第32話 邪魔をしたのは貴様か

 何を間違えたのだろうか。我は思う……故に我有り。


 おっとうっかり現実逃避をしてしまった。ここに来て我の火矢に寄る作戦は、思いも寄らぬ結果となっていた。始め順調だった、人共が阿鼻叫喚の姿で右往左往する様が見られた。


 しかし時間が経つと状況に変化が現れた。燃えすぎたのだ。街が。家が。それは正しく大きな松明であった。綺麗だった。……そうではなく、大きすぎたのが拙かった。


 こちらの夜に紛れていた骸骨弓兵たちが明かりに晒されることとなったのだ。更には火矢の種火もある所為か、それとも余裕が無くなった所為か、それは分からぬが。敵が一直線に打って出てきた。骸骨弓兵たちは接近されると無力だ。すぐに後方に控えていた別装備の骸骨隊をフォローに回すが全然抑えられなかった。


 そしてそれを行っている連中の中には、いつもは後方でふんぞり返っている豪奢な鎧を着た奴もおった。と言うかコイツが先陣を切って攻めて来たのだ。お前指揮官だろう? っと我も突っ込みたくなるほどの戦技であった。人族も余裕が無いことは分かっている。


 ならば――ここで決めるべきと我は判断した。勇気ある敵の指揮官への手向けでもある。余力の温存はなしだ。総力を持ってお答えしよう。幸い、街が良い感じで燃えているのもあり、温存していた飛行型の魔物も出せるだろう。本来より幾分視界は悪いだろうが。問題無い。更に大きな火を焚いてやれば良いのだ。


 そして我も出ようぞ。我が秘蔵の魔法部隊と共にな。奴らに絶望をくれてやろう。ふははははははははっゲホッゲホッ。無理してまで笑うものではないな。気を取り直して……。


 「行くぞっ! 我が配下達よっ! 悪魔に勝利をっ!」




 (げっ、げげげげげ)


 (げろげろ~?)


 俺は思わず絶句した。アルテナなアホな発言を気にしないほどだ。


 (ダンジョンから飛行型の魔物が沢山……このタイミングでかよっ)


 ついでに他の地上型の魔物も吹き出る様に出てきたが、今はそれより飛行型だ。


 (あ~ホントですね~。でもなんでこのタイミングで?)


 (知るかっ!)


 すぐに迎撃できるほど弓兵が現在いない。火消しに回ったり、近接武器を持って前線に出たりしているからだ。そして易々と飛行型の魔物は都市の上に行き、足からある物を落とす。それは落下すると盛大な音を立てて爆発した。


 (おー、航空爆撃ですよ! 航空爆撃っ! 敵さんもなかなかやりますねっ!)


 何故か興奮しているアルテナは放っておいて迎撃に専念する。


 「このままやらせるかっ!」


 風の乱気流を空中に作り出し、飛行を妨害する……が乱気流に飲まれた拍子に足で掴んでいた爆発物が落下する。


 (ぎゃーす)


 俺は自分の近くに落ちてくるのは魔弾で迎撃し、空中で爆発させた。しかし遠くに落ちたのは地面で爆発し、周囲にいた魔物と兵士が吹き飛ぶ。す、すまねぇ。


 (何やってるんですかっ!)


 そう言ってアルテナが光の矢で降らせて飛行型の魔物を落とす……が、やはりそのまま魔物の死体と共に爆発物が落ちていき、地上が地獄絵図となる。


 (お前こそ何やってるんだっ!)


 (不可抗力です。気にしてはダメですっ)


 (いや、気にするからっ!)


 そしてこれの対処には悩むな。下手に倒しても地上に被害が出る。そうこう考えている間にも街の至る所で爆炎と煙が立ち上ってきている。亀自体は今し方、討伐を終えていた。


 (アルテナ、爆発物ごと倒すことは?)


 (もうちょっと視界が良ければ楽々できるんですけどね~。現状だと半分は落ちると思いますよ?)


 放っておいてもどこかに落とされるんだ。それも止むなしか。


 (じゃあ頼むわ。代わりに前線の支援しなくて良いから)


 (はい。まあ気を付けて下さいね~。特に頭上には)


 怖いこと言うなよ、と内心思いながら前を向く。


 そして禍々しい気を持つ奴が現れた。




 「なんだあれはっ!?」


 兵士達が声を上げた。私もそれを見る。なんと禍々しい気を放つモノなのか……。私の背筋に悪寒が走った。


 「あれは魔族かっ!?」


 誰かがそう叫ぶ。


 「くっくっくっ、あんな半端モノと一緒にされたくないのである」


 そう言い、周囲に纏う禍々しい気を晴らす。その先に見えた姿は――全身が黒く、背中には大きいコウモリの様な翼、口には牙が生え、頭には角が、そして目は禍々しく赤く光っている。


 「これは――悪魔だ」


 私の口からポツリと言葉が零れた。


 「そこの人族よ、当たりである。我は中級悪魔ザフィーと言うのである。以後お見知りおきを」


 ここに来て最大の強敵か。だが退くわけには行かぬ。今も街は炎に晒されている。コイツを倒せば魔物は退くに違いない。故にっ!


