第35話 アルテナ商会にしましょう

 私はどうしましょうか。前にも考えましたが家族や一族を救うことは無理です。現状、神教国という国が無くならない限り無理でしょう。それに無事かどうか、どこにいるか分からないのを探し出すことはとても難しいです。それも複数人。


 そうなると悪いですけど、自分のことを考えましょう。現状不満に思うことは? 衣食住に不満なし、命の危険も無くなった。この人に付いて行くか? それも有りですね心惹かれる部分もあります。


 それに人族の一生にエルフが付き合ったとしても、それほど影響は無い。私たちの一生は500年から600年、人族の一生は長くて80年、私の今の歳は130歳ほど。全然問題は無い。後は信頼できるかですが、少々変なところはありますが問題無いと思います。


 この前も私が色街の商売女性と間違われて、男の人に言い寄られていたときに助けてくれましたし。でもその後、彼の振り分けられている部屋へ連れて行かれて少し落胆したら。「ここ使って良いし。俺はほとんど使わないから」と言って部屋を貸してくれました。聞けば、いつ重傷者が運び込まれても良いように、治癒院の奥で寝ているそうです。


 奴隷の寝床は男女は分かれているとはいえ、雑魚寝状態で良い環境とは言えませんでした。それに色街に近かったことも有り、言い寄られることも多かったです。私は娼婦ではないと言うのに、余裕ができた途端これです。なのでこの申し出は正直ありがたかったです。


 それに彼はこの国の貴族の子弟らしく軍などから厚遇されていました。部屋が用意されていたのもその所為でしょう。もしくは<治癒魔法>が使える故に厚遇されているのかもしれませんが、どちらでも構わないでしょう。傍目から見れば私はその人の所有物なので変に絡まれることも無くなりました。


 そして彼の付き人にアルテナさんと言う方がいます。彼女は私から見てもとても綺麗な方です。彼とは姉と弟みたいな感じはありますけどね。彼女ですがなんか凄い人です。あの私を助けた光の矢を撃った人でもあります。更にいつの間にか居て、いつの間にか消える。とても神出鬼没な方です。


 それとなんだか私を警戒しているようにも見えます。私は何もしてないと思うのですが……。


 しばらくして、余裕ができてくると彼が悩み始めます。理由を尋ねたところ、私たちの今後についてでした。治療費のお陰でお金には困っていないらしく、全員解放するとのことでした。


 「解放して、はいそれで終わり……だと皆が困るだろう?」


 「そうですね。行き場のない人は多そうですから……」


 私自身もそうです。それで彼を悩ませてしまうのは本意ではありませんが。


 「元手もあるし商会でも開こうか。オランドは鍛冶できるし戦闘のできる人も多い。アラシドのダンジョンで手に入れた、魔物の部位などを加工して他の都市で売る。オーガスト領で食料を買い付けてここで売る。嗜好品や価値の高い物は王都で売るのも良いな」


 「上手く行くでしょうか?」


 「簡単には行かないだろうな。問題も山積みだしな」


 「問題ですか? どのような?」


 「まず統括者がいない。管理する者な。仕入れや販路などが定まっていない。既存の既得権益などを侵すと争いになったりするしな。他にも俺の負担が多すぎて、俺の目的が果たせない。俺は色んな土地へ行ってみたいしな。故に理想は軌道にさえ乗れば、俺の手を離れられることだ」


 なるほど特に彼にとって最後の部分が大きいのでしょうね。他人に丸投げしたいオーラが出ています。しかし、仕入れや販路には少し心当たりがあります。同じように解放される奴隷の中に元商人の人がいました。


 しかも知人に騙されて借金漬けになった人が。本人は少し話しましたが優秀そうな方でした。主に物資の管理を任されていましたし。その方を紹介してみましょう。


 さすがに奴隷と言っても、非戦闘員も結構居ますからね。と言いますか、戦闘員は亡くなる方が多かったので、それなりに強くて運の良い人しか生き残っていません。


 後は遅れてきた補充の奴隷兵くらいでしょうか。補充された方は彼の奴隷では無いらしいので関係ありませんしね。私に言い寄ってくるのも、その人たちばかりでした。初期から居た人たちは私が魔法使いと知っているのもありますが。


