第38話 幸運が下がったっ!
その後少し間を置いて再びアルテナを召喚した。さすがに頭が冷えたのか、襲いかかって来るようなことは無かった。良かった。
そして得た称号をチェックした。
<神に牙を剥く者>
称号。神へ牙を剥いた者の証。神へ攻撃を行うとき、神が展開する特殊な力場の強度を低下させる。神による特殊な状態異常に対して状態異常耐性の効果を発揮させる。筋力+5、精神+5、知力+5、幸運-5。
幸運マイナスだとっ!? しかも特殊効果もふんわりしていて実感できそうに無い。特殊な状態異常ってなんだよっ!
「アルテナに勝ったら、幸運が下がったっ!」
「あははははは、こう見えても女神様ですからっ!」
「自分で言ってて悲しくないのかっ!?」
「はい。少し悲しいです。……ゴメンなさい、強がりました。結構凹んでます」
お前の勝手な自爆とか知らんがなー。
「本当に女神様なんですね。ずっと冗談だと思ってました」
フラウも再召喚するのを見て、ようやくアルテナが女神だと理解してくれたようだ。
「フラウ、地味に傷つきます~」
アルテナはしょんぼりしている。
「フラウよ。あまり傷口に塩を塗り込むのは……もっとやってやれ」
「まていっ! なんでそうなるんですかっ! 貴方は悪魔ですかっ!?」
アルテナが突っ込んでくる。それを見てフラウは可笑しそうに笑っていた。
「さてアルテナのことは置いといて、ダンジョンに潜りたいっ」
「私としては危険なのでやめてほしいのですが」
フラウが言ってくる。勿論アルテナは……。
「楽しそうだから賛成っ!」
実にアルテナらしい。俺も賛成してくれるのを期待していたぞ。さあアルテナよフラウを倒すのだ。主に俺のために。
「アルテナさんは1人でも潜れるのでは?」
フラウよ、なんてこと言うのだっ。それはアルテナがお馬鹿だから気付かないことだと言うのに……。仕方がない奥の手を使うか。
「そうですね~。ライルは要りませんね~。ライルは地上で仕事しといて下さい。ダンジョンは私が満喫しておいてあげますので」
「アルテナを送――」
「ライルも行きたいですよねっ。一緒に行きましょうかっ!」
ふっ、奥の手と書いて脅迫と読むのだ。諸君覚えておくように。
「くっ、なんて卑劣な手を……」
フラウは苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。
「心配ならフラウもこれば良いじゃないか」
「そうです。巻き込んだもの勝ちですねっ!」
アルテナよ、黙ってろ。その後も低階層だけ。やばそうだったら、すぐに引き返すなどを言ってなんとか説得する。
護衛はむしろ邪魔なので却下した。やばくなればアルテナを盾にすれば良い。そう言うとフラウは納得した。アルテナは不満な声を上げていたが。気にしてはダメだ。
それに入ってしまえばこちらのものだしな。くっくっくっ。はっ! 誰も見てないな? 見てない? ならば良し。行くのだ。
ただ準備はしっかりしろと言われたのでその辺りはちゃんとする。元奴隷兵のダンジョン資源回収隊にもちゃんと助言を得た。俺には異空間庫がある。食料などは十分に持って行ける。
もし遭難しても大丈夫だ。とは言ったものの低階層までだから、日帰りできるし、遭難もまずないとされる。それでも油断せずに魔法薬も自分で調合し、沢山用意しておいた。何しろ更に奥に向か……いや、何でもない。
そして翌日、ダンジョンへ向かう。もう12月28日。年越し間近だ。本来ならお祝いの祭りがあるが、アラシドは復興途中である。今回は教会の周囲に少し出店がでたりするだけにとどまる予定だ。
さて初めてのダンジョンである。わくわくする。ダンジョン内は暗いので明かりを魔法で灯して進んでいく。洞窟型である。思ったよりジメジメしていない。そこまで湿度は不快ではないな。
「本来なら魔力の節約するため、魔法で明かりなんて灯さないのですが……」
フラウが何やら言っているが、明かり程度の魔力ならすぐに回復するのだ。たとえアルテナを現界させていたとしてもだ。
特に立ち止まることもなく進んで行く。途中魔物が出てきても1階層の魔物程度なら一太刀で倒せる。魔石だけ回収して死体は放置する。死体は放置しても1時間~3時間経つとダンジョンに溶けて消えてしまうのだ。思うにダンジョンが障気に戻して再利用でもしているのかな? 悪までこれは俺の推測だけどな。