 「我、このアイストル領領主、ラオスール=アイル=アイストル。いざその首貰い受けんっ!」


 そう言って飛び掛かる――が、空中に逃げられ魔法が放たれた。


 「ぐふっ」


 魔法を受け血を吐くことになった。咄嗟に左籠手に取り付けられている、小型の盾を間に挟んだが……これである。威力が大きい。


 「当主様っ!!」


 そう叫びながら周囲の領兵達も立ち向かうが、今度は別方向から魔法のが降り注いだ。


 「ここに来て魔法部隊だとっ!?」


 魔法の飛んできた先を睨む。睨んだ先には杖を構えた骸骨兵やオーク、ゴブリンなど様々な種類の魔法を使う魔物がいた。ご丁寧に魔法兵の前には大盾を持ったトロールが護衛している。


 万事休すか、そう思った瞬間――そこに一迅の風が舞う。その風……いや、その者は気がついたらトロールたちの内側に進入しており、魔法兵を次々と倒していく。さすがは師の孫なだけはある。その者、カイ殿のお陰で敵が混乱に陥った。このチャンスを逃すことはできないっ!


 「全軍突撃っ! カイ殿に続けぇっ!」


 自分が号令を掛けている間に、もう一迅の風が数人の仲間を引き連れてカイ殿と逆側から敵を殲滅していく。そちらの風も見覚えがあった。カイ殿の弟君である。


 (本当にオーガスト家は怖い。こんなのがゴロゴロしているからなっ!)


 「行かせぬっ」


 悪魔がこちらに向かって攻撃魔法を放つ。私は構わず走り抜けることを優先する。所劇が襲うことを身構えるが、悪魔の放った魔法は途中で黒い結界に阻まれて防がれる。


 「なっ!」


 悪魔が動揺していた。それを気にせず私は敵の魔法兵に突撃する。間に他の魔物もいるが通るのに邪魔な奴のみをなぎ払う。


 「走れっ! 走れえええ!」


 そう言いながら自分も必死に走った。そうしてなんとか乱戦に持ち込むことができるのだった。




 少しだけ時は戻る。俺は途方に暮れた感じでアルテナに語りかける。


 (あのー、悪魔が出てきてるんだけどー)


 (知りません)


 アルテナが素っ気なく返してくる。助ける気は無さそうだ。ならばやるしかない。


 (まあそっちも忙しいだろうし、こっちはこっちで何とかしますか)


 (そうして下さいっ)


 本当に忙しそうだ。仕方無いっと言おうと思ったら、なんか魔法兵がウヨウヨ出てきた。さすがにどうするかと考えているところに、都合良くオランドたちが近くにいるのが見えた。


 「オランド、イールヨ、フラウ共に来いっ」


 「「「はいっ」」」


 3人を連れて、右側から回り込む様に接近する。


 俺の予想だと逆側からカイ兄が突撃する。それでそっちに気が逸れたらこっちからだ。それで本隊が接近するための援護になるだろう。接近して乱戦になれば魔法による被害も減るだろう。……たぶんねっ! お願いだから期待を裏切らないでくれよ。


 そしてすぐに反対側から戦いの音が聞こえた。


 「こっちも行くぞ、死ぬなよっ!」


 返事を待つことなく突撃する。トロールなど硬めの敵は俺が屠る様にした。ドワーフのオランドは足が遅いが、そんなに急いでいないので気にしない。所詮は陽動だ。っと考えていると、悪魔が本体に魔法攻撃を行おうとする。


 (させるかよっ)


 そう心中で呟きながら、こちらも闇魔法で壁を作る。かなり後出しで、しかも構成や強度も脆いにも関わらずだが、敵の闇魔法を防ぐことができた。これが闇属性同士の反発という奴か。ちなみに光属性同士でも同様のことが起きる。


 なんか驚いて動きが止まってくれて更にラッキーだ。と、思ったら凄い形相してこっちにキター。あっ、場所分かるのね。


 「邪魔をしたのは貴様かああああ」


 恐ろしいまでの憎悪に染まった声を上げて手に出した黒い刃で攻撃してくる。それをこっちも剣で受け流しつつ、<分析>を行う。



名前:ザフィー

レベル:不明

種別:悪魔

状態:健康

耐久:2500/2500

魔力:2800/3000

体力:1150/1200

筋力:450

器用:350

敏捷:370

精神:290

知力:600

感覚:270

幸運:-10

スキル:召喚魔法LV5、属性魔法(闇10火5水4土4風6)、四属性耐性LV8、剣LV8など詳細は割愛、一部不明。

説明:中級悪魔の1人。魔物の指揮が得意。何故かダンジョンに召喚された。理由は本人も不明である。



 色々不明だが耐久高かったり、魔法戦が強かったりするのは分かった。そして剣を両手に出して二刀流で攻めて来た。ならばこっちもと剣を左手に出し二刀流で相手をする。


 (ふはははは、どうだっ。2本の剣、両方に<体技>を発動させているんだぞっ!)


