第23話 俺の魔力を返せっ!

 昨日より更に物々しくなっていた。朝早くに馬車乗り場へ行くと御者の人が、


 「昨日の夜にアラシドで魔物氾濫が起きた! 氾濫自体は小規模で抑えることができたが、夜に起きたのと突然だったため対応が遅れて少なくない被害が出たらしい」


 そう言ってきた。その話を聞いて、一緒にここまで馬車に乗ってきた冒険者たちの顔色も青い。


 「行く気がある奴は今すぐ馬車に乗れ、すぐにアラシドに向けて出発するぞ」


 そう言ったのでさっさと馬車に乗ると、他の冒険者の人が聞いてきた。


 「お前達は恐ろしくないのか?」


 「だってそのために依頼受けましたし」


 「そうですね~、遅かれ早かれ氾濫はしたでしょうし~」


 あっさりそう言うと、他の冒険者達も決心が付いたのか続々と乗ってきた。そして昨日積んであった物資は夜の内に降ろされており、そのスペースには兵士が乗り込んできた。


 「ご一緒させてもらうぜ」


 なんだか歴戦の兵士って感じの人たちだ。少し話をしたがオーガスト領からの援軍らしい。今までこの宿場町で子爵領の新兵に教練をしていたらしい。


 そしてホントにすぐに出発した。10台以上の馬車が連なって行く。後ろの方の馬車は荷馬車で護衛用の馬車が挟んでいて、人のみを乗せている馬車は後ろの荷馬車に速度を合わせずにアラシドへ向かった。それだけ急いでいるんだな。


 元々ゆっくり馬車で向かって昼過ぎに着く距離である。急いでしかも朝早くに出発したので昼前に着いた。


 資源都市アラシド、強固な城壁に囲まれた都市である。ダンジョンのある方向には二重三重の防壁がある。今は前方の幌を捲って様子を見ているが、こちらからは逆側で防壁や城壁の状態は見えない。しかし都市の反対側から煙が上がっているのは見える。


 「炎系の魔物か、魔法を使う魔物か……」


 冒険者の一人の呟きが聞こえた。


 「夜に襲撃がありましたから、こちらの篝火などが倒れて出火したのかもしれません」


 取りあえず不安そうだったのでそう返しておいた。


 「そう……だな。早とちりの可能性もあるな」


 そう願いつつ門の前に着いた。すると門番が、


 「早く入ってくれ、次ぎいつまた襲撃があるか分からん。朝にも襲撃があったんだ」


 簡潔に状況を説明してくれた。俺たちは馬車に乗ったまま、都市の南側、ダンジョン側へ向かう。途中にある治癒院の外で多くの怪我人が寝かされているのを見た。


 そして南側にある臨時の指揮所に着いて降ろされた。ここのすぐ近くの建物で臨時冒険者ギルドがあり、冒険者の参加登録ができるらしい。


 勿論即座に向かった。中に入るととても忙しそうに動き回る職員の姿が見えた。受付に近づくと、職員の女性が明らかに不機嫌そうに対応してくる。


 「冒険者の登録ですか? こんな子供まで前線に連れてきて、君も悪いことは言わないから領都に戻りなさい。今朝も死人が出ているんですよ」


 その言葉を無視して依頼書を渡す。アルテナと二人分。


 「Dランクと……こっちはFランク、死ぬ気ですか? って、え?」


 きっと魔法使いの文字を見たのだろう。声を潜めて聞いてくる。何の属性が使えるかは命綱になることがあるため、できるだけ誰が聞いているか分からない場所では秘密にすることが多い。とは言っても有名になると、もう誰でも知っているためあっさり言うが。


 「何の属性が使えますか?」


 「私は火、水、土、風ですね」


 他2属性と治癒は秘密にした。


 「私は光、水、土、風です~」


 「お二人とも4属性ですか素晴らしいですね。先ほどは失礼しました。頼みたいことがあります。着いてきて貰えますか?」


 そう聞かれたので頷いて返した。それを見ると受付の職員は別の職員を呼んで、俺たちの書類の手続きを頼み、カウンターから出てくる。


 「こちらです」


 そう言って、ダンジョン側に進んで行く。


 「頼みたいのは防壁の修復です。防壁は3層ありますが、昨夜に1層目、今朝に2層目を抜かれました。今も修復作業中ですが、土魔法を使える人があまり居なくて主に手作業で行っています」


