第26話 その冷静さが今は憎い
それからが長かった。もう3時間くらい立ったか? アルテナに尋ねると俺が前線に出てから1時間と少しだった。
他にも戦況について尋ねる。飛行型の魔物は全滅した。それにより弓兵が地上攻撃に全力を出せるようになったことと、魔物が2カ所の空いている場所を目指してくるため状況が均衡しているようだ。
そしてカイ兄の方は大丈夫かと尋ねてみる。あちらでは魔物の死体を上手く盾にしたり、壁の隙間を塞がない程度に細くして上手く誘導しているらしい。倒した魔物は支援兵がどけたりしているようだ。
こっちの隙間は広いからその手はできそうにない。それに支援兵もいないので、時々溜まった死体を吹き飛ばさないとダメだ。それが大変だがまあなんとかするしかない。あっちのマネはしようにもできないしな。
この1時間の戦いで奴隷兵が次々と負傷した。今後のことを考えると死なれるのは困る。なので負傷した側から後方に送った。なのに補充がこねええええ。
(アルテナさん補充が来ないんですけど、後方どうなってますか?)
焦りの所為か思わずアルテナ相手に敬語になっている。
(えっと、中央辺りで小さい穴が空いちゃったみたいで、そこに兵が集まってます)
(ぐっ、こっちに一時的に防壁を築いて、そっちの穴を直して、そして戻ってー)
(たぶん一時的程度の防壁では戻ってくるまでに崩れると思いますよ。硬化させるには数分掛かりますし~)
アルテナの言うとおりである。
(その冷静さが今は憎いっ)
(そんなこと言われましても~)
喋ってる間にも光が降り注ぐ。もはや誰も誰が撃っているとか気にしていない。
東側はカイ兄と精鋭、たぶんオーガスト領軍が保たせている。西側は俺と数人の奴隷兵が凄い頑張っているから保っている。中央は大丈夫だろうか?
そしてこの奴隷兵だが、一際目立つ者が居た。碧色の意志の強そうな眼をしたエルフの女性である。首に奴隷紋が描かれているので奴隷であることは確定。先ほどの連携魔法も彼女の仕業だろう。綺麗で長い金髪をなびかせながら、今も大型の魔物には魔法を使い、小型の魔物には細剣で戦っている。
他にも彼女と連携を組む感じで、数人の獣人やドワーフの男性たちが戦っていた。もし俺1人だったらとっくに抜かれていただろう。それでも彼女らは少なくない傷を負っている。このままでは――と思っていると、3層防壁側から鐘がなる。そして――
「一時2層防壁を放棄するっ! 全軍死にたくないなら3層防壁まで下がれっ! 少しの間だけ随所にある避難門を開くっ!」
(撤退かよっ、何か策があるんだろうなっ!)
(私に聞かないで下さいよ~。あっ、でも西門のところに騎兵が集まってます。もしかしたら特攻を仕掛けるのかもしれません)
(とにかく、撤退の援護を頼む。俺は殿をする)
「俺が殿を引き受ける。皆、後退せよっ!」
全員が逃げに走った瞬間、2層防壁が至る所で崩れ、そこから魔物が進入する。避難門とやらに逃げようとしていた者たちが襲われ始める。俺は舌打ちしながら、魔法で援護する。この際ドサクサで分からないだろうから闇属性を使う。魔物の影から伸びた刃が魔物を貫く。少しでも多く逃がすため全力を出す。
(俺、3層防壁は急造部分しか触れてないから、避難門の場所が分からんのだが)
(そんなの飛んで登ってきて下さいっ)
若干必死気味なアルテナの声。俺の周囲に光の矢が降り注ぐ。
(騎兵隊動き出しましたっ!)
