第37話 女神アルテナ。ここに眠る。

 12月中旬に、カイ兄たちに連れて行ってもらった人たちの中には、行商予定の人や中継地点のウォンドル担当の人もいる。特に行商の人たちが次ぎアラシドに訪れたときは何かしら品を持ってくるだろう。イールヨも一緒に行っている。


 イールヨはカイ兄たちに頼んで護衛の仕方や指揮の仕方を教えて貰えるように言っておいた。それと拠点担当の人には分解した大型念話機を渡しておいた。組み立てるのは練習させたし大丈夫だろう。


 他に細工職人たちであるが、かなり順調に進んでおり<魔道具製作>を覚えた人もでてきた。商店と工房も開店し、冒険者相手に武具を売ったり加工したりして稼いでいる。アラシドは鉱脈も近くにあるので、子爵殿から安く一時的な採掘権を買って採掘した。


 その採掘で得た鉱石で装飾品を作ってもらい、それを魔道具にして売ったりと(主に練習品)、これが意外に利益が出ていたりして驚きだ。まあ細工の腕が良いんだろうけどなっ。俺の力ではない。ぐすん。


 その他に戦闘奴隷の生き残りで作った、ダンジョン資源回収隊など結成してダンジョンアタックさせたりしている。この者たちはダンジョンに潜るほか、俺の作った新製品を使ったりして感想や改善点の洗い出しなどにも協力して貰っている。


 そして毎回誰が何を使ってみるかで、真剣な眼差しでじゃんけんして決めてるのが何となくセツナイ。何度かちょっと危ないことがあっただけなのに。


 フラウは俺と主に行動を共にしている。事務作業や細工、他に俺と戦闘訓練を手伝ってもらっている。さすがに身体が鈍ってきたのだ。フラウ自身も鍛えたかったみたいで、容赦なく祖父様直伝のしごきを行った。うむ。俺の訓練では祖父様、祖母様の様には行かぬ。まだ元気に立っているしな。


 ついでだから、元戦闘奴隷の人たちも参加させたら、多くが途中で逃げやがった。お前らこんなもんじゃないんだぞっ! しかもお前たちは恵まれている。怪我して倒れても俺が治癒してすぐに復帰だ。そう言ったら残ってた奴らも逃げ出した。ドサクサに紛れてフラウまで逃げてたしな。ちょっと悲しかった。


 『いえ、当然ですから……例えば、よし今日は魔法に耐える訓練だ。今から魔法撃ち込むから耐えるんだぞって、笑顔で言われたら逃げますよ~、普通ー』


 (あれ、それは主に母様の訓練方法なのにな。……祖母様も同じあまり変わらなかったけど)


 『他にも石詰めたリュック担がせて、後ろから剣を振り回しながら追いかけてくるとか。正直、夢に出ると思いますよ~』


 結局無理のない程度で訓練はした。俺は不満だったが。


 「フラウが逃げるとは思わなかったっ」


 「いえ、あれは逃げないと死にますよね? さすがにちょっと……」


 「大丈夫、安心しろ。死にかけたら治癒するからっ」


 そう言ったら眼に涙を溜めながらボソッと、


 「ここに悪魔が居ます……」


 と言っていた。うむ。少し可愛そうかな。そう思ったけど生き残るためなので、フラウには特別メニューで訓練した。途中アルテナも復帰(現界)して手伝ってくれた。なんだかんだ言って、俺よりも酷いことをしていた。この遊び楽しいですねっ。とか言ってたしな。これのどこが女神なんだ……。


 他にも逃げた奴らには罰として森から木材切り出して運ばせた。暖を取るための薪が不足しているのだ。それを魔法で無理矢理乾燥させて使うのだ。魔法で乾燥させるのは良いが、運ぶのは手間だから罰と称してやらせたのだ。


