第40話 勝負とは時に残酷なものなのだ
「3人同時でも文句は言わないぞ」
「一応、俺が悪魔を討伐したって言う証明でもあるんでね」
「ふむ、なかなかの人物と見た。我が名はアビスセイレン。貴公の名前を尋ねたい」
「ライルだっ!」
そう返事をして踏み込む。アビスの槍の迎撃が迫る。左手の短剣で槍を払うとすぐに槍を返し、反対側の石突きが飛んでくる。それを仕方無く右手の剣で受ける。なかなか攻めづらい。
確か魔族は全員に闇属性の適正があるんだっけ。ならばこの世界の仕組みから考えるに光魔法で……と考え、光弾を牽制で放つ。
「魔法かっ! しかしなっ!」
そして魔法が命中する。特に槍で迎撃するような様子も無く、魔法を受けたように見えた。しかし命中する直前に紅い盾のような物が現れている様に見えた。
光弾の余波から視界が回復する。やはり無傷の姿だった。そして周囲に紅い盾を纏わせている。その盾で魔法を防いだようだ。
(なんだこの盾は?)
光弾を防いだのだから闇魔法では無い。だからと言って光や他の属性魔法とはとても思えない。しかし魔力は感じている。そこでふと<分析>結果を思い出す。
名前:アビスセイレン
職業:冒険者 種族:魔族
年齢:120歳 性別:男
クラス:槍魔錬士
レベル:60
状態:
ボーナス ()内はBP補正/スキル補正。ユニークや固有は除く。
耐久:+960(+0/+366)=1326
魔力:+690(+0/+184)=874
体力:+530(+0/+258)=788
筋力:+340(+30/+187)=557
器用:+135(+45/+151)=331
敏捷:+190(+40/+145)=375
精神:+235(+15/+150)=400
知力:+235(+27/+131)=393
感覚:+70(+20/+108)=198
幸運:-10(+3/+0)=-7
スキル:剣LV6、短剣LV7、槍LV10、斧LV7、大剣LV6、盾LV10、大盾LV6、棒術LV10、格闘LV8、弓LV6、ハンマーLV5、メイスLV4、投擲LV8、杖LV3、防御LV10、頑強LV8、鉄壁LV5、受け流しLV8、見切りLV6、後の先LV4、先読みLV5、カウンターLV4、魔技7、体技5、身体強化(魔/体)LV6/4、魔法抵抗LV10、魔法耐性LV3、挑発LV8、扇動LV5、威圧LV7、不動LV9、剛腕LV8、戦意LV6、強打LV5、先制LV7、加速LV5、ランニングLV10、ジャンプLV9、礼儀作法LV1、乗馬LV7、指揮LV6、指導LV2、戦術LV5、経営LV3、政治LV3、鍛冶LV2、大工LV4、木工LV4、交渉LV5、計算LV6、鑑定LV3、看破LV8、気配察知LV6、危険感知LV7、魔力感知LV4、隠密LV5、隠蔽LV1、追跡LV7、探索LV8、変装LV9、偽装LV5、演技LV7、鍵開けLV3、罠LV4、待ち伏せLV2、遠見LV3、軽業LV5、スリLV4、魔物知識LV9、動植物知識LV8、薬学LV4、専門(槍)LV1、サバイバル8、調理LV4、農業LV3、酪農LV2、地図LV4、診察LV2、尋問LV6、解体LV10、耐久魔力体力回復促進LV8/8/9、瞑想LV8、集中力LV3、魔力操作LV10、属性魔法(火/土/風/闇)LV6/5/6/7、複合魔法LV1、生活魔法LV8、強化魔法LV4、耐久魔力体力強化LV6/6/8、個別耐性(毒5/麻痺5/石化5/熱2/冷気3/混乱5/睡眠3/恐怖5/呪詛3/苦痛4)。