(ギリギリまで粘るっ)
横から迫る狼型の魔物を一刀の下に斬り捨てる。次ぎに迫る大型のトロールを魔弾で心臓部分を吹き飛ばす。しばらくそうやって戦っていると、西側から土煙が見えた。
「ここまでかっ!」
そう叫んだと同時に、俺の周囲に今までより遙かに多い光の矢が降り注ぎ退路ができる。俺は素早くその退路を使い防壁の真下に移動する。その時逃げ遅れた獣人の男が居たから、ついでに左手で襟首を持ってジャンプし風魔法で短期間だが飛翔する。
「ぐえっ」
獣人の首が絞まったみたいだが気にしない。そうして防壁の上に無事に登れた。すぐ下では騎兵隊が突撃を開始していた。重装備の馬で更に構えているランスに魔力を宿し、それでひき殺す戦法である。たぶんアイストル領軍の切り札だろう。そしてこの魔物の群れに突撃すれば半数は帰らぬ人となるだろう。
騎兵隊は特殊な<魔技>により、隊もしくは群として技を発動していた。それにより隊全体の突貫力や攻撃力、速力が上昇している。この技を発動でき、この技の中に居れば無双の働きができた。
「すげー」
誰かが呟いた。その言葉通り騎兵隊は魔物を蹴散らし、騎兵隊の突撃を受け無事に済む魔物は居なかった。ほとんどの魔物が死体となって転がっていた。ただ騎兵隊も馬が負傷し遅れた者や騎乗者が落馬した場合は、魔物の餌食になり少なくない被害を負っていた。
騎兵隊が駆け抜けた後、少しの間戦場に沈黙が訪れた。そして――魔物達は動き出す。動く先はダンジョンだ。踵を返しダンジョンへ戻って行った。これで指揮するモノがいることが明らかになったが。それでも今は――。
「勝ち鬨を上げよっ!!」
指揮官がそう言い、皆が答える。
『おおおおおお!』
ある者は戦いが終わったことを喜び、ある者は自分が友が生きていることに感謝し、ある者は亡くなった者たちへの追悼をその鬨に込めた。そして俺は生き残ったことに感謝した。あー、ついでにアルテナにも。
「こう言うのはもう勘弁だな」
「助けてくれたのは嬉しいが、そろそろ放してくれないか?」
左手で掴んでいた獣人が言ってくる。
「おー、すまんすまん。忘れてた」
そう言って放す。
「いや、そのこちらこそ助かった。ありがとう」
とは言ったものも、彼は立ち上がらない。足を見ると、ズタズタになっていた。出血は酷くないが骨折している。俺はため息を吐き、もう隠す必要は無いかと思い、彼の足に手をかざす。すると――彼の足が光に包まれ、傷や骨折が元に戻った。
「失われた血や体力は回復していない。故にしばらくは安静にするように」
彼は自分の足を見て眼を剥いていた。それは周囲にいる兵士たちも一緒だった。
「では」
そう言って立ち去ろうとすると、慌てて兵士の1人が、
「<治癒魔法>が使えるなら他の負傷者も見て貰えませんか? お金の方は領主様と相談することになりますが……」
(知ってた。こうなるって……)
(当然でしょうね~。あっ、私は当てにしないで下さいね。光魔法と違って<治癒魔法>は消費が大きいのでそんなに使えません)
「依頼料はしっかり取りますよ」
仕方ない、そう思いながら引き受けるのだった。
一応このアラシドにも治癒師は2人だけ居るが魔力は限られている。特に片方はまだ見習いレベルと聞いた。王都にも応援を呼んでいるが来られるかどうかは怪しいレベルである。
それはどこの領も治癒師は領外に出したがらないからだ。そのまま帰ってこなかったら大きな損失である。治癒師は自由に領を行き来できない代わりに待遇はとても良い。
まあ俺はもう冒険者であるし、オーガスト領の後ろ盾がある。故に囲うことは難しいし、拉致しようにもそれなりに強い相手を傷つけずに……とか、バレたらオーガスト家からの報復があるなどリスクの方が大きい。まあ安全だろう。
兵士に連れられて城壁の中、南門入ってすぐに作られている臨時の救護所に行く。救護所と言っても、大きいテント張ってるだけだが。中はある意味戦場だった。
怪我人が運び込まれて、重傷者は魔法で最低限の治療をする。軽傷者は薬草などで応急処置だ。取りあえず落ち着くまではこれで凌ぐみたいだ。どうせ<治癒魔法>で無理矢理治しても、失った体力と血は戻ってこないしな。
「負傷者ですか?」
と治癒師の補佐の人に尋ねられる。すると横にいる俺を連行してきた兵士が、
「<治癒魔法>を使える方を連れてきました」
「ホントですかっ? どこですかっ!?」
いえ、目の前に居ます。
「この方です」
っと兵士の人が俺を突き出す。ちなみに俺の表現は多分に主観が含まれている。実際には兵士の方は強制的に連れてきていないし、突き出してもいない。
「あ、あなたでしたか、失礼しました。どれくらいの治癒が行えますか?」
「複雑な骨折を治すくらいまでなら」
「分かりました、付いてきて下さい」
と言いつつ、手を持って連行される。今度こそ連行だっ! そして兵士の方はその様子を確認した後、敬礼して立ち去った。
「一応始めに言っておく<治癒魔法>は使えるが、致命的な場所のみの治療などはできない」
「そ、そうですか……ならばもう重傷者の治療に全力を出してもらうしかないですね。魔法薬の準備しておきますね」
初めは深刻そうに言っていたが、最後の魔法薬のところではニッコリ笑顔で言われた。あれはとっても不味いのだ。しかも魔法薬は短期間に何度も飲むと中毒症状を起こして倒れる。
他にもだんだん回復する量が減る、材料費や調合費が高いなど問題の多い品である。ただ回復する量は魔力の最大値に影響すると言われている。そういうところは俺にとっては有利な効果だ。この状況ではあまり嬉しくないが……。
さて補佐の人が、中にいた1人の治癒師と何やら相談している間に周囲を確認する。うん、右も左も負傷者だ。やはり主に重傷者が運び込まれているようだ。テントの外にも補佐の方が何人も居て応急処置をしていた。
このテント内にいる治癒師は20代後半くらいの女性だ。ちなみにさっきの補佐の子は10代後半くらいの女性だった。
「君はこの見習い治癒師のシーナを付けるから指示に従って治療してくれ。ちなみに私は単純骨折しか治せない。期待しているぞっ」
<治癒魔法>LV3か、って補佐と思ってた子は治癒師か。あっ、<分析>使えば良かった。使用すると<治癒魔法>LV1で年齢も18歳だった。
「分かりました。さあ行きましょう」
投げやりな感じで答える。シーナは魔法薬をいくつも持ってきた。短い自己紹介を行いながら負傷者を見る。
一人目、腕の骨折と肋骨が折れてるし他にも多数の怪我あり。はい、全力で<治癒魔法>っ! どこがヤバイとか判断できん。そう思うと専門の治癒師は凄いもんだ。
二人目、足無いんですけど、どこやったんですか? え? 魔物に食べられた……すみません。これはさすがに無理。足の傷を塞いで、他の裂傷などもついでに治す。次ぎっ。
三人目は意識が無い、俺の<診察>でも<分析>でも内臓に異常があることが分かるだけで詳細は分からない。たぶんだが衝撃でやられたのだろう。これは<治癒魔法>を信じて全力治療で。はい、次ぎっ。
と言った具合でどんどんやっていく。途中から何人目なのかも分からなくなった。時々魔法薬ガブ飲みして頑張る。
それでもだんだんちゃんとした兵士から、奴隷兵っぽい人に変わっていくのが分かった。そして何人目かは分からないが、俺が戦場で一緒に戦っていた奴隷兵が運ばれてきた。
エルフの女性だ。先に後退させたはずだが……。
「お前どうしたんだ? 先に後退したはずじゃ?」
思わず尋ねてしまった。意識はあったようで少し驚いた後に答えてくれた。
「無事だったんですね、良かった……。後退してる途中に、魔物が、壁を壊して、そして不意を……」
「あー俺が悪かった。喋るな」
彼女の様子を見る。出血が酷い、体の主に右側の骨がボロボロだ。たぶん右側から強い衝撃を受けたか、攻撃を避けきれなくて右側が犠牲になったか。そんなところだろう。考えながらも<治癒魔法>は行っている。
結果、消費魔力は普通より多かったが治った。ただ後遺症などは不明で経過観察が必要、そうシーナに言っておく。気付いたんだが、シーナの指示で治療するはずなんだが、指示聞いたことないな……。まあいいか。文句言われてないし。一応そのことを聞くと。
「だってこっちが診断終わる前にもう治療初めて治っちゃってるんですもん」
若干涙目であった。すまねぇ。
他にも一緒に戦った獣人やドワーフの男性も運び込まれてきた。エルフの女性より重傷だった。獣人の方は左足が切断されており、ドワーフの方は右腕が斬り落とされていた。
連れてきた人に聞くと鋭利な爪で引き裂いたり、かまいたちを出す魔物だったらしい。運が良いことに両方とも斬られた足や腕があったので接合した。繋げるだけなら<治癒魔法>LV3でもできるが、神経を繋げるのはLV5でないと無理だ。腕や足が動くと聞かされて、もの凄く感謝された。だがこの2人も要経過観察だ。
その後も何時間も治療する。俺はその間に何本も魔法薬を飲んだが中毒症状にならなかった。後でアルテナに聞いた話だが、俺は完全毒耐性状態なので防げたらしい。少しでも毒耐性が低ければ中毒症状が出ていたという。ちなみに魔法薬では毒耐性は付かない。基本薬であり、体に良い影響を及ぼすからだ。
そして俺が治療した人はシーナに記録してもらっていた。後で領主に治療費を請求するために。大金貨何枚になるかな。わくわく。
(お金のことを考えていますねっ)
(何故分かった!?)
(大金貨何枚になるかな? わくわくって思念が……)
(おぅ、あまりの嬉しさにという奴か)
戦闘が始まったのが10時過ぎで終わったのが12時過ぎだったか? そして今18時である。疲れた……。その日は宿舎に戻って、ご飯食べて寝た。ちなみにアルテナは俺が治療している間、生き残りの魔物を仕留めたり、2層防壁の修復を行ったりしていた。
魔物の死体は魔石だけ取り出して、他は穴に放り込んで燃やされた。
そう言えば今回の氾濫でレベルが6つ上がっていた。更に<治癒魔法>使いまくったので1伸びてた。他注目は魔法薬飲みまくって魔力回復してた所為で、魔力超回復とか覚えた。瞑想も伸びたな。後は個別耐性がすべてMAXになった。これは大きいだろう。次からは戦闘系伸ばしたいところかな。
名前:ライリール=グラン=オーガスト
職業:冒険者 種族:人族
年齢:14歳 性別:男
クラス:魔剣士
レベル:46
状態:健康
ボーナス ()内はBP補正/スキル補正。ユニークや固有は除く。
耐久:+952(+0/+163)=1115
魔力:+1416(+0/+353)=1769
体力:+718(+0/+197)=915
筋力:+112(+80/+108)=300
器用:+102(+0/+155)=257
敏捷:+181(+42/+138)=361
精神:+109(+37/+160)=306
知力:+235(+41/+234)=510
感覚:+168(+0/+192)=360
幸運:+30(+30/+5)=65
残りボーナスポイント:30
スキル:魔術<影10/水8/風8/闇6/地6>、剣LV9、短剣LV10、槍LV5、刀LV3、盾LV3、棒術LV3、格闘LV7、弓LV9、投擲LV9、杖LV1、二刀流LV2、防御LV6、頑強LV2、受け流しLV6、見切りLV8、先読みLV6、カウンターLV1、魔技LV5、体技LV6、真技LV2、身体強化(魔5/☆体4)、魔法抵抗LV9、挑発LV6、扇動LV1、威圧LV4、不動LV5、剛腕LV4、戦意LV5、強打LV4、先制LV6、加速LV5、ランニングLV9、ジャンプLV5、礼儀作法LV2、ダンスLV1、裁縫LV5、乗馬LV3、指揮LV4、指導LV4、戦術LV4、経営LV4、政治LV1、鍛冶LV6、木工LV2、細工LV7、☆錬金術LV4、☆魔道具製作LV5、魔法付与陣LV6、交渉LV6、計算LV8、鑑定LV9、看破LV5、気配察知LV10、危険感知LV10、魔力感知LV10、隠密LV10、隠蔽LV10、追跡LV4、探索LV3、変装LV1、偽装LV4、演技LV10、鍵開けLV4、罠LV8、待ち伏せLV3、遠見LV5、軽業LV4、スリLV2、登攀LV2、水泳LV2、魔物知識LV9、動植物知識LV9、薬学LV7、サバイバルLV4、演奏LV1、調理LV6、絵画LV1、地図LV2、診察LV5、尋問LV3、解体LV7、耐久魔力体力回復促進LV3/10/7、魔力超回復LV1、魔力回復量上昇LV10、瞑想LV7、集中力LV5、魔力操作LV10、魔力圧縮LV1、属性魔法<火7/水8/土8/風8/☆闇9/光6>、☆複合魔法LV6、生活魔法LV10、☆治癒魔法LV6、強化魔法LV7、収納魔法LV5、耐久魔力体力強化LV3/4/4、個別耐性<毒4/麻痺4/石化4/熱4/冷気4/混乱4/睡眠4/恐怖4/呪詛4/苦痛4>、☆全固別耐性LV2。
残りスキルポイント:46
ユニークスキル:女神アルテナの加護、第六感、魔法の素質、分析。
固有スキル:女神アルテナの寵愛、女神アルテナの贖罪、魔法の才能、暗殺者の心得、転生者、転生者への加護、フォルテナの守護。
称号:狂気を狩る者。
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