第4章 アイストル子爵領、復興編

第34話 また俺の記憶を奪う気かっ

 そろそろアラシド離れることも考慮しつつ、奴隷たちの今後の事も考えねばならない。それと共にアイストル卿に治療費を請求したら顔が引き攣ってた。おまけして金貨6000枚だったんだけど。


 一応今回の魔物の氾濫で取れた魔石の多くは子爵領の物だ。それを他の土地で売っているから結構お金はできるのだ。なので分割払いで、と言えば安心して大丈夫だ。そして現在アラシドにいる奴隷のほとんどは俺のものとなっていた。先の大氾濫時に居た者はな。総勢生き残ったのは350人ほどか?


 その人達には氾濫終息宣言が行われるまでの間は、都市アラシドの復興をお願いした。戦闘の方はもう冒険者と軍隊で十分との事だ。


 それよりも奴隷の人たちで帰る場所のある人たちは良いが、無い人たちには居場所や仕事を提供せねばならない。帰る場所のある人たちは50人ほどしかいなく、ほとんどがドワーフのオランドみたいに、解放を喜んだ後「しまった、帰る場所がなかった」と言った感じである。


 なので俺が商会を開いてオランドたちを雇うことにした。元手はあるし。アイストル領なら税金免除だしな。それとカイ兄と祖父様に頼んでディレンバにも拠点を作ってもらうことにした。


 オーガスト領軍の兵士を無料で治療したので、お安いご用とカイ兄は引き受けてくれた。税金も10年くらい免除してくれるらしい。ぐへへへへ。終息すればカイ兄に奴隷(その頃には元奴隷)を預けて連れて帰ってもらう。


 後はこれから王都に行くので、奴隷を何人か連れて行ってそこでも拠点を築こう。後は領都ウォンドルに小さい拠点を作って、3つの拠点の繋ぎをしてもらうか。


 商会名何にしようか……困った。アルテナに尋ねたら、アルテナ商会を押してきたが、女神の名前なので却下した。次はフラウに尋ねてみる。そしたら顔を少し赤くしながらルーシェ商会と言ってきた。可愛い奴である。特に問題のある名前ではなかったのでそのまま採用する。


 現在フラウは俺の補佐として色々付いて回ってもらっている。オランドは鍛冶施設称して工房ができ次第そこぬしとなる。今はその工房作りを行っている。


 イールヨは主に力仕事の手伝いだ。商会ができたら、商隊の護衛をしてもらう。他にも知識やスキル持ちを<分析>で探り出し、仕事を割り当てていった。俺の手を離れて軌道に乗れば、後は上前をはねるだけで……ぐふふふふ。


 そんな夢を見ているが、簡単なことではないだろう。だが俺は皆を信じるっ(他人任せ)。それでもうちの商会の売りがほしいな。付与魔剣か……俺にしか作れない。


 ならば人材を育成するか……それこそ秘密厳守のため奴隷を買って。初めから<細工>ができる人を買えば育成はまだ楽だ。魔法が使えなくても<魔道具製作>で作れる様にダウングレードさせれば良い。


 どうせダウングレードしたのしか売れないから問題無い。有るとすればダウングレード版の作り方だろう。


 「ふむ、奴隷を買うか」


 「え、何故です?」


 ポツリと声に出してしまったため、フラウが尋ねてくる。


 「う~ん、まあ秘匿性とかを考慮するとな?」


 そして考えていたことを説明する。


 「それだったら奴隷解放しなかったらいいのに……」


 理由を聞いてフラウはそんな感想を言った。まあそうなんだけどねっ。一度約束したのを反故にすることはできないし。それに一緒に戦った仲間たちだしな。


 「ほら、戦友だし」


 「それでは希望者を募ってみますか?」


 「解放を望まない奴とかいるのかよ……」


 実際にはいるにはいるらしい。良い主人に出会えた奴隷で、解放されても食べていくの困る場合などは、奴隷のままの身分で主人に仕えることもあるらしい。


 「まあ考えておくわ」


 そうだな。そして次ぎ、ディレンバは祖父様じいさま祖母様ばあさまに任せれば良いが、ここアラシドとウォンドルのことは考えないとな。主に統括者を。


 (アルテナー。アルテナの風魔法でどれくらいの距離の人と話ができる?)


