第31話 考え方が邪悪です

 暗いダンジョンの奥に我はいる。この禍々しい障気の溜まり場に我は召喚された。それも数年前からだがな。


 我は中級悪魔、名をザフィーと言う。ダンジョンに召喚されたのか、ダンジョンに入ってきた誰かに召喚されたのかは分からない。特に契約や目的も無い。だが外に出たい我はそう思った。故に我はそれを目的とした。


 しかし外に出ようとすると人族の街が邪魔だ。ダンジョンの魔物が遠くに行けないように、結界もしくは封印の様なものまである。


 そして我は悪魔だ、魔物を操る事ができる。それでやることは決まった。


 魔物を配下として人族の街を壊そうと侵攻する。だが準備不足なのもあって、街は壊滅させたが封印は壊せなかった。人族の兵士は次から次へと沸いて出てきた。仕方ない次は完全に壊せるようにと少し準備をすることにした。


 そしてしばらくの間は準備に明け暮れた。ようやく準備が整い、今がその時と思い侵攻を開始した。しかしだ、もう半月は攻めているのに未だ都市にすら届かない。予定ではとっくに壊滅しているはずだった。


 奥の手であるタートルカノンも万全の体制で22匹を投入した。そしたら使い捨ての強力な魔道具か何かで10匹が倒された。これは予想外だ。


 更に3年前も大暴れしていた神出鬼没の槍士に4匹倒された。他は人族の魔法や特攻を受けて残り4匹まで減らされた。さすがにそこで力尽きたようだが。4匹だけでは壁を破壊するのも遅々として進まない。


 結局街の城壁は無傷で撤退した。タートルカノンの疲労のためだ。その間も定期的に魔物に襲撃させて人族たちを精神的にも肉体的にも追い詰めた。


 しかし時間を掛けすぎた。人族に大規模な援軍が到着してしまった。このままでは逆にこちらに攻められる。そうなると困る。


 故に援軍の到着した深夜に骸骨弓兵を並べて侵攻した。深夜であれば視界が悪く人たちは打って出ることが叶わぬはず。本来であればこちらのアンデッド騎兵が蹴散らしてくれたのだが……。


 なんだか妙に神々しい女にほとんどを駆逐された。あいつとは相性が悪そうだなんとしても直接対決は避けるべきだ。


 それでも敵の騎兵もこの暗闇の中では出てこれない。問題ない。タートルカノンも新たに3匹用意できた。これで奴らの城を崩してやろうぞ。倒しても倒しても沸いてくる人族たちに目にもの見せてくれようぞ。


 そう……意気込んでいたのだが、まさかあの使い捨ての魔道具がまだあるとは……しかしそれも4発撃った時点で弾切れのようだった。


 なんとしても残る3匹のタートルカノンを守るように命令するが、あの神々しい女め……奴が炎で1匹を丸呑みにしよった。さすがに連続での使用はできないようだが、残る2匹なんとしても死守して、壁を崩さねば。骸骨騎士などもどんどん盾に出す。ここが正念場である。


 我々も人族も必死だ。こちらも夜のため使えぬ魔物がいる。特に最後まで取っておいた飛行型の魔物なんかがそうだ。これは都市を落とす際の機動力として必要だったから温存しておいた。


 他にアンデッドと言えばゾンビだが……足の遅い魔物では役に立たないし、奴らよく燃えるしの、松明代わりにされてしまう。なにか良い手は無いものか。敵の士気も援軍の所為で回復しておる。厄介だ。


 そうかこちらも火矢を使えば……敵の士気を落とせるではないか。ぐへへへへ。我は天才かもしれない。


 そう考えた悪魔は、都市に籠もる人たちにとって最悪の作戦を実行に移すのだった。




 (テントはよく燃えるなぁ)


 感心した様に胸中で呟くと言っても、


 (何感心してるんですかっ!)


