第51話 な~に、少し酷いだけだ

 陛下から召喚状が来た……と言っても前のような正式な奴ではない。娘の意識が回復したから、「一度顔を見せに来い。今回は命令な」って感じだ。しかし俺のテンションはダダ下がりである。


 「なんでこんなに王城へ行くのが嫌なのかなぁ」


 思わず声に出して愚痴る。それを聞いたアルテナが答えてくれた。


 (えっと、前世の時ライルは宮廷魔術師だったんですけど……。その王宮とかで嫌がらせやいじめによくあってまして……。その苦手意識が今もあるのかな~っと)


 新事実発覚である。可哀想な前世の俺。これでは記憶が無くなった方が良かったのかもしれない。ほろり。


 (そうか。前世の俺は不幸な子だったのか……)


 (え? むしろ幸運な子でしたよ。孤児から宮廷魔術師まで成り上がって、叙爵までされていたんですから。戦働きも平時での護衛能力もズバ抜けてましたし、王様の懐刀って感じでした。嫌がらせやいじめも初期の頃がかなり酷かっただけで、後々は手を出すと怖いから手を出されなくなりましたね。その後も王宮は苦手みたいでしたけど)


 なかなか良い人生を送っていたんだなぁ。そしてアルテナにこれだけは言っておきたい。


 (こ、幸運な子がアルテナのとばっちりで死んでたまるかあああああ)


 (ひぃ、わ、忘れて下さいっ!)


 アルテナも失言だと気づき慌てて取り繕うとする。しかしアルテナよ、忘れて下さいでは取り繕えていない気がするんだが。


 さて現実逃避はここまでにして、王城へ行く準備をする。今回は叙爵式みたいなのは無いので、ほどほどな格好に治癒師アピールを行う意味で白衣を着て行くことにする。……あまり似合ってない。やめておこう。


 それに今回はフラウも付いて来させる。何かあったら盾にしよう。


 「フラウよ、分かっているな? もしもの時は陛下からの盾になるんだぞ」


 「それはちょっと酷くないですかっ!?」


 フラウが絶望の声を上げる。しかしここで諦めるという選択は無いのだよ。


 「な~に、少し酷いだけだ。気にしてはダメだ」


 「ひ、開き直らないで下さいっ!」


 人って開き直ると無敵だよなぁ。今ならアルテナの全能感が分かる気がする。アルテナも基本は開き直る奴だからな。


 そうして、最後の抵抗をするフラウを馬車に詰め込み王城へ向かった。




 王城に着くとあっさりと陛下の執務室に通された。そして仕事のキリの良いところまで待っているように言われる。その間も話しかけられたが。


 「やっと来たか。王宮に用も無いのに来る奴もおれば、こちらが呼んでもなかなか来ない奴もおる。数は前者の方が圧倒的に多いがな」


 「原因究明に全力を尽くしておりましたので(大嘘)」


 横のソファに腰掛けているフラウがどの口で言うか。っと責める様な視線を向けてくる。些かご機嫌斜めの様だ。なんでだろうなぁ。いや、ちゃんと分かってるよ? 改める気は無いけど。


 「して、横の女性を紹介してくれんのかの?」


 陛下は書類仕事をしながら話しかけてくる。器用なことだ。


 「フラウルーシェと言って、私の助手をしております。今回の中和の薬も彼女の知識から拝借しました」


 くっくっくっ、フラウに功績を擦り付け、矢面に立たせる作戦だ。こら、フラウ。俺の足を踏むなっ! フラウの知識なのは事実だろうがっ!


 「さすがはエルフの知識だな。以前はどこにおったのだ?」


 「神教国です。事情は察して頂けるとありがたいです。それでご相談なのですが、王女殿下は女性です。故に診断などは私の代わりに彼女にやって頂きたいのですが……許可を頂けますか?」


 そんな話は聞いてないっと、ばかりにフラウがギリギリと俺の足を踏んでくる。しかし俺は負けない。ここで負けてはならぬのだっ!


 「それは難儀であったな。申し出の方は一理ある。故に許可しよう。王城や後宮にも入れるようにしておこう」


 そう言って宰相に指示を出していた。後でフラウに許可書が渡されるそうだ。


 「ありがとうございます」


 フラウの妨害に屈しなかった俺の勝ちだな。後が怖いが。


 「さて、終わった。では行こうか」


 そう言って陛下が立ち上がった。俺も立ち上がる。この時、密かに足に<治癒魔法>を掛けておいた。何気に容赦なく踏まれていたのだ。痛かった……。


 その後、後宮にある王女の部屋へ向かった。この前と同じで俺の場違い感が半端ないっす。思わず下っ端気分になるっす。


 そして王女の扉の前に立つとノックをする。


 「余だ。例の治癒師を連れてきたぞ。入るぞ」


 「ちょ、ちょっとお待ち下さい」


 そして少し物音がした後、「どうぞ」っと声が掛かった。その間陛下は苦笑いしていた。扉を開けると、この前とは違い王女がベッドに体を起こしていた。傍らには妃様も付いている。


