第27話 では商談をしましょうか
次の日、臨時ギルドの受付へ行くと、臨時指揮所からお呼びがあるとのことだったので向かう。と言うか案内付きで向かわされた。
案内されて指揮所に入ると、アイストル子爵やその他幹部たちが居た。
「失礼します。ライル様を連れて参りました」
案内人がそう告げる。ちなみにアルテナは完全に気配を消して付いてきている。
「その者が……か」
少し訝しげな眼で見てくる。たぶん若いからだろう。アイストル子爵は50代前半くらいだ。髪はグレーで中肉中背と言った感じである。正しく武官と文官の間と言った感じだ。
「はい。彼で間違いありません」
横に控えた兵士の1人、俺を救護所に連行した人が保証した。
そして書類、たぶん俺が治した人のリストだろう。それを見て少しの間沈黙する。
「ふむ、そなたの行った功績は大きい。王宮に勇名勲章を授与できるように進言しておこう」
「ありがとうございます」
そう言って一礼する。しかし内心では……、
(い、いらねぇ)
(何かメリットあるのです?)
(魔物や治安維持で勇名を示した人に贈られる勲章で特に何も無い。英傑勲章なら毎年お金貰えるのにっ!)
女神の問いに心底ガッカリした感じで答える。
(あーいらないですね)
それを聞いた女神もバッサリである。
その後はなんか子爵と幹部連中が相談をしている。
(なんか相談してますよ~)
(報酬を自分の領地の役職を命じようと考えていたけど、思った以上に若くてどうしようか迷ってる感じかな)
(この国って領地で叙爵できましたよね? それじゃないんですか?)
(各領地で爵位を授けると、その領地が授けた相手の面倒見ないとダメだ。それは子爵領の現状の経済状況では厳しいのだろう)
ちなみに与えられる爵位にも限界があるし、勿論王宮の方にちゃんと報告もしないとダメだ。
(世知辛いですね~)
話し合いが終わったようで子爵が命じてくる。
「治癒師ライルにアイストル子爵領治癒師の役職を命ず、受けてくれるな」
「申し訳ありませんが、お断り申し上げます」
予想通りだったので、あっさりと断る。むしろ受けたら拙いくらいだ。
「なんだとっ!」
そう答えた瞬間、幹部の1人が剣の柄に手を掛けながら罵声を上げる。
それでも特に焦りはない。何しろこの場にはカイ兄も居るからだ。始め入ってきた時は少し驚いた顔をしていたが、その後はずっとニヤニヤ顔だ。
「理由を聞かせてもらおうか」
子爵が幹部を手で制止しながら尋ねてくる。声に若干怒気が混じっていた。
「私はまだ14歳で成人しておりません」
「それでも役職は就くことはできるだろう」
諦めない子爵。無理だって、俺も貴族だし。オーガスト家の許可無く勧誘するのすら拙いんだって。
「私はこの領地の民ではありません」
「それも移民すれば良い。どこの領地のものだ?」
さっさと諦めろよ。知らないから仕方無いとは思うが、世の中知らない方が悪いこともある。この場合もそうだ。
「オーガスト領です」
そう言いながらカイ兄をチラ見する。さっきまでニヤニヤしていたのに、今は不機嫌そうに剣の柄に手を掛けている幹部の方を見ている。
その言葉を聞くとさすがの子爵も詰まった。子爵もカイ兄の方を見る。
「ならばオーガスト領から許可が出れば良いのか?」
「出るわけありませんが、それでよろしいならば」
「なんと無礼なっ!」
幹部が声を上げる。子爵はそれを無視してカイ兄に話しかける。
「聞いていた通りだカイルーク殿。できればここは譲って頂けないであろうか。見ての通りこのままでは兵士たちが死んでしまう」
そう情に訴える。これは悪まで兵士たちのためだと。しかし――。
「オーガスト家では彼の自由を保証しています。故に現状、役職等で彼を縛り付けることは決して容認できません」
「兵士たちが死んでも良いと?」
「彼に報酬を積めば兵士を癒してくれるでしょう」
こっちを見てきたので頷いて返す。子爵は何とか打開しようと考える。
(もういい加減諦めてほしす)
(オーガスト家の人って名乗っちゃうのは?)
