第46話 急に体調が悪くなったわ

 翌日、4月6日光の日。と言うことは……祝日である。王城に向かうのは無しかな。取りあえず、王都にあるオーガスト邸へ行くとしようか。どこにあるのか知らないが……。貴族街にあるだろう。そこにいる衛兵に聞けば教えてくれるだろう。たぶん。


 さて朝ご飯を食べてから早速向かうことにする。


 「では俺はオーガスト邸に顔出してくるわ。アビスとアルテナはどうする?」


 フラウに聞かなかったのは、既に付いて来る準備を行っていたからだ。


 「王都は安全と見て、今日のところは1人で行動させてもらえるか? 少し知り合いが居てな、会いに行ってくる」


 「私は今日は光の日ですから~。いつものところへ行ってきます~。何かあれば言って下さいなー」


 そう言えばアビスは王都が初めてでは無かったな。知り合いが居てもおかしくはない。アルテナは懲りずに教会か……帰ってきたら凹んでるだろうな。まあそう思ったとしても止めないけどなっ! ムダだろうし。


 「分かった。アビスもアルテナも気を付けて行ってこいよ。特にスリにな」


 「ああ、心得た」


 「そんなのに引っかかる私ではありませーん」


 アルテナが一番危なそうだが、お金とか全部異空間庫に入ってるからな。取るには出した瞬間を狙わねばならぬ。難度が高すぎである。故に大丈夫だろう。


 「では行ってくる」


 そう言って馬車を出してもらう。いざ貴族街へ。そうして馬車に揺られて貴族街へ向かった。貴族街の入り口で衛兵に止められたが、短剣を見せたらあっさりと通してくれた。


 そこでオーガスト邸も尋ねたら、案内してくれることになった。ホントにありがとうございます。


 「おーでかい屋敷だな。ディレンバの代官邸よりでかいんじゃ……」


 「では自分はこれで」


 案内した若い衛兵さんがそう言って立ち去ろうとしたので、銀貨を渡して。


 「ありがとうございました」


 と言っておく、衛兵さんは少しびっくりしていたが、そのまま受け取って立ち去った。びっくりしたのはお礼の言い方かな? 普通の貴族の子弟は偉そうなのかもな。


 さて、気を取り直して屋敷を見る。そして次は屋敷の門番に尋ねる。


 「ここはオーガスト家のお屋敷で間違いないですか?」


 「そうです。間違いなくここはオーガスト伯爵家の邸宅です」


 「私はライリール=グラン=オーガスト。現当主の息子です。屋敷の者に引き継ぎをお願いできますか?」


 短剣を見せながら言うと、門番の方は姿勢を正し、了解の旨を言った後片割れが屋敷へ走っていった。


 しばらくすると、若い青年を連れて戻ってくる。俺もよく知ってる人だ。


 「やあ、久しぶり。そして、いらっしゃい。思ったより遅かったね」


 そうクリス兄が挨拶をしてきた。相変わらず爽やかだ。


 「お久しぶりです。ちょっと復興に時間が掛かってしまいましてね」


 「まあ話は屋敷の中でしようか」


 そう言って屋敷へ案内してくれる。馬車は駐車スペースに誘導されて行った。フラウは馬車から降りて俺の後ろを付いて来る。


 そして玄関を開け中に入ると、奴が待っていたのだ。


 「ライルー! ライルライル~♪ 会いたかったよ~♪」


 そう言いながら俺に向かって突っ込んで来た、エーシャ姉をなんとか受け止める。2年降りに会ったエーシャ姉は様変わりしていた。もう完全に大人の女性……妖艶と言う言葉が似合う様になっていた。


 これからどこかへ出掛けるのか、その身を青いドレスで着飾っていた。それがとても似合っていて思わず見惚れそうになる。長い銀髪と水色の瞳に非常に合っていた。そしてドレスの生地は薄く、彼女が抱きついているため、その豊かな双丘が胸に当たって良い感触を残す。


 (エーシャ姉は絶対おかしいわ)


 思わずそんなことを思ってしまった。


 (そうですか~? 見てて微笑ましいですよ~)


 ちっ、アルテナめ……覗き見とは趣味が悪い。


 「新年に実家に帰ったら、ライルは家出したって言うんだもん。心配したわよー。でも元気そうで何よりだわ」


 あの別に家出と言う分けじゃないんですけど……。クリス兄の方をチラリと見る。すると、肩を竦めただけだった。察するに説明してもムダだったと。ならば仕方ない。


 「こらー、何で何にも言わないのよー。愛しのお姉様に会えたのよっ」


 エーシャ姉が苛立った感じで言ってくる。ホントに苛立っている分けじゃないのは眼と声で分かる。要するに久々に会ったから相手をしろと言うことだろう。


 「お久しぶりです、エーシャ姉。お元気そうで何よりです」


 「なんか他人行儀ー。昔みたいにお姉ちゃん愛してる。って言っても良いのよ?」


 そんなこと言ったことは断じて無い! 大好きとは言わされたことがあるが。フラウから視線が痛い。痛すぎる。そう思った所為か矛先がフラウへ向かった。


 「後ろの女の人は何? まさかライルの恋人じゃないでしょうね? お姉さん許さないわよ」


 おい、何故そんなに敵愾心があるんだ。怯えたらどうする。


 「エーシャ姉、クリス兄、紹介します。私の作った商会で助手をしてもらっている――」


 「フラウルーシェです。よろしくお願いします」


 俺の言葉の後を引き継いで、フラウが言い一礼する。その時一瞬だが、エーシャ姉とフラウの間で火花が散った様な光景を幻視した。きっと気のせいだろう。眼が疲れてるのかな?


