第39話 只のバカです

 さて6階層だ。ここの洞窟は広い! と言うことは、大型の魔物が出てくる可能性があるということだ。気を付けないと。3階層までの洞窟と違い、光る苔(?)みたいなのが天井付近にあり、周囲を朧気に照らしている。魔法の明かりでも照らしてはいるが。天井まで4、5メートルかな。横幅は7、8メートル……10メートル無いくらいだ。


 そんな洞窟を進んでいると魔物の死体が散乱している場所に出た。中には大型の魔物もいた。そして死体が残っていると言うことは3時間以内の出来事だ。そう思っていたら、その死体の影から1人の男が姿を現す。身長は高く190センチほどか、俺とクリス兄(勝手に巻き込む)の敵だなっ!


 「ふむ、変わった反応があると思えば、人族にエルフに……そしてお前は何者だ?」


 最後の台詞はアルテナを見ながら言う。この男ただ者じゃないなっ!


 「えへへ、私ですか~。私はアルテナって言います~」


 ニヤニヤ顔で言葉を紡ぐアルテナ。なんか俺の方がむかついてくる件。


 「アホテナな」


 「ちっがいますよ~。アルテナです。アルテナ」


 こんな会話で相手の混乱を誘っているのだ。いえ、ただアルテナの喋り方が妙にむかついただけです。


 「もう一度聞くが、そのアルテナとやらは一体何者だ?」


 相手が痺れをきらし再び問うてくる。短気は良くないぜ。


 「只のバカです」


 アルテナの代わりに俺が答えてやった。俺って親切だろう? きっとありがた迷惑と思われているだろうが。


 「違います~! 違いますからねっ! 本気にしないで下さいねっ!」


 アルテナも必死だ。フラウと向こう男はゲンナリしていた。


 「あの……2人とも話が進まないので少しは真面目に……」


 フラウが頭に手を当てながら言ってくる。相手の男性も同じような仕草をしていた。この2人のリンクが凄いっ! 俺はそこに驚愕する。まさかこの様な高度な心理戦を仕掛けて来ようとは……やるなっ!


 「ふう、ならば真面目に問おう。貴殿こそこんなところで何をしているのだ?」


 真面目っぽいだろ? 勿論ポーズだけだ。中身ははいつも通り……あれ? 俺って普段から真面目だよな? あれ?


 「私は冒険者だ。冒険者はダンジョンを探索して魔物を狩る。それだけだ。不思議なことでもあるまい。ここには悪魔が出現したと聞いた。それを狩りに来たのだ」


 俺を混乱させている内に説明をしてくる。しかし俺はそんなこと誤魔化されたりしない。目の前の男をしっかりと<分析>する。


 この男の容姿は白髪の髪が長く、肌は浅黒く、顔は精悍な顔立ちをしており格好いい。瞳が赤く印象的である。赤色は基本的に情熱的な色なのに、彼の眼には冷静や冷酷と言った印象が浮かんだ。カッコイイ。やはり俺の……いや男の敵だっ! 勝手にランクアップさせてみる。そしてなんで俺は男の容姿を真面目に分析しているんだっ!


 そんなことよりも重要な特徴があった。それは――


 「魔族が冒険者をね。てっきり悪魔の配下かと思ったぜ」


 その言葉を発した瞬間、空気に緊張が走る。俺の言葉を聞いてフラウが驚愕している。アルテナは平常通りだ。まあ気付いてただろうしね。


 「何故、私の正体を?」


 「少しばかり眼が良い物で」


 そうこの男は見た目が人族の魔族であった。だが身体の表面に魔力を感じる。かなり特殊な魔力だが、それで姿を変えているのだろう。たぶん。見抜いたのも<分析>使ったからに過ぎないしなっ。


 「お前も只ものじゃないと言う分けか……」


 「さあな」


 適当にはぐらかす。まあそんなことよりも、魔族ってなんだっけ? 人族の中では忌み嫌われているが、実際初めて会ったしなぁ。しかもかなり理性的な人だ。こんな人たちが嫌われる理由が分からん。