(それはそれで後が面倒。それ故にカイ兄も黙ってる。でもたぶん言うことになる。子爵が諦める気無いみたいだからね。そしてここは子爵領。子爵が法。ならばすることは? そしてそれに対抗するには……)
(同じ貴族だと、言うことですか~)
「そう言えば君は無許可で戦闘に参加したそうだね?」
子爵が嫌な笑顔を向けながら聞いてくる。逆にカイ兄は苦い顔だ。別に冒険者だから無許可じゃないんだけどな。周囲には参加するなと言われたが。なので、
「いえ、オーガスト領民として、オーガスト領軍を援護しただけです」
こちらは悪までオーガスト領軍のために戦ったんだよっと返す。実際その通りだしな。そう答えると今度は子爵が少し苦い顔をしたが、だが少し考え大丈夫と思ったのか笑顔で言ってくる。
「異な事を君は冒険者なのだろう。そんな君はオーガスト領軍を援護する理由なんて無いはずだ」
それだと冒険者と認めてるから、無断で戦闘に参加した。ってことは無くなるような……。まあ子爵が俺の参加は認めていないって言えばそれまでだが。さて、諦める気無いようならオーガストの名前出して諦めて貰いますか。
「いえいえ、ご安心下さい。ありますから、ねぇ?」
「ああ、あるともその点はオーガスト家が保証しよう」
それを聞いて子爵は内心ほくそ笑んだ。遂に言い訳できずに誤魔化そうとしているのだと思ったからだ。なので、
「ならばその根拠を目に見える形で見せてほしいですなぁ。それがあれば私は引きましょう」
勝ち誇った感じで言ってきた。
「お約束できますか?」
「勿論、約束しますとも」
そう言うのであれば仕方ない。言質もとったしな。腰の後ろから短剣を取り出す。短剣を取り出した瞬間、向こうの幹部が剣を抜いたが、まあいいや。短剣に彫られてる家紋を良く見えるように見せながら名乗る。
「ガイスト=アーリ=オーガストの子、ライリール=グラン=オーガストで通称ライルと申します。以後お見知りおきを。ちなみにですがそこにいるカイリール=グラン=オーガストは同腹の兄です。これならば援護する十分な理由となるでしょう。血縁を守るためですからね」
子爵とその取り巻きは固まっていた。剣を抜いたまま固まっていたので、カイ兄の部下も剣を抜く。その時点で子爵が再起動をはたした。
「マテッ、おい、剣を収めよ。相手は伯爵家の者だぞっ!」
そう言われると、幹部がすぐさま剣を収め、
「申し訳ありませんでしたっ」
そう謝罪がなされたので、カイ兄の部下も剣を収めた。
「では商談をしましょうか、アイストル卿」
気を取り直して宣言する。子爵はまだ混乱していたが無視だ。
(いきなり態度がでかくなったー!)
(うるさいわっ!)
「私が治療した者は全部でえっと、350名。内オーガスト領の者は抜いて300名ちょい。おまけして300名です。全て重傷者ですから平時ならば、金貨5枚といったところですか。まあ戦時ですから本来はもっと高いんですけど、大幅にオマケして1人金貨10枚、締めて金貨3000枚で如何ですか?」
「た、高いわああああああ」
「そうですか、なら未割引料金で請求します。1人金貨50枚でしょうか? もし踏み倒したらオーガスト領に喧嘩売るようなものなので、よく考えてからお返事を下さい。カイ兄、半分上げるからよろしくね」
「あ、ああ」
子爵はちょっと待てっと言った後、幹部と相談を始めた。カイ兄も軽く俺に引いてたが気にしない。今の俺は商人ですから。
「奴隷の分を省くといくらになるのかね?」
「150人ほどですね。故に半分です」
それでも厳しいと呟いた後、更に考え込む。
「奴隷の分省くのは良いですが治した奴隷はどうするんです?」
当然の疑問である。
「私が治せと依頼したわけではない」
そう言うと思ったので用意していた言葉をプレゼントする。
「なら重傷だったと言うことで、150名分の奴隷の代金くださいね。良い値切り方ですねっ! その方がたぶん安く付きますっ」
褒めたのだが子爵には致命傷だったみたいで、苦悶の表情を浮かべて膝を突いた。たぶん昨日の戦闘の疲れがでたのだろう。そうに決まっている。ホントにそうだったのか、子爵は後のことを文官たちに任せて休息に入った。
そして子爵が離脱してしまったので(させた)、その後は文官たち幹部と意見を交わした。
その結果、治療した借金奴隷と違法奴隷(と思われる人)を俺が引き取る。ただし氾濫が収まるまで戦闘や労働を提供させる。氾濫が収まれば好きにして良い。彼らの滞在費などは子爵持ち。次回からの治療費は重傷者のみで1回もしくは1人金貨3枚。
その代わり領内での税を免除。更に子爵家が身分の保証をする。それは俺が商会を開いた際にも適応される。支払いは魔石を4割まで混ぜて良い。そして総額金貨1200枚で前金金貨500枚の分割払いで手を打った。そして俺は金貨200枚分の魔石と金貨300枚を手に入れた。あれだけ脅しておいたら踏み倒したりすまい。
「強かになったなぁ」
「なんちゃって商人ですから」
カイ兄の一言にそう答えておいた。
「それにしてもこんなところで会うとはなぁ」
「私も意外でしたね」
「こっちとしては<治癒魔法>使えたことも意外だった。いつから使えたんだ?」
「えっと……だいぶ前から?」
「他にも何か隠してそうだな」
カイ兄が人が悪そうにニヤリと笑った。
「それと次回からは1人金貨3枚で良いのか? えらい破格だが」
四肢の切断や骨折は普通なら後遺症が残る。そうなれば労働力や戦闘力に大幅なダメージだ。場合に寄っては再起不能とも言える。それが一般家庭の年間に生活費の約半分程度で治るのだ。破格である。
「元々は今回の支払いからそのつもりでしたしね。ただ子爵様の心証が悪かったので値上げしました」
それを聞いてカイ兄は笑い声を上げる。逆にそれを聞いていた子爵領の文官たちはため息を吐き、剣を抜いた武官は冷や汗を流しながらそっと視線を逸らすのだった。
お金の話は難しいですね。
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