第9話 模擬戦と彼は犠牲になったのだ

 教官の指示により模擬戦を行うこととなった。


 うちの第3パーティは第4パーティと一緒に行動する。第4パーティにも魔法使いがいるからな。教官に魔法使いはいないので、相互に教え合えと言うことだろう。きっとこれからも組むことが多くなりそうだ。


 それとパーティ分けだが、第3と第4以外は男女で分けられている。パーティ1、2、5、6は5人パーティで男性のみ。パーティ7は6人の男性のみパーティだ。ここには成人前の年齢でも比較的低めの人が集められてる。年齢を数でカバー作戦だ。パーティ8と9は6人で女性のみのパーティである。混合で組まれているのは、魔法使いのいる第3と第4パーティのみである。


 そういった理由で少し周囲からの視線が痛い。そして今は8人で集まっている。魔法使い二人は、ほとんど近接戦をしたことが無いので、取りあえず見学である。第4パーティの魔法使いは男性だが、彼も武器スキルを杖LV1しかのみという潔さである。


 さて模擬戦である。時間制限ありで一応総当たり(時間が許すならば)。武器は模擬戦用の木製である。時間チェックは見学者の二人が3分の砂時計を持ってやっている。


 一人目はゲイツ、一瞬で終わった。真っ正面から馬鹿正直に、上段からのフェイントなしの振り下ろし。右手に持った剣であっさり受け流し、そのまま左手に持った短剣を首元に突き出し寸止め。ゲイツは始めキョトンとしていたが、その後潔く敗北を認めた。


 (あれが本来の大剣だったらどうだろうか?)


 『結果は同じですね~。剣筋が真っ直ぐ過ぎますしー。っと言いますか、躱されること一切考えてないかと』


 (確かに迷い無く振り切ってたな)


 ちなみにだが、ゲイツがキョトンとしていたのは、自分が勢いよく大剣を振り下ろすと大抵の人間は腰が引けて、後ろに下がるのである。それをライルは受け流しながら、前に出てきたことに驚いたのである。ついでだが、ゲイツがいつも使っている大剣だったら、質の悪い剣だと受け流そうにもポッキリ折れる。それにユニークスキル<狂化>の影響で痛みをあまり感じ無いので、攻撃を食らってもそのまま振り下ろしてくる、恐ろしい人だったりする。素で肉を斬らせて骨を断ってくる。模擬戦では弱いが実戦では強いタイプと言える。


 そして次はのお相手はグリュウ。まずは同じパーティ内の総当たりのようだ。結果時間切れ。俺の右手の剣は、グリュウの左手にある盾ですべて防がれた。逆にグリュウのメイン武器の短槍は、こちらの短剣であっさり防げた。引き分けである。


 その次ぎの相手はエレナ。開始早々槍の猛攻で、それを捌くので精一杯、まともな反撃は一度もできず1分ほどで攻め落ちた。突きと石突きのコンビネーション反則です。付け焼き刃の二刀流では無理っす。


 その後第4パーティのメンバー二人と戦って模擬戦の時間が尽きた。女性の槍使いに勝ち、男性の盾使いと引き分けた。盾持ってる相手に攻めきれないなぁ。この辺りは対策を考えないとな。


 俺の成績は2勝1敗2分だな。


 ゲイツの成績は、俺に負け、グリュウ勝ち、エレナに負け、男性盾に勝ち、男性槍士に負けていた。要するに盾クラッシャーだなコイツは。2勝3敗。


 グリュウは、俺と引き分け、エレナに引き分け、ゲイツに負け、女性剣士に勝ち、女性槍士と引き分けてた。やはり決定力どうしても無いな。そこはパーティなら補う事ができる。1勝1敗3分。


 エレナはさすがで、俺に勝ち、ゲイツに勝ち、グリュウと引き分け、女性剣士に勝ち、男性槍士に勝っていた。負け無しである。4勝1分。男性の槍使いが非常に悔しそうだった。


 ちなみにだが、女性の槍使いの人が単属性の魔法使いである。水属性と言っていた。そして、第4パーティの魔法使いは火と土属性である。両方属性とも環境による影響が大きいのは弱点だが、彼に素晴らしい特技があった。いや魔法だが。冒険者は誰もが欲しがる魔法、そう収納魔法である。ただ魔力はファニーの方が多いらしいので、魔力を攻撃に使うか、収納に使うか悩みどころである。そんな分けで、ひっそりと卒業後の彼を賭けた争奪戦が始まっていたりする。


 その後、教官から軽く注意事項の説明があった。


 「このパーティで半年間やる。もしパーティメンバーが脱落しても補充はない。そのままでやってもらう。人数が減ればその分個人への負担が増える。だから仲間の事も考えて行動するように。これも一流冒険者になるために必要なことだ。ちなみに毎年1割程度だが脱落者が出る。理由は負傷などが多いがな。では次ぎは午後の座学だ。食堂では無料で食事が提供されている。空きっ腹で午後の座学を受けたくないならば食べておくように。以上、質問はないな? ……よし解散!」


 教官の解散と共にゾロゾロ皆が食堂に向けて歩き出した。



 食堂では、パーティ事に分かれて食事を行った。食事のメニューは皆同じで、ご飯に肉入り野菜スープ、他に少量の果物が付いていた。ご飯と野菜スープはおかわり自由である。食事はなかなか美味しかった。


 それを食べながら、俺はグリュウに話しかける。


 「次は座学だ。読み書きができないと、大変だ。グリュウは今後のことも考えて読み書きをできるようになるべきだ。何だったら俺が教えるが?」


 「そうだな……。お願いできるのか? 自分で言うのも何だが物覚えは悪いぞ」


 「そこは頑張ってもらわないとな」


 「フフ、そうだな。よろしく頼む」


 少しニヒルに笑うそんなグリュウに、座学の授業後に文字を教えることになった。できれば計算もだな。

 女性2人は向かい側に座っており、2人で何やら話している。ゲイツはグリュウを挟んだ向こう側におり、一心不乱に食事をしていた。


 そうした食事風景が終わった後、午後の座学が始まった。座学は2クラス分けて行われた。第3、第4、第8、第9パーティで1クラス、それ以外の男性パーティで1クラスだ。


 よって俺たちのクラスは男性6人に対し、女性16人である。


 (なんだこのアウェー感は……)


 そうは言っても、主に狙われているのは別の人物なので、全然マシである。そうここには最高のデコイ! 第4パーティの魔法使い! ローランがいた。もう既にみんな知っているのだ。この魔法使いが収納魔法も使えることを。


 (俺、収納魔法(異空間庫)公開してなくてホント良かった。公開してたら、彼の様に獲物を見る眼で見られたんだろうなぁ)


 『彼、半泣きですよ。助けてあげては如何ですか?』


 (彼は犠牲になったのだ)


 『邪悪です』


 このローランは年齢が13歳、大人しく可愛い感じの少年である。その手のお姉さんたちの大好物である。それにこれくらいの歳の魔法使いと言うと、よく自分は特別凄いと勘違いして高慢な人間が多かったりする。それが無いのもポイントである。


 そして他の男たちに助けを求めようにも……ゲイツは無関心、たぶんコイツは脳筋なんじゃないかと。アーガルド家って脳筋で有名だし……。グリュウは一度宥めようしたが、猫獣人の女性に威嚇されてすごすごと引き下がった。虎負けるなよ。それ以来、意図的に空気になろうとしている。賢明な判断だ。男性の槍使いはぶつぶつと何か呟き、悩んでいるのか、たまに頭を抱えている。実に危ない人である。エレナに負けたのが、余程ショックだったのかもしれない。盾使いは俺たち友達だよな! っといった感じでローラン確保に向かっており、周囲から威嚇されても気にしてない――と思ったが、冷や汗をダラダラと流していた。無理すんなよ。


 女性? 女性陣10人ほどに囲まれてパーティメンバーの女性は近づいてこれない。そして周囲の女性からは卒業したら一緒にパーティ組まない? と猛烈にアタックされている。俺? 俺はローランと目を合わせないように必死に顔を逸らすのだった。臆病者と言いたければ言うがいい。


