第28話 悪い人じゃないけど性格が……
別れた後はやることをやっていく。馬の治療、今回はコイツらに助けてたもらったから治してやりたいが……。
馬の体の構造とかはよく分からないから、馬の世話をする人に尋ねたりして治療していく。それでも馬の被害は人より多かった。半数ほどになったらしい。これでは昨日のような突破力はもう出せないだろう。残念だ。
とにかく馬の治療は終わり、次は防壁の修復だ。アルテナが先に行って手伝っていた。
「お待たせしました」
「おう、坊主か。治癒魔法も使えて大忙しらしいな」
現場監督の人が苦笑いで言ってくる。どこも人手不足だね。
「そうですね。大変でした」
「ご苦労なことだと労ってやりたいところだが、こっちも急いでてな。早速で悪いが作業に取りかかってくれ」
現状2層防壁は半壊、1層は粉々であった。昨日は魔物の死体やら何やらで全く仕事にならなかったらしい。午前もその処理の続きで、午後からようやく修復に掛かれるとのこと。
「2層防壁は前回と同じように?」
「そうだな……今回は余裕があれば後で2層前にも堀を掘ろう」
「そうですね。魔物の死体で大変な事になりましたしね。堀あればそこに落とせますし」
昨日の戦闘時に魔法で死体を吹き飛ばしてたしね。あれは面倒だった。
「そう言うこった、って坊主オメェ戦闘に参加したらしいじゃないかっ! あれほど参加するなって言ったのに……」
やべっ、何故知ってるって結構色々やったかな? 目立つこと……したかもな。
「おやっさん彼は戦闘でも大活躍でしたぜ」
領軍の人が弁護してくれた。彼は3層防壁の上から魔法で攻撃していたらしい。オーガを燃やそうとしたのも彼だった。弓も射っていたらしい。弓兵兼魔法使いと言うのは多い。両方遠距離攻撃だしね。ただ矢が嵩張るのでそれを敬遠する人はいる。
「そうなのか? 見かけによらねぇもんだ、だが絶対に無理はするなよっ! まだ若いんだからこんなとこで死ぬな」
善意で心配してくれているようなので、あっさり頷いておいた。まあ治癒魔法使えることを思い出されると、更に口うるさく言われそうだ。さっさと仕事に移ろう。
アルテナと別れて俺たちは端からやっていく。今回はどういう心変わりか、アルテナも土の硬化をしてくれるみたいだ。
(どういう風の吹き回しだ?)
(いえ、私の予想だと近いうちにまた侵攻が開始されそうなので急いでいるだけです。時間に余裕があれば手伝いません)
ちょっと真面目な感じでアルテナが答えてきた。申し訳ないが似合わないです。
(似合わねー)
(どどど、どういう意味ですかっっ!?)
何故か動揺しているアルテナ。一応聞いてみる。
(なんで動揺しているんだ?)
(動揺しているじゃありませんっ。怒っているんですっ!)