 「お邪魔します」


 一礼して入る。さてここからどうやってフラウに注目させるか……。頭を回転させる。


 「シルフィよ、この少年がそうだ。若いが腕はその身で実感しておろう」


 「はい。大変感謝しております。えっと」


 名前を知らないのだろう。声を詰まらせたので自己紹介をする。


 「ライリール=グラン=オーガストです。先日騎士爵を承りました。こちらがフラウルーシェ、私の助手です。王女殿下に処方した薬も彼女の知識に寄る物です。私はそれを調合しただけ、感謝するならば彼女を」


 ふふふふふ、完璧だ。背後にいるフラウから、俺に殺気のようなものが向けられているが気にしてはいけない。


 「ライリール様、それとフラウルーシェ様、共にありがとうございました」


 そう言って王女は頭を下げた。何故、共になんだ? ぐぐぐぐぐ。


 「しかし現状はまだ抑制しているに過ぎません。正式なお礼はまだ受け取れません。そして受け取れるように最善を尽くします」


 それを聞いて陛下もゆっくりと頷いた。


 「シルフィよ、身体が楽になったからと言って無理はするなよ。ライルも言っておるが、治ったわけじゃないんだしの。養生するのだ」


 「ありがとうございます、お父様。それでも以前より遙かに元気になりましたのでご安心下さい」


 そう王女は笑顔で告げるが、それが安心できんのだと陛下の顔に書いてあった。


 その後は陛下も含めて今後の方針などを説明した。カジュアには既に手紙で相談、説明はしている。それが終わると診断と言うことなので、陛下は仕事に戻った。少し圧力が減って安心だ。


 「ライリール様は治癒師の功績で騎士爵を?」


 王女が聞いてくる。俺のことは結構王宮などでは有名だが、王女は部屋に籠もりっぱなしだから知らないのだろう。


 「長いのでライルとお呼び下さい。それと騎士爵は悪魔の討伐の功績ですね。治癒師としての評価も入っているとは思いますが」


 「まあ! では噂の悪魔殺しですか? こんなに若い方とは思ってもいませんでした」


 驚いた表情の後は笑顔でそう告げてくる。表情の豊かな人だな。


 「よく言われます」


 俺は苦笑気味で返すことになった。ちなみに妃様も驚かれていた。あなたも知らなかったんかいっ! 聞けば彼女は第一側室の方で政治などは詳しくないらしい。政治などはお姉様(正室の方)や妹(第二側室)に任せているらしい。


 この姉様や妹と言うのは実の姉妹ではない。皆親戚だそうだ。そして、正室のシンビィ姉様が体調を崩していて、彼女カトリーヌは実の娘と姉様の私室を行ったり来たりする生活をしているらしい。なかなか大変そうだ。


 しばらくすると、娘を俺に任せて姉のところへ行くと退席していった。このところ娘ばかり気にしていたため、お姉様が拗ねていると笑いながら言っていた。それと娘の件が片付いたら姉も見てほしいとも言われた。姉の方はそんなに切羽詰まっているものでは無いらしい。ただよく疲れで体調を崩すそうだ。


 カトリーヌ様が退席してからは、王女の相手はフラウに任せた。そして俺はカトリーヌ様の退席前に現れたカジュアと情報交換を行っている。ついでに抑制用の薬の追加分も渡しておく。原因究明用はこれから試してみることにした。


 フラウは王女と仲良さげに会話していた。そこに申し訳なさそうに割って入る。


 「王女殿下、フラウご歓談中に申し訳ないが、新しい薬を試して頂けますか?」


 フラウには白い眼で見られたが、王女はニッコリと笑顔で了承してくれた。


 その日はそれで終わった。結果はカジュアがまた報告してくれるだろう。帰り際にカジュアにこのままだと治癒院の功績になるけど良いのか、と尋ねられた。


 「やっかみが怖いのでそれで良いです。知ってる人は知ってるそれだけで」


 「それだと今度は私がやっかまれそうなんだが……」


 カジュアは頭に手を当てながら答えた。心当たりが多そうだ。女性が立場ある場所に着くというのは、エーシャ姉を見ても分かる通り、この国では大変そうだからだ。


 「今さらでしょう?」


 そう言うと諦めた表情をして見送ってくれた。





フラウ「やはり最近の私の扱いが酷いですっ! これは断固抗議しますっ!」

ライル「って言うが、フラウの足踏み攻撃痛かったからっ! <治癒魔法>が無かったら怪我してたからっ! いや、実際怪我はしたんだが……」

フラウ「大丈夫です。再生するって分かってやってますから」

ライル「それも色々問題が……。後再生してる分けではないんだよ?」


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