 困ったときのアルテナである。


 (え~と。天候などにも寄りますが10キロは届きますね~)


 (ちっ、王都からここやディレンバは無理か)


 王都から指示できればと思ったが無理だったか。


 (そんな距離無理に決まってるじゃないですか~)


 (念話では?)


 (使える相手が限定的過ぎます~。それで良いならたぶんですけど届きます?)


 何故疑問系、まあ本人も試したことないのだろう。


 (じゃあそんな感じの魔道具は無いの? ちょうどそこにダンジョンあるし落ちてないかな?)


 (あるにはありますが、かなりレアな物ですし、見つかっても番の内の片方のみとかが多くて、意味無いのが落ちですよ~)


 それ、見つけたとき一番精神的に堪えるだろうな。


 (ふぅ、なかなか上手くは行かないな)


 (別に見つけなくても、ライルなら自分で作れば良いじゃないですか~)


 アルテナが爆弾を落とした。


 (マジで? 作れるの?)


 (あの付与を使えば作れますよ~。何言ってるんですか? あっ……今の忘れて貰ってもいいです?)


 なんかアルテナの言葉の後半が震えている様に聞こえた。きっと気のせいだろう。


 (いや、無理でしょ)


 (そこをなんとかっ! 思いっきり頭を叩いたら記憶とか飛びませんかねっ!?)


 アルテナ様がご乱心だー。いつも少し頭おかしかったけど、遂に完全にイカレてしまったっ!


 (また俺の記憶を奪う気かっ!)


 (そうですっ。1度失ってるから、2度も同じじゃないですかっ!)


 (ちげええええええ)


 絶対に違うと思います。はい。そしてその後、ご乱心されたアルテナが襲撃してきて逃げ回るのだった。フラウお前は無理するな。


 最終的に人気の無いところでアルテナを送還するのだった。まったく面倒を掛ける奴だ。まあ追いかけっこもなかなか楽しかったが。そうニヤリと笑うのだった。良い情報くれたしな。



 さてアルテナも落ち着いたため、再召喚し開発を進める。魔石はたっぷりあるから大丈夫だ。ちなみに基本的にダンジョン産の魔石は密度濃い。故に価値が高い。同じゴブリンからの魔石でもダンジョン産とそれ以外では値段が10倍ほど差がある。ただダンジョン内のゴブリンはその分少し強いが。


 取りあえず小型で目立たない指輪で作ってみた。いくつか設定した指輪と念話できる指輪だそれを見てアルテナが、


 「(うわー、超オーバーテクノロジーです。これはやばい何とかしてこのサイズの拡散は防がないと)」


 と小声でブツブツと言う。いや、さすがにこのサイズのを広めると戦争や防諜などが変わりすぎる。むしろ暗殺されそうで怖いから。


 (売るとしたら馬鹿でかくて移動が困難にするし、暗号化やセキュリティも考える。そして高く売るから安心せよ)


 (ホントですか~? お願いしますよ~)


 女神にも色々あって大変なんだな。


 まあアルテナの協力もあってこれで離れたところとも連絡がとれる。統括者の問題のハードルはかなり下げられた。


 「さて次は工房と商店の状態を見るか」


 そう言って南門寄りの大通りへ行く。その一角ではオランドとイールヨが建物の中で何かを作っていた。表通りに面している商店の方は外観はほぼ完成している。中はスカスカだが。裏にある工房の方は外もまだ作りかけだ。故に中の様子が見えるんだが。


