第53話 謀ったなっ!
「して報酬の話の続きと行こうかの」
「先ほどのが報酬では?」
役職が報酬では無いのか? そう思ったので尋ねてみる。この言い方だと他にもある、という言い方か? 貰える物は何でも貰うぜ。
「いや、今度は物理的な報酬だ」
ほほう。魔道具とか
「オーガスト卿は先日騎士爵になったばかりで、王都に屋敷を持っておらぬだろう?」
これまで黙っていた内務大臣が話に加わってきた。そう言えば居たなって思ったのは内緒だ。
「はい。店舗兼住居がありますから」
「それだとさすがに貴族としての体面を保つのは厳しいだろう。しかし商会を立ち上げたりと忙しいはず。そこで報酬に屋敷を与えると言うことになった。後日私の部下に案内させよう」
い、いらねぇ。俺は冒険者だ。王都に腰を落ち着けるつもりは無いっ! 謀ったなっ! 陛下っ! チラリと陛下を見ると俺と視線を合わせて、ニヤリと笑った。やはり謀ったなっ! そしてその笑みちょー怖いです。勘弁して下さい。
「ありがたく頂戴シマス――」
そう言った瞬間、陛下が素早く割り込む。
「そうかっ、良かった良かった。あまりお主が喜ぶ物が思いつかなくての。受け取って貰えて良かった」
陛下が喜ぶ。陛下よ、態とらしいです。こちらが断れないのを良いことにいいい。いつか覚えてろよっ!
その後は内務大臣から派閥への勧誘があったが、スルリと躱した。派閥の勧誘に関しては陛下や宰相は何も言ってこなかった。そう言った恐ろしい人が相手で無ければ、俺は断れる男だぜ。もの凄い押してきたがあっさり断る。陛下も見ているのであまり強引にはできないだろうしな。
そうして少し肩を落とした内務大臣や陛下たちに見送られて退室するのだった。
一方フラウ……私は王女殿下の私室へ向かっていました。そしてここ数日の王女殿下との会話を思い出していました。
初めは何故奴隷になったのかを遠慮気味に尋ねられました。さすがに気になるのでしょう。私の首には奴隷紋が刻まれていますし。奴隷は皆見えるところにこれを刻まなければならないのです。この紋は魔法的な紋であるため、刻むときなどに痛みが無いことが救いですけどね。
王女殿下も目に見えるので気になったのでしょう。そして神教国で扱いを話すと大変憤っていました。私の王女殿下に対する第一印象は優しい人、そして可哀想な人と言う評価です。
最近では身体が病に冒されほとんどを室内で過ごしていたらしいです。幼いときは元気であったそうですが、王族という環境上ほとんど外に出れなかったそうです。そう言うこともあって私に外の話を聞きたがっていました。
私も故郷の話をしたり、アラシドにいる時のことを話したりしました。この頃になるとシルフィ様は名前呼びするように言ってきました。友達ですからと。そして私を初めての友達とも言っていました。
シルフィ様が特に興味を抱いたのは、やはりライルのことです。
「ライル様は普段どのようなことをしているのですか?」
「書類と戦っています。それか人に書類仕事を押しつけて、魔道具を作ったりしてますね」
ライルのやることは他者からしますと常識外のことが多く、人に語るには面白かったです。まあ押しつけられた方としては堪ったもんじゃないですけど。他にもライルの弱点なども話したりしました。内緒ですよ?
「ライルは馬車の揺れに弱いのですよ。アラシドから王都に来るまでも何度も泣き言を言っていました」
「私も長時間揺られることを想像しますと嫌になりますね」
王都までの道中のあれこれを話しました。
「ライルは何故か権力者が苦手みたいですね。アイストル卿などは平気そうでしたけど、王城とかは大変苦手そうでした。陛下も……失礼ですが苦手と言ってましたよ」
「王城は権威の象徴ですからね。侍女の方も威圧感があると仰ってました。お父様も同じでしょう。ふふふ。それでも後宮はまだマシでしょう?」
王城に行く際のドタバタ劇を話すと、シルフィ様は声を上げて笑っていました。
「他にもお金に弱いですね。アラシドでもお金に目が眩んで厄介事を引き受けたりしてましたし。ダンジョンに潜った際も金目の物を必死に探してましたね」
「案外俗っぽい物が好きなんですね。まあ私が言えた立場ではありませんが、それでも奴隷を解放したりと、その手のことには潔癖ですよね」
私もお金に拘るわりにその辺りは潔癖だと思っていました。
「そうですね。私の場合は私が望んだことと、秘密を守るためですしね。そう思うとなんだかんだ言いながらも良い人ですね。敵に対しては容赦ありませんけど」
「なんだか勇者みたいな人ですね」
私は盗賊を狩っていた時のことを思い出しながら、
「それは無いと思います」
そう断言するのでした。それを聞いたシルフィ様はキョトンとしていました。
「他にも知識欲が高いですね。自分で魔道具を作ったりしますし、薬を調合したりもできますしね。更に魔法について非常に詳しいです。自分で色々とアレンジしてますね」
「まだ15歳なのにすごいですね。私と比べると……」
確かに同じ歳くらいの人からすると恐ろしいですよね。自分と比較すると更に。しかし私はもっと年上なのに負けてるんですよっ!
