第48話 アビスよ、お前もなのか
王都にあるオーガスト邸へ行った翌日。今日は朝から大忙しだ。登城するので、昨日の内に大叔父に用意してもらった儀礼服に着替えたり、身嗜みのチェックで大変だった。
フラウは登城には付いてこないし、アルテナも失言しそうなので嫌とのことだった。アビスは悪魔関係には無関係なのでパス。たとえ関係あったとしても行かなかったそうだが。
「ところでアビス。昨日は何か収穫があったのか?」
「いや、悪魔関係は無かったな。だが、近くの遺跡で新たな階層へ続く扉が発見されたそうだ。おかげでそこが賑わっているそうだ」
その後更に、進んだ先には多くの魔物が住み着いており、苦戦してると続けた。ならば今度行ってみるのもいいな。
「アルテナの方は――聞かなくてもいいか」
「はい。聞かないで下さい」
きっぱりと言ってきた。こうなると逆に聞いてみたい……。だがそれは罠なんだ。そう思って我慢した。
「そろそろお時間です」
フラウが俺を現実に引き戻そうとする。しかし俺は負けないっ!
「今日は良い天気だなぁ」
「行きますよっ! 遅れたら酷い目に合うと思いますよっ」
「行きたくねぇ!」
そう言っても無駄らしく、フラウとアルテナ、それにアビスが俺を引き摺るが如く馬車に連行していった。
「アビスよ、お前もなのか」
「ああ、権力を敵に回すと厄介だ。これも護衛の一環と言えよう」
あの書類仕事を手伝わせたこと、まだ怒っていらっしゃるんですか? そう聞きたかったが、答えが怖かったので聞くことができなかった。そうして否応なく馬車に乗せられ出発した。
馬車は王城に向かってゆっくり進む。まるで処刑台に向かう囚人の如くだ。いやそんな体験したこと無いけどな。王都は都会だ。石田畳が綺麗に揃えられている。
その昔、この辺りには古代遺跡があったらしい。そして、後からその近くに都市を築いたのがこの王国の始まりと言われている。その後は徐々に周囲を開拓していったのだ。主に北と西に向けての開拓で、南は一番最後であったらしい。
それはアイストル領にあるダンジョンの所為だったと今では言われている。詳細な記録は残っていない。聖王国の歴史も正確には分からず、記録があるのはここ千年の間だけだ。
この千年の間でもこの王都は何度も作り直されたらしいが。一度はドラゴンに襲われて王都が半壊したこともあったらしい。ドラゴン恐ろしや。ドラゴンスレイヤーと言うのは冒険者の間では夢みたいなものだ。俺は会いたくないけどな。
さてそんなことを考えているとあっと言う間に王城に着いた。さっきの囚人がどうのうこうとは一体……。そして門では話が通っていたのか、あっさりと通された。悲しいことに。ここで追い返されること切に期待していたのだが、無駄だったようだ。
そして馬車を降りると大叔父とクリス兄が待ち伏せをしていた。大叔父の顔には
「よく来たな。待っていたぞ」と書かれていた。なので俺は顔に「もう帰って良いですか?」と書き出してみたら、目を三角にして首を横に振られた。しくしく。
その様子を見ていたクリス兄は苦笑いするだけだった。助けてよ。
そして大叔父によって城の中に連行される(言葉で)。仕方がないので抵抗せずに付いて行った。城の中の調度品は高価そうな物ばかりだった。俺には美術的価値などは全然分からない。ただ値段が高そうかどうかは分かる。そして準備が整うまで待合室で待つことになった。
「いいな。作法は昨日教えた通りだぞ。儂とクリスも今回は特別に出席するが、あまり当てにするなよ」
大叔父が厳しいことを言ってくる。しかしここでクリス兄がフォローをしてくれた。
「大丈夫。ライルなら問題無くできるさ。まあ何か拙った時はフォローするから……たぶん」
最後の「たぶん」はなんなんだー! 一気に不安になったじゃないかっ。上げてから落とすのは良くないことなんだぞっ!
「き、期待しておきますよ?」
そう言ってもクリス兄はニッコリ笑顔で受け流すだけだった。やりおる。
そして遂に時間が来て処刑台に連行される。謁見室のメインの扉から入るのは俺だけだ。大叔父やクリス兄は参列者の中に混ざる。なので俺は最後の抵抗と、市場に売られる子牛の様な視線をクリス兄に向けるが、やはりあっさりと受け流されるのだった。
それから少しの間、謁見室の扉の前で待った。その後、ラッパが吹かれ誰々ご入場みたいな声が聞こえたような気がした。最早俺の耳には何も入ってこない、聞こえていない。
(俺ってこんなに緊張したっけ?)
