第36話 か、覚悟はできてますっ
それから数日後、11月1日火の日、工房の地下室にて細工職人の人たちに技術を教える。昨日までに奴隷の主従契約を更新しておいた。そして何故かフラウも奴隷継続となった。
「私も<細工>のスキルを持ってますし、魔法も使えます。後は……分かりますよね?」
要するに<魔道具製作>の上をいくつもりらしい。フラウにはかなり詳しいことまで話したしな。それでも少しでも責任を減らせないか、ジャブを放っておく。
「完全な主従となったら俺の命令は断れないんだぞ。ヒトとしてそれで良いのか?」
すると、顔と耳を真っ赤にして、
「か、覚悟はできてますっ」
「まあ冗談だが」
そう言うと怒った感じで、書類の束を丸めてポコポコと俺を叩いてきた。正直全く
痛くない。むしろ面白いから心ゆくまでやらせておいた。
なのに終わったら終わったらで怒ってた。放置したのは良くなかったらしい。そんなこともあったが、新たな主従契約を結んだのだった。
さて指導は地下室でひっそり、ゆっくりと始めていくことにする。悪いことしてる分けじゃ無いぜ。メンバーはフラウを含めて5人だ。人族の男性、ドワーフの男性、人族の女性、獣人の女性にフラウだ。
この中でフラウを除くと人族の女性が僅かに魔法の素質がある……かもしれない。使えても単一属性だろう。後は本人のやる気と訓練次第だな。
それとオランドに地下室の家具とかも作ってもらわないとな。他にも従業員や職人たちが寝泊まりする場所、宿舎も作らねばならない。幸い空き地は多いのですぐ近くに場所は確保できた。資金もあるが物資が足りん。
特に建築に使う木材が無い分けで、アルテナやフラウを連れてたまに近くの森へ行く。木を切り出して乾燥させる作業も手伝った。一瞬で木を乾燥できるとは魔法は偉大だ。
木こりも喜んで木を切ってくれた。まあ一番大喜びしてたのは領の役人の人だったけどなっ。木こりの人も怪我をしても、その場で復活することができたのは良かっただろう……たぶん。怪我しても休めないって絶望はしてないよな? 大丈夫だよな?
商会の方の準備も順調に進む。奴隷の中に元商人が居たので彼に任せることにする。名前はウィーリットと言ったが、少々騙されやすいみたいな話を聞いたので補佐を2人付けた。彼らは主にディレンバで活動して貰うことになるだろう。他にも王都要員と中継地点のウォンドル要員を育成中である。
そんなある日アルテナが、
「ちょっと仕事が溜まってきたので、しばらく神界で集中して仕事します。一応こっちの身体を動かしながらもやってるんですけど~。ちょっとね……」
「遊んでしまうと?」
「そ、そんなことナイデスヨ?」
魔物を狩るのがストレス発散に良いらしく、よくどこかで狩りしてると聞く。
「そういうことですから、しばらく大人しくしていて下さい」
いや、最近大人しくしてるけどな。アルテナの方が狩りしたり危ない行為してるような……。きっとこれを言うと必死に否定してくるんだろうな。
「まあ分かった。気を付けるから、さっさと仕事してこい」
「私が帰っても、またちゃんと呼んで下さいねっ!」
以前は召喚されるのあれほど嫌がってたのにな。変われば変わるものだな。
「はいはい、いってらっしゃい」
そう言うとアルテナは、名残惜しそうに一時神界へ帰るのだった。その後フラウにアルテナさんどこか行ったんですか? と聞かれたから、
「一時的に神界に帰った」
と正直に言うと眼をパチリと開いて、何言ってんだコイツって感じで見られた。悲しい。
「じんかい? ってどこです?」
取りあえず上を指さしておいた。フラウはアルテナのことに関して、全て他言無用の命令をしてあるのでバラしても構わない。アルテナも話すことを推奨していた。でも説明が面倒で……放置気味である。
フラウ上を見上げて、首を傾げて……分からなかったらしく考え込む、そして諦めた。
「まあ居なくても問題が無いなら良いです」
「それより重要なことがある」
俺は遂に気になってたこと言うことにした。
「なんですか?」
「敬語やめにしない?」
そう敬語である。固いのである。丁寧な口調でもアルテナみたいにアホっぽ……もとい抜けてる感じなら良いんだが。
「無理です」
即答されたっ。ならばっ!