残りスキルポイント:103
ユニークスキル:逆襲、闘気、逆境。
固有スキル:女神リステナの試練、魔壁。
称号:災いを断つ者。
この固有スキル<魔壁>が怪しいな。後コイツも女神の紐付きだったか……更に<逆襲>に<逆境>と、追い詰めたりすると危険そうだ。槍の技量も相当なものだ。まともに相手にしたくないな。
次は<体技>の瞬迅を使い踏み込む。アビスから見て右側から攻める。取りあえず槍で止めてくれると良いんだが。しかしアビスも即座に反応し<魔壁>を展開させてくる。そして<魔壁>に剣が弾かれる。甲高い音が響く。
(えらく硬いな)
しかもただ硬いだけじゃなく、剣が当たった瞬間に打点をズラされている感じがする。
アビスは剣が弾かれた隙を逃さず槍を振るう。それを短剣でなんとかいなす。
「その盾面倒だなっ」
「そちらも2刀を上手く使って逃れるなっ」
お互い喋りながらも攻防を繰り返す。
正直言うと、<真技>を使えば貫通させる自信はある。だがなあ……現状で決定打に持って行くには少し危険が伴う。主に相手に。特に悪いことしている分けでもない。
ましてや殺気が無い相手を殺すことになるのはご免被る。そうこの相手からは殺気が感じられないのだ。
しばらくして、こちらから距離を取る。
「どうしたっ。中級悪魔はその程度では倒せないぞっ! それとも嘘か?」
その言葉を聞きながら俺は<強化魔法>を自分に掛ける。あまり余裕がないぜ。
「悪魔とは相性が良くてなっ!」
そう反論して立ち向かう。接近――剣と槍が打ち合う。強化のお陰か少しだけ先ほどより前に出れる。接近すると今度は棒術のように、槍を回されると手数で押されることになるが。
更に光弾と短剣で<魔壁>を牽制しないと槍をと刃を交えることも許されない。そしてこれまでの攻防ではお互い掠り傷程度しか与えられない。これは予想だが、向こうも決め手に欠けているように思える。
もしかしたらアビス側も殺しても良いなら決め手があるのかもしれないが。
(これは……まともにやるのはシンドイな。やるか、卑怯な手を)
(うわ~。戦士としてそれはどうなんですかっ?)
(俺は魔法使いだ。魔法を使うのは当然だっ!)
よし言い訳完了。行くか。
距離を詰める。それと同時に右手の剣に<真技>を纏わす。当てないように気を付けないとな。まあ腕くらいなら斬り落としても良いか。良い感じに警戒してくれよ、そう願いながら前へ出る。
「ぬっ」
俺の黒い剣を見て只ならぬ気配を感じたのか、この戦闘で初めて下がろうとする。勿論追撃する。間に<魔壁>が張られるが、サクッと斬り裂く。アビスが驚愕する。
「それが奥の手かっ!」
(ふはははは、あれだけ強固な壁が紙のようだっ!)
(とっても悪役に見えますっ! そんな貴方に痺れないし、憧れないっ!)
アルテナはいつも何言ってるんだか。
「いえ、これが基本だったり?」
アビスは俺の剣を躱す。決して槍で受けようとはしなかった。ちっ、勘の良い奴だ。避けた先に短剣を突き出す。短剣は槍で捌く。
こちらは決して剣の間合いから逃がさない。向こうも<体技>や<魔技>を使い離れようとするが、こちらも同じ感じのを使い間合いを詰める。<加速>を使えばこちらも<加速>を使う。絶対に離れないし逃がさない。
そこでアビスはこれまで見せていなかった魔法を使ってきた。闇の剣が頭上から降り注ぐ。それを闇の盾を作りあっさり防ぐ。
「なっ!」
(この瞬間を待っていたあああああ!)
絶対その内、闇魔法を使うと思っていた。それを闇魔法で防御すると大抵の奴は動揺する。光と闇、両属性を使える人はまずいないからだ。そこを攻める。今まで当てないように剣を振るっていたのを、敢えて当てに行くように大きく踏み込む。
その刹那、アビスも踏み込んで俺の右手の部分を自分の左手で受け止める。
「ちっ」
舌打ちしながら、短剣を突き出す。僅かに身体に掠めた。向こうは近すぎて槍が使えない。このまま一方的に攻撃しようとしたら、俺とアビスの身体の間に炎が浮かぶ。
「ちょっ!」
思わず声が漏れた。その次の瞬間、炎の塊が爆発する。
「自爆覚悟かよっ」
そう毒づきながら下がる。咄嗟に距離を取りつつ、水の防壁を張ったため無傷だ。
一方アビスは……煙が晴れた先に――
「別に自爆と言う分けでは無い。私は多少熱いだけだ」
無傷で立っていた。正確には短剣や剣で付けた傷があるから無傷では無いが、ぱっと見た感じ魔法でダメージを受けた様子は無い。
「魔法を使いながら<魔壁>が張れるのか?」
「そう言うことだ。あまり使いたくはないがな」
俺の予想だと制御が難しくなるか、必要な魔力が増えるか、その両方かってところかな。
まあそれはいい。たぶん勝負が付いたと思うから。心の中でニヤリと笑みを浮かべる。
すると急にアビスが膝を付いた。力が入らないと言った感じだ。
「くっくっくっ、効きだしたか」
「ぐっ貴様一体何をしたっ」
「優れた軍師とは戦わずにして勝利を得ると言う」
「いえ、既に戦闘してますからっ!」
アルテナが突っ込んでくる。まあ言ってみたかっただけだしなっ。
「ところで何をなさったのですか?」
フラウが当然の疑問を尋ねてきた。
「いや<強化魔法>を掛けただけだが?」
「これが<強化魔法>だとっ!? 体が重く、力が入らないのだがっ」
「そりゃ、マイナスの<強化魔法>だしな」
「そんなことってできるんですか? <強化魔法>は相手が抵抗すれば掛かりませんよ?」
普通はそうなんだな。でも俺は構成を弄くったからな。接触さえしていれば強制的に掛けることができる。奴隷などの主従の契約魔法を自力で分析し、触媒を使ったり条件付けをすることで、強制的に<強化魔法>を掛けることができると言うのが分かった。
故に先ほど俺の手の部分に触れたときに仕込んでおいたのだ。ちなみに触媒は掠り傷からの血である。しかも効果時間はそれほど長くなかったりする。
今回は少し格好付けようと遅延発動させたが不発だった。悲しい。即時発動にすると発動と同時に斬りつけるの難しいからだ。結局間合いを離されたため意味が無かったが。更に悲しい。
「ふははははははは、構成を弄くるのは得意なのさっ」
開き直って高笑いをしておく。
「まるで悪役ですね~」
アルテナがそう言い、フラウが無言で頷いて同意する。俺はそれを無視しつつ語りかける。
「さてアビスくん、この状態で戦いを再開する気はあるかね?」
「すんごいドヤッ顔してますよ~、この人」
弱体化状態で能力は半減以下、しかしそうであっても降伏できないのだろう。意地で立ち上がってくる。
「逆境は慣れている。これが今回の試練という奴だな」
(腕一本くらい斬り落とすか。今の状態なら手加減することができるしな。死ななきゃ大抵治せるし)
「そんな逆境ばかりで良く心が折れないもんだ」
「折れる分けにはいかんのだ。故に、いざ参るっ……!」
能力の低下を魔力の身体強化を限界以上に使用し相殺しようとする。だが無駄だよ、そんなちゃちなものじゃない。更に<魔壁>使い突撃してくる。それを右手の剣で一刀の下斬り裂く。続いて槍による刺突を左手の短剣で捌く。そして刹那の交差。
「ぐっ」
俺が振り返るとアビスが左腕を押さえて蹲っていた。まあ斬り落としたんだが。
「俺の試練もここまでか……最後は人族の少年に敗れるとはな」
「いえ、殺すつもりは無いんですけど」
何勝手に死んだ気になってるんですかっ!
「しかし片腕では最早満足に槍を振るうこともできぬ。ならば――」
そう言ってくるので、斬り落とした左腕を拾い、アビスの傷口に当て<治癒魔法>を使う。
「ほら、これで問題ないだろう」
「そんな簡単に? くっ、一方的に襲っておいて情けを掛けられるとは……」
「魔族には色々と事情がありそうだしな。それにお前の攻撃には殺気が無かった。初めからこちらを殺す気なんて無かっただろ?」
「こちらの都合で迷惑かけるわけだからな。殺すわけにはいかんさ」
そうなのだ。この人は高潔なのだ。
「うわ~、こんな良い人をあんな卑怯な手で倒すなんて……」
「勝負とは時に残酷なものなのだ」
「あれが卑怯な手とは思わんさ。実に興味深い搦め手であった」
清々しい奴だな。俺には眩しいぜ。
(ライルも見習うべきでは?)
(うるさいよっ!)
アルテナの意見を黙らせる。
「それでアビスはこれからどうするんだ?」
アビスに当然の疑問を尋ねる。
「ふむ。悪魔を倒したのは納得できた。だが、魔族がここに居ることを本当に黙っててくれるのか? 魔族と言えば人族や他の種族の社会では、見かけたら殺せと言われているほどだぞ?」
そんなに酷いのか……俺の見る限り他の人族とかと変わらないように見えるが。
「フラウ、エルフでは魔族に対してどのように扱っている?」
「エルフは他の種族と違って寿命が長いので、魔族が悪魔によって作られ、その後離反したと言う話を正しく受け継がれています。故に魔族とは敵対よりむしろ友好的な関係を築いていますね。私の故郷では近くに魔族は住んでませんでしたが、他のエルフの里とかでは魔族の集落と交易したりしているみたいですよ」
「そうだな、私の故郷でもエルフの里と取引をしていた」
「逆に人族の歴史だと酷いもんだな」
「魔族の一部、理性の無い者を悪魔が人族にけしかけましたからね~。人族にしたら悪魔の先兵って言う印象が強いんですよ。ホントはただの被害者なのにね~」
アルテナが補足説明してくれた。こういうことは無駄に詳しいよな。
「気になっていたんだが、この者は何者なんだ?」
「気にするな。只の自称女神だ」
アルテナの代わりに俺が答えておく。アルテナの存在は気にしたら負けな気分になるしな。
「ひっどいです~。正真正銘女神ですー」
「……気にしないでおこう」
アビスがアルテナを可哀想な子を見るような眼で見ていた。アビスよ……それは正しい対応だ。もっとやれ。
「なんだかバカにされている気がします……」
「そ、そんなことは無いぞ」
アビスが少し焦ったように返す。その反応で概ね内心でどう思ってたのか分かるな。
「アルテナ、細かいことは気にするな」
ぐぬぬぬぬ。とアルテナは唸っているが放っておこう。
「さて、話を戻そう。まとめると、俺たちはアビスについて他言しない。アビスに危害は加えない。アビスは悪魔を倒されてるのは確認できた。故に俺たちにこれ以上の危害は加えない。そしてここにいる理由は無い?」
「そうだな。こうなるとまた人族の街に紛れて、次の悪魔の痕跡探しだな」
「悪魔退治をしているのか?」
「悪魔だけではないな。凶悪な魔物なども狩っている。他にも路銀を稼ぐために冒険者の仕事をしている」
普段は人の社会に紛れて生活しているようだ。案外そう言った者たちは多いのかもしれない。どこぞの女神もそうだしな。
「よく今まで正体がバレなかったな」
「今回バレたのが初めてだ。危ういことは度々あったがな。基本的に魔族の変身魔法は高度で見破りづらいからな。やばそうな相手には近づかないようにしてるのも大きいな」
「なあ、ここで提案なんだが、俺に雇われないか? 主な仕事は護衛と戦闘訓練のお手伝い。アビスは腕が良いからな。まともにやって勝てるようになりたいところだ」
「そうだな。別に旅は急いでいない。私はたぶんだが寿命は長い方だしな。それに左腕を繋いで貰った恩もある」
魔族は寿命が長いのか? たぶんとか言ってるから微妙なところなのか? 後でアルテナに聞いてみたところ、人によりかなり幅があるらしい。それでも短くて200歳は生きるらしい。長いと1000歳越えて生きてる人も居るだとか。
「いや、それ斬ったの俺だし」
「問答無用で襲いかかったのだ。斬られて放置されても文句は言えぬ。そこを治療して貰ったんだ。それは恩と言わずして何と言う」
義理人情に篤いお人なんですね。まあそんな理由でも引き受けてくれるなら俺にとってメリットだし気にしないでおくか。
「ではよろしく頼む」
「こちらこそな。私にとっても良い訓練になりそうだ」
アルテナとフラウも訓練に参加するし2対2ができるな。しばらくしたら王都にも行くし、その道中の護衛にもなる。良い買い物をした。まあ報酬はダンジョン出てから交渉だな。
話が纏まったし、キリも良いので地上に戻ることにした。アビスが倒した獲物の素材なども回収していく。自分1人じゃ一部しか持ち帰れなかったらしく感謝された。
アルテナ「格好つけてたけどもの凄く卑怯でしたねっ!」
ライル「先進的なことは、時に周囲から理解を得られないものなのだ」
アルテナ「言い訳ですね」
ライル「言い訳して何が悪いっ!」
アルテナ「あっ、開き直った」
応援やフォローありがとうございます。励みになります。
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