第30話 私この人嫌いです
「来たぞおおおおお! 国軍が来たぞおおおお!」
一瞬敵襲かと思ったじゃないか。そうか間に合ったか。少しホッとする。
将軍が国軍を引き連れて来たらしい。今、臨時指揮所にて現状説明を行っているらしい。もう1つ嬉しいことが補給物資も一杯きたことだ。特に矢が嬉しい。治癒師も1人従軍してきた。さすが国軍。土魔法使いもいる。やったねっ! 士気も一気に上がった。
そして指揮所から出てきたカイ兄に現状を尋ねると、指揮官がアイストル卿から将軍殿に代わるらしい。将軍がこれまで状況から判断して子爵には荷が重いと感じたそうな。子爵も疲れが溜まっていたのかあっさり指揮権を譲った。
まあ軽く絶望した表情をしていたからな。それに子爵の場合、指揮官ではなくても意見を言うことができる。将軍の立場的にも子爵を無下にはできない。
(アルテナ、やったぞっ! 子爵様が指揮官から降りたっ!)
俺はあまりの嬉しさに、はしゃいでアルテナに報告するのだった。
(よく納得しましたね~。むしろもう降りたかったのかもしれません……か)
まあ疲れたんだろうな。精神的にも肉体的にも。
精神的なダメージに一役買ったことをライル自身は忘れていたが。
(指揮官ってのは大変だなぁ。俺には無理だわ)
(ライルの前世は1人で大軍潰してたらしいですよ)
(マジか、すげーな俺。覚えてないけど)
(あはははは……)
アルテナが余計なこと言ってしまった、っと言う感じで乾いた笑い声をあげていた。
その後軍議が行われ、方針が決定した。次の敵の侵攻を受けたらそれを防衛、その後ダンジョンに逆侵攻を掛けることにした。カウンター作戦だな。そしてこれまでの状況から考えて統率するモノがいるはず。それを討つことが目的だ。
「諸君、よく我々が駆けつけるまで耐えてくれた! よくこの苦難に耐え続けてくれた! だがそれも次ぎで終わりにする。次ぎの侵攻があったとき、逆にこちらから仕掛け、敵の中心を叩く! それさえ成ればこの氾濫は終わったも同然だっ! 皆、我々に力を貸してくれ! あと少しだ! あと少しの辛抱なんだっ! 我々の勝利のためにっ!!」
将軍が演説を行い士気を高める。うん、子爵にはできぬことだな。
(さて、相手の指揮官はどうするかね?)
(私がこの状況を見ているなら、ダンジョン内に誘い込むか……数に自信があるならば)
(野戦か。できれば自分たちにとって有利な夜に)
(夜に数頼みのアンデッド軍団とか最低ですね)
アンデッドは夜の方が少し強くなる。この前のアンデッド騎兵隊だって夜だと1割から2割増しで強くなる。そう思うと大きな差である。
(後はまだ魔法攻撃をしてきた魔物がいない。絶対温存してるよな)
(ですかね~? そこまでは私は分かりませんが……居たら嫌ですね~)
現在俺は弓に魔法付与をやり直している。取りあえず多めに弾数は確保したい。他にも奴隷兵たちに決して死なないように念を押しておいた。死ななかったら治してやるからと。それと奴隷兵の指揮はドワーフの男性オランド、狼獣人の男性イールヨ、エルフの女性フラウルーシェの3人に任せた。
「他の人たちのことは任せるけど、無理するなよ。死なないこと第一だからな」
「分かりました。死にそうになったら後退しする」
イールヨが無理して敬語を使って返してくる。
「儂も再び夢を叶えるまでは死ねぬ」
オランド、彼の夢は最高の武具を鍛えることと言ってたな。
「私たちは大丈夫ですが、お二人は大丈夫ですか? 誰か付けてなくても?」
心配したように言ってくるフラウルーシェ。
(私この人嫌いです)
アルテナがそう呟く。彼女には女神リュリテナと繋がりがあるそうだ。そしてアルテナはそのリュリテナのことが嫌いらしい。だからと言って、加護を授かっているだけで嫌うなよと。
「気持ちだけ受け取っておくよ。それに人手が必要になったら、こっちから呼びに行くから」
「分かりました」
後は細部の確認を済ませて解散した。
そしてカイ兄とも話しておく。
「随分とうちの兵が世話になったな」
「俺は……私は今でもオーガスト家の一員ですから。身内みたいなものですよ」
「ならば言葉使いもそれ相応にならないとな」
「こりゃ一本取られたな」
そう言って2人で笑いあった。
「まだ何かあると思う。だからくれぐれも油断するなよ。そして生き残れよ」
「カイ兄こそ絶対に死なないように。アイナ
「言うようになったじゃないか」
そう言い合い、お互いそれぞれの持ち場に戻った。
(青春ですね~)
(アルテナには眩しいか)
(私にもこんな時代が……)
(あったのか? 女神なのに)
(ありませんでしたね~。そう考えれば寂しい人生もとい神生。もう少し桃色の出来事とかあっても良いと思うんですけどね~。ありませんね~)
1人黄昏れるアルテナ。この場はそっとしておくことにした。
そして10月15日夜、16日に日付が変わろうとしている時だった。ダンジョンのある南側からガシャガシャと喧しい音が聞こえる。その音のお陰で奇襲はされなかったが、その音源を見て皆言葉を無くす。
それは骸骨――スケルトンの集団、数え切れないほどの数、地面が見えないほどである。まあ多くの人は夜で元々見えないだろうが。
(暗視魔法を使って損した気分になるとは……)
(私なんか元々見えるんですけど……)
そしてスケルトン達は一斉に弓を構えて射撃してくる。今度はこちらに矢の雨が降り注いだ。
「全員落ち着けっ! 物陰に隠れつつ応戦っ! 盾隊前に出て皆を守れっ! 弓兵隊は火矢の準備をしろっ。敵陣を明るくするんだっ!」
将軍が声を振り上げて指揮をする。
それを聞きつつ俺とアルテナは風の魔法を使い、矢の勢いを減らし無害化させる。それでも範囲に限りがあるため、2人は分かれて行動する。
(アルテナ風魔法を使いながら光魔法は?)
(できますけどー。ちょっと面倒ですね~)
(やれるならやれっ)
不満そうな声で返事があったが無視する。俺は俺で弓を射るがスケルトンは鈍器や衝撃に弱い傾向にあるが、こと突きや刺しに関しては異常に強い。<魔技>や<体技>を使えば仕留められるが……。数がなぁ。多くの一般兵では使えないと言う問題もある。
(将軍は打って出るか? しかし普通に出たのでは対策がされていそうだ)
(夜なので騎兵隊が出せませんしね。距離を詰める間に結構射られますし、足元が暗くて見えませんし、打って出るのは無理じゃないかと)
(夜であること自体が対策だったか)
そう言っている間にも、アルテナは光の矢を降らせ敵を溶かすように倒している。俺も<体技>を使い1体1体丁寧に倒していく。俺の周囲やアルテナの周囲は矢の雨から安全なので、自然と人が集まり纏まって反撃を開始できている。
一方、風の守りが無い人達は、次々と矢が当たり負傷して後退していく。うちの奴隷兵たちはフラウルーシェが守っているみたいだ。少し安心。
火矢も放っているが、火が付くものが無いのかすぐに消えてしまっている。骸骨だしな。これは将軍も計算外かもな。しかもこの骸骨たち少しずつ近づいて来ている。
それでもこちらの投石の届かない50メートルほどで立ち止まった。そして後ろから鈍重そうな足音も聞こえてくる。
(亀キター)
(来ちゃいましたね~。数は3匹増えて7匹来ましたよ)
ふむ、直し終えた弓の数は6つ念のため2本は置いておくか。
(こっちで4匹仕留める。閃光弾お願い)
(了解です~)
その返事と同時に亀の上に明かりが灯り闇から引き離す。そして弓を構え集中する。もう慣れたものだ。一瞬で<真技>を発動させ番えた矢を解き放つ。
その矢はやはり亀の前にいたオーガごと亀を貫通した。
歓声が上がる。が、すぐに亀の砲撃が開始された。
(次ぎっ)
また亀の上に明かりが灯る。そこに向けて、黒い軌跡を放つ。それを後2度ほど繰り返し、俺の役目は終わった。まだ3匹残っているため砲撃は続き壁が削られ始める。狙われてるのは塞いだ穴のところだ。正直脆い。
「さっきの攻撃をした者っ! もう撃てんのかっ!?」
将軍の声が聞こえる。返すの面倒だなっと思っていると、それを察してくれたのか近くにいる兵士が、
「弾切れですっ!」
っと返してくれた。
「1匹ずつ魔法で集中砲火して倒せっ!」
それを聞いて即座に命令を出した。他の魔法使いたちが集中砲火し亀を倒そうとするが、スケルトンやオーガが邪魔でなかなか本命に届かない。アルテナもスケルトンに光の矢を降らせるが、後ろから続々と足される。更に後ろから足されるスケルトンは盾を持っていた。
(向こうも必死だなっ。案外余裕無いのかもなっ)
(そうですね~。亀はなんとしても守りたいみたいですね~)
俺も魔法で援護したいが敵の矢が鬱陶しくて無理だ。するとアルテナが光の魔法から火の魔法に切り替えて、スケルトンごと亀を炎の中に飲み込んだ。
(ふぃー。ちょっとイラッしたのでやっちゃいました)
亀は炎に焼かれてこんがりとした姿で現れた。丸焼けだな。美味いのかな? ちょっと気になるが後だ。残り2匹だ。
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