第50話 魔法薬の実験台な

 陛下から王女の治療の依頼をされて1週間が経過した。結果から言うと、症状を緩和、抑制することはできた。ただ、まだ原因が特定できていないため、<治癒魔法>は使えていなかった。


 しかし王女の意識は回復し、体を起こすことができるくらい体力も回復したそうだ。そんな報告を今朝受けた。俺? 陛下が怖いから王城へなんて行きませんよ? なんか顔を見せに来んかいっ。みたいな言伝は今回も来ているが、原因究明に忙しいため無理です、っと言い訳している。主に自分に。


 王女の状態は王城の治癒院の方が伝えてくれるし、俺の作った薬なども治癒院の人伝で渡している。そう、俺はあれから一度も王城へ行っていないのだっ! なんかこう嫌なんだよな……。まあそれは良い。




 さてこの1週間の出来事を簡単に言っておこう。まず王城からオーガスト邸へ行って、大叔父やクリス兄に説明したとき。


 「なんでそんな無茶ことを引き受けたのだ……」


 これは質問ではなくて嘆きだよね? 大叔父の嘆きはとても深かった。


 「なんか悪い予感がしてたんだ。だからとばっちり来ないことだけを祈ってた」


 一方、クリス兄は何かを悟った様な眼をしていた。とばっちりとは失礼な。まだ完全に巻き込んだ分けでは無いっ。


 「そう言う分けなので、何かあればご協力お願いします」


 そう言って頭を下げるのだった。2人は揃ってため息で返事をしてきた。なんか酷い。


 そしてエーシャ姉だが、


 「そう言う事情で、早くに商会の方に戻らねばなりません。故に――」


 「じゃあ私も付いて行くわねっ! ちょうどライルの商会がどんなところか興味があったから」


 エーシャ姉が行動的なのを忘れてた。これはもう何を言っても無駄なんだろ? 一応クリス兄に助けを求めるため視線を送る。その視線を受けたクリス兄はゆっくりと首を横に振った。それを見た俺は項垂れるのであった。


 その後は急ぎ商会に戻った。勿論エーシャ姉も一緒だった。


 そして帰って来て早々にフラウに何連れてきてるんですか? と言う視線に耐えつつ、アルテナやアビスに相談とついでにエーシャ姉の紹介をする。


 「ライル殿の護衛をしているアビスセイレンだ。アビスと呼んでくれ」


 「ライルの仲間のアルテナと申します。以後、よろしくお願いします」


 アルテナがまともな挨拶をしているだとっ!? そのことに驚いてしまった(結構失礼)。


 早速エーシャ姉はアルテナに警戒し出した。しかし今はその様子を観察して楽しんでいる時間は無い。


 「取りあえず早速用意してくれた資料とか読むから……エーシャ姉、ごめんね?」


 「いいのよ、私が無理言って付いて来たのだから。私はお店とか商品とか観察させてもらうわ」


 「では私がご案内します~」


 アルテナがエーシャ姉を案内すると言う……嫌な予感しかしない。しかし他に適任者もいないので任せるしかなかった。


 フラウは俺が説明とか求めるかもしれないしな。そもそもエーシャ姉とは相性が悪いか。他の従業員? 貴族のご令嬢、しかもお店のオーナーの姉である。そんな人のお相手とか厳しすぎるでしょ。


 とにかく自分のやることに集中する。フラウが知っていることをまとめた書類に目を通す。それと王女の状態を照らし合わせて考える……。


 「よし、やはり原因が分からないと言うことが、改めて分かったっ!」


 これ重要。と言う感じで胸を張って宣言する。


 「ちょっと、なんでそんな胸を張って言ってるんですかっ!?」


 「ふっ、教えてほしいか?」


 「いえ、いいです」


 あっさり断られた。がっくし。フラウも俺のあしらい方が上手くなったものだ。これも俺のお陰だな。


 「で、どうするんです?」


 「取りあえず、時間を稼ぐ」


 そう今はとにかく何をするにしても時間が無い。故に時間を稼ぐ。これに尽きる。


 「何をするんですか?」


 「魔力の循環異常と言うことは、魔力を流さなければ良くない? 作戦だっ」


 「ライルが外から中和するんですか?」


 変な作戦名はあっさりスルーされた。なんだか悔しい。


 「付きっきりでやればそれも可能かもしれないが、俺は嫌だ。よって中から中和する」


 そう言うとフラウが嫌な予感を感じたのか、逃げようとした。勿論捕まえる。そうです。錬金術が頼りです。それも何度も試行しないとダメな。よって実験台が必要です。


 「フラウは魔法薬の実験台な」


 「嫌あああああああ」


 そんな嫌がらなくても。そうかフラウは俺の実験魔道具で酷い目に合っている人たちを見ていたな。まあきっとあれよりマシだから安心して。それに死ななかったら治癒してあげるから。な~に、起こっても原因は分かっているんだ。ちゃんと魔法も効くさ。そう言うとフラウは更に絶望の表情を深めるのであった。


 フラウという尊い犠牲……もとい献身的な姿勢によって、一時的に中和するための魔法薬は作ることができた。これもエルフの知識のお陰である。アルテナにも念話で色々とアドバイスをもらった。


 そのアルテナはと言うと、エーシャ姉と意気投合していた……。アルテナは分かる。以前からエーシャ姉のことを知っていた分けだし。しかしエーシャ姉は何故だ? フラウに警戒するならアルテナにも警戒しそうなもんだが。


 (ふふふ、無害判定されたのですっ! まあ理由は簡単ですけどね~)


 アルテナがドヤ顔で言っているのが想像できる。


 (ぬぬぬ。分からん)


 (あっはっはっはっはっ、だからお子様と言うのですよ~。要するに私は大人視点でライルのことを話していたんです。そもそも私に恋心とか欠片もありませんし~。もしかして期待してました?)