ただ溶けるのは魔物の死体だけで、人の死体は残る。故に下の階層へ行くとたまに骸骨が転がっているらしい。俺たちも仲間入りしないようにしないとな。
そして呆気なく、2階への階段が見つかった。
「どんどん行きましょ~」
アルテナはご機嫌で言い放つ。フラウはそれを見て小さいため息を吐いていた。楽観主義のアルテナ、心配性のフラウと言ったところか。足して半分にすれば丁度良いかもな。
さて2階層である。出てくる魔物は少し強いゴブリンなど1階層と同じ。特に危ないトラップなどは無いと情報を得ている。階層としての広さも1階層より少し大きい程度だ。
たしか4階層から一気に広くなって、下への階段も複数設置される様になってくる。5階層より下になると日帰りが難しいとのことだった。ただ4階層に降りたところには、領軍と冒険者ギルドによって拠点が築かれている。フラウはそこまで行って帰ってくるように言っていたが。
(絶対もっと奥行きたいよなぁ)
アルテナと俺はそう思っていた。まあダンジョン内に入れたんだ。そのまま押し切ればいい。念のため連絡用の小型の念話機を持ってきているし、地上とは連絡が取れる。使えることは、既に資源回収隊に持たせて実証済みだ。
そして2階層もあっさりと突破し3階層へ行く。ここでようやくオークなど少しマシな魔物が出てきた。瞬殺されていたが……。オークの肉は食べられるので、持って帰れるか試すことにした。試すと言っても異空間庫に入れるだけだが。一応、解体したオークの一部はちゃんと持ち帰れて、皆の胃袋に入れることはできた。今回は丸々1体だが。
そして3階層も終わり、4階層へと降りる。フラウの顔を伺ってみると軽く絶望している。そうなのだ、アルテナや俺がこの程度で満足するわけ無いのだ。そのことに気付いたのだろう。それくらいあっさりと、ここまで来てしまった。
そうして4階層に降りると、そこには陣地が築かれていた。そしてダンジョン内の様子もガラリと変わっていた。さっきまでは洞窟の中と言った感じだったが、今は森の中である。太陽の光すら感じられる。どういった仕組みなのだろうか? 疑問である。
階段から降りたすぐは森が開けていて、そこに陣地を築かれている。領軍の顔見知りの兵士たちも居たので挨拶しておく。
「治癒師殿どうされたのですか?」
と聞かれたので、勿論――
「冒険にっ」
そう答えると、慌てて止めようとしてきた。なので冒険者カードを見せる。氾濫の終息と同時に功績が大きかったと、ギルドからお褒めの言葉と共にランクも上がったのだ。ちなみにこのお褒めの言葉は皆が言われてたらしい。後で気付いてショックを受けた。俺の純情を弄びやがってっ!
とにかくCランクである。一人前と言われるCランクになったのだ。まだDランクになって数ヶ月なのに。これはもの凄く早いのである。ちなみにアルテナはFランクからCランクに上がっていた。あいつを見てはいけない奴は人外だから……。
まあそう言ったが、初期から参加していて生き残った奴はみんなCランクになっていたので、探せばアルテナの様な奴もいるかもしれない。フラウも冒険者登録を行い、Cランクを貰っていた。
そう言えばフラウだが氾濫の初期の時はレベル40。大氾濫終わった後に44に、そして最近までに46となっている。俺は2ヶ月くらいで1上がっただけだ……。
名前:フラウルーシェ
職業:奴隷兼冒険者 種族:エルフ
年齢:133歳 性別:女
クラス:精霊の導き手
レベル:46
状態:
ボーナス ()内はBP補正/スキル補正。ユニークや固有は除く。
耐久:+300(+0/+140)=440
魔力:+964(+0/+238)=1202
体力:+280(+0/+206)=486
筋力:+38(+15/+67)=120
器用:+38(+8/+134)=180
敏捷:+176(+20/+127)=323
精神:+138(+20/+140)=298
知力:+296(+55/+162)=513
感覚:+145(+15/+134)=294
幸運:+20(+5/+1)=26