ホントかよ……。まあいいや、今は仕事仕事。アルテナの言う通りならすぐに侵攻がくるだろう。今は早く防壁を築かなければ次は突破される。
最後に治癒院の方へ向かう。治癒院は応急処置済みの人たちで体力の戻っていない人が運ばれる。まあ入りきらなくて、外で寝かされている人の方が多いくらいだが。
俺が行くのは昨日の経過観察が必要な人たちが送られているからだ。特に足や手を接合した2人とエルフの女性は気になっていた。戦友だしな。
「手足の方は違和感は無いか?」
「おう、あんちゃん。足の方は問題ねぇ。本当にありがとう」
「儂の方も感謝しとる。片腕だと職人として終わってしまうからの」
獣人の男性、ドワーフの男性それぞれ感謝を示してくる。後ついでに言っておく。
「そう言えば子爵様が治療費を出し渋ったから、この氾濫が終わったら俺の奴隷になるわ。不本意かもしれんが」
「そ、そうなのか。俺たちは犯罪奴隷扱いだからな。自由には慣れんよな」
「うむ、そのことについては諦めておる。それに借金奴隷だとしても自分を買い戻さねばならぬ」
「いや、違法奴隷ならどういう罪で奴隷になったかが記録にあれば、それがこの国において犯罪で無いなら借金奴隷になるぞ。それから俺は戦友と思ってるから解放するつもりだぞ。お金には困ってないし、旅をするのに奴隷100人越えとか必要ない」
「本当か? 儂は職人に戻れるのか? それは感謝してもしきれねぇ」
ドワーフの男性に非常に感謝された。ちなみに彼の罪はドワーフであることであったらしい。神教国は亜人を認めてないからなぁ。ちゃんと記録にも残っていると言う。ならば解放できると言うと泣きながら感謝された。それよりもだ。
「絶対に生き残れよ」
「おうよ、あんちゃんも絶対に死ぬなっ!」
そう言い合って別れた。
もう1人のエルフの女性にも挨拶をしておいた。経過は問題無く体力が回復したら、すぐに動けるようになるとのことだった。ただ奴隷の件を伝えると、少し悲しそうな顔をしていた。聞いてみると、解放されても行く宛がないらしい。
そう言うことも考えねばならないようだ。子爵め面倒事押しつけよって……。まあ一番簡単な方法は奴隷を奴隷商人に売るってことだが、さすがに戦友を売る気にはなれない。それは他150人近くがそうだ。うん、大変そうだ。無理そうだったらカイ兄に相談しよう。
私の名前はフラウルーシェ、エルフです。現在は私の故郷はありません。ゼグウェー神教国に侵略されました。そして彼らは亜人は人でないという教義の宗教を信じている人たちです。よって私たちは皆奴隷に落とされました。家族もみんなバラバラに今どこにいるのか生きているのかも分かりません。
そして私はこの国、リールフォン聖王国に売られてきました。正直この国に売られて良かったと思います。私は犯罪奴隷扱いでしたが、この国では違法奴隷として扱って頂けます。ただ、時期が悪かったのか、ある都市の防衛のため前線に配置されることになりました。性奴隷にされるよりかマシですが……。
同じように神教国から売られた人たちが沢山いました。その人たちと協力してなんとか生き延びようと頑張ります。この国でなら奴隷から脱することもできるかもしれません。ただそれには私自身を買い戻す必要がありますが。
私の値段……高いです。私は魔法が使えます。それに自分で言うのもなんですけど、身体つきも胸はそこそこありますし、見た目も良い方だと思います。自分で何を考えているのでしょうか? それは置いておきましょう。
そうした理由もあり、提示された値段は金貨1000枚。この防衛任務の日当の基本は銀貨1枚です。一応魔法使い手当や魔物を倒したりすると増えます。それでも果てしなく遠いです。エルフの寿命は長いですけどね。それでも1つの家にそんな何代も飼われるなんてご免です。戦場なんて更にご免です。
そして現実はなんと厳しいことか。魔物の大氾濫です。私たちは命令通り戦うだけです。しかし敵の猛攻により、防壁が崩れてしまいます。
そこから魔物が進入しようとしてくるので私たちで阻みますが、所詮は奴隷兵、士気も低く逃亡しようとする人まで出てきます。それでも私は勇猛な仲間たちと立ち向かいます。それでも壊走を僅かに遅らせることしかできませんでした。
士気が低下し他の奴隷兵が逃げ腰になりました。それ少しでも巻き返そうと連携魔法で敵を殲滅します。魔力を少しでも温存するための連携ですが。その攻撃でも一時凌ぎにしかなりませんでした。もう無理かとそう思った瞬間、空から火の魔法が放たれました。更に少年が1人降りてきます。そして周囲の魔物を一太刀で倒して見せました。