 そんなローランにとっては悪魔の時間が続いていたが、教官が教室に入ってきたことで終わりを迎えた。教官が教室に入ってきたときローランはホッとしていた。ちなみに男性陣は隅っこに固まっていたが、それを囲い込むように10人の女性たちがいた。それ見て教官は、


 「あんまりがっつき過ぎると逆効果だぞ。さあ席に戻れ、授業を始める」


 っと笑って言っていた。それを聞いて囲んでいた女性たちは渋々解散して自分たちの席に戻った。そうしてローランの待ち侘びた授業が始まった。


 「明日は午前中に森へ行く。今日これから森での歩き方の基本を教える。そして明日の午前中に実地訓練だ。森の浅瀬のみだが魔物が出ることもある。ちゃんとした装備で挑むように」


 それからは森での基本的なことの説明があった。森ではあまり音を出さないこと。狩りの場合は獲物に逃げられ、魔物を呼び寄せるからだ。討伐の場合でも、近づいてくる魔物が対象とは限らないので、音は立てない方が良いとのことだった。採集なら言わずもがな。魔物との戦闘で採集対象を踏み荒らしてしまう、と言うのは良くあることだった。


 その他には隊列に関して、中央に一番近接戦闘能力の低い者を。一番前は最も森に慣れている斥候などが、と言った具合である。


 そして森の浅瀬で出る魔物種類、ゴブリン、グレイウルフなどが浅瀬に出る。後希に、森の深いところにいるラッシュボアやレッドベアが出てくるらしい。特にレッドベアは見たら逃げろとのことだった(逃げられるのか疑問である)。足跡で大きい熊っぽいの居た時点で逃げる。念を押して言われた。

 授業は所々板書が行われた。板は白い板で、炭で書いていた。俺は持ってきていた羊皮紙に授業内容のメモを行ったが、紙が高いので、メモしている人は僅かだった

(エレナは裕福な商家なのか紙を持っていた)。


 紙は高価だがオーガスト領では意外と安く入手できる。先祖の勇者が紙作りを行ったらしい。かなり苦戦したようだが。そのお陰でオーガスト領では紙も作っている。しかも羊皮紙と比べて薄い。俺もその紙を使えたが、目立つのでやめた。


 そうして授業は終わった。この後は、各自訓練を行ったり、バイトをしたり、勉強をしたり自由である。その時間を使って、俺はグリュウに文字を教えることにする。


 紙とか使うのは経済的に破滅するので、地面に木の枝で書いていく。


 「授業中にも思ったが、文字とは複雑だな」


 ちなみにだがこの国の文字はひらがなのそれだったりする。そんなことライルは知らないが。どこぞの女神は知っているだろう。


 「これらの組み合わせで意味が変わる……と思えば複雑かもしれないが、まあ慣れればそうでもないという。では頑張ろうかっ」


 「そう言うもんか」


 文字を教えるついでに今日の授業内容についても話した。


 「森に入ってからの注意点は?」


 こんな感じで俺が質問して、


 「音をあまり立てないことだろう」


 グリュウが答えるっと言った感じで復讐する。グリュウ本人は物覚えが悪いと言っていたが、案外優秀であった。まあ生きることに関してだったから、必死に覚えたのかもしれない。


 「森の浅瀬に出る魔物の種類は?」


 「ゴブリンとグレイウルフだな」


 「それだけじゃないはずだ」


 「あ、ああ。希にだが、ラッシュボアとレッドベアが出る」


 そんな感じで、本日の復習と文字の勉強は終わった。復習することで自分にもプラスにする。それに教えることで<指導>スキルが上がるかもしれない。グリュウも文字勉強できて得をする。良いこと尽くめだ。


 「なんか色々と付き合わせてしまって悪いな」


 「いや、俺にも得ることがあるんだよ。気にするな」


 頻りに感謝していたが、パーティメンバーなんだし気にするなと言って、今日はお開きにした。



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