第47話 かなり煩ってますよっ!
テラスに行き紅茶を入れて貰い、そしてそれを飲む。一息付けた。
「少し遅くなりましたが、店舗の件ありがとうございます。おいくらでしたか?」
クリス兄に確認しておく。
「あ~、あれは母様からのプレゼントだって、条件付きだけど」
「条件とは店に自分の品を置いたり、工房たまに使わせてもらったりとか?」
「その通り。よく分かってるね」
予測通りだったか、しかし無料と言う分けには行かないな。さてどうしたものか。
「どうせ明日には分かることだから言っておくが。ライルよ、お前は叙爵される。騎士爵だ。その叙爵祝いと思って受け取っておけ」
大叔父に考えを読まれていたようだ。ここまで言われた受け取らざる得ないだろう。
「はい。ありがとうございます」
「では話を聞こうでは無いか。悪魔を倒した話をの。たぶん明日も陛下の前で話さないとダメだからの。その予行練習と思えばいい」
マジか……正直面倒だ。誰か変わってくれないかな? くれないか……。フラウっ! 視線を逸らされた。
さてどうやって能力を誤魔化すかな。うん、全ては魔道具の所為にしよう。魔道具が凄いだけで私が凄いんじゃありません。完璧だ。
そんな感じで改変した話を聞かせた。フラウが終始胡乱げな眼で俺を見ていた。そんな眼で見るなっ! バレるだろうがっ! たぶんクリス兄とエーシャ姉にはバレた。しかもカイ兄に見られているしな。色々と。しかし大叔父は戦闘などに詳しくないし、俺のこともよく知らない。故にそんなもんかと納得してくれていた。
他にも秘密にしていた<治癒魔法>についてや、支払いで奴隷を手に入れ、その人たちと一緒に商会を開いたこと。ダンジョンに少し潜ったこと。後はディレンバの冒険者学校の出来事や、お祖父様と御祖母様のスパルタの話などをした。
途中で昼食も挟みながらである。他にクリス兄は婚約が決まっており、今年か来年結婚するとのこと。エーシャ姉は色々と相手の要望に問題があったが、なんとか候補を見つけ出し、その人と交際中らしい。相手が公爵家なので相手方が気に入らないと話が流れるのだ。ただ相手方は気に入っているようで問題は無さそうとのことだった。
「エーシャ姉はどんな要望を出したのです?」
「簡単だよー。ライルみたいな子が良いって言っただけ~」
その時のことを思い出したのか、大叔父とクリス兄が頭を抱える。今回はそれに俺も参加した。
(完全にブラコンですねっ! かなり煩ってますよっ!)
なんかアルテナがハイテンションだ。
「ちなみにそれは容姿? 性格? 能力?」
非常に気になったので尋ねてみる。
「勿論全部っ!」
無茶だ……そんな人が居たんですか? っとクリス兄に眼で尋ねる。クリス兄は首を横に振った。あー、なんとか妥協させたんだね。よく説得できたなぁ。よく妥協したなぁ。
「まあ、今度紹介するわね。可愛い子だから。歳はまだ13歳だけどね。結婚するとしたら、2年後かな」
「向こう両親は認めているんですか?」
「エーシャは実力のある魔法使いだからな。それ故にむしろ喜ばれている」
「それに姉さんは見た目は良いから……あっ!」
ギロリとエーシャ姉の眼が光った。次の瞬間クリス兄は首を絞められ……。
「見た目『は』の『は』は余計だと思わないかな?」
「ぎぶ、ぎぶぎぶ……ぐくぅ」
クリス兄は完全に極められ、呻くしか抵抗ができない。
「それくらいにしないとクリス兄が気絶しますよ」
ふぅ、と息を吐きエーシャ姉が解放する。
「ゴホッ、ゴホゴホッ。ぼ、暴力反対……」
「なら言葉の暴力は良いのかな?」
「いいえ、良くないです。すみませんでした」
よく2人の力関係の分かる出来事だ。ちなみに大叔父は特に気にした様子は無い。いつものことのようだ。そうやって大叔父をチラ見していると、
「何、儂も初めは止めたんだがな。2日に1回くらいあるとな。それが日常と思えてしまうのだよ。それに口は災いの元と学ぶこともできよう」
俺の視線が責めているように見えたのか、大叔父が言い訳をしてきた。いえ、俺は何も言ってませんが……。そしてフラウは見なかったことにしている。
「とにかく、エーシャ姉の方は順調と言うことですね」
俺が話を戻さねば、エーシャ姉が更にクリス兄を追撃しそうだったので割り込む。
「そうだね。初めはどうなるかと思ったけど、今はなんとかなってるよ」
クリス兄が急いで食い付く。言葉ちゃんと選んでる? ホントにそれで大丈夫なのかっ?
