第10話 奴は脳筋だ
その日、屋敷に戻った後に鍛錬をする。主に魔法の訓練である。光属性と闇属性の複合魔法が使えればな~っと考えて行っているが、全然できぬ。これができれば、相手が光属性だろうが闇属性だろうが関係なく吹き飛ばせる。そう考えたのだが、今のところ上手くいかないのである。
それもそうだった。この世界では光属性に適正があれば、闇属性の適正は無いっというルールがあったりする。それを女神のユニークスキルなどでぶち破ったのだが、ライル本人はそれを知らない。故に誰もやったこと無いことをやろうとしているのである。簡単にできるわけがなかった。本人は知るよしも無いが。
『(うわー、エグイことやろうとしてますねー、この人)』
(うん? 何か言ったか?)
『いえ、何も言ってませんけど、ほどほどにしてくださいよ~』
何をだ? と思ったが、取りあえず、
(ああ)
と、答えておいた。
他には夕食の席で
そして次の日になった。学校で一度集合の後、全員で森を目指す。その間にパーティごとの隊列を話し合ったりした。うちの第3パーティでは、俺が1番前で、2番手グリュウ、中央にファニー、その後ろにゲイツ、最後尾をエレナという形とした。後は場合に寄ってはグリュウとゲイツを入れ替える。攻撃重視はゲイツが前、安全第一はグリュウが前っといった感じである。まあ基本安全第一だろうな。
他にもそれぞれのメンバーの出身などを話したりした。もちろん俺は領主の息子ではなく、領都サルファ出身で父親が衛兵みたいな仕事をしていることにした。この辺りはぼかして言った。父親は都市「も」守っているんですよ。……嘘は言っていない。
ゲイツのアーガルド家は法衣準男爵の家で元は王都に住んでいたが、3代前の当主からオーガスト伯爵領にある城砦都市クリフトに生活の場を移した。城砦都市クリフトとは聖王国の南にある国ディスコルディー連邦からの防衛拠点の一つである。基本連邦国と略される。そのクリフトで3代前から士官として働いているらしい。普通に領軍に応募して成り上がった叩き上げである。しかしこの役職は世襲できない。それでも代々実力で役職を得ている(毎回同じ役職ではないが)。現在はクリフト防衛隊副隊長である。それなのに巷では脳筋貴族と言われている。
「父上は、脳筋貴族と言われてた方が都合が良いと言っていたな。俺にはその理由は分からんが」
((((『ゲイツは脳筋だ(ね)』))))
女神も含めて皆の心が一つになた瞬間であった。
ゲイツの装備はさすが貴族出身なだけあって良い装備であった。胴体部分は金属製のブレストアーマー、それ以外は固い皮のレザーアーマーだ。兜もちゃんと装備している。そして主武装の質の良さそうな大剣を背中に背負い。他に副武装の剣も腰に差している。ただ大剣が場所を取るので、それ以外は肩掛けの袋一つだった。おっと、腰にナイフがあったな。結構な武装だ。学校へはディレンバに住んでいる親戚の家から通っている。
グリュウはディレンバ周辺の村出身であった。村では農業や狩猟の手伝い、他に小物作りなどをしていたらしい。そして13歳に村を出てディレンバで冒険者に。そこで同じ村出身の冒険者に勧められてこの学校に入ることになったらしい。彼は学校の寮で生活している。
グリュウの装備はお金が無いとハッキリ分かる。皮の盾にレザーアーマー……ゲイツのと比べると質がかなり落ちる。それに片手用の短槍だ。盾役が兜を着けていないのは怖いな。お金が貯まったら買わせよう。他はリュックを背負っていた。副武装? そんな物は無いっ!