「くっくっくっ、良いのかな~そんなこと言っちゃってっ」
「な、何をするつもりですかっ?」
動揺した、動揺したっ! 俺には必殺スキルがある。
「主が命じる、俺に対して敬語を禁止するっ!」
「なっ! なんて命令してるのっ!? しまっ!」
フラウは咄嗟に声を荒げ、そして自分の口を自分で塞いだ。おー、新鮮だ。それにしても「命令」って意外と細かい指示できるんだな。
奴隷とかの主従関係を魔法的に縛る魔法を契約魔法とか言われているが、所詮は強化魔法の領域だ。なので一度掛けてるのを見た際、その後自分でアレンジして掛け直したのだ。相手が抵抗する気が無いなら、特殊な専門知識の無い俺でも容易に作り替えれた。
実はこの作り替えた契約魔法はかなり弄くられて、非常に強固になっているのだが。ライル本人はよく分かっていない。
そんなこと考えていると、フラウが口を手で押さえながら、むーむー唸っている。少し可愛い。ただ、少々怒っている感じするのでこれくらいで退いておくか。
「先ほどの命令を解除する」
「ライル様……いつか覚えておいて下さい」
うん。解除するのは少し遅かったようだ。え? 命令した時点でもう手遅れ? そんなことないはずだ。
「あーでももう少し砕けて話して良いから。アルテナみたいにアホ……げふんげふん。緩く喋ってくれるとありがたいぞ」
『だぁれぇがアホですかっ!!』
俺には何も聞こえない。聞こえていない。これは幻聴、空耳、何しろ実際聞こえてない分けだしな。よし言い訳完了。
「はぁ、まあ努力してみます」
そうして今日もアラシドの復興と自分の商会の立ち上げを頑張っていく。ダンジョン内は相変わらず魔物で一杯らしいが。安全第一に切り替わったため重傷者はかなり減った。
まあダンジョンの奥で重傷を負うと帰って来れないだけだろうなっ! 良いのか悪いのかは俺には分からん。ただ1つ言えることは俺の仕事が減ったことは良いということだ。
更に時は流れる。2ヶ月弱ほど、12月末になった。寒い! 急に真冬になった。11月の中旬辺りで急に気温が下がってきた。それでも復興は止まらない。
そして遂に12月の中旬に今回の魔物の大氾濫の終息宣言が成された。まだダンジョン奥地はあれだったが、行ける人が少ないので妥協した。それに氾濫状態で年を跨ぎたくなかったのもある。
それに伴い、援軍で来てくれた各領の領軍は自身の領地に戻ることとなった。勿論カイ兄もそうである。なのでディレンバに配置する人たちを連れて行って貰うことにする。
「カイ兄、彼らのことをよろしくお願いします」
「任せとけ、祖父様と祖母様にも説明しておく、彼らのことは心配しなくて良い」
さすがカイ兄頼りになるっ。
「後、アイナ
「それも大丈夫だろう。アイナ自身軽度だが<治癒魔法>使えるしな。ライルほどではないが」
そう実はアイナ義姉さんが懐妊していたのである。その子が男の子で3歳の誕生日を無事に迎えることができたら、オーガスト家の当主がカイ兄になる。そして父様はディレンバの代官に、祖父様は晴れて隠居することができる。
ちなみにこんなルールがあるのはオーガスト家だけである。オーガスト家は当主が領地を離れられないので、王宮などでの式典などは全て先代当主が出席する。役割がハッキリと分かれているのだ。軍事は当主が、外交は先代当主が、内務は弟もしくは叔父が、と言った感じである。外交も叔父や弟が担当することが多いが。
逆に武が苦手な長男だったりすると、役割が逆になり次男以降が当主になったりもしている。
とにかくオーガスト家事情は置いといて、カイ兄は<治癒魔法>過信気味なので釘を刺しておこう。
「<治癒魔法>は体力の回復とかできませんし、あまり絶対視しないように。それと落ち着いたら見に行きますので」
「ああ、その辺りは弁えている。ポンポン治すのはお前くらいだ。それと甥や姪なんだ早めに見に来いよ。一番可愛い時期を見逃すと損だぞ」
そんなこと誰に……と思ったら俺を見てたのかね。主にエーシャ姉に遊ばれてたが、その経験故だろうか。自分が見逃したと。まあいいや。その後も他愛のない会話が続く。そして時間になる。
「それではお気を付けて」
「ああ、また会おう。次は叙爵している可能性が高そうだな。恐ろしい弟だ」
そう言って笑顔で別れた。くれぐれも気を付けて帰ってほしい。
現在5章書いてますが、じわじわ追いつかれてます。やばいっす。
それと6章以降はなんにも考えていなくてピンチです。
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