であるエーシャが聞けばこの屋敷が燃えることになるかもしれない。……そんな短慮は起こさないことを、クリスなどは信じたいだろう。


 (さぁて、覗き見が趣味のアルテナちゃんが、悪の組織の悪巧みを暴いて見せますよっ!)


 アルテナは神界からこの話し合いの様子を盗み見しているのだ。一応守護女神と名乗っているので、たまには仕事しているアピールをしなければと思ったのである。


 「そしてここに来てあの三男だ。魔法の才能は長女以上。しかも治癒師としては聖王国トップクラスと来たもんだ。更に近接戦で中級悪魔を1人で倒しておる」


 「商会を立ち上げているところからも頭の回転が良いのも分かる。できれば内務閥に入ってもらって、我らの切り札にしたかったが……」


 「はぁ」っと言うため息がそこかしこから漏れる。


 「仕方ないだろ。その場には陛下も宰相もおったのだ。無理矢理など出来るわけがない。それに無理矢理なんてしてみろ。オーガスト家と悪魔殺し本人を敵に回すことになるぞっ!」


 大臣が自身を必死に弁明する。その言葉には十分な説得力があったため、周囲の皆は黙ることしかできなかった。


 「そうじゃな。これからのことを話した方が建設的じゃろ」


 先代大臣と思われる者がそう言う。


 「取りあえずは様子見をしながら、軍閥と外務閥の牽制でしょうか。幸い陛下は悪魔殺しを気に入っている様子。両派閥とも無理な勧誘は出来ないでしょう。下手にこちらから策謀するよりも、困っていることがあれば力になる。その方がポイントが稼げましょう」


 1人の若者がそう提案する。


 「それもそうだな。幸いオーガスト家は特に干渉はしないと言ってきている。あそこは軍閥でも無派閥に近いからの。自力で新たな家を起こしたと認識しておった。故に我らもまだまだチャンスはある。皆も軍閥と外務閥の動向に気を付けてくれ。特に出遅れておる外務閥には注意するのだ」


 そう大臣が纏めるのだった。


 (ライルも大変ですね~。こんなおじさんたちからモテモテなんて~。嬉しくは無いでしょうが。それにしても、様子見ですか……私の活躍する機会が無くなった気がします。ショックです……。このままだと私の扱いが更に酷くなりそうです。そんなこと耐えられませんっ! なんかトラブルでも起きないかな~?)


 やはりアルテナはいつでも自分の欲に正直であった。




 朝――そして目が覚める。なんだか悪い夢を見た気分だな。気のせいだと思いたい。


 さて今日は人手集めに奴隷市を見に行こう。後できれば冒険者ギルドへ……。王都に来て商業ギルドへは手続きなどで行っているのに、冒険者ギルドへ行っていないと言うことに気付く。これは由々しき事態だ。


 自称冒険者として何としても本日は行かねば。そんなこと考えてる行けなかったりするんだが……考えないでおくとしよう。


 そして朝食を摂っているとアルテナがニヨニヨとした笑顔でこちらを見ている。


 「アルテナどうしたんだ?」


 不吉に思い質問をしてみる。嫌な予感しかしない。悪魔の微笑みと言う奴か?


 「いえ~、何でも~~」


 絶対何かあるが、たぶん答える気はないんだろう。諦めて今日の予定を確認した。最近のアルテナは街の散策がメインである。何か手伝えよ。とは思うが、捕まえることが困難なため半ば諦めている。


 アビスは独自の情報収集を行ったり、冒険者ギルドへ行ったりしていた。そう言えば冒険者ギルド少し絡まれた際にオーガスト家の名前を出したと言っていたな。


 薬を作ってるときに、オーガスト邸の書斎に何か無いか探しに行ったことがある。その時に大叔父やクリス兄に、アビスやアルテナは紹介しておいた。同時に困ったことがあったら頼れよっと。


 しかしアビスに絡むとか、なかなか無謀な奴も居たもんだ。見るからにやばそうな奴なのにな。俺やフラウが絡まれるなら分かるがな。アルテナ? 奴は知らん。放っておいても大丈夫だ。


 さてと、今日は市場に行くため護衛にアビス、補佐にフラウを連れて行く。そう言うとアルテナも付いて来るらしい。最近では少し珍しいな。さっきの変な笑みと関係してなければ良いが。


 そして王都の市場に来た。ディレンバも凄い人であったが王都はそれ以上だ。今日は18日光の日で祝日と言うのもあるかもしれない。祝日だと休み業種……官仕えの人が家族連れで買い物に来たりする。それも混雑の理由かもしれない。