ぼーっとした頭でそんなことを考える。
(えっと、前世の時は大勢の前に出るのが苦手でしたね)
アルテナからそんな解答が返ってくる。
(それより、面を上げたら如何ですか? 王様含めて周りの人が困っちゃってますよ?)
なんですとー! それを先に言わんかっ! 慌てて面を上げる。そこには壮年で威風堂々したお方がいた。短い金髪で口ひげがある。そして青い瞳でこちらを心配そうに見つめていた。
「おお、大丈夫かの? 少し顔色が悪そうだが」
そして状況を把握する。謁見室の中央で俺は傅き、その左右には大臣や国の幹部と騎士などが列を作っていた。宰相が王様の右前方に居り、大叔父とクリス兄はその少し後ろにいた。
「申し訳ありませんでした。少々緊張で身体が固まってしまい……」
(普段の傲岸不遜はどうしたのですか?)
(うっさいっ!)
アルテナの突っ込みに元気なく返す。周囲の騎士たちよ、もう少し蔑んでくれて良いんだぜ。俺は好意より悪意を受けた方が元気なるからな。なんで誰も俺が悪魔倒したことに疑念が無いんだ。どうせ運だぜ。みたいな感情が普通はあるだろう。
しかしここにいる騎士たちはエリートである。運で悪魔に勝てない。そしてオーガスト家の者は、異常な奴が多いと言うのを身に染みて理解しているし、軍閥重鎮である将軍もこの場に居たのだ。そんなこと思う分けがなかった。将軍はそれくらい評価に厳しい人で有名であった。
「そうかそうか、それは仕方がないの。もうしばらく我慢してくれい」
そう言った後叙爵式の続きが行われた。
「リールフォン聖王国国王、アーガスト=イル=ソール=リールフォンの名において命じる。ライリール=グラン=オーガストに騎士爵を叙する。受けてくれるな?」
一応拒否権はあるような言い方だが実質ありません。断ったらとっても面倒なことになります。
「謹んで拝命致します」
そう答えると拍手がなり響く。
「それと此度のアイストル領の魔物大氾濫での活躍を賞賛し、勇名勲章を授与する。更に戦場で数多の命をその卓越した治癒術を以て救ったことに対し、フォルテナ教会よりシェルテナ勲章が授与される」
「謹んでお受け致します」
またも拍手が鳴り響いた。その後少し儀式が続き解散する。解散すると言っても俺は解放されない。賑やかし騎士たちが解散されただけだ。他にもたまたま居合わせた人などが、謁見室から退室して行った。残されたのは大臣や護衛など僅かである。
「してここからは、楽にしてよい」
「はっ、ありがとうございます」
「悪魔との戦いについて聞きたいのだが」
俺ははい、と答えた後、昨日大叔父などに話した内容をそのまま告げる。将軍は先ほど退室したし、誤魔化せるはずだ。報告の少々の差異など良くあること。それに誇張に表現することもな。嘘言ってる分けじゃ無いしねっ。
よしいつもの調子が戻ってきた。氾濫時の街の様子や復興時の様子も聞かれたので、ここは正直に答えておく。
怪我人の具合なども聞かれた。これは少し話す気になれなかったが、聞かれたので仕方なく答える。火傷の具合など語っていても楽しいものでは無い。
その後も開いた商会についていくつか聞かれた。特に魔道具については詳しく尋ねられて、一度品々を見せてほしいとまで言われた。
「してこれから少し時間はあるかの? お主の治癒師としての腕を見込んで少し見てほしい者がいるのだが」
きっとこれが本題だったのだろう。見てほしいオーラ全開で言ってきた。勿論断る分けには行かず、
「私は治癒師として専門ではありません。それで宜しければ、診てみましょう」
「おお、それは良かった。ではその者のところへ行こうかの」
そう言って、他の者には解散を言い渡す。付いてきたのは宰相と王の護衛だけだ。王に連れられて行くときにクリス兄の方を見たが、決して視線を合わせてくれなかった。薄情である。
そして連れて来られたのはさる高貴な身分の方の私室であった。
アビス「護衛の範囲は私の裁量で決まる」
ライル「おいっ!」
アビス「私も大分慣れてきたものだ」
ライル「そんな慣れ方しなくていいんだよ?」
アルテナ「そう言えば現在5章を書いているのに、更新が5章に入って来ましたっ!」
ライル「それで?」
アルテナ「相当ヤバイです。ピンチです。故に私は閃きましたっ!」
ライル「何か嫌な予感するんだけど……続きは?」
アルテナ「5章長いので、分割しますっ! そうすると今6章書いてることにっ! 心にゆとりが産まれますっ!」
ライル「そのゆとり、まやかしの
アルテナ「……キコエマセン」
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