そしてエレナはディレンバの商家の出身である。エレナの実家ではアクセサリーや小物、衣服、宝石などの取引が中心であるらしい。テスロット商会と言い、家名を授けられている、結構大きな商会である。小さい頃から自由に憧れ、家の都合での結婚とかが嫌だったため冒険者になったという事だった。槍は小さい頃から道場で学んでいたらしい。実家の手伝いもしていたため、交渉事などは任せろとのことだった。学校には実家から通っている。冒険者になること自体は両親には反対されていない。
装備は良い質の槍で、槍の先が少し長く、斬りつけることもできるようになっていた(矛に近い物)。これで槍振り回して、石突きとのコンビネーションである。凶悪だった(経験談)。防具は質の良く軽量化されたレザーアーマーで、マントの代わりにロングコートみたいなのを着ていた。たぶんマントは邪魔なんだろう。彼女も肩掛けの袋を下げている。
最後にファニーだが、ディレンバの孤児院育ちで魔法の才能があり、魔法の師が冒険者を薦めたため冒険者を目指すことになった。まずは学校からと師が推薦してくれた。何者だ? その師とやらは……。本来12歳になったら孤児院は卒業であるが、今も孤児院から通っている。これは孤児院の管理者と冒険者学校の管理者が一緒だったため、孤児院の卒業は学校の卒業後となったのである。融通効くじゃんその管理者、っと思ったら祖父様だった。
ファニーの装備はとても貧弱である。これはお金の問題では無い。体力の問題であるっ! 彼女は非常に体力が無いため、皮の鎧すら重いのである。故に防具はローブのみである。杖も比較的短い棒に発動体を付けた感じだ。発動体とは、魔法を使い安くする魔道具の一種で、俺は腕輪として発動体を装備している。発動体は構造を大きく複雑にすることで、魔法の効果を増幅したり、魔力の消費が軽減されたりする。しかし複雑な物は高いので……。
ちなみに俺の腕輪は魔法を使う際のペナルティを無くす意味合いが強い。が、<魔力操作>が十分高いと発動体なしでもペナルティが無い。つまりは偽装用である。それに増幅用となると選択肢は杖など大きい物しかない。<生活魔法>みたいな簡単な魔法にも必要ない。彼女の場合はペナルティ回避用の発動体である。彼女はローブの下に小振りのリュックを背負っている。
最後に俺の装備は弓矢、片手剣、短剣、レザーアーマー(しょぼく見えるように偽装した)、改造マント、肩掛けの袋である。片手剣は左腰、短剣と矢筒は右腰である。弓は左肩、袋も左肩から斜めに提げている。
そんな感じで世間話をしたり、ポジションの確認をしながら森の前まで来た。
「さて、これからパーティ毎に森に入ってもらう。教官は1パーティに付き1人付くから安心しろ。緊急時は教官に従うようにな。ここからは遊びじゃない。油断したら死ぬぞ! 気を引き締めて行けっ!」
教官の言葉で少し緊張感が出てきた。そして各パーティ
勿論先頭は俺だぜ。
領都の近くにあった森と同じ、都市に近い森だが、こちらの方が深く重いと感じる。それに草も少し高いかな。森に慣れてない人には歩き難いだろう。そう言うわけで剣の準備をしておく。
ゆっくりと進んでいく。担当の教官は如何にも斥候って感じの男性だった。その人は少し遅れて付いてくる。当然だが隙が無い。気配が薄い。
森へ入ってしばらくしてから少し後ろをチラ見する。男性2人は普通だったが、女性2人は緊張気味だった。
(指揮役が緊張してるのは、あれだが。まあピクニック気分じゃないだけマシかな。なんにせよ、場合によってはフォローしよう)
『随分と面倒見が良いですね~。気に入りましたか?』
(パーティメンバーに死なれると寝覚めが悪い)
『ちぇ、もっと桃色な話が聞きたいですー。ぶーぶー』
アホテナがアホみたいなことを言ってぶー垂れてるが無視する。
さて、足下に注意しながら森を進む。そして進む。草とかが邪魔なところは適度に剣で払っていく。きっと俺の剣は今泣いている。
『草カリバー大活躍じゃないですかっ!』
この女神が憎らしい。
しばらく進むと、少し草の高さが払わなくても良い場所にでる。その中に人より小さい魔物が草を踏み荒らした痕があった。
「ゴブリンかな。数は4~5と言ったところか」
「いるのか?」
そうゲイツが聞いてきたので答えつつ、方針を尋ねる。
「少し先にな。そこで避けるか倒すかだが、リーダーどうする?」
