第41話 書類から俺を護衛するのだ

 そうしてダンジョンから街へ戻る。概ね平和な行程だった。そして街に戻ると夕暮れ、今夜は疲れたので解散することにした。アビスには宿舎の一室を貸しておく。ちゃんとした護衛契約は明日だな。


 (まあアビスは物欲が少なそうだから交渉は楽だろうな)


 (誰かさんと違ってですねっ!)


 アルテナがここぞとばかりにジャブを放ってくる。今日は疲れたし、アルテナの相手をする元気も無いので、無視して今夜は休んだ。


 翌日12月30日の光の日、明日から新年でお祝いの5日間が始まる。昨日ダンジョンから帰っていて正解だった。いや、ちゃんと昨日の内に戻ろう考えてたからなっ。ホントだよ?


 自分に言い訳をしているとフラウが起きてきた。


 「おはようございます」


 「おはよう」


 挨拶をした後朝食にする。宿舎の食堂にて無料で食べられるのだっ。まあお金出してるの俺だけど。そこは気にしたらダメだな。


 今日の朝食のメニューは……いつも通りシチューにパンですね。仕方がないのだ。氾濫が終わったからと言って、すぐに新鮮な野菜が取れたりはしないのだ。氾濫中は危なくて都市近くの畑とかは手入れができなかった。それ以外にも新鮮な野菜が少ないのは冬なのもあるが。


 それでもダンジョンで魔物の肉が取れるため肉は十分にある。そこでオーク丸々1体持って帰ってきたのを思い出した。後で調理場の人に渡しておこう。


 どうやって持って帰って来たか? それはダンジョン部隊に持って帰って来させたと言うことにしておこう。ダンジョン部隊も年越し時には大方戻ってくる。それでも3階層の拠点の維持部隊は残してだ。故にこの誤魔化しで大丈夫なはずだ。


 「ところでフラウの故郷では年越し時に特別に何かするか?」


 「そうですね。精霊にお祈りすることですね。お祈りの状態で年を越します。ラ、ライルのところではどうなんですか?」


 お、初めて呼び捨てにされた。かなりぎこちないが、まあ慣れだよな。慣れるまで頑張るのだ。


 「うちの家ではその年に領軍に入った新人や次期当主、他にも罰として参加させられた奴らが0時過ぎまで逃げると言う祭りがある。現当主と有志たちによる狩りから逃げると言う……なんとも危険な祭りなのだ」


 俺はこの時遠い眼をしていたかもしれない。俺も逃げる方でいつも参加してたからな……。


 「どんな祭りなんですか……」


 「なんか新人同士の結束力を強める云々うんぬんとか言ってたけど。実際は憂さ晴らしだと思う。うん。絶対あれはそうだ」


 罰で参加させられたりする人いるからなぁ。この祭りの酷いところは、逃げて良い範囲が決まっていること。有志の数が逃げる人より多いこと。向こうは大抵魔法使いのサポートがあること。更に有志の方はメンバーチェンジありなところ。と、明らかな不公平がそこにあることだっ!


 「今年はあれに参加しなくて良いことが最高だ」


 「余程辛かったのですね……」


 「機会があったらフラウも参加してみると良い。勿論、逃げる方な。安心しろちゃんと口利きしてやるから。なかなかできる人だと」


 「いえ、遠慮しておきますっ!」


 全力で拒否されたぜ。その後も祭りの説明をする。いつか参加するときのためにな。


 あのお祭り誰が考えたんだろうな。名前も死闘祭りだったけ?


 なんか悪魔みたいな名前だったんだ。ルールは20時から0時半まで立っている人がいれば逃げ方の勝ち。立ってる人がいなければ追い方の勝ちという単純なものだ。まあ4時間半もずっと戦闘して立っていられる分けないんだよなぁ。


 ちなみに正式名称は鬼狩り祭りである、新年に鬼を持ち越さないようにする祭りだ。新年なってからの30分間はなんとしても仕留めるために延長された歴史があるそうな。


 しかも開始早々に倒れると来年も参加なんだよな。その枠埋まるまで連携すらまともにできないという。恐ろしいシステムだ。


 ちなみに俺とかはいつ倒れても毎年参加だったぜ。10歳から参加させられたな。さすがに10歳の頃は周りは遠慮してたが、父様が開始直後から俺を狙ってきてな……ほろり。


 「早めに倒してやることが親としての優しさなのだ。とか言ってたな。いやいや、まず参加させるなよっと突っ込みつつ逃げまくったもんだ」


 「それでどうなったのです?」


 「結局1時間くらいでへばって捕まった。その間ターゲットから逸れたカイ兄が凄い喜んでた」


 カイ兄は年末にはあの祭りに参加するために戻ってきてたな。本当に可哀想だった。そんな話をしていると、


 「私には実に楽しそうな話に聞こえるな」


 アビスが姿を現した。玄関から入ってきたと言うことは、既に起きており外で体でも動かしてたのかもしれない。


 「機会があれば参加すると良い。俺が推薦するよ」


 「そうだな。なかなか難しそうだが」


 魔族だからか? 聖王国では帝国ほどでは無いが差別は少ない方だ。それでも魔族はやはり別か。なかなか難しいところだな。オーガスト領自体は、聖王国内で一番差別は少ないだろう。でも厳しいか……。まあいつか父様とカイ兄に相談してみよう。


 「まあそれは置いといて、アビスの故郷では年越しに何か行事などはあるか?」


 「いや、私の故郷では特に無かったな。あるのは新年になってから、今年でも健康で暮らせる様にと神に祈るくらいか」


 「なっらばっ! 今年はここに女神がいますから効果は絶大ですね~」


 突然アルテナが乱入してきた。アビスはまだ言ってるのかコイツみたいな眼でアルテナを見ている。それを見てフラウが、


 「私の故郷でも新年になったら奉納舞いなどありましたよ」


 常識人は気苦労が絶えんな。フラウの姿を見て俺は思う。うん? 俺がフォローすべきと? 絶対嫌だぞ。


 「俺の最近の新年は疲れて寝てたな」


 「あ~、あの見てるとちょー楽しい祭りですか? 今年参加できないのが残念ですね~」


 分かってて言っているアルテナが憎いっ!


 「取りあえず、今日やることの確認だっ」


 「え~と、アビスさんと護衛契約に明日からの出店のお手伝い。他にはオランドさんが何か用事があると聞きました。たぶんですけど出店関係だと思います。それくらいでしょうか」


 よしまずはアビスとの護衛契約だな。条件は概ね昨日考えてた。


 「ではアビスよ。護衛依頼のための内容を提示するから、質問とか修正とかあれば言うように」


 「ああ、分かった」


 基本は護衛依頼(日当大銀貨1枚)だが、訓練の相手も仕事の内に含まれる。衣食住はこちらが負担。場所はこの都市以外も行く。そちらの都合(悪魔退治)によっては途中で依頼を破棄または一時中止することが可。冒険時の報酬などは人数割り。その他いくつか細かいことを並べる。


 基本的にアビスに有利にできてるはずだ。俺からすると俺の護衛できる人材が希だからな。優遇はするさ。


 「ふむ、基本異論は無いが、条件が良すぎるな。衣食住に冒険時の報酬も貰えるならば日当はいらん。私にとっては償いの意味も込めての依頼だからな」


 良いのかよ。なにこの人カッコイイよ。


 「良いのか? まあ後で必要になったら支払うと言うことで」


 「ああ、勿論構わない。それに私にとっても強くなる機会がある。十分過ぎる待遇の良さ。文句を言う筋合いがないな」


 そんな感じで契約は終わった。良いのかよっ!


 とにかく次の明日からの出店の手伝いだ。きっと魔道具関連だろう。なので工房へ行く。行くって言ってもすぐ側なんだけどなっ。




 さて工房に着くと皆は忙しそうに仕事を行っている。ついでにアビスにここが工房で武具や魔道具を作っていると説明しておく。説明が終わったくらいで出店担当の人を見つけた。


 「呼ばれて来たが何か困ったことでも?」


 「ライルさんっ。待ってましたっ! 助けて下さい」


 担当者は俺を見つけた途端に泣きついてきた。取りあえず落ち着いてもらって話を聞く。


 子爵様から少しでも市民を労いたいから、出店増やすように言われたそうで。うん、まあ気持ちは分からんでも無いが、何故俺に振るのか。そこのところを問い詰めたくなる。


 「期待されているんですよ~。もとい恨まれて~以下略でーす」


 アルテナが好き勝手言ってやがる。でも出店の値段が安くなるようにちゃんと補助金出るんだよな。俺もあまり利益は追求せずにやってもらうように担当者にはお願いした。


 そして担当者が困っていたのは、火を管理する魔道具の不足だ。薪は暖をとるために不足気味なので魔道具でカバーする。


 一応試作に作った暖房の魔道具もあるが、大型であまり数が作れてないので普及はまだ先だ。魔石使うしなっ。まあこの都市では魔石安めだから有りだとは思う。


 フラウも<魔道具製作>スキルを覚えたので、魔道具の製作を手伝わせる。アルテナはアビスを連れて街中へ行こうとしたが、アビスは護衛のため辞退。仕方なく1人でフラフラとどこかへ出かけた。アビスは護衛しつつも力仕事などは手伝ってくれた。


 「複雑怪奇だな。私にはできそうにない」


 アビスは細かい作業は苦手らしい。代わりに力仕事は任せろとのことだった。指先自体は器用らしいが、性格的に無理とのことだった。


 逆にフラウはあまり器用な方ではない。しかし根気があるので向いているのだろう。


 さてと、明日からは新年15歳になる。この国もしくはこの世界では新年に一斉に歳をとる。例外は3歳までだ。3歳までは誕生日、場合に寄っては誕生月で祝う。それ以降は新年でまとめられる。


 そして後1年で成人の16歳だ。もう独り立ち始めてるからほとんど関係ないけどな。気分的な問題は大きい。それに色街も気軽に行けるしな。いや、ナンデモナイヨ。


 おっと、少し現実逃避していた。現実に戻ろう……山積みにされる書類。これはフラウに持って行ってほしかった。え? フラウは明日の出店の準備で無理? 今空いてるの俺だけ? アルテナって逃げたか……。


 アビス出番だぞっ! 書類から俺を護衛するのだ。さすがに無理とか言ってるけど、意外とやってみればできるものだから安心しろ。勿論逃がさないよ。






ライル「これが人が作る最強の魔物だっ!」

アビス「ただの紙じゃないか」

ライル「ほほう、ならばアビスにも退治してもらおうか」

アビス「しまった……」

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