第2章 交易都市ディレンバ、冒険者見習い編

第6話 さあ旅立ちの時だっ

 遂に14歳になった。旅立ちの時である。


 だがその前にこの4年間にあったことを一気に説明しておこう。できる事は色々やった、全部やる勢いでやった。まずは鍛冶について、<火魔法>と<土魔法>が結構使えるようになったので、街にある工房のお手伝いと引き替えに少し技術を教えてもらった。領主息子という強権を発動させたぜ。初めは冗談で言ったんだけどね(勿論本気にされた)。ホントゴメン。<鍛冶>自体はギリギリ及第点を貰えた。


 そして<魔道具製作>もやってみた。最初は既存の簡単な魔道具を作ってみたが、それでもかなり苦戦した。魔力を込めたら水が出る魔道具にあんなに苦戦するとは……魔石を10個以上ダメにしたぜ。そこで考えた。俺は魔法使えるんだからそれ付与することはできないかと……。結果、<魔法付与陣>というスキルを得ることでできるようになった。ただこれには欠点があり、自分が使える魔法しか付与できない(当たり前)。よって、魔法使いで魔道具製作(<魔法付与陣>の前提スキル)を使える人でないとできない。そんな希少技術だったりする。そんな事を話してたら母様が興味を持って、<魔道具製作>の前提スキルである<細工>から頑張り始めた。


 この<魔法付与陣>を使った付与なら簡単に魔剣が作れる。ただし付与機能を使うには、使用者の魔力が必要という欠点があったためお蔵入りとなった。そんな機能使うくらいなら自前の<魔技>で事足りるという……。それに気付いたとき、少し涙がでたね。まあいつかリベンジするぜ。


 生産系スキルが続くが、次は<錬金術>だ。これも頑張った。<錬金術>で魔法薬ウハウハ作戦だぜーと意気込んだのは良いが、結果は調合失敗して毒煙が出て死ぬかと思った。アホテナが真面目に慌ててた。その時いずれ毒耐性を習得しようと誓ったね。そんな分けで、これも街にいる錬金術師さんを頼りにした。そして調合には<魔力操作>が重要という事が分かった。まあ魔力ドバーだったから操作以前の問題だったけど。魔力を馴染ませながら調合するらしい。アホテナはドバーで大丈夫って言いやがったんだが……危うくまたアホテナに殺されるところだったぜ。まあ信用した俺がバカだったんだけどな。って言うと、『さすがバカイル! バカですねっ』とか言ってきて軽く殺意が沸いた。


 他には12歳になってからは、近くの森へ行って魔物を狩ったりして経験値を得た。実はそれはついでで、魔石を手に入れたかったのだ。主に<魔道具製作>と<錬金術>で消費するために……。そのおかげでレベルが上がったから良しとしよう。


 近況としては、去年カイにいが結婚した。お相手はソルルーク伯爵家のご令嬢。外務閥の領地貴族だ。南東の都市国家群寄りに領地を持っている家である。実は隣の領地だったりするが、名前を聞いても分からなかった。そういった勉強はあまりしてこなかったため、それ以後1年間だけだがするようになった。話を戻すと、もし困ったことがあれば、お互い支援できる距離と言うのは重要だ。故に隣の領地と仲良くやるのは良いことだ。カイラール領は決して見てはいけません。

 そしてエーシャねえ、クリス兄は今も王都で勉強中である。エーシャ姉はなんだかゴタゴタしてるみたいだけど……。他にはリュンカ姉が王都から戻ってきて、代わりという分けではないが、ピューラが王都の学院へ行った。異母弟のマルク? あいつはよく知らん。今まで通りだ。


 そう言うわけで、現在オーガスト家本邸玄関である。


 「では、そろそろ」


 「行ってらっしゃい。戻って来たくなったらいつでも戻ってきなさい」


 母様が少し名残惜しそうに言ってくる。その母様も今年で38歳か……。全然老けてねーな。父様は今年40歳、二人とも全然若々しい。


 「ほれ、餞別だ。困ったことがあれば連絡しなさい。それとディレンバに着いたら、真っ先に祖父とうさんの所に行くように。寄り道するんじゃないぞ」


 父様が念を押して言ってくる。心配性だなぁ。こういう所は母様の方が肝が据わってるね。それと餞別の袋はたぶんお金だろう。自分でも魔物の素材とか売って貯めてたけどなっ。冒険者学校は試験さえ通れば無料だ。俺は祖父様の推薦枠を使っちゃったけどねっ。コネは偉大なり。その代わり寮の空きを一つでも多く作るためと言うことで、祖父様の屋敷から通いとなる。


 「分かってますよ。そんなに心配しなくても。それと餞別ありがとうございます」


 「たまには帰ってくるように」


 カイ兄が言ってくる。その後ろにはリュンカ姉が居て――


 「気をつけて行ってらっしゃい。お祖父様にもよろしく伝えておいてね」


 「分かりました。それでは行ってきます」


 「いつでも戻ってくるのよ~!」


 母様の声を背中に受けつつ、俺は未知の世界へ一歩踏み出した。



 領都サルファから交易都市ディレンバ行きの乗合馬車に乗る。馬車で3日。馬車に揺られいる間は暇だ。


 (おい、アホテナ暇だぞ)


 『そんなこと言われましても~。私みたいに漫画でも読んだら如何です?』


 (まんが?)


