第7話 俺の時代がキター

 交易都市ディレンバ。北にはアイストル子爵領、北東にはソルルーク伯爵領、東にはカイラール男爵領、それらの交易が交わる都市である。ちなみにソルルーク伯爵家はカイ兄の嫁さんの実家である。ソルルーク伯爵領は大きな湖と接しており、船を使って南東にある都市国家群と交易することができる。他国との交易品がこのディレンバにも来るのだ。よって賑わいは領都サルファ以上である。正確な人口とかは分からないが、ディレンバにはスラムもあるので人口もサルファより多いと思われる。サルファはどちらかというと周囲の農地で作った作物の集積地である。もちろん前線に送る物資の集積地の役割もあるが。


 (キター、俺の時代がキター!)


 嬉しさのあまり心の中で叫んでしまった。まあまずは言われた通り祖父様のところへ行きますか。いざ行かん代官の屋敷へ。


 祖父様の屋敷へ向かって、ディレンバの街を見ながら綺麗に敷き詰められた石畳の上を歩いて行く。本当に人が多い、賑わっている。そして代官の屋敷が見える。その対面には役場があった。様々な手続きを行う場所、そう覚えておいたらいいや。領軍の兵舎なども近くに見えた。そして――


 ……うん、まあ分かってた。屋敷の門の前で真面目そうな二人組の門番。サクッと止められたね。真面目なことは良いことだ。


 「祖父様じいさま……レイラン様を呼んで頂けませんか? 孫のライリール=グラン=オーガストが来ましたとお伝え下さい」


 そう言うと二人の門番は居住まいを正し、片方が了解の旨を伝え走って屋敷へ向かった。真面目だね。


 「レイラン様のお孫様でしたか、これは大変なご無礼を」


 そう言って頭を下げられた。これは近いうち来ること知ってたな。そしてなんかむず痒い。領都にいる連中は、普通に相手してくれる奴が多かったからな。いやもしかしたらよく知らなかっただけかもしれないが。なんかガキいるわー、くらいにしか思われてなかったのかも!? 取りあえずあまり気にしてほしくないので、


 「領主の息子と言っても三男ですから、表向きほとんど知られてません。だからお気になさらないで下さい」


 ちょっとびっくりしてたけど、いいや。威張る人が多いのかねぇ。自分の力じゃないとなかなか威張る気なれない。

 しばらくすると、門番の人が執事の人と走ってきた。この人は祖父様が領都に来たとき一緒に来てたから顔は知っている。以前あったのはカイ兄の結婚式だったから1年前だ。ちゃんと憶えている。


 「ライリール様ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらにおいで下さい」


 「フリード、お世話になります」


 「はっ、私如きの名前を覚えて下さるなんて、感謝の極みです」


 ゴメンなさい、忘れてました。<分析>使って調べました。さっき「知っている」と格好つけて、ホントゴメンなさい。一応、「顔は」って付けてたからね。


 『ふふふふふ、バカイルも悪よのう』


 (なんかキャラ変わってるんですが、アホテナ様)


 『今宵はそういう気分なのじゃ』


 (少し無理してませんか?)


 『自分だって、私に対して珍しく丁寧に喋ってるじゃないですかあああ』


 あっさり化けの皮が剥がれたぜ。


 そんなコントみたいなことをしている内に屋敷の玄関に着いた。玄関を開けると祖父様と祖母様が待ち伏せしていた。くっ強敵だ、さあどうする!? そんな事を考えていたら先手を取られた。


 「よく来たのぅ、長旅疲れたじゃろ。風呂でも入るか?」


 「あら、あなたまずはご飯でしょう。旅の間は保存食ばかりだったでしょうから」


 ゴメンなさい。作り置きしてたの食べてました。なんか心の中で謝ってばかりだな。


 『お主も悪よのぅ。いえ、お代官様こそ』


 アホテナはどうしてしまったのだろうか。少し心配になってきた。


 「いえ、お風呂は大丈夫です。昼過ぎで朝から何も食べてないので……遅いお昼ご飯頂けると」


 そんなこんなで風呂はやめて、ご飯は頂くことにした。ディレンバに着いてからは、寄り道を禁止されていたので食べ損ねたのだ。故にお腹が空いていた。食事を食べながら雑談や近況を話す。食事はすぐできて、軽い物をお願いした。すると、サンドウィッチの豪勢版がきたぜ。むしゃむしゃ。


 「冒険者学校の入学は問題ない。ただ寮の空きを少しでも多くしたいとのことで、ライルにはこの屋敷から通ってもらうことになる。それでいいかの?」


 なんか妙に祖父様が弱気である。祖父様に弱気は似合わない。何しろこの祖父様、レベルは100越えの超人である。そして父様は俺が家出るときに94ほどだった。この領地は毎年隣国と小競り合いして、しかも当主直々に出陣したりするからな。ちなみに母様は77ほどになってた。母様のレベルでホッとする。なんか感覚が狂ってきている気がする。


 「はい。父様からもそう聞いてました。むしろ学校に、住む場所にとありがたい限りです」


 「いやいや、儂らにできる事をしたまでじゃ。ライルにしてやれることは余りにも少ないからの」


 そう祖父様が申し訳なさそうに言ってくれる。オーガスト家の家訓という奴だろう。家が腐らないように、努力を怠らないようにという戒め。この伯爵領が荒れると、隣国に攻められ聖王国全土が荒れる。そうならないための自浄作用を期待しての家訓。ほんの一部しか知らないけどなっ。俺、跡継ぎじゃないし。


 「いえ、十分良くして頂いてますよ。これ以上は贅沢です」


 その事は分かっていると、言外に伝えてみる。


 「そうだの。そう思える人間に育ってくれて儂は嬉しいよ」


 その後の話題は世間話がメインだった。中には乗り合い馬車でも忠告されたような。スリが多いなど治安の話もあった。なんだかカイラール男爵領から、食うに困った層が流れてきてスラムに住む人が増えているそうだ。あそこの家とは確執があるため、下手に文句を言うとこちらが領民を拉致したと言われかねないらしい。もう失う評判などないから無敵だそうだ。質が悪い。祖父様も苦々しく言っていた。


 治安に対しては現状は、衛兵の巡回を増やすくらいしか対策はない。ただこれから田植えや狩猟など仕事が増える時期のため、そこまで悲観しなくて良いそうだ。その間に冬に向けての仕事の対策を行う。まだ計画を練っている状態らしいが。


 ちなみに現在は3月末である。4月から学校が始まるのだ。この世界では、1週間は6日で、1ヶ月は5週の30日、それが12ヶ月で1年。そして12月と1月の間に、年始の祝いの日として5日ある。計年間365日である。1週間の構成は、火、水、土、風、闇、光と曜日があり、光の日が祝日(と、言ってもほとんどの職は休みが無い)である。


 そんな感じで食事は終わり、今日は久しぶりにふかふかのベッドで睡眠をとることができた。固い地面にマントは辛かったぜ。

 冒険者学校の入学式は5日後の火の日、それまでに一度学校を見に行って、それから都市内の散策と楽しみが一杯だ。



 次の日、朝食を食べた後、街へ出陣する。


 取りあえず市場に行こう。そう思ってメインストリートを歩いて行く。うん、市場の場所聞くの忘れてた。しかも冒険者学校の場所も聞き忘れた。そう言うわけで、すごすごと屋敷にUターンした。

 屋敷に帰宅後、執事のフリードさんに場所を尋ねたところ、案内してくれることになった。俺よ……初めから頼めよ。


 そして馬車を出してもらって、まずは学校へ行ってもらう。実際に通うときは徒歩で行く。そんなに遠くないらしいし(遠くてもトレーニングと思って走る)、何よりも目立つのは避けたい。学校の入学書類にも、家名は書かないようにしてもらったくらいだ。家の助けはどうしてもという時のみだ(頼らないとは言わない、言い切れない)。後、学校の下見するに当たって少しだけ変装しておく。貴族らしい出で立ちと髪型にして、入学するときの自分と差を付けておく。これだけで印象が変わりバレ難いはずだ。


 冒険者学校は城壁の近くにあり、出入り口の門にも近かった。これは都市外での訓練が多いからだろう。学校の近くに寮もあった。一週間前から寮は解放されており、早めに到着した人が入寮していた。屋外の訓練場では武器を振っている人も居た。後は少しでも装備代とか稼ぐために、狩りか採集にでも行くのかフル装備した人が学校の向かいにある冒険者ギルドに向かっていた。


 「フリードさん、ディレンバには他にも冒険者ギルドはありますか?」


 疑問に思ったので、フリードに尋ねてみる。


 「はい、ありますよ。ここは西ギルドですが、他に北と中央があります。西は近くに森があって初心者が多いです。北は他領への護衛依頼が多く、中央は領内の依頼が多いですね。それと使用人に『さん』は不要でございます」


 癖で付けてしまったら、怒られちゃったよ。


 「すまない、うっかり付けてしまった。以後、気を付ける」


 「こちらこそ申し訳ありません。丁寧なところもライル様の味だと存じています。無理に直す必要はありませんので」


 話が分かるじゃないか。アホテナとは違うな。それでも他の人がいる場合は使用人に「さん」付けは控えた方良いだろうね。


 その後、近くにある西の冒険者ギルドにも入ってみる。中の様子は領都にあるギルドと変わらなかった。今回の目的は様子を少し見ること、後はどのような依頼があるかの確認である。登録はしないのかって? それは12歳の時に領都で冒険者登録はしてある。ランクF、一番下のランクで見習いと言われている。冒険者学校出ることでDランク(初級者)になる。


 掲示されている依頼を見ていると、フリードが言っていたようにほとんどが都市を出てすぐの森関係である。他には都市周辺の依頼があるくらいだ。いや都市内の依頼もあった。主に雑用だが。

 執事のフリードが後ろに控えている所為か、ギルド職員がこっちに注目している。依頼ボード見ているから冒険者だと思ってくれているはずだが……はっ、今日の服装は旅装ではなくまともだった。貴族の坊ちゃんが無茶しないか、冷や冷やしているのかもしれない。

 フリードに縋るような視線を向けてるしな。無茶言い出したらお願いですから止めて下さいと。大丈夫よ。今日「は」依頼受けないから。

 視線に耐えられなくなったので、冒険者ギルドからは早々に撤退した。


 して、次は市場である。人の賑わいがヤバイ。こんなに多くの人は初めて見た。


 『ふはははは、見ろ、人がゴミのようだっ!』


 なんか女神が邪悪になってるが、無視しよう無視だ。

 他国の交易品もあるので、見たことない品も多い。俺の目的は食料の補充、面白い武器や防具があればそれ、矢、普段着(古着)、特に普段着は貴族が着るような物がほとんどだ。領都では買いづらくてな。食料に関しては、明日以降一人来たときに買う。異空間庫に放り込むからだ。矢もそうだね。今日は普段着と面白い武具探しかな。


 『あのぅ、反省してるので無視しないで下さい……』


 そうと決まったら、露店街ではなく、商店街の方へ案内してもらう。古着は商店で買った方が良い。露店売りされているようなのは、ボロボロだったり、ヨレヨレだったりする。お金の無い人はそれら安物を買ったりする。幸い俺はお金があるので、まともな古着を買うことにする。どれも似たようなデザインだったので、サイズの合うのを4着ほど買った。


 『放置プレイはいやあああ』


 その後は、露店街を歩く、面白い武具を探すなら露店だ。鍛冶屋は基本売れる物を置くからだ。それに対して露店はたまに珍しい物があったりする……はずだ。と言うかあった。カギ爪とか鍛冶屋にはまず置いていないだろう。俺はいらないが。だからそんな縋るような眼で見ないでくれ、露店主よ。


 『今私はカギ爪になった気分です。誰にも見向きもされない。可哀想なカギ爪。まるで私自身の分身みたいです』


 とにかくカギ爪の良さを必死に説明する露店主を置いて次を探す。なんだよ、獣人の気分が味わえますとか。アピールに無理があるだろっ。それに獣人をバカにしてんのか?


 『今なら更に、私の気分も味わえます。スルーされるこの気持ちを――』


 (いい加減うるさいがなっ!)


 『やったー! 反応があったー! ありがとうございます~。私今ちょっと幸せな気分です』


 (お、おぅ。そうか、それは良かったな)


 コイツの幸せって一体何なんだろうな……。とにかく、放置し過ぎるのは良くないと言うことが分かった。たまにテキトーに相づちでも打とう。


 それからも露店巡りをするが、三節棍や細剣、刀などがあった。三節棍はこれ使うくらいなら普通の棒にする。細剣は独特の技術が必要で習う人が居ないため無理。刀は斬撃特化した武器だが、これも専用の技術が必要である。


 (習得するのが簡単で、変わった武器ねぇなー)


 『そんな都合の良い物、滅多に無いと思いますよ』


 アホテナの言う通りである。後はできの良い矢が売っていたので、それを買って屋敷に帰った。

 日用品は屋敷に用意されているしね。


 そうして、次の日からは一人で出かけ、食料と矢を買い込んだり、珍しい鉱石を買ったり、今まで狩った魔物の素材(狩った数を誤魔化してた分)を売ったりして過ごした。



 そして遂に冒険者学校の入学の日となった。訓練場の一角で皆が整列している入学者は48人、そのうち32人が男性で、16人が女性だった。意外と女性が多い。後に聞いた話になるが、貴族の三女以降や商家の次女以降は嫁ぎ先に期待できない。故に自分で切り開く、もしくは自分で良い人を見つけるため、冒険者を目指すことが多いらしい。家を出るにしても自衛する力を持つという意味もある。


 そんなことを考えている間に校長短い挨拶が終わり(内容は冒険者は危険な仕事です。身体が資本なので怪我するな。とかそんな感じだった)、次ぎは魔道具によるステータスの確認が行われる。これは主に現在の自分の能力を客観的に見る物で、在学中に何を伸ばすかを考える参考にするためである。学校側としてはパーティ分けの参考に使う。


 事前にどういった魔道具かは調べて置いたので、対策は万全だ。今回使われる魔道具では、人族の一般成人の平均が基準となっている。この話を聞いたとき、とある女神は、


 『バカイルだとオールSですかね~。これは目立ちまくりですね~。冒険者学校に入学、そして俺つえー、チートすげー、無双するぜ、ですか? 私はそう言うお話大好きなので問題ないですよ。他の生徒をボコボコにして、お爺ちゃんに頭痛をプレゼントしましょう!』


 そんなこと言われると、余計目立ちたくない。できれば領内に居る間は静かに日々を過ごしたい。いずれは高ランクの冒険者になる……予定である。それに冒険者の基本知識や常識、経験などは全く無いのである。変に目立って学びにくくなるような環境はご免である。


 そう言うわけで自分のステータスを、



名前:ライル

職業:冒険者見習い  種族:人族

年齢:14歳  性別:男

クラス:斥候

レベル:15

状態:健康


ボーナス ()内はBP補正/スキル補正。ユニークや固有は除く。

耐久:C

魔力:C

体力:B

筋力:D

器用:C

敏捷:B

精神:C

知力:C

感覚:B

幸運:A


スキル:剣LV3、短剣LV3、格闘LV2、弓LV4、投擲LV2、防御LV2、受け流しLV1、魔法抵抗LV2、ランニングLV2、鍛冶LV1、交渉LV2、計算LV4、鑑定LV4、看破LV2、気配察知LV3、隠密LV3、探索LV3、罠LV3、遠見LV2、軽業LV2、魔物知識LV3、動植物知識LV3、調理LV2、解体LV2、魔力回復促進LV4、魔力操作LV4、風魔法LV3、生活魔法LV3、強化魔法LV3、魔力強化LV2。


残りスキルポイント:5

ユニークスキル:第六感。

固有スキル:なし

称号:なし



 と、なるように<隠蔽>スキルで調整した。ふははは、アホテナの読心防御してたら、無駄にMAXになった<隠蔽>スキルの力を見るがいい! いや、<隠蔽>してるから見えないんだけどね。気分だよ、気分。こんな感じで安物の魔道具の鑑定効果を誤魔化すなど朝飯前である。


 能力は平均的な斥候、メイン武器は弓で接敵されると剣と短剣の二刀流で戦う(理由はカッコイイからだ)。魔法は使えないと不便なので、単一属性の魔法使いと言うことにした。


 魔法使いとは状況で属性の使い分けができないと、一人前とは言えない。火属性だけ、土属性だけでは使い勝手が非常に悪いのだ。だが、中には一つの属性しか適正のない人もいる。そう言う人がその後、使える属性が増えることは非常に希である(ほぼ無いとも言う)。逆に初めから二属性以上使える人は、成長と共に使える属性が増えることがある。得意不得意はあるが。

 だから単一属性の魔法使いは魔法使い未満として扱われる。要するに魔法使いだと目立つので魔法使い未満にしたわけだ。


 「この魔道具は成人した人族が基準となっている。だから成人未満の人族や他種族は低く出たり、大きくでたりするが気にするな。自分が訓練でどう変わりたいか、どこを伸ばしたいか、その目安にしろ。そして目標を持て!」


 (目標かぁ、何が良いと思う?)


 アホテナに聞いてみる。


 『そりゃ世界征服ですよ。もしくは人類撲滅とかどうですか?』


 (お前に聞いた俺がバカだった)


 『まあ、バカイルだからしょうがないね~、バカイルだから。あっ、これ大切なことなので二回言いましたっ』


 おう、これが殺意という奴か、いつかこのダ女神ぶん殴るっ! そうか! これが俺の目標という奴かっ!


 (俺の冒険者学校での目標は、アホテナをぶん殴る! これで決まりだっ!)


 『ちょっ、それはやめてください。ゴメンなさい、あんまり反省してないけど反省しますから。仕方無いですね、まともに考えましょう。考えてあげましょう。そうですね……ダラケイルになるとか如何ですか?』


 (やっぱお前ぶん殴るっ!)



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