 そんな感じで空き時間に私が他の奴隷たちと折衝をしています。そんな感じで日々を過ごしていると、彼が困って助けを呼んでました。


 「商会名が思いつかん。アルテナなんか良いのない?」


 商会を立ち上げる書類に必要らしいです。当然ですね。


 「ではアルテナ商会にしましょう」


 「却下だ」


 即答されました。アルテナさんも不満そうです。なので理由を尋ねてみたら、アルテナと言う名前は女神アルテナにあやかって名付けたみたいです。


 故にアルテナ商会にすると、神への冒涜と捉えられる可能性があるということでしょう。


 「その名前だと、あくどい商売がやりにくい」


 少し私が思った理由とは違うみたいでした。


 「フラウは何か良いのないか?」


 突然話題が振られました。困った私は自分の名前の後半を上げてしまします。


 「ル、ルーシェ商会とか?」


 ポツリと呟くように言ってしまいます。


 「ふむ、ルーシェ商会か。それでいいや」


 半ば冗談であったのに採用されてしまいました。今になって恥ずかしくなってきました。考え直して貰おうと口を開き掛けり途中で彼と眼が合います。ニヤッと楽しそうな笑みを浮かべてました。


 あ~、これは今から何を言っても変えてくれないでしょう。何故、私はあんなことを口走ったのか……私は馬鹿です。少し前に戻って自分を殴りたい……。


 そして今、奴隷についての報告をと彼を探したところ、商会の店舗兼工房の場所にいました。オランドたちと何やらやってます。


 ……あっさりと地下室を作ってました。私は土魔法の才能はあまりないので驚きです。一段落したのか私に用件を聞いてきます。


 そして先日ポツリと言っていた、奴隷を買うか発言について報告しました。私は細工職人となっても良い奴隷の方を尋ねていたのです。その人の故郷は災害と魔物によって放棄され、その逃げる途中に盗賊に捕まって売られたそうです。


 特に帰る場所もなく家族もいない。ただ村で細工職人をしていたので指先は器用とのことでした。他にも数人似たような人たとが居ました。ドワーフで神教国で奴隷落ちになった人もいました。あの国はおかしい国です。……少し話が逸れましたね。


 さてそんな話をしたらイールヨが奴隷のままで良い言い。それにオランドも同意するようなこと言いました。特にオランドは意外でした。しかし彼はそれを受け入れず、責任者にする、もとい押しつけようと考えたのでしょう。だんだん私にも彼の思考が分かってきました。


 そんな話題の中で私は……どうしましょうか。人の一生に付き合っても些細なことだというのを言い訳に、従って良いのでしょうか? 自分でも分かりません。どうすれば良いのでしょうか? きっと私は付いて行く理由がほしいです。




 この時アルテナは遠くからこの光景を見ていた。そしてアルテナは読心が使える。ライル相手にはなんらかの方法で防がれているが、他の人には有効である。


 一応ライルの近くにいる人には悪意が無いか、読心するようにしているのだ。オランドもイールヨもライルに対しては尊敬や感謝の気持ちがほとんどだった。だが、このエルフの女は違う。


 (はぁ、そんな役回りですね)


 内心、アルテナはため息を吐く。そしてライルに念話を通すことにした。




 フラウはどうするのか、そう考えていると、突然アルテナから念話がくる。


 (ライル、フラウは連れて行くべきだと思います)


 いつもと違って真面目な感じがする。いつもはユルイ感じがするしな。


 (ん? なんでだ?)


 (私の勘です)


 うん。真面目なのは冗談だったようだ。


 (冗談じゃないですよ?)


 (な、何故考えていることがっ!?)


 まさか読心か? いやそれはちゃんと防げているはずだ。


 (それくらい貴方の行動パターンを読めば分かります)


 な、なんだとっ! すげーショックな事実を告げられた気分だ。例えば、今まで話していた相手がアルテナだと思ったら祖母様だった、みたいな? 意味分からん。意味分からんわっ!? うん、たぶんきっともしかすると俺は動揺しているのかもしれない。


 (なに動揺してるんですかっ! 良いですか、フラウは優秀です。更に自分の身は自分で守れるほど強いです。最後に彼女は貴方を決して裏切りませんっ! 分かりましたか? 分かったなら、さあすぐに確保です)


 アルテナに動揺を悟られるとは一生の不覚。そしてアルテナの言い分もよく分かった。ならば――


 「フラウは俺に付いてきてくれないか?」


 何か言わされた感があるけど、まあいいか。いいよね?


 そして俺の言葉を聞いたフラウは顔を少し赤くして、


 「はい、付いて行きます」


 と答えてくれたのだった。


 その後は更に地下室を拡張していく。その様子を後ろで見ているフラウが何故かルンルンだった。もしかして、付いてきたかったのかな? だろうな。俺には分からなかったが、アルテナにひっそりと感謝しておくか。







残念、アルテナ商会にはならなかったようです。これぞタイトル詐欺っ!?

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