 (なんかライルの方が悪役に見えます……)


 アルテナの妄言は気にしない。碧色の光を纏いつつ斬り合いをする。向こうの黒い刃とぶつかっては火花が散った。


 「貴様何者だっ!」


 「ライルって言うが何か?」


 「名前を聞いてるんじゃないっ!!」


 そう叫びつつ怒りが乗った剣を振り下ろす。


 「名前じゃなきゃなんなんだっ!?」


 それをそよ風の如く受け流し、質問と一緒に刃を返す。悪魔はそれを後退することで回避する。そして魔法――魔弾を放ってくる。


 「うぜぇ」


 そう言いつつ同じ魔弾で相殺する。更に続けて光魔法の光刃を放つ。


 「ぐぅ」


 悪魔は魔法で防ごうとしたが叶わず、身体に傷が付いた。そしてその事実に驚愕していた。何故か隙を見せてくれたので、そのまま畳み掛ける。


 (出でよ、真・草カリバー改っ!)


 心の中でそう叫び、<真技>を右手の剣に発動させ斬りかかる。悪魔はそれを左手の黒い剣をもって受けようとしたが、受けた先から削り取られていく。


 「何故っ!?」


 そのまま剣ごと左腕を斬り落とした。すぐに痛みに耐えながら後ろに下がりつつ魔法で牽制してくるが、それを左手の剣で防ぎつつ。


 (弾道補正よーし、発射っ)


 そう言ってそのまま右手の剣を悪魔に向かって投げつける。さすがに虚を突かれたのか、悪魔は左にサイドステップして回避しようとするが、剣はサイドステップした方向に曲がった。


 (そっちにステップするのは読んでいたっ)


 実はステップした後に剣を操作して曲げただけだったりする。


 最後の抵抗と右手に持っていた剣で斬り払おうとしたが、悪魔の剣がライルの剣に触れた部分から削れていく。なんとか僅かに軌道を逸らすことができ、胴体ではなく右肩に突き刺さった。


 「ぐおっ」


 悪魔から呻き声が漏れる。そこに光弾を複数見舞う。殺意有りまくりであった。


 (うわ~、悪魔より悪魔やってる人がいる……)


 戯言たわごとは無視するに限る。光弾は命中したが手応えは無い。更に追撃しようと踏み込むと、周囲にありったけの魔法を撃ちまくってこちらの接近を阻止しようとしてくる。こちらも味方を見捨てることはできないので闇の防御魔法を使い防ぐ。


 土煙の向こうから満身創痍の悪魔の姿が現れる。


 「そなたに斬られた腕がどういう分けか再生せぬ。どうしてだ?」


 「いや、俺に聞かれてもわからん」


 再生できるんかい。あぶねー。こえー。マッドベアの恐怖再びっ! になるところだった。周囲に味方も魔物もいない。邪魔されない。殺るなら今だな。


 「そうか……何故光魔法と闇魔法を同時に使える? 他にも先ほど黒い波動の剣はなんだ? など聞きたいことは色々あるが……」


 「教える気は無いぞ」


 「で、あろうな……」


 悪魔はどこか諦めた様子で言ってきた。そして決心ができたのか。


 「では最後に死合しおうてもらおうか」


 そう言い、負傷した右腕で剣を構える。俺も左手の剣を右手に持ち替えて挑む。


 「行くぞライルとやらっ!」


 殺気が膨れ上がる。悪魔は全身に魔力を纏う。身体が耐えられないのか、ブチブチと筋肉の千切れる音が聞こえた。


 「来な悪魔ザフィーとやら」


 「ぬおおおおおお!」


 雄叫びを上げて突っ込んでくる。豪速の刃が迫る。相討ち覚悟。それに付き合うつもりは無いっ!


 右手の剣が閃き、<真技>を発動させる。更に追加で<魔技>と<体技>を同時発動させる。そして2人の影が交差し、折れた剣の先が舞い地面に刺さる。後には――


 「なかなか良い死合いだった」


 そう言って悪魔は塵と消えた。最後に残ったのは大きく濃い魔石のみであった。


 ――称号<悪魔殺し>を得ました――






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る