 「いえ、別に命令されたらやりますけどね。あの自称訓練に参加するより遙かにマシなんで」


 とか言いつつ元戦闘奴隷たちは快く罰を受けてくれた。そして次からは罰を訓練にしようと誓ったのだった。覚悟しておけよ。


 それからアルテナが復帰したと言うことで俺の訓練も手伝ってもらった。ふふふふ、アルテナを殴るチャンスと思ったが……。


 「くたばれええええ! このダ女神っ!!」


 光の矢の嵐をすり抜けながら接近する。そして左腕を振りかぶり思いっきりアルテナの顔面を殴ろうとする。


 「女神バッリアー!」


 そう言った瞬間、アルテナの周囲に目に見える形で力場が発生する。そしてそこに突っ込む俺の拳。激突音がする。俺の拳ちょー痛い。


 「ふははははっ! これがある限り、ライルは私に指一本たりとも触れることができませんっ」


 「調子に乗るんじゃねぇっ!」


 そう言いつつ、下がり際に複数の魔弾を放つ。するとアルテナも同じ魔弾で魔弾を一つずつ迎撃、相殺した。バリアで防がなかったことを疑問に思う。


 「あははははっ、それ良いですよっ! シューティングゲームみたいでっ!」


 単なる好みかよっ! 心の中で突っ込む、でも余裕見せているなら付け入る隙がある。そして1つ疑問を尋ねる。勿論、光刃を飛ばしながら。


 「女神が闇魔法使って良いのかよっ!?」


 同じく光刃を光刃で相殺しながら、


 「良いんです。女神ですから~」


 意味が分からない。まあ女神故にこの世界の理など知ったことか……と言うことかな。無視している俺が言うのもなんだが。


 実際は光と闇、両方使うこと自体は理の範疇であるが、ライルは知らない。アルテナも言わないのであった。両方使うのは0ではないのだ。ただ単純に常識外れなだけであったりする。


 今度はアルテナが上から光の矢を降らせながら、下から土の槍を生やしてくる。


 (性格悪っ)


 内心でそう毒づきながら回避行動を取る。さすがに同時魔法を発動させるのは今の俺にはちょっと厳しい。練習中ではある。そして光の矢は当たるのだけ剣で払い、土の槍は水の魔法を流して打ち消した。


 「ほらほら、どんどん行っきますよっ!!」


 えらく楽しそうなアルテナの声。なんとか逃げ回りながら凌いで行く。


 その後も何度か逃げ回りながらも接近して、アルテナに斬りつけたがバリアで全て防がれた。


 「くっくっくっ、ムダッ! 無駄ですっ!」


 ちっ、調子に乗ってやがる。これは何としても一撃入れねばならない。さて、あれを試してみるか。あれで斬れなかったらもう無理だろう。


 そう決心して走り出す。アルテナは余裕の表情を崩さずに光の矢で迎撃してくる。それを光の盾を築き防ぐ。そして近接し、右手の剣を振り上げる。


 「ふふふふ、何度試しても同じことですっ。己の無力さを知りなさいっ!」


 女神の周囲にある力場に触れる瞬間、<真技>を発動させる。その剣の刃は女神の力場を抵抗も無く斬り裂き、アルテナの身体を袈裟切りに斬り裂いた。


 「ぎゃああああああ、うそおおおおおんっ!」


 「いつか言ってたあれだな。フラグ回収だっけ? お疲れ様」


 「これが……若さですか。ほろり」


 案外余裕そうだった。そうは言っても分身体のダメージの限界は突破したみたいで、アルテナの身体は魔力の粒子になり消えていく。


 ――称号<神に牙を剥く者>を得ました――


 なんか称号得た。まあそれは置いといて今は、


 「女神アルテナ。ここに眠る」


 『いえ、死んでませんからっ!』


 どこからか突っ込みがあったがやはり無視した。今はこれまでのアルテナとの旅の思い出に浸っていたい。


 『だから死んでませんって!』


 どうやら強く念じ過ぎていたようだ。


 (気にしたら負けだよ。アルテナくん)


 『ムッキー! なんかもの凄く腹が立ちます。今すぐ召喚してください。リベンジしますっ!』


 そう言われてする分けがなかった。


 「あのアルテナさんが消えちゃいましたけど、大丈夫なんですか? そんなに慌ててるようには見えませんが……」


 「大丈夫、現界状態が維持できず、神界に帰っただけだから、再び呼べば出てくる。ただ……」


 「ただ?」


 「現在、大変ご機嫌斜めなのでしばらく経ってからだな。呼び出すのは」


 「ふふふ。悔しそうにしてますか?」


 何か思うことがあるのだろう。いや、あれだけボコボコにされたら思わない方がおかしいか。


 「かなり」


 そう答えると満足そうに笑顔で、


 「それは良かったです」


 と返事をするのであった。にっこにこである。


 『くぅ、この性悪女ぁ』


 俺の脳内には悔しそうな女神の声が木霊した。






女神バッリアはこの世界のことわり内なら基本無敵です。ただ<真技>はイレギュラーなので貫通してきました。他にもイレギュラーな存在の攻撃などは通ります。ちなみに常時展開ではありません。アルテナはハッタリで常時展開と言い張りそうですが。

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