 そう説明しながら、城壁の階段を登り防壁の上へ行く。


 「壊れてますね~」


 アルテナがそう言ったように、第1層目はかなり粉々である。この防壁、3層目以外は主に土でできている様だ。3層目はちゃんと石材で作られており、上にも登れる様にできているし都市を囲う城壁と繋がっている。予測だが、3年前に全て壊されて、3層防壁しか復旧してなかったのだろう。そして慌てて急場凌ぎの2層防壁と1層防壁を作ったと言ったところか。


 「材質が土で作るならすぐに修復できるが、すぐ壊れるよ?」


 思わず聞いてしまった。


 「そうなんですけど、だからと言って石材など用意する労力や余裕も無いです」


 苦しそうに言ってくる。


 「なら、圧縮して硬質化かな」


 「圧縮すると穴掘らないと高さが足りなくない?」


 「ならついでに堀作って水貯めとくか。堀は1層目だけにして2層目は低くていいや。その代わり3層目の防壁の上に弓兵置いといて、乗り越えてくるの射れば」


 「油が用意できるなら、堀の中は油するのもありですね~」


 アルテナさん性格悪いっす。とか思っていると職員の人が復活した。


 「えっと、ちょっと、待ってください。一度に色々言われると」


 「堀に何入れるかは後でいいから、まずは堀を掘って良いか、その後は3層目の防壁に弓兵を配置できるか、だね」


 許可が下りた場合は矢の増産も、っと付け加えておく。


 「はい、分かりました」


 「それでは私たちは2層目から修復しますね~。堀作る許可が降りたら教えて下さい~」


 そう言って3層防壁の上から飛び降りた。俺も続く。高さは5メートルほど、普通に着地すると骨折しそうだから風魔法使って着地する。チラッと上を見ると受付の職員の後ろ姿が見えた。急いで折衝しに行ってくれたみたいだ。


 「さて、どんどんやるか」


 2層防壁のところでは5人ほどの魔法使いが座り込んだり、瞑想したりしていた。他は奴隷と思われる人が防壁付近に土を運んでいた。魔法使い人たちに<分析>を使って見てみると、一番高い人で土魔法LV3しかなかった。その人も本人のレベルが13と低いので魔力が続かないようだ。レベル40の人もいるが、その人は土魔法LV1で戦闘用の魔力を温存している。


 「防壁の修復のお手伝いします」


 「魔法使いか? ありがてぇ」


 座り込んでる1人が返事してきた。逆に瞑想中の人は瞑想に集中している。切迫しているのがよく分かる。


 「領軍の土魔法使いは?」


 気になっていたことを尋ねてみた。


 「反対側にも大穴空いててそこをを塞いでる。だが土は不得意と言っていたし、戦闘用の魔力も残さないとダメだから、向こうも余り進んでいないと思うぜ。土専門の奴は昨日の夜襲でな……戦闘中に壊れた壁直しに行ってな」


 マジかー、それは痛いな。これはアルテナに期待するしかないか?