 約1名には聞こえていたが。こんなやりとりをしている間も火は広がり、兵士その他の人たちは火消しにてんやわんやだ。


 (まさかこの手で来るとは……考えてない分けじゃなかったが)


 俺とアルテナは火矢その物を防いでいるため、火消しには回れない。他の魔法使いに任せている。そして魔法攻撃が無くなると亀を倒すのは不可能となる。結果、時間が経つにつれ3層防壁の各所が崩れ始めた。


 そしてこの都市、近くに質のよい森林があるため多くの建物の多くは木造である。アルテナがよく立っていたあの教会も木造である。


 (あー、私のお気に入りの場所も燃えてます~)


 アルテナは少し残念そうだ。


 石材はほとんど壁に使われているので仕方無いのである。故にこの都市の南部はよく燃えた。それはもう馬鹿でかい松明の如く。


 そしてそれは敵の軍団への道を照らしていた。更には目標となる場所には、火矢の種火も配置されている。ならば――。


 「兵たちよっ! 火消しに残る者以外は打って出よっ!」


 「皆よおおおお! 我に続けっ!!!」


 将軍の号令の後に続く声はなんと子爵様の声だった。門を開け放ち、自ら先陣を切って打って出たのである。


 (自分の死で責任取ろうって分けじゃ無いよなっ!?)


 そう言いながらも、雄叫びを上げながら走る子爵を魔法や弓を使って援護する。そして俺自身も防壁の下に降りた。


 アルテナは残って全力で防御に回る。救護所などは心配だが、今は火の根本を断つことに集中する。


 スケルトンの弓兵に接敵すると大した抵抗も無く倒していける。後ろに居たスケルトンナイト? やスケルトンウォーリアが前に出てくるが、苦もなく殲滅できる。このまま押せるかと周囲を見渡す。周りも無事にスケルトンに接敵でき、戦闘を開始している。


 (敵を殲滅じゃー)


 (考え方が邪悪です)


 さて本丸の亀は……と1匹はオーガスト領軍が攻め込んでるな。もう1匹は子爵率いる領軍か。子爵の援護でもするか。そう考えて俺は子爵の方へ足を向けた。




 私はラオスール=アイル=アイストル。アイストル子爵家現当主である。私の収める領は知っての通りダンジョンがある。


 そしてここ数年、いや正確には3年前の魔物の大氾濫からだ、領地の経営が上手くいっていない。本来なら資源を産み出す資源都市で資源を消費しているのだから分かるだろう。そこまで大氾濫で都市部が破壊されたのは痛かった。


 それでもここ3年でかなり破壊前の状態近くまで復興できてきていたというのに……今回の大氾濫である。私は自分の不幸を呪った。


 そして自分の軍事に関する才能の無さにも呪った。我が師も私には指揮官は合わないと仰っていた。私には一兵士としての戦いの方が合うと。その時は多少の反感もあったが、今となればぐぅの音もでない。


 よって国軍が来た時、私はすぐに指揮権をお譲りした。私も自分の限界がきていたことに気付いていた。そして将軍の演説を聴き、これは自分ではマネできないそう悟った。


 ならば私がやることは1つである。ただの一兵士として、この都市をこの領地を守ることだ。


 先日は成人もしていない小僧にやり込められた私だが、戦働きで負ける分けにはいかんのだ。たとえそれが我が師の孫だったとしてもだっ。


 さあ行くぞっ。私はこの場を死地と定めた。生きている限り前に進もうぞっ。息子よ後は任せた。カイ殿よ手紙を我が師に届けてくれ。そうすれば後のことは大丈夫であろう。


 手紙には師に息子を鍛えてくれと頼んである。あの方のことだ。弟子の最後の頼みなら快く引き受けてくれるだろう。


 ふと師の修行の光景を思い浮かべ、息子にはなんてこと頼むんだと文句を言われそうだと思った。だが私も経験してきたことだ。諦めてもらおう。


 そして敵はここに来て最大の愚を犯した。宵闇に紛れられては手が出せなかったが、今は都市が燃えている。それはまるで私の心中を現した様だ。私の怒りをなっ!


 雄叫びを上げつつ骸骨共に接近する。そして両手で持つ斧を横になぎ払った。多くの骨共が粉々になった。続々と出てくる骸骨共次から次へと屠る。目標の亀の前まで多くの骸骨共がひしめき合っていた。


 それでも一歩また一歩と歩を進める。そうしている内に領軍の仲間たちも駆けつけてくれていた。


 「当主様っ、前に出すぎですっ!」


 「ふはははは、貴殿らが遅いのだろうっ!」


 笑いながら返す。そう、きっと師ならどんな苦境でも笑いながら戦っていることだろう。奥方との戦いは除いてだが。斧を振り回す。もう亀の直衛のオーガのところまで来た。


 「さあ亀よ、その首貰い受けるぞっ!」





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