第45話 盗賊狩りの事業でも始めようかな
翌日である。空を見ると曇り空、今にも雨が降りそうな空模様であった。アルテナとフラウが共に大雨にはならないだろうと言ったので、俺たちはさっさと王都に向かうべく出発することにした。
そして馬車に揺られて都市を離れていく。都市を出て少し進むと、シトシトと雨が降り始めた。アルテナとフラウの言う通り小雨である。故にそのまま進んで行く。
もし大雨になるならば考えないとダメだな。俺たちの馬車は幌馬車なので大雨に長時間打たれるのは拙い。しかし4つの馬車に4人の魔法使い。俺は魔法で解決だな、っと思考放棄することにした。そして放棄した先は、
「盗賊の討伐報酬はリーダーを除いて1人に付き大銀貨1枚。奴隷落ちで1人に付き大銀貨1枚。合計金貨5枚か~」
「そこにリーダーの分の討伐と、奴隷落ち合わせて金貨1枚ですね」
「なかなか良い儲けじゃないかっ! 盗賊狩りの事業でも始めようかな……」
「あはは……。すぐに盗賊が居なくなって頓挫しそうですね」
フラウの言う通りである。そもそも俺らが近づいたら、全力で逃げるようになるだろうな。世の中なかなか上手く行かないものだ。
「お金の話になると元気になりますね~。王都に着いたら美味しい物を奢って下さいね~」
アルテナが集りにきた。
「
「えっ、だってその盗賊代の一部は私の成果でもある分けですし~」
「ちっ、気付いていやがったか」
「そりゃそうですよ~。こう見えて私もお金には厳しいですから~」
「まあアビスには4分の1渡すつもりだったがなっ。アルテナは奢って貰えればそれで良いと」
そう言ってアビスに金貨1枚と大銀貨5枚渡す。
「当然のことをしたまでだが……感謝する」
何かと理由を付けて受け取らない可能性もあったが、無事に受け取って貰えた。受け取って貰わないと契約に反するからな。ついでにフラウにも渡すか。
「あ、私は奴隷ですから必要ありませんよ」
そう言って受け取ろうとしない。
「本来は解放されているんだから受け取ってくれ。じゃないと俺が困る」
そう言うと渋々と言った感じで受け取った。アルテナの分? 勿論渡さない。
「私に取り分はどこですか~?」
「食事の奢りで良いんだろ?」
ニヤリと笑いながら返す。それに対してアルテナふくれっ面で返すのであった。
「むがー、分ーかーりーまーしーたー。奢りは良いですから、お金下さい」
現金な奴である。仕方ない。ちゃんと渡しておく。
「ぐへへへ、これで美味しい物が食べられるよ~」
やはり思う。これのどこが女神なのだろうか……と。世界の不思議である。
そんな感じの会話をしながら、軽くなった馬車は小雨の中を軽快に進む。小雨程度では速度を落とす必要はなかった。
夕方予定通りに宿場町に着いた。ありがたいことに旅は順調である。少々の雨くらい気にならぬ。
「ようやくここまで来たっ! 後は明日1日で王都に着くっ! この辛い馬車生活からもおさらばだっ!」
「そんなこと言ってますと、明日大雨でも降って立ち往生を余儀なくされますよ~」
アルテナがそんなことを言っていたが気にしない。
そしてその翌日……朝から大雨であった。ザザ降りである。これはちゃんとした屋根のある馬車ですら、出発を躊躇うほどである。
「アルテナああああああっ!」
俺は絶叫を上げて、大雨を降らした犯人(勝手に)を問い詰める。
「いえ、私の所為じゃないですから~。フラグを立てたライルが悪いんですよ~」
逆に落ち着いているフラウとアビスに尋ねてみる。
「なんとなくだが、こうなるのではないかとな」
「はい、思ってました」
何故だああああ。更にフラウが止めを刺しに来る。
「最近天気が良かったですし、それに」
「それに?」
「旅に雨は付きものです」
「ナンダッテー。俺の旅はいつも晴れてたのに……」
「それはたまたまではないでしょうか?」
俺は床に膝を付くのであった。そうしてその日は宿内でゴロゴロして過ごしたのだった。
更にその翌日。今度こそっ! その願いが通じたのかの空は晴れ。旅日和な天気であった。そして無事に宿場町を出発することができたのである。大雨の後で道がぬかるんでいて大変だったが……。俺が一番前の馬車の御者台に座り、魔法でぬかるんだ道を慣らしながら進んで行った。
「そうまでして早く王都に着きたいのか……」
アビスが少々呆れていたが、細かいことである。まあ御者をしてくれている人も呆れていたが。
「俺は昨日のことは忘れて前だけを見ることにしたんだ」
「カッコ付けてますけど~。実際のところはカッコ悪いですからね」
アルテナが俺をバカにしてくる。そのうち覚えてろ。正確には王都に着いたら。
さてそうして進んで行くと遠くに大きな城壁が見えてきた。あれが王都の城壁か。オーガスト領のサルファやディレンバよりも大きく頑丈そうだ。そして門に人が並んでいるが、俺たちは貴族専用の門の方へ行く。
「ふはははは、これぞズルっ! そしてこの王宮から召喚状っ! 我無敵なりっ」
商会の人や元奴隷の人たちが少し心配そうにしていたので、大袈裟に言ってみた。本心で言った分けじゃないよ? ちゃんと無事に門を通ることもできたしね。