 「では私たちも始めますか~。行きますよ、ライル」


 そう言って、土魔法を繰り出し始めたので俺も行う。


 「おぅ、すげー魔力だけど、戦闘用に残しておけよ」


 「私たち一応非戦闘員ってことになってるので、気にしないで下さい」


 そう返しておく。


 「そうか、尚更ありがてぇ」


 アルテナだけでほとんど崩れたところは直せたので、俺は圧縮して硬化させていく。魔力800ほど消費した時点で中央から、東側の圧縮は完了した。


 「すげーな、ちょっと低くなったがカチカチだ」


 元の中央部分へ戻ってくると、そんな感想を聞けた。瞑想していた人たちや奴隷の人たちもびっくりしている。叩けばコンコンと言う音を返してくる。


 「魔力回復してましたら、先に反対側の応援に行って貰えます? 私らは魔力回復させてから行きますんで」


 「おうよっ」


 要請はあっさりと快諾され、5人の魔法使いは奴隷を連れて西側に向かった。


 「さすがですね~」


 「そっちもな」


 「当然じゃないですか、でも魔力の回復はライル頼みなので頑張って瞑想して下さいね」


 何か引っかかる言い方だ。もしや……、


 「俺の魔力の回復速度が半減なのって……」


 「当たりですー。私が半分頂いてます~」


 「おい、コラっ! 俺の魔力返せっ」


 「だって、現界中は自分で魔力回復できませんから~。不本意ですが仕方ないのです。そしてライルは犠牲になったのです」


 このアホテナめ……そう言う重要なことは先に言えと。そう思いつつも、魔力の回復を早めるために瞑想を開始する。


 ちなみにライルがこれだけの土魔法の効果を上げているのは、土魔法LV7や<魔力操作>LV10と高いこと。固有スキルの<魔法の才能>で消費魔力が減っていること。発動体の腕輪の魔道具に魔力消費軽減の効果と増幅効果があること。知力の補正値が高いことなどが理由である。


 アルテナの方はちょっとした魔法使用するのにそこまで魔力を消費しない。ぶっちゃけ土操作くらいなら無消費である。自分が目立っても仕方ないので、大方はライルにやらせているのである。まあアルテナ本人は目立ちたい様だが。


 しばらくして、魔力が回復したので立ち上がる。瞑想中は時間経過が分かりにくい。


 「どれくらいたった?」


 「えっ? え~っと、2時間は経ってないかな?」


 正確性は皆無だな……。そう言えば昼ご飯まだだった。異空間庫からサンドイッチを取り出し囓る。


 「私にもくださいよ~。空腹とかは感じませんが」


 だったら何で食うんだよ。言っても無駄だから、もう一つ出して渡す。


 「食べるのは趣味か……?」


 「そうです、当たりです。もう私のこと良く分かってますね~」


 だろうな。この女神基本的に楽しそうだからで動くからな。


 「分かってしまう自分が憎いっ!」


 思わず天に向かって嘆いてしまった。フォルテナさんなんでこともあろうにこの女神を使わしたのか?


 「あははは、そこまで言わなくても良いでしょっ!」


 声に出ていたようだ。


 「まあいい、食べたなら行くぞ」


 時間は大体14時くらいか? まあ日が落ちるまでにできる事をやろう。


 西側へ行くと大方終わっていた。


 「遅くなりました」


 「おぅ、こちらも大方終わったが、向こうみたいに強度を上げて貰えるか?」


 「分かりました」


 そう返事をして西の隅に移動する。この防壁、1層目と2層目はダンジョンの入り口を囲うように作ってある。3層目だけは少し特殊で都市側に曲がっていて、途中で途切れている。たぶん本来は東や西門当たりまで伸ばす予定だったのだろう。まだ作ってる途中とみた。


 つまりは俺の仕事としては一番大変なのは2層目と言える。この硬化さえ終われば、休憩中にアルテナに1層の土を積ませよう。


 「そう言えば、瞑想中にさっきのギルド職員さん来て、弓兵の配置と堀を作るのは良いって~。ただ堀に油は無理だって~」


 「先に言えよっ。それに瞑想中でも声掛けろよっ」


 「だって、ギルド職員さんがそのままでって言ってたし~。今思い出したのに先に言えませーん」


 なんか殴りてぇ、返り討ちに遭うけどっ(涙)。


 気を取り直して、土魔法で土を圧縮して硬くしていく。30分ほどで終了。


 「ふぅ、休憩」


 アルテナにも少し手伝わせたのでまだ魔力が半分残っている。


 「あんまり私に頼らないで下さいよ~」


 「便利な道具は使わないとな」


 「誰が道具ですかっ!」


 あまり細かいことは気にしないでほしい。そうやって中央の当たりで休憩していると、さっきの人が今後の方針の相談にやってきた。この人が現場監督しているらしい。防壁の高さ稼ぐためにも堀を作るので、穴掘りからしてもらう。戦力は冒険者や一般市民5人、領軍4人、俺ら2人の11人である。領軍の人は魔力全部使えないし、他にも冒険者の2人がそうだ。まあ夜までになんとかなるだろう。




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