 「うん? どうしたんだ? 主殿あるじどの


 イールヨが俺に気付いて話しかけてくる。俺の呼び方は色々と悩んだ挙げ句に主殿となった。敬語は変になるからやめるように言った。


 「進捗具合を見にね。最近は怪我人が減って自由に動けるから」


 「なるほど、オランドっ! 主殿が見に来たぞっ!」


 イールヨがオランドを呼ぶ。


 「いや、作業の手は止めなくて良いからっ! 勝手に見るから」


 そう言って遠慮無く中に入る。中にはオランドもおり、何やら小物を作っていた。


 「今木材が無くなってしもうて、切れ端などで作れる物を作っておるのじゃ」


 そう説明してくれた。ちょうど床板をまだ張っていなかったので、魔法で地下室を作ることを告げる。


 「ほほう。主殿は器用じゃの。土魔法でそんなこともできるのかの」


 商店の方も一部床板はまだだ。そこにも地下室の入り口を作っておこう。そうと決まれば実行あるのみ。オランドやイールヨ、それにいつの間にか来ていたフラウが見守る中、穴を掘って穴の周囲を固めていく。取りあえず一部屋作った時点で、


 「フラウ何か用事があったのでは?」


 そう尋ねてみる。


 「この前の奴隷の件のお話で、こちらで何人か尋ねてみましたら、色よい返事が聞けたので報告をと」


 「奴隷ってなんのことじゃ?」


 オランドが疑問を投げかけてきたので、ついでに説明する。


 「なるほど秘匿性のためなら納得できる話じゃ。鍛冶技術も同じじゃ。秘匿性には十分気を付けておる」


 「この場合、俺の持っている技術を教えるが、他の誰にも教えるな。と言う契約でもしようと思ってな。それ以外は一般の人と同じ生活をして貰う予定だ。ただ解放は絶望的だが。相手がそれを了承した場合のみの契約だな」


 基本的に聖王国の借金奴隷の法では給金を計上し、自分を買い戻す金額になったら解放すると言う取り決めがあるからな。もちろん騙して非常に安く設定し、長く使うことは可能と言えば可能だが。バレると拙い。


 ちなみに犯罪奴隷は主に国や領主に管理される。個人に管理させると、凶悪犯を逃がしたりしかねないからだ。まあ当然だが。


 「俺たちはどうするよ? 俺は主殿の奴隷なら別にいいぜ。正直、命を助けて貰ったようなもんだしな」


 イールヨがそう言ってくる。


 「気にすることはない。いや、大いに気にして商隊の護衛に貢献してくれ」


 それ聞いてイールヨは「任せろ」と笑った。


 「儂は鍛冶の技術を持っている。それについてはどうするのじゃ?」


 「俺の技術じゃないなら個人の自由だ」


 「ふむ、そういうもんかの」


 奴隷は主人の物、奴隷の技術も主人の物。そう考えているのかもしれない。


 「それにオランドにこの工房の責任者になってほしいからなっ」


 ニヤッと笑いながら言ってみる。


 「そこまで腕を買われると、断れんのじゃ」


 実際、オランドの鍛冶の腕は領都サルファの鍛冶屋より上だった。さすが鍛冶LV10だ。何故、戦闘奴隷扱いになってたのか疑問である。まあ神教国では亜人の評価が異常に低いからな。その辺りが理由だろうな。


 さてフラウはどうするのだろうか? 彼女は何考えてるのかイマイチ分からん。家族、一族を助けたいとは思っているようだ。同時にそれは叶わぬこととも冷静に判断もしているようだ。フラウは優秀だしできれば手元に置きたいが……うーん、まあ彼女の選択によるかな。






アルテナ「ぶっちゃけオーバーテクノロジーがどれだけ広まろうと私は知ったことじゃないんですが……」

ライル「ある人が怖いと?」

アルテナ「そうなんですっ! フォルテナ様がちょー怖いんです~(涙)」

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