そして門を通った先はディレンバよりも遙かに多くの人で溢れていた。道幅も広く、この活気は正しく王都と言った感じだ。多くの馬車が行き来している。
「どこへ向かえばよろしいでしょうか?」
御者の人が聞いてきた。そして事前に拠点確保のために先行部隊を送っておいたのを思い出す。その人たちが確保した建物のある場所へ向かうことにする。俺も王都は初めてなので、手紙に同封された地図便りだ。
正直、人が多くごちゃごちゃしてるのもあって、俺だと100%迷う自信があったが、御者をやってくれていた人は優秀らしく、ちゃんと店舗のところまで連れて行ってくれた。
聞けば王都出身だったらしい。なるほどと思うのであった。彼は詐欺に遭い借金漬けにされ奴隷落ちしたそうだ。王都では詐欺や物取りが結構いるので注意するように言われた。
「私が気を付けろと言われてしまいそうですけどね」
御者の人が苦笑いしながら付け加えた。彼はこのまま商会の御者要員として働くので、
「まあ何か怪しい話であれば相談するんだ。俺も周囲に相談するようにしよう」
「ありがとうございます」
彼は優秀な人材だからな。何しろ重傷を負いつつもあの氾濫を生き残ったんだからな。御者でもあるが戦闘員でもあるんだぜ。
それにしても借金したら死地に送られるとか酷いもんだ。そのことを言うと、借金の額が高かったらしい。普通だと一生返せない額の人が送られたそうだ。
一応奴隷落ちすると借金は無くなる。ただ借金額に応じて自分を買い戻す金額が高くなる。彼の場合は死地へ送られるので、借金先へは彼の命の値段分が支払われる。
戦場でもそうだが、人の命が軽く扱われるな。こういうのに嫌気が差しているのは前世の影響か? まあ分かるはずもないが。アルテナに……はやめておこうか。
かなり話は逸れていたが商会の拠点兼店舗である。大通りから少し逸れたところにあるが十分良い立地と言えた。この辺りはクリス兄に手紙で頼んでおいた。明日にでも屋敷に行って代金や手間賃を払わねば。いくらになるか分からなかったからツケで頼んでおいたのだ。うん? 踏み倒したりはしないぞ。商人とは信用第一だからなっ。
大通りから外れた大きな理由は敷地にある。大通りに面した建物よりも大きく、敷地も広いのだ。裏手に厩舎もあり、馬車の出し入れが必要な我が商会には必要な設備だ。しかも大通りの店舗よりも倉庫街に近く、居住できる場所が近くにある。
そして今日のところはここに泊まることにする。元から王都支部に所属する従業員はすでに確保してある居住場所で泊まる。ここで泊まるのは俺たちや、故郷に帰路組である。
この帰路組は王都を通った先に故郷のある者たちだ。ここからは普通の乗合馬車に乗って帰ることになる。出発は数日後らしい。邪魔じゃないから好きなだけ居てくれて良いんだぞ?
ちなみに王都が故郷の者はすでに大通りで別れている。家族の居る者や帰る場所のある者はと言う限定付きだが。家族が居らず王都に帰りたい者は、商会で働く従業員として戻ってきたのだ。
そして家族の居る者だが……皆誘拐された違法奴隷の女の子たちだった。色街で働いていたが火傷で重症に合い……と悲惨な目に会っている。その子らは護衛を付けて家に送って行ってもらった。また今度落ち着いたら店に顔を見せに来るらしい。その時を楽しみにしておこう。
「それにしてもこの店舗……高そうだ」
「そうですね。場所も良いですし、店舗部分も広く中庭もあります。居住部分も良い作りであすし、大御所の商人のお店だったのでしょうか?」
フラウが疑問を浮かべる。それに先行して王都に来ていた人が答える。
「はい、オーガスト家の御用商人のお店だったらしいです。今は大通りに面した場所にここよりも大きいのを建てたそうです。残ったこの場所と建物はオーガスト家に売ったみたいですね」
「元々持っていたんかーいっ!」
思わず声を上げて突っ込む。それに付いても知っていた様で、俺を少し哀れんだ眼で見た後説明してくれた。
「なんだか現当主の奥様が細工にはまってまして……。息子に当主を譲ったら王都でお店を開くとかなんだとかで購入されたみたいです。現当主に内緒で」
あう、母様の仕業でしたか、それで俺が店舗を探してるっとなって、母様が提供してくれたのか……。勝手に買い取ったの誤魔化せるし、細工品くらいなら交渉すれば置いてくれると考えたか。そして店舗を買い取るのに関わったのはクリス兄だろうな。母様は領を離れることはまず無いだろうし。代理人を送るとバレるし。
まあそれも明日尋ねれば良いか。
「良し今日は休むぞー。もう長時間馬車に揺られて疲れたっ!」
そう宣言してゴロゴロするのだった。
アルテナ「女神の力でちょっと雨を降らせてみましたがどうです?」
ライル「よし、分かった。今すぐその首貰い受けよう」
アルテナ「嘘っ、嘘ですからっ! 早まらないで下さいっ!」
ライル「ちっ、でも女神の力か……ならばできそうだな」
アルテナ「どきっ。や、やってませんからねっ!(できるけど)」
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