 「ちなみにですが、祝日に休みを貰える人は世帯持ちの人が多いです。独り身は寂しく仕事してろってことですね~。私にとって辛い社会です」


 アルテナがそう解説してくれた。どこでこんな知識を仕入れたんだ? あ、街をブラブラしながら色んな人と話したのね。


 「私がただただ、美味しい物のために街ブラしていたと思っていたんですかっ!?」


 俺を含め3人揃って頷いた。だよなー。


 「のおおおおおっ! 酷いですっ! あんまりですっ!」


 「うるさいわっ! 周囲を考えて叫べっ!」


 アルテナの叫び声で周囲から迷惑そうな顔で見られたので、そう言って蹴りを放った。女神バッリアの所為で全く効いてなかったが、黙ってはくれたので良しとしよう。


 「連れて来るんじゃなかった……」


 ぼそりと後悔の呟きをするのであった。


 そして市場を進み。その奥にある少しガラの悪い感じのする場所へ行く。あまり一般人が寄ってこない様にそうしているだけで、別に絡まれると言ったことは全く無かった。そこを進んで目的の場所へ来た。奴隷市である。そして今日は祝日なので、競りまで開かれているらしい。それに参加するつもりは無いが。


 チラリと周囲を観察する。ここまで来るとそこらに鎖に繋がれた奴隷などが散見された。事前に調べてあった奴隷商店へ向かった。ピュリー商会店と看板が掛かっており、他よりも一段と清潔感がある。


 そこに入ると、受付の男性に聞かれる。


 「買い付けですか? それとも――」


 「買いだ」


 最後まで言わせなかった。一応フラウを配慮してだが、チラッと見た感じ何にも気にしてなさそうだった。


 「かしこまりました。どのような奴隷をお望みですか? それと失礼ですが、身元の方の確認をさせて頂いても構いませんか?」


 身元を聞いてくると言うことが、この奴隷商店がまともな証拠でもある。なので快く王宮から出された身分証を出す。それと希望も伝える。


 「そうですね……ある程度数が必要なので色々見せて頂いて良いですか? できれば知識のある者や家事できる者、戦闘のできる者ですかね」


 受付は俺の身元を確認した後に告げてくる。少し驚いた表情をしたのを俺は見た。


 「分かりました。それと貴族の方でしたか、申し訳ありません。それと少し上の方を呼んできます」


 そう言って下がった。そうして2、3分経つと奥から、奇妙な人が出てきた。


 「大変お待たせしました。私はこのピュリー商会の会長を務めております。ハイジ=ピュリーといいます。是非ピュリーと呼んで下さいね」


 「…………」


 思わず沈黙で返す。フラウとアビスも青ざめた様な表情をしていた。アルテナは至って普通である。


 「どうかされましたか?」


 「いえ、何でもありません。よろしくお願いします」


 不審に思われたかもしれないが、仕方ないのだ。だって、このピュリー会長は身長180センチ強、がっつり筋肉のある男性で、それに女性物のドレスを着ているのだ。なんとも不釣り合い過ぎて……言葉を無くしてしまったのだ。


 ピュリー会長の向こう側にいる先ほどの受付の男性が、ウンウンと1人納得したように頷いている。きっと多くの客がこういった反応を示すのだろう。


 そして会長に案内されて、奴隷のいる部屋にへ向かう。部屋と言っても半分檻である。こちら側は鉄格子になっており、見ることができる。どの奴隷も健康そうで大切に扱われているのが分かった。


 「数を揃えたいと言うお話でしたが、差し支え無ければ何をさせるのか、お伺いしてもよろしいかしら?」


 低い声でその喋り方は……いや、最早何も思うまい。個性と思って……かなりの葛藤があったが何とか飲み込めた。俺スゴイ。


 「屋敷の管理です。それと私も商会の主ですから、その管理の手伝える方がいれば……と言ったところでしょうか。主な目的は屋敷の管理です」


 「さすがはオーガスト家の悪魔殺しですね。もう王都にお屋敷を持てるなんて」


 ほう、さすが商会の会長なだけはある。情報通のようだ。俺は特に顔色を変えることもなく続ける。


 「持つと言いますか、押しつけられましてね」


 会長はなるほどと相づちを打ちながら、こちらを観察しているようだ。


 「ライル様にならば、興味を持って頂ける奴隷が居ます。見てみますか?」


 そう聞いてきた。フラウにチラリと視線を送りながら。そう言うことか、それは見てみなければな。


 「是非見せて頂けますか?」


 そして案内された先には予想通りの人たちがいた。






ピュリー「あら、いい男(はぁと)」

ライル「アビス、ニゲテー」

アビス「くっ、護衛が持ち場を離れる分けには……。しかしこの相手には分が悪いかっ!?」

ピュリー「私と良いところへ行きましょう」

ライル「ちょっ、アビスっ! 俺を置いてガン逃げしないでっ!」

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