第43話 これが長い長い旅の始まりである
さて王都へ行くことになった。それは良いが、アラシドから王都まで馬車で約8日である。ちなみに領都サルファからだと13日くらい。しかし宿場町を無視し、野営上等で行くと少し早くなる。後は馬車では無く、馬だけならば……。
そんなこと考えても無駄なんですけどね。もう馬車は調達しましたし、行く人数も多いから。乗合馬車とは違うから強行軍することはできるが……。俺たちは大丈夫でも商会の従業員たちはなぁ。無念。8日間馬車に揺られるとしますか。途中ウォンドルで商会を覗いたりするため1日休憩することに。
そう言った計画が決まり、いざ出陣っ! もとい出発することになった。今日は3月26日土の日。王都に着くのは順調に行けば、8泊9日で済み4月4日に着くはずだ。
そして馬車に揺られながら、
「これが長い長い旅の始まりである」
「何1人で黄昏れて居るんですか~?」
「お前はいいよなっ! 馬車の揺れを感じ無くてっ!」
「えへへへ。そんな褒めなくても~」
「褒めてねぇよっ!」
アルテナに何を言ってもムダだとしても、言わねばならぬこともあるのだ。それよりも他の人は大丈夫なのだろうか? 気になったので見てみると……。
フラウ、全然平気そう。アビスも同じ。アビスは更に護衛と言うことで周囲を警戒までしている。なんだろうこの差は……ちなみに俺も風魔法で索敵は行ってはいる。しかしアビスほど適時行ってはいない。う~む。聞いてみるか。
「フラウとアビスは馬車の揺れは平気なのか?」
「はい。全然大丈夫ですよ。もっと酷いのも経験してますから」
「そうだな。私も問題ないな。ただ私も初めの内は慣れなかった。旅を長く続けていると自然にな」
「ど、どれくらいで慣れたので?」
「個人差はあるだろうが、私の場合は5年ほど掛かったかな」
その言葉に俺は絶望した。パタリと馬車の床に倒れるフリをする。それを見たアルテナは……。
「隙ありっ!」
「ぐはっ」
そう言って俺を踏むのだった。その後起き上がった俺はアルテナに報復することとなる。この辺りの話は不毛なので割愛しよう。
そうして、1日半ほど馬車に揺られてウォンドルに着く。行きと違い急いでいないとこれくらいだ。そしてここでは1日休憩を挟む。ウォンドルにあるルーシェ商会の店舗を覗き見もとい、視察を行うからだ。
このウォンドルでの拠点は主に中継地点と言うことで、各都市へ続く街道の情報や、人の流れの確認などの情報をまとめることが主な仕事である。なので店舗、販売する部分はそれほど広くは無い。それでもアラシドの工房で作った物をちゃんと並べているが。特にあれこれ言う必要は無いだろうし。困ったことや問題が無いか尋ねてみる。
特に無い? ふむ。なんと子爵家の人が時々困ったことは無いか、問題は無いかと尋ねてくるらしい。そこで解決しているから、今は特に無いと。
ところで解決した困ったことや問題はどんなものなんだろうか。気になるので尋ねてみた。なになに、商売敵がゴロツキを雇って嫌がらせ? 良しソイツがダレか教えなさい。自分たちが誰に手を出したか教えてやろう。え? もう解決済み? ちっ、命拾いしたなっ! その商売敵の処遇は? 反省もして謝罪もしてもらったと。ならば良いか。
しかし子爵様もちゃんと仕事してくれているんだな。感心した。それに感謝だ。機会があれば礼を言っておこう。
ここではそれ以上のことは無く、予定通り1日休憩を取り次の日に王都へ向けて出発した。これから6日間馬車に揺られ続けるのである。地獄だ。
ウォンドルを出発してすぐに俺は要望を出した。
「求む、気の紛れるお話」
「ではライルの子供頃に行った過ちなどを披露いたしましょ~」
アルテナが俺に止めを刺そうとしてくる。
「てめぇ、俺に恨みでもあるのかっ!?」
尋ねるとあっさり頷かれた。思い当たる節は……あるなっ!