「全員、魔物を壁の内側に入れるなっ! 押し戻せぇっ!」
その号令が掛かり、奴隷兵の士気が回復しました。その後も凌ぎ続けます。彼は負傷した者はすぐに下がらせました。しかし途中で援軍があまり来なくなります。たぶんどこか別の壁が壊れたのかもしれません。
そうしている内に鐘がなり響きます。撤退の合図です。彼は自分が殿をするからと、私たちに後退を命じました。1人では無理でしょうと思いましたが、周囲の仲間たちが退いては残るわけにもいきません。
そして更に兵たちが一斉に退いたため至る所で壁が崩壊、魔物が進入してきます。私のすぐ側の壁も壊れてその向こうから魔物が迫ってきました。崩れた壁の土の所為で完全に逃げ遅れます。
迎撃は間に合わずその魔物、グレートボアの体当たりを受けてしまいます。咄嗟に左に飛びましたが右半身がズタズタです。ああ、私の命もここまでですか。こんなところで使い捨てとは辛いものですね。諦めが心を身体を支配します。しかし空から光の矢が降り注ぎ目の前のグレートボアを地面に縫い付け、そのまま爆裂して倒します。
それを見て私はなんとか痛みに耐えながら半身を起こし、魔法を使って移動します。誰かがまだ諦めるなと言っているように感じたのです。先ほどまでの諦観はキレイさっぱり無くなっていました。
移動中に一緒に戦っていたドワーフと獣人を見つけましたが、2人とも散々な状態でした。腕や足が切断されていました。私では繋げるどころか治すこともできません。せめて傷口を凍結させることで出血を防ぎました。そうして私は他の兵士に引きずられ何とか門の中に逃げ込めました。
その後は戦闘は無事に終わったようです。私自身は門の中に入ってすぐに意識を失いました。そして救護所に運ばれるときに痛みで意識が戻りました。救護所に入ると、殿を努めた彼が治療を行ってました。
私は少し話そうとしましたが、次第に意識が薄れ始めたので途中から黙って治療されました。<治癒魔法>も使えるとは、この人はどれだけ多芸なのでしょうか。
そして次の日に様子を見に来てくれました。その際ライルと名乗り、私を含めた多くの奴隷の所有者が自分になったと言ってきて驚きました。しかも生き残れば奴隷から解放してくれると言います。
でもこの方は知っているのでしょうか? 私が金貨1000枚すると言うことを。それに私は解放されても行く場所がありません。家族を捜しに神教国に入り、見つかれば再び奴隷です。
ちなみに私たちを得た方法は<治癒魔法>による治療費請求という真っ当なものでした。凄い数治療されて、更にあのドワーフや獣人の切断された四肢も接合したみたいです。なんでそんな人が戦場の最前線に居たのでしょうか。しかも殿までして。馬鹿じゃないでしょうか。
色々と思うことがあったので、次の日にお話ししてみました。
「私は金貨で1000枚もします。それなのに解放してくれるのですか?」
「ほう、さすが魔法使いのエルフで容姿も美人なだけある。俺の見込んだ通りだな」
やはり私が目的でしたか。面と向かって美人と言われたので少し照れますが、そう評価するならば簡単に手放すはずはないでしょう。でもなんでそれをあっさりと認めたのでしょうか? 分かりません。
「くっくっくっ、これであの子爵様に少しはダメージが与えられるな」
怪しい笑いを浮かべながらそんなことを言い出します。
「どういう意味ですか?」
「こちらの都合だが説明すると、俺はこれだけ譲歩したんだぜ、と見せつつ子爵様にダメージを与える方法。それがお前達を貰い受けることさ。今頃思ったより奴隷兵の値段が高かったんで悔しがっていることだろう」
もう少し詳しく聞くと、交渉した時にはまだ誰がどんな治療を受けたのか正確ではなかったらしい。そこで私の存在を多くいる普通の奴隷に紛れさせておいたと。それの所為で子爵側は金額では無く数で判断してしまった。この人悪い人じゃないんですけど、性格が悪いです。はい。自分でも何を言ってるのかよく分かりません。
「とにかくだ。お前達は氾濫が終息するまで死ぬんじゃないぞっ。死んでなかったら俺が治療してやる」
ある意味、悪魔の様なことを言い出す人でした。これで良かったのでしょうか? やはり分かりません。
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