皆が最後尾のエレナを見る。どうやらエレナがリーダーなのは、満場一致で決まったらしい。
「ゴブリン4、5体なら倒しましょう。それ以上なら撤退で」
「うん? 足跡は4、5体なんだろ?」
ゲイツが聞いてくる。ファニーも首を傾げて、疑問を抱いているみたいだったので答えておく。
「行く先で合流しているかもしれないし、もしかしたら違う魔物に全滅されているかもしれない。まあ後者は血の臭いはここまで来てないけどな」
チラっとグリュウを見ると頷いた。さすが獣人鼻が利く。2人も理由を聞いて納得した。
「では行こうか、不意打ちできそうだから、攻撃陣形で。ゲイツは俺が攻撃するまで動くなよ」
「分かってる」
そう返事があり、ゲイツとグリュウの位置を入れ替える。その後足音を消し、気配を隠しながら進んでいく。最も完全に消せているのは、俺と教官のみだったが。そして――
(いた。予想通り5体のゴブリン。ぐふふふ、俺の……いや我々の経験値になってもらうどー)
『この人、思考が悪役そのものですっ』
アホテナの突っ込みは無視しつつ、後方に事前に決められた合図を出す。5体予想通りと。そして俺は矢を番えた。ゴブリンは少し開けた場所で休憩でもしているのか、皆で背中を見せて座り込んでいる。チャンスである。
(ふはははは、まず1体じゃあああ)
『邪悪です。ゴブリンさんニゲテー』
狙いを絞り、矢を放つ。放たれた矢はサクッと1匹のゴブリンの頭を貫通した。即死である。
「だああああああ!」
ゲイツが叫びながら突貫する。続いてグリュウも前に出て、エレナもその素早さを生かし側面へ回り込む。俺は後ろに下がりファニーの直衛だ。次の矢を番えた状態で周囲に気を配る。
ゴブリンの方はと言うと、突然1体が射殺され、続けて草むらから気勢を上げながら突撃してくる人。驚きで大混乱である。そしてゲイツの一撃が1体のゴブリンを両断する。エレナの方もそれと同時に1体の喉を斬り割いていた。エレナの方が距離があり、回り込んだにも関わらずだ。速い。続くグリュウは2人から少し遅れ、混乱からすぐに復活した1体のゴブリンと相対する。たぶんコイツがリーダーかな。もう1体は未だに混乱しており、そのままエレナの石突きで昏倒された。
ゴブリンのリーダーは数合グリュウと打ち合ったが、焦りから大振りになった攻撃を、グリュウにあっさり盾で受け流され、その隙に短槍で喉を貫かれた。
実にあっけない。
「被害は……無いよね?」
「当然」
「特に無さそうだ」
「私は何もしてないですから」
「俺も初撃に矢を射っただけだしな」
エレナが聞き、ゲイツ、グリュウ、ファニー、最後に俺が返事をした。
そして昏倒させたゴブリンをファニーに剣を貸して止めを刺させた。ファニーはレベルが一番低いからである。パーティを組んでいると経験値を分配される様だが、パーティ内でレベル差があると、低い方の経験値の獲得量が減る傾向にある。そして敵に止めを刺すと経験値にボーナスが入る。そのため、今回ファニーに止めを刺させたのである。経験値獲得差の是正のためだ。
意外とみんなその辺りことは理解を示してくれた。ゲイツとか第一印象かなり横暴そうだったが、蓋を開けてみれば只の脳筋である。説明を始めれば、大抵諦めて納得してくれる。グリュウも基本難しいことは分からないって言うため、基本的に決めるのはエレナ、ファニー、俺の3人である。
「さてと、周囲を警戒しながら、ゴブリンの討伐証明部位と魔石を取って先へ進みましょ」
ゴブリンの討伐証明部位は耳であり、魔石は心臓の近くにあることが多い。それとゴブリンは繁殖力が高く、居てもメリットが無いため、見つけたらできる限り討伐することが推奨されている。そのため常時討伐依頼が出ている。っと教官殿が説明してくれた。死体も本当なら燃やした方が良いとの事だった。今回はやめておくが。ちなみに倒す手際の良さは褒めてくれた。
そしてまた森の中を進んで行く。30分くらい進んだところで、俺の<気配察知>に引っかかった。そして思わず――
「げっ」
と、呻いてしまった。
「どうした?」
後ろにいるグリュウが尋ねてくる。
「残念なお知らせです。こちらに狼の群れが迫ってきています」
お読み頂きありがとうございます。
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