「私は興味あるのですが……話してもらっても良いですか?」
「ダメです。話そうとしたら、アルテナが可哀想な目に合います」
「何故敬語なんですか~! 怖いじゃないですか! 私一体どんな目に合うのっ!?」
フラウが聞きたそうにしたので、即却下する。その際少々焦っていた所為か敬語になってしまった。まあ結果的にアルテナをビビらせることができたので良しとしよう。
そんな感じで平和に行程が進み、遂に領境を跨いで王家直轄領に入った。ウォンドルを出発して3日目のことだった。
現在領境を越えた先にある宿場町である。
「後半分、後半分」
と呟くのは俺である。呪文の如く唱えていると、フラウに心配された。
「大丈夫ですか? 1日休みますか?」
「そうすると王都に着くのが遅くなるので頑張る」
ちなみに宿場町では俺たちは宿で休んでいるが、他の人たちは外で野営をしている。それでも皆俺より元気なことが納得いかぬ。
「さすがの私も馬車の揺れから守ることはできんな」
あれか書類仕事から守らせた意趣返しか? いやたぶんそうだろうなぁ。アビスもだんだんアルテナに毒されてきたな。
「まあ良い、もう残り3日だ。3日後になったら覚えておくがいいっ!」
「微妙に小物感を出した台詞ですね~」
「うるさいわっ」
「後、先ほどの言葉はフラグですよっ!」
そんなことがあった翌日。宿場町を出てすぐにそれは来た。
「ライル殿よ、しばらく進むと待ち伏せをしている者たちがいるぞ」
アビスが突然そんなことを言ってきたので、自分でも魔法を使って確認してみる。街道の側の森に人が隠れている反応がある。その部分は街道から森までが特に近くなっている場所だ。襲撃するのに適した場所と言える。
「ホントだ。盗賊かな? これは俺の憂さ晴らしに誰かが用意してくれたのかな?」
「盗賊の可能性は高いだろうが、ライル殿の憂さ晴らしのためでは無いと思われるが……聞いてないな」
準備運動を開始している俺を見て、諦めた表情を浮かべるアビスであった。
「昨日アルテナがフラグと言っていたのはこれのことかっ!?」
「いえ、違いますけど。そんなに嬉しそうに言われると否定しづらいですね~」
あっさり否定しながら言うなよっ! アルテナもやる気の様で、弓を出してニヘって笑っている。馬鹿っぽい。言ったら怒りそうだ。フラウはそんな様子を見ながらため息を吐く。しかし特に意見などは無いようだ。フラウも戦闘準備を始めている。まあ盗賊だろうからな。
「では待ち伏せをしている相手に、奇襲を仕掛けよう作戦開始っ!」
良い作戦名だろ? それにしても王家の直轄領で賊ねぇ。領境付近は賊を捕まえづらいが、どうなっているのだろうか? 王都は治安が悪いのかな? 王家直轄領と言ってもほとんどは代官が見てるだろうしな。王家は王都周辺と国内全体や諸外国と見るもの多いからな。
「やることがなかなか酷いな」
アビスが端的な感想を言ってきた。そして基本的に賊には容赦しないそうだ。
そうと決まれば早速行動開始だ。まず俺とフラウで敵の背後を突く。更に馬車の方へ追い立てる。そしてアビスとアルテナは馬車の護衛だ。まあ護衛と言う名の殲滅係だな。期待しておこう。
そして俺とフラウはひっそりと賊共の背後に付いた。獲物の背後が見える。
(くっくっくっ、さて狩りの始まりだ)
(邪悪な波動を感じますっ!)
(そんなことないよ? これから邪悪な者たちを一掃するのさ)
だがその前に一応<分析>を使って職業を確認しておく。うん。目に見える範囲の連中は皆盗賊だな。レベルは15~30だな。幅が広い。そして装備だが勿論貧弱である。まともな皮鎧を装備しているものが珍しいくらいだ。
リーダーと思われる奴はそれなりな装備をしているが。弓持っているのも数人だな。護衛付きの商隊を襲うのは少し厳しいか? そこで俺らの馬車を狙った分けか。見た目は護衛なしに見えるしなっ! その実、魔法使える人が4人も乗っていると言う恐ろしい罠なんだが。
(確か人の場合は、レベル差による経験値ペナルティ無いんだよな?)
(そうですね~、確かにありませんが、元々人の経験値って大小の差が激しいですからね~。あまり気にしなくて良いかと。少なくとも山賊になるような人は皆経験値が少ないです)
なんだツマラン。まあ戦利品に期待しよう。賞金とか掛かってると嬉しいな。
さて相手の数を魔法で確認する。ここに居るのは25人、結構な大所帯だな。他にも斥候とかが居るかもしれない。それは見つけ次第排除だな。
それでは開幕の狼煙を……と考え、フラウに合図を送り風魔法を展開する。そして次の瞬間、盗賊の後ろから衝撃波と風の刃の群れが接近するのだった。
ライル「出す物出したら命だけは助けてやるぜぃ」
アビス「これだとどちらが盗賊か分からないな」
アルテナ「はいはーい。私は愛のドロボウになりたいですっ!」
フラウ「アルテナさん、少し黙ってて」
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