 「さて立ち話も何だから、応接室へ行こうか。大叔父のハイドさんも呼んでくるよ」


 それに頷き、応接室へ案内されようとするが、


 「あっ、姉さんはこれからお茶会でしょ?」


 「急に体調が悪くなったわ」


 そう言って俺にもたれかかってくる。白々しい嘘を……クリス兄言ってやるんだっ! そう思いながらクリス兄を見ると、彼は顔を手で覆いながら切り出す。


 「今日のお茶会はそれほど重要でも無いし、休んでも良いけど。今回だけだからね。今回はライルと久々に会ったと言うことで、多めに見るから……」


 クリス兄があっさり折れた。


 「うふふふ、私は良い弟を持ったわ」


 勝ち誇るエーシャ姉。2年では2人の力関係は全く変わらなかったようだ。


 そして応接室に通される。俺は3人掛けのソファに座るが、右にエーシャ姉、左にフラウである。エーシャ姉は俺の髪を弄ったり、スキンシップが激しい。そして俺はされるがままである。昔からその傾向があったしな。


 「身長伸びたわよね。今いくつくらいかしら?」


 冒険者学校を出た時165センチで、今は169センチほどになっている。もう170センチと言って良いよね?


 「確か、170センチ……弱くらい」


 ぐっ、何故か嘘を吐くことができなかった。ちなみにフラウ168センチである。エーシャ姉が170センチなのを合わせると、この3人1センチ刻みであった。


 「まだ私の方が高いわね。クリスは抜かれちゃったけど」


 クリス兄は165センチで止まってしまったのだ。あまり言ってあげるなよ。栄養はすべて私が吸い取った、とかエーシャ姉が冗談で言っていたことがある。それは本当かもしれないと主に胸などを見ながら思った。


 胸を見た所為かフラウから肘鉄が飛んできた。フラウの方を見るとふくれっ面をしていて可愛かった。


 「あらあら可愛らしいことで」


 エーシャ姉がそう言うと、フラウは自分の短慮に気付いたのか、今度は顔を赤くしていた。おもちゃにされてるなー。


 (フラウは可愛らしいですね~。だからいじめたくなるんですよっ)


 悪魔の囁きが聞こえた。そして応接室の扉が開き、初老の男性とクリス兄が入ってきた。


 「おお、大きくなったのぅ。兄からも手紙で聞いておる。それよりも……来るのが遅いわっ!」


 会って早々に怒られたぜっ! そして大叔父とクリス兄は対面のソファに座る。大叔父は座りながらも追撃をしようとしてくるので、こちらも防衛する。


 「召喚状来てからすぐに来ましたよっ!」


 「それ書いたの儂じゃ! 故に知っておるわっ。宰相殿がアイストル卿に配慮してああ言った文になっておるが。普通は呼ばれる前に来るんじゃぞ?」


 そうだったのかっ! 俺の防衛はあっさりと破られた。きっと本能が馬車を嫌ったんだろうな。故に仕方がないと思うのだよ。それと一応復興の手伝いしてたし。俺は現実逃避を始める。


 「まあ良い。明日は空いておるな? 明日登城するぞ」


 明日の予定はこうして決定された。まあどうせ明日行くつもりだったし。問題ない。


 「今日はまだ時間はあるな? できれば午後も使って聞きたいことが山ほどあるのだ」


 「はい。大丈夫です。ただし昼ご飯をご馳走して頂けたれば。それと時間が掛かるならば、御者と馬車を店舗の方に帰しておきたいですね」


 何時間も待たせておくのは可哀想だしな。


 「分かった。御者には今すぐに伝えさせておこう。帰りはうちの馬車で帰ると良い。食事は美味い物をご馳走しよう」


 (なんだってー。私も付いて行けば良かったですん)


 アルテナのガッカリした声が聞こえる。どれだけ食い意地張ってるんだよ。


 「では、もう少しリラックスして話をするため、テラスにでも行きましょうか」


 そうクリス兄が提案し、皆でテラスへ行くのだった。







フラウ「お姉様にはされるがままですね?」

ライル「昔、ある一件により苦手意識を植え付けられたんだ」

フラウ「そうなんですか? どんなことが起きたのですか?」

ライル「本の山に埋められた」

フラウ「……そ、それは恐ろしいですね(どうしてそうなったのでしょうか?)」

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