「なんか言い方にトゲがあるけど、今は許しておいてあげるわ」
それを聞いてクリス兄が絶望的な表情をしている。「今は」って言ったからな。クリス兄……死んでなかったら治療してあげるからね。安心してくれ。
「それでライルの方はどうなのだ。そこにいる娘がそうなのか?」
大叔父が爆弾を落としてきた。主にエーシャ姉にとって。
「そそそ、そんなの私が認めないんだからねっ!」
「何故お前が動揺しておるのだ……」
エーシャ姉の動揺を見て、ため息を吐く大叔父であった。
「いえ、私はエルフですし、それにライル様の奴隷です」
「エルフかどうかなど関係な――」
「奴隷っ!? 奴隷って言うことはもうやったの!? やっちゃったの!? どうなのよっ!」
エーシャ姉が大叔父の言葉を遮るほどの大声を出す。そのまま身を乗り出して、更に興奮しながら続けて聞いてきた。その向こうにいる大叔父は呆れ顔だ。
「いえ、そう言った行為はしておりません……」
フラウが顔を真っ赤にしながら言う。俺は今遠い目をしていると思う。エーシャ姉の教育したのは誰だっ!? うわっ……母様ですね。
「ほっ、私のライルは守られたのね」
エーシャ姉は一体何を心配してたんだっ! まさかこれほどエーシャ姉が変人になっているとは……。
(禁断の愛を感じます。私は愛の女神アルテナ。汝に愛について教えましょうか?)
(いらん。この愛憎の女神めっ)
(うわーん)
(ところで教会で新たな収穫はあったのか?)
(…………うわーーん。ライルが私をいじめますっ! うわーん)
アルテナは泣くマネをした後、静かになった。
それはそうと、エーシャ姉のはしたない姿はさすがに目に余ったらしく、大叔父がエーシャ姉に説教を始めていた。その間にクリス兄に近づき、エーシャ姉に聞こえないように話をする。
「エーシャ姉、昔から少し変でしたけど。今はかなりヤバイですね? 何かあったんですか?」
それを聞いたクリス兄は苦笑しながら答えてくれた。
「なんでも王都魔法研究所では女性に対しての扱いが酷いんだ。男性の研究員が女性の研究員を、事務員や便利屋みたいに扱うらしくて……。他にも魔法ギルドや冒険者ギルドでは変な男に絡まれたりして、世の中の男の人に絶望した。私にはライルだけだっ! ってなちゃったみたいで……」
エーシャ姉は母様に魔法を学んでいるから非常に優秀なのにな……。王国の男尊女卑がこんなところで裏目にでるとは……。俺にはこういうしかない。
「ナンテコッタイ」
「それにライルって、姉さんに魔法について教えることがあるくらい賢かったでしょ。それもあったと思う」
じ、自業自得だとっ!?
(神様、女神様どうしてこうなったんだっ!?)
(女神様は只今傷心中でございます)
(戻ってこーいっ!)
非情なことにアルテナからは沈黙が返ってきただけだった。
「更に今回、悪魔を討伐したり、隠してた<治癒魔法>で多くの人を救ったりしたから……姉さんの中では、ライルは勇者や聖人、英雄みたいになってるんじゃないかな」
「クリス兄よ、俺はただのCランク冒険者なんだけど……」
これを聞いたフラウはどこがだ、と心の中で思ったそうな。同じくクリスもただのCランク冒険者が一対一で悪魔を倒せるかっ! と思っていたりした。
「ああ、Cランク冒険者で思い出したけど、僕たちの異母弟も王都で冒険者をやっている。弟であるのも後9ヶ月だけどね。その間は干渉しないようにしているが、結構好き勝手やっているから、会ったら気を付けた方がいい。特に異母弟はライルを目の敵にしているからね」
なんと、あの異母弟が王都で冒険者をしているのか。会いたくねぇ。注意しておこう。これは良い情報もらったな。クリス兄に感謝だ。
「私はあの子嫌いだわ。私のリュンカやピューラに暴言を吐いてたし。私が睨んだらすぐに黙ってどっか行ったけど」
いつの間にかエーシャ姉が会話に参加してきた。さっきまでの話は聞いてないよね? フラウに視線で聞いてみる。今、大叔父に解放されたところだと。ならば良い。って、内緒話なのに何故フラウが聞いているんだっ! 何故視線を逸らすんだ。
「なにー? アイコンタクト? 妬けちゃうな~」
そう言って抱きついてくる。避けたりしたら怒りそうだから、仕方なく受け止める。決して胸の誘惑に負けた分けじゃ無いからなっ! 姉弟だしな。
そしてそろそろ頃合いなので、お
帰りの馬車の中でフラウに、
「なんか今日もの凄く疲れた。これなら馬車旅の方が良かったかも」
と力無く呟いたら、
「お疲れ様です。とても強烈なお姉さんでしたね……。手強そうです」
何がだよっ! と心の中で突っ込んだ。もう色々お腹一杯だったので、口に出す元気が無かったのだった。
ライル「クリス兄も苦労してるんですね……」
クリス「そうなんだよ……でも首締められるくらいならまだマシかな……」
ライル(なら、酷いとどんなことされているんだろうか? 気になるけど怖くて聞けないっ!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます