第24話 汚名挽回ですね。分かります

 結局なんとかなった。疲れた。今は1層と2層の間に柵設置したり、作ったりしている。さて俺たちは、今日のところは休んで良いとのことだったので宿舎へ行く。どこに泊まればいいかは現場監督さんに聞いた。ギルド職員さんに聞くの忘れてたからね。


 アラシドの中心近くの広場に、臨時の宿舎と称したテントの群れがあった。そこの受付で聞いたら、冒険者カードを確認させてと言われたので提示する。


 「確認終わりました。テントは2人用で良いですか? と言いますか、お願いします。食事は広場の外側で配ってます」


 アルテナをチラッと見たが問題ないようなので頷いておく。その後は食事を頂く。シチューにパンだった。パンは少し固い。まあ、あまり文句言うのも酷だろう。タダだし。


 アルテナはと言うと、喜んで食べてた。神界では食べることが希らしい。まともな食事は100年に一度くらい? 食べる必要が無いのが大きいらしい。シェルテナの様に自分で作れれば話は別とか言っていた。アルテナ自身はある世界の文化に触れて、色々食べてみたかったそうだ。自分で作るのは諸事情で断念したらしい。


 「では今日は馬車にも揺られたし疲れたし寝る。アルテナは……」


 「はいはい、戻れば良いんでしょ~?」


 「神界から警戒な」


 「神使いが荒すぎです……」


 だって便利だしってという言葉は飲み込んだ。いつでも戦闘に参加できる状態で眠りにつく。周囲の緊張感もあって寝付けないかな? とか思ったがそんなことなかった。あっさりぐーすか寝ました。


 朝になる。昨晩は何事も無かったようだ。取りあえずアルテナを召喚し、食事を取りながら今日のすることを考える。まあここの指揮している人や、冒険者ギルドの意向も聞かないと決定はできないが。たぶんその2つは防壁の補強を依頼してきそうだ。俺としてもその方が良いかな。


 「今日は何をするんです~?」


 アルテナがどうでもよさそうに聞いてくる。


 「ギルドとかの要望次第かな」


 面倒事は嫌だな~と思いながら答える。


 「特に無かったら?」


 そんなことまずないだろう。もしかしたらやりたいことでもあるのか?


 「そしたらどこかで場所借りて魔法薬でも作るか」


 俺の脳裏に浮かぶのは……。


 「もしもの時のためですね~」


 「いや、高値で売りさばく」


 お金であったっ!


 「この守銭奴めっ!」


 ごもっともである。これは言い返せない。そんなことを言い合いながら臨時の冒険者ギルドへ向かう。中に入ると昨日の職員が謝ってきた。


 「昨日は宿舎の場所とか言わずにいてすみませんでした。場所分かりましたか?」


 「現場監督さんに聞きましたから問題ありませんでした。それで今日は何か要望とかありますか?」


 「はい。予測してるとは思いますけど、防壁の補強をと、その現場監督の方が頼み込んできまして」


 ちょっとその時のことを思い出したのか、後半は苦笑い気味である。


 「分かりました。昨日と同じ場所ですね?」


 「はい。行けば分かると思います」


 やることが決まったので、ギルドを出て防壁のところへ向かった。


 「よう来たか、歓迎するぜ」


 監督さんが笑顔で声を掛けてくる。これは扱き使う気満々だな。


 「そう言う要請がありましたから」


 多少ゲンナリした顔で返すと、監督は少しバツが悪そうな顔をした。


 「そんなに嫌そうな顔するなよ。報酬の方は色付ける様に言っておくからさ」


 ラッキー。たぶん言わなくても、色付けるつもりだったんだろうけどな。


 (はっ! バカイルの目がお金に曇ってます! これは正さなくては)


 (アホテナよ。自身で働いてもらった分の報酬は好きに使って良いのだぞっ)


 (はっ! これはお金を稼がねばっ!)


 仲間が増えてしまった。コイツは金の亡者になりそうで怖いな。


 そうして、俺とアルテナは補強作業を行う。1層防壁は抜かれるのが前提なのでそこまで手は込めない。2層防壁と3層防壁を主に補強した。後は1層防壁の手前の堀に水を張った。


 他にも3層防壁の端を東門、西門近くまで伸ばした。運が良いことに30日、そして1日、2日と平和で時間があったからだ。ダンジョンの中を偵察した者に寄ると、地下1階は恐ろしいほど静かとのことだ。ただ、地下2階への階段は降りられないくらい周囲の魔物が居たらしい。



 そして10月の3日土の日、朝から曇り空だった。朝からダンジョンを偵察していた部隊が急いで帰還してきた。そしてダンジョン1階に魔物動きありと報告した。即座に指揮官であるアイストル子爵本人は戦闘準備を命令した。


 (子爵本人が指揮するものなんですね~)


 (アイストル子爵家は内務閥だが、この領地の管理を任される以上、最前線で戦う覚悟が必要だ。よって、内務閥でも軍閥よりの考え方をしている)


 故にオーガスト家との仲も良い分けだが。


 (要するに脳筋なんですね~)


 おい、脳筋だと指揮できないっての。


 (今、アホテナは多くの軍閥の貴族を敵に回したぞ)


 (別に関係ないからいいですよー)


 俺も軍閥貴族なんだが……。


 (それより私たちは待機ですか~?)


 (そうだな。戦闘能力は当てにされていない。それよりも今回の氾濫を防いだ後、防壁修復に必要な人材だから絶対に前に出るなと言われたなっ。俺の経験値が……)


 そうみんなして念を押しやがった。もし防壁が戦闘中に崩れても直そうとするなと。この前の氾濫時にそれで土魔法使い失っているからな。やばくなったら避難しろとまで言われた。しょぼん。


 (あはははは、まあ高見の見物と洒落込みましょうよ。良いもんですよ~、高みの見物)


 そういえばアルテナは基本高みの見物だったな。まあ神の気持ちでも味わってみるかっと前向きに考えてみる。


 (では移動するか)


 (高みの見物にちょうど良いところありますよ~)


 良い場所知っていると言うので、アルテナに付いて行く。途中、屋根の上を移動することになったが……。


 案内されたのは、街の南西にある教会の鐘の上だ。この鐘は時間を伝えたりするために鳴らす。朝6時から3時間毎に鳴るんだっけな? 俺は一応魔道具の時計を持っているし、今までは神界にいるアルテナに聞くと正確に帰ってきた。なのであまり気にしたことはない。


 そしてこの鐘は結構な高さにあった。教会自体が少し高いところにあるのも関係しているだろう。真下を見ると少し怖い。だがそのお陰でダンジョンの入り口まで確認できた。<遠見>使ってだが。


 「確かに眺めは良いが、降りる時怖そうなんだがっ」


 下に居る人にバレると騒ぎになりそうだから、<隠密>を使って忍んでおく。アルテナも認識阻害と<隠密>使っているみたいだ。


 「私は怖くないから問題ないです~」


 バカと煙はなんとやら……だな。


 「あっ来ましたよっ!」


 アルテナが指さす。その先を見るとダンジョンから魔物が溢れ出してきた。入り口とか少し狭くなっているんだが、力の強いのが破砕して出てきている。こえー。


 魔物の先鋒が1層防壁に近づく。それまでに3層防壁の上に居る弓兵隊が矢の雨を降らせる。1層防壁に魔物が接近すると、弓の射撃は壁が邪魔で届かない。それまでに魔物の数をできる限り減らしたい。確かに魔物は血しぶきを上げ、悲鳴を上げながら倒れ数を減らしていく。だが次から次へとダンジョンの入り口から魔物が飛び出してくる。


 「魔物の個体がそれぞれが強いな」


 「そうですね~、ゴブリンとかグレイウルフなど下級の魔物は見えませんね。ラッシュボア以上しか見えません」


 「ラッシュボアって森林の魔物じゃ……」


 「ダンジョンはその辺りあまり関係ないですから~。後ダンジョンの魔物は外の魔物より一般的に強いと言われてますよ。確かレベルが高いんですよね」


 それは初耳だな。まあ強い強いと噂では聞いていたが、そう言うことだったとは。また暇ができたら調べよう。


 そうこう喋っている間に、1層防壁の堀に魔物が迫る。水が張っているので水の苦手な魔物は直前で止まろうとするが、すぐに来る後続に突き落とされる。一応、堀の底には安物の槍を刺してある。うん。堀の水が血に染まっていく。


 「数が多すぎて堀が埋まりましたね~」


 「これは計算外だな」


 1層目の防壁の上には貧弱な装備の兵士たち必死に槍を振るっていた。たぶん奴隷兵だろう。


 「1層防壁の上にいる兵士って犯罪奴隷かな?」


 「でしょうね~、生き残ったら解放って奴でしょう」


 「まあまず生き残れないと」


 魔物は死んだ魔物を台にして1層防壁を乗り越えてきた。他にも重量級の魔物が壁に取り付いて壊されているところもある。


 「初めの魔物が壁に着いてから、保ったの5分くらいでしょうか?」


 「……うむ」


 結構自信作だったのになぁ。堀とか防壁とか。


 「でも以前の防壁だと1分保つかどうかだったと思いますし……私たち頑張りましたよねっ!」


 アルテナも認めたく無かったようだ。俺はため息を吐きながら弓を出す。


 「仕方ない。防壁が思ったより仕事しなかったから、汚名は俺が払拭するか」


 「汚名挽回ですね。分かります」


 何をだっ! アルテナも変な事言いつつも弓を取り出していた。


 そんなこと言っている間にも魔物はどんどん1層防壁を乗り越えていく。2層防壁までの距離は100メートル弱と意外と距離がある。2層防壁に近づいて来るまでに弓兵隊が必死に射り続ける。


 ただ、矢が効かない重量級の魔物、たぶんオーガの変異体も来ている。動きは遅いが防壁に接近させるのは危険だ。そして矢が効かないと言うことは魔法の出番である。


 魔法使いの1人が必殺の魔法を放った。放たれた炎の玉がオーガに命中し爆炎を上げる。周囲の声からは「やったか」などの声を風の魔法が拾ってきた。しかし、その爆炎の中から姿を現すオーガ、無傷ではないものも余裕で耐えきっていた。


 「今さ、あのオーガを<分析>したんだ。するとレベル50もあって引いた」


 「凄いですね、この前のマッドベア並みですね」


 アルテナは呑気そうに言っているが、あのオーガ……スピリットオーガと言う名前である。コイツは魔法耐性が高い、主に基本4属性だけだが別名精霊喰らいは伊達じゃないらしい。更に遠隔攻撃に耐性があり、正しく攻城戦向きの魔物だった。


 「さて、どうしたものか。ここから弓の狙撃では倒せないしな」


 「私が光魔法で処理しましょうか?」


 ニヤニヤしながらアルテナが聞いてくる。これは頼んでも絶対に引き受けてくれないだろうな。この都市自体、アルテナにとったら関係ないからな。どれだけ人が死のうと俺が死ななければ良い。それがアルテナの考えだろう。俺自身無理に死地に出たくないし。特に今は乱戦だ。この前のマッドベアとの一対一とは分けが違う。


 ならば――


 (集中しろ)


 <魔技>と<体技>を弓と矢に集める。もう同時発動することができるようになった。とは言っても、付与魔法によるサポートはあるが。そして紅と碧が融合して黒になる。ビリビリと弓が震える。それでも限界まで引き絞り集中する。


 そして今と感じた瞬間――それを解き放った。解き放たれたその瞬間、弓から黒い軌跡が飛び出す。その黒い軌跡は音を置き去りにし、そして真っ直ぐにオーガの体に命中した――。





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