 それにさっき悪魔を狩りに来たと言っていたから、悪魔とは敵対関係か? まあ彼が嘘を付いていなければ……だが。たぶん、付いていないだろう。


 「そしてお前たちは、私が魔族と知って討伐するのか? それとも誰かに知らせるのか?」


 そんなこと聞いてきたので、フラウとアルテナに確認をする。


 「なあ魔族って、悪魔の配下だっけ?」


 「いえ、確かに魔族は悪魔に作られて配下の様に扱われてましたが、それはかなり昔のこと。むしろそれ以降は、一部を除いて敵対関係にあるくらいです」


 フラウが丁寧に答えてくれる。こういう時に常識のある人は助かる。


 「なるほど。そう言えば魔族に関しては、人族の常識としてしか知らなかったな。ならばお前は本当に悪魔を狩りに来たのか?」


 「そういうことだ」


 「残念ながら悪魔はすでに討伐されたぞ」


 「私もそう聞いている。だが中級悪魔が出たと聞いたが、地上の被害を見る限りあまりにも被害が少ない。故に討伐されたのは影か、別の何かと思い調べていたところだ」


 折角なので詳しく尋ねてみることにした。


 まず彼は街で悪魔を倒した奴に接触して、魔石を見せて貰い確認しようとした。しかし何故か街の人たちは、よそ者に誰が討伐したのか話してくれなかった。


 これは俺の予測だが、俺が治療行為を行っていたので邪魔してほしくなかったんだと思う。悪魔殺しを倒せば俺が悪魔を倒したも同然、さあ決闘だっ! って奴は少なからずいる。そういう連中の相手が嫌になり街を去られるのも、怪我されるのも周囲の人たちは嫌がったんだろうな。それで自主的に箝口令を敷いたんだろう。


 そして彼は仕方なく、まだ悪魔が居る可能性が高いと考え、ダンジョンで悪魔の痕跡を辿っていたらしい。しかし1人進むのは大変だし、一向に悪魔の痕跡は見つからない。魔物の統率も既に無い。これは本当に討伐されたのかと思い始めた頃に、よく分からない気配を持つ者が、近くに現れたとのこと。それがアルテナだった。


 「あ、アルテナ……薄々感づいてはいたんだが、お前って悪魔だったのかっ!?」


 「なんでそうなるんですかっ! もう一度ぶっ殺してあげましょうかっ!!」


 「冗談だよっ、冗談っ! 本気にするなっ!」


 アルテナも物騒なことを言っているが、今回はこちらが悪いので気にしないでおく。


 「安心しろ。悪魔でないことは私が保証しよう」


 彼が律儀に保証してくれた。真面目な性格だなぁ。やはり悪い奴には見えぬ。


 「大丈夫だ。先ほども言ったが冗談だからな」


 「そうか。ではこちらの問いだ。そのアルテナとやらは何者だ?」


 「その前にあんたに取って興味深い情報をやろう。地上に出てきた悪魔を討伐したのは俺だ」


 彼に取っては有益な情報だろう。これで穏便に帰ってくれると非常にありがたいな。ただ問題は……俺が魔石を持ってないと言うことだっ!


 「ほう、それは驚いた。確かに興味深い。しかし魔石は持っているのか? それが無いとな」


 ほらなっ! 信用されてませぬ。当然と言えば当然だ。俺は小僧と言っても良いくらいの年だしな。早く大人になりたい。


 「いや、残念ながらここには無い。証拠として国に提出した。今は王都にあるだろう」


 「ふむ、証明する手立ては無い……か。ならばっ」


 そう言い彼が槍を構えた。嫌な予感がします。とてもします。どうしましょう。


 「戦って実力を測るのか? もの凄く面倒なんですけど」


 これはもしかしてゲイツ並みの脳筋か!? 脳筋ってすぐこれだからなぁ。ホント勘弁してほしいぜ。


 「嫌なら少しの間ここで寝ていて貰おうか。元々魔族とバレたからには只で済ます分けにも行かない。少なくとも私がこの街を離れるまでは、他の者たちに知られたくない」


 そう言う分けでもなかったっ! 嬉しくないがな。後ここで寝てたら魔物に襲われると思います。何かしら対策を取るのかもしれないが、それを確認する気にはなれない。


 「他の人に言うつもりも無いんだが」


 「信用できぬ」


 「ですよねー」


 一応言ってみたが、当然信用されなかった。俺が逆の立場でも信用しないわ。仕方ないやりますか。


 「フラウ、アルテナ下がっていろ」


 そう言って剣と短剣を抜き放つ。







アルテナ「アルテナはアルテナです。それ以上でもそれ以下でもありません」

魔族の男(何言ってんだコイツ……)

ライル「アホテナは初めっからまともに会話する気が無いからなっ!」

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