「そんなこと言われますと、100歳越えてる私はどうすれば……」
「そうでした。フラウはエルフですものね。私もまだまだこれからですねっ」
「ライルがシルフィ様には魔法の素質があるのでは? と言っていました。それに魔力循環障害は<魔力操作>が未熟だと起こるとも。少し無理の無い程度ですが練習してみますか?」
「はいっ! お願いします」
「では明日からですね」
そう話したのが昨日です。今日からは<魔力操作>を教えてみることにします。シルフィ様の私室の前に立ちノックをします。
「シルフィ様、フラウです」
「どうぞっ!」
最近では随分元気になってきました。しかしまだ動くと立ちくらみを起こしたりするみたいです。部屋に入るとベッドから体を起こしたシルフィ様が出迎えてくれた。
「シルフィ様、おはようございます」
「ごきげんよう、フラウ」
まずは体調の確認をしておきます。治癒院の方もしていますが、自分の眼でも確認しておくことが大切です。後ライルのことについて話しておきましょう。
「本日はライルが王城に呼ばれましたので、用が終わり次第こちらにいらっしゃいます」
「そうなんですかっ。嬉しいです」
そして昨日言っていた<魔力操作>について教えていきます。まずは自分の中の魔力を感じることですが、それがなかなか難しいです。なので私からシルフィ様に魔力を流して感じてもらいます。
「分かりますか?」
「何となく温かいモノが流れているような?」
「その調子です。続けましょう」
この過程の進行具合は人それぞれです。私も苦戦した記憶があります。その後シルフィ様に疲れが見えるまで続けてみました。今はベッドに寝かせています。
「う~私は才能が無いのでしょうか?」
「大丈夫です。私も1ヶ月ほど掛かりました」
「そうなのですか。ならば少し安心できます。フラウの様な凄い子が1ヶ月掛かるのですから」
シルフィ様それは過大評価です。私はエルフ中ではあまり出来が良くなかった方です。特にライルやアビス見てると尚のことそう思います。
そしてコンコンとノックの音がした後、
「ライルです。入ってもよろしいでしょうか?」
ライルの声はとても疲れた感じがします。こってりと絞られたのでしょうか? 私を盾にした罰と思ってほしいですね。
「どうぞ、お入り下さい」
シルフィ様が細い声で返しながら身体を起こします。私はそっと背中を支えます。
扉を開ける音がしてライルが入って来ました。その様子は予想通り疲れてグッタリとしています。
「お疲れの様ですね? ライル様は」
シルフィ様が私にだけ聞こえるように小声で言ってきます。
「きっと精神的な疲労なので気にしなくて良いですよ」
私も随分とライルやアルテナさんの影響を受けてきた気がします。私の言葉に対してシルフィ様は苦笑いです。
「お加減は如何ですか?」
「ライル様のお薬のお陰でとても良いです」
ライルの表情がホントかよって感じになってますね。こちらに視線を向けてきたので、事実と頷いておきます。今日は<魔力操作>の訓練もしましたしね。
「ライル様にお尋ねしたいのですが。ライル様は<魔力操作>を出来るようになるのに、どれほど掛かりましたか?」
私も聞いてみたいところです。
「え? う~ん。物心ついた時には?」
私の眼には嘘を吐いている様に見えます……が、これはたぶん、過少申告してる時の眼です。これで過少申告ってどういうことなのでしょうか? 意味が分かりませんっ。
「そ、そうなのですか」
シルフィ様も驚いた感じの声を上げています。
「参考にならず申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず」
その後も他愛のない世間話を行って、今日のところは帰ることになりました。シルフィ様は残念そうでしたが、あまり長くいるとお体に障りますからね。
帰りの馬車の中で何があったか尋ねますと、屋敷や役職をもらったそうで大変と言っていました。そして人手が足りなくなるだろうから、明日奴隷市でも行くかっと言ってました。
何事も無ければ良いのですが……それは無理な相談ですか?
アルテナ「ライルの弱点喋った犯人はあなたですっ! ビシッ!」
フラウ「ギクッ」
ライル「そんなアルテナじゃあるまいし、フラウが喋るわけ無いだろ?」
フラウ「ドキドキ」
アルテナ「私こそ喋りませんよっ!」
ライル「ナイナイ。それにさっきのはやってみたかっただけなんだろ?」
アルテナ「そうですっ! バレましたかっ。えっへん!」
フラウ「ホッ……」
アビス「まあ……見なかったことにするか」
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