スキル:剣LV4、短剣LV5、槍LV3、細剣LV8、盾LV4、棒術LV4、格闘LV3、弓LV9、投擲LV5、杖LV5、防御LV7、受け流しLV6、見切りLV6、先読みLV8、魔技LV4、体技LV3、身体強化(魔/体)LV4/2、魔法抵抗LV9、挑発LV3、威圧LV3、不動LV3、戦意LV5、先制LV7、加速LV4、ランニングLV9、ジャンプLV8、礼儀作法LV3、ダンスLV1、裁縫LV6、乗馬LV5、指揮LV5、指導LV4、戦術LV3、戦略LV1、経営LV4、政治LV1、木工LV4、細工LV7、錬金術LV5、魔道具製作LV1、交渉LV6、計算LV8、鑑定LV8、看破LV6、気配察知LV7、危険感知LV6、魔力感知LV8、隠密LV4、隠蔽LV2、追跡LV4、探索LV3、変装LV6、偽装LV3、罠LV6、待ち伏せLV5、遠見LV5、軽業LV5、登攀LV4、水泳LV4、魔物知識LV7、動植物知識LV9、薬学LV8、サバイバルLV8、演奏LV5、歌唱LV5、調理LV4、農業LV2、診察LV4、尋問LV2、解体LV6、耐久魔力体力回復促進LV4/10/7、瞑想LV10、集中力LV7、魔力操作LV10、魔力圧縮LV1、属性魔法(火/水/土/風/光)LV5/8/2/8/6、複合魔法LV4、生活魔法LV10、強化魔法LV5、収納魔法LV1、耐久魔力体力強化LV4/9/5、個別耐性(毒6/麻痺3/石化3/熱4/冷気2/混乱5/睡眠4/恐怖5/呪詛3/苦痛5)。
残りスキルポイント:32
ユニークスキル:精霊の加護、瞬迅、真理の瞳。
固有スキル:女神リュリテナの契約、精霊王の守護。
称号:精霊の防人。
ハーフエルフのファニーもそうだったが、種族故に耐久や体力、筋力、器用がかなり低いな。レベル50の頃の俺でも知力は僅かに負けてる。ついでに<収納魔法>持っているんだな。容量はスキルレベルが低いから60kg程度か。十分だな。
そして肝心の兵士であるが、俺の冒険者カード見てしばらくポカーンとしてた。フラウやアルテナにも視線で確認した後、くれぐれも無理しないようにと言われた。それとこの陣地でも軽傷者がいるから、良ければ診てあげて下さいと言われた。
怪我人は快く診たが、軽傷者ばかりだったので無料で治療しておいた。ただし、困ったことがあれば助けるように交換条件は出しておいた。必殺、無償でやったんじゃないんだからねポーズ。
そして――
「さあ行こうかっ」
と言う号令を当然の如く掛ける。
「おーっ!」
アルテナは機嫌良く答える。
「話が違うじゃないですかっ!」
フラウはやはり当然の如く怒った。
「折角ここまで来たんです~。すぐに戻るなんて反対ですっ」
さあアルテナ頑張れっ。頑張ってフラウを説得するんだっ。
その後しばらく言い合ったが結局フラウが折れた。アルテナの勝利である。ただ地上の人には一度連絡して、今夜は帰らないと告げた。
そしてそのまま4階層を探検する。さすがに森の中と言うだけあって、ウッドウルフなど森林に良く出る魔物が多い。全体的にレベルも30前後もある。この辺りになると衛兵だと厳しいレベルである。初心者の冒険者なんか以ての外だな。
「お宝とか無いのかね」
「ライルはお宝のことばかり考えますね~」
「夢があるからなっ」
木が邪魔で視界が悪いので、定期的に風の魔法で周囲を探知するが一向にそういう物は無い。悲しい。ちゃんと土魔法で地下も探知はしたよ。結果は……さて進もうか。
そしてその日はそのまま進み、4階層、5階層と突破して、6階層で休むことにした。5階層も4階層と同じ森林地帯だった。そしてこの6階層は再び洞窟地帯となった。そうは言っても3階層までと比べてかなり広いが。
ダンジョンの中での野営である。まずアルテナが結界を張ります……終わり。これで魔物は近づいて来ることができなくなり、安全に休憩や睡眠が取れます。労力はアルテナさんさすがですっ! とか言って煽てるだけである。これにはフラウも呆れていた。俺にか、アルテナにか、もしくは両方にかは分からないが。
食事はオークを焼こうと思ったが、煙が出て嫌なので持ってきていた保存食を食べた。
「なんでこのサンドイッチ、新鮮なんですか?」
フラウが尤もな疑問を口にしたが、聞かなかったことにした。朝食も似たような物で済ませた。
じわじわとフォローが増えてるみたいで、ありがとうございます。それを励みにちまちま書いて行こうと思います。
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