 (大丈夫、それは絶対無いと断言できる)


 当然即答した。アルテナよ、調子に乗りすぎだ。


 (ぐはっ)


 即答されたのがそんなにショックなのか? まあいつもの自爆なので気にしないでおこう。


 取りあえずもう時間が時間なので、そろそろエーシャ姉が帰るだろう。それを見送るとしよう。


 そして――


 「ライル、私今日はここに泊まることにしたからよろしくねっ。許可はアルテナさんに頂きましたから」


 爆弾発言である。フラウなんか頭を押さえている。


 (あ、アルテナあああああ。何故先に言わないっ!!)


 (言ったら怒られると思って、てへっ)


 (言わなかったら余計怒るわああああああ!!)


 既にエーシャ姉はお付きの方に、お泊まりセットを取りに戻らせて準備万端である。この状態から追い返すのは無理だろう。仕方ない。そう思い諦める。


 アルテナには責任と言うことで店舗含む全体に結界を張らせ、エーシャ姉と寝室を共にする刑にした。これでもし刺客が来ても大丈夫だろう。


 まあここまで気にする必要あるのかは疑問だが、少なくとも俺はやっかみを受けている可能性が高い。今後は店舗などのセキュリティも強化しなければならないだろう。だから目立つもんじゃないんだよなぁ。


 そして夜だが、エーシャ姉は大変ご機嫌だった。アルテナと気兼ねなく喋れるのも良かったのだろう。話の合う友達と言った感じだが。ただ話の内容は置いておくとして……。


 俺の失敗談を何故アルテナが聞かせるのか……。今すぐ黙らせてやりてぇ。しかしエーシャ姉がいると強く出られない俺がいる。フラウも興味深そうに聞いている。止めろよっ!


 内容は冒険者学校時代のことが多かった。特にお祖父様、お祖母様のスパルタに泣き言を言っていた時とかのだ。その後もアルテナは調子に乗り色々とあること無いこと喋っていた。アルテナ覚えておくがいい。


 そして次の日にエーシャ姉はちゃんと帰ってくれた。良かった。一応忙しい人……のはずなんだけどね。自由過ぎる。さて、魔法薬はできたがすぐに渡すと出所を疑われたりしそうだ。痛くない腹を探られるのも嫌だし、王女には悪いが2、3日経ってから渡すとしよう。


 では次の原因の特定用の魔法薬の方に移る。


 「何か方法を思いついたのですか?」


 フラウが聞いてくる。その顔はハッキリと恐れの色が現れていた。きっと昨日のことを思い出しているのだろう。可哀想に。


 「勿論、様々な種類の薬を作り、1つずつ試していくっ!」


 あっ、勿論魔力循環障害に効く薬な。他の薬までは試さないよ? だからそんな絶望的な顔をしないで。まあ仕方がないのだ。試飲の人は必要だから。そんな黄昏れた眼をしなくても良いんじゃないか?


 昨日に引き続き、フラウの献身的な犠牲(献身的な姿勢+尊い犠牲)によって薬は作られていった。錬金書やフラウの知識、アルテナの助言合わせて、結構な数ができた。それでも10種類程度だ。あまりメジャーな病気では無いからな。人族の錬金書にはまともなのは2種類しかなかった。


 やはり魔法使いの多いエルフの方が知識は多かった。そしてそれをしっかり覚えているフラウも凄い。自分では作れない薬のレシピまで覚えているとは……。


 「こう見えても100歳越えてるんですよ。それに本を読むのは好きでしたし」


 そう言ってフラウは微笑んだ。この後、試飲することになり逃げようとするのだが、そこは割愛しよう。


 そうしてその3日後に中和のための薬を送り、現在は王女の経過観察中である。その間にも研究は進めていくが、特に目立った進展は無い。それよりも商会店舗を弄くったりしていた。陛下にバレたら何か言われそうだ。


 そして再び召喚状が俺の元に届くのであった。また来いってか……陛下酷いよ。まあ作った薬も試してみたかったし良いか。今回はフラウも連れて行くとしよう。俺の盾にするのだ。


 一方フラウはこの時背筋に悪寒が走り、とても嫌な予感がしたのであった。





フラウ「なんだか私への風当たりが強くありませんか? 何か恨みでもあるんですか? そう言いたい気分です」

アルテナ「私を女神と思わないところとか?」

フラウ「それだと間違いなく、ライルとアビスさんの方が酷い目に合っているはずですっ!」

アビス「さりげなく私を巻き込まないでくれ……」

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