 『おっと、バカイルの住んでる世界にはありませんでした。失敬失敬』


 イラッとする言い方である。これ以上相手しても煽られるだけである。ここは諦めて外の景色を眺める。そうは言ってもこの馬車には幌があり、前方は幌を捲らなければ見えない。よって景色が見えるのは後方だけである。なので遠くに領都サルファが見える。できればこれから行く先を見たいものだ。それでも遠のいていく領都サルファを見て、次ぎ戻ってくるときは少し人として大きくなって戻ってこようと思った。


 「少年、領都の外は初めてかい?」


 向かいに座る、冒険者っぽい男性から声を掛けられる。この男性は傷の付いた鎧を着込み腰掛けに剣を立てかけている。っぽいとか思ったけど、どう見ても冒険者である。


 「そうです。領都周辺には出たことがありますが」


 「ふむ、ならばこれから行く都市、ディレンバではスリに気を付けると良い」


 領都は大変治安が良く、スリとか居ないんだよね。そもそも大都市にしては珍しくスラムがないからな。仕事を探せばいくらでもある。他にも穀物の値段が安い。冒険者みたいな不安定な職業の人が少ない、兵士が多いなど、考えれば色々あるな。毎年隣国と小競り合いがあるので、孤児院とかもちゃんとあるしな。この辺りは先祖の勇者が、かなり梃子入れしたらしい。


 「スリですか?」


 「ディレンバは交易都市だ。色々な土地の人がやってくるし、捨て子も多い。孤児院はあるが、孤児院に入らない子供も結構いる。スリが成立するのも都市外の者が多いからな。ディレンバに住んでる奴にやると報復が怖いから、見慣れない奴を狙ってくるのさ。なので気をつけろよ」


 「はい、気を付けます。ご忠告ありがとうございます」


 とは言ったものの俺には異空間庫がある。お金とかはほとんどその中、父様にもらった餞別もだ。ちなみに餞別は大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨が各10枚ずつだった。一般家庭の年間生活費が金貨5~7枚……父様持たせ過ぎでしょ。ちなみに乗合馬車は銀貨2枚だった。

 そして俺の出で立ちだが、少し長めの黒っぽい銀髪で14歳になった今でも、まだ可愛らしい感じがする顔。見た目安っぽいマント、その下は真新しい皮鎧、立てかけてある安っぽい剣。どう見ても新人冒険者って感じかなぁ。もっと男らしくなりたいぜ。身長はまだ160センチと低い。父様185センチ、母様は160センチちょいである。カイ兄は180センチちょい、クリス兄は165センチちょいで止まった、本人涙目であった。エーシャが意外で170センチもある……。クリス兄、凹むなよ。他はマルクが俺より少し高いくらい、リュンカは俺と同じくらい。ピューラはかなり低かった、12歳で130センチとかだったはず。女性の方が成長期が早いにも関わらず……だ。ちなみにちゃんとした平均では無いが、一般成人男性の平均身長は165センチほどである。逆に貴族は170センチ越えである。


 身長の話は置いといて、一応他の物は異空間庫の中に色々と入っている。便利グッズや弓矢、ちゃんとした剣などなど。そしてマントも見た目安っぽいが、対魔法、耐物理の魔法が付与されている、同時に発動できないが……。まだ改良中なんだよ。そのうち暖とれたり、冷気出せたりするようにするんだ。いつになるかは分からんがな。


 ついでに現ステータスを確認してみる。



名前:ライリール=グラン=オーガスト

職業:冒険者見習い  種族:人族

年齢:14歳  性別:男

クラス:魔剣士

レベル:30

状態:健康


ボーナス ()内はBP補正/スキル補正。ユニークや固有は除く。

耐久:+680(+0/+96)=776

魔力:+1000(+0/+277)=1277

体力:+510(+0/+127)=637

筋力:+75(+60/+71)=206

器用:+65(+0/+110.5)=175.5

敏捷:+120(+20/+90.5)=230.5

精神:+85(+30/+117)=232

知力:+155(+20/+177.5)=352.5

感覚:+120(+0/+148)=268

幸運:+30(+20/+4)=54

残りボーナスポイント:0


スキル:(魔術<影/水/風/闇/地>LV10/8/8/6/6)剣LV6、短剣LV9、槍LV4、盾LV2、格闘LV6、弓LV6、投擲LV8、杖LV1、防御LV3、受け流しLV2、見切りLV4、先読みLV2、魔技LV4、体技LV4、身体強化(魔/☆体)LV4/4、魔法抵抗LV8、挑発LV4、威圧LV1、不動LV2、剛腕LV1、戦意LV3、強打LV3、先制LV2、加速LV3、ランニングLV6、ジャンプLV3、礼儀作法LV2、ダンスLV1、裁縫LV4、乗馬LV3、指揮LV2、指導LV1、戦術LV2、経営LV3、政治LV1、鍛冶LV5、木工LV2、細工LV5、☆錬金術LV3、☆魔道具製作LV3、魔法付与陣LV4、交渉LV4、計算LV8、鑑定LV8、看破LV3、気配察知LV8、危険感知LV9、魔力感知LV10、隠密LV10、隠蔽LV10、追跡LV3、探索LV3、変装LV1、偽装LV3、演技LV8、鍵開けLV4、罠LV8、待ち伏せLV2、遠見LV2、軽業LV2、スリLV1、登攀LV2、水泳LV2、魔物知識LV5、動植物知識LV7、薬学LV6、サバイバルLV2、演奏LV1、調理LV4、絵画LV1、地図LV1、診察LV4、尋問LV3、解体LV5、耐久魔力体力回復促進LV1/7/4、魔力回復量上昇LV9、瞑想LV4、集中力LV3、魔力操作LV10、属性魔法<火/水/風/土/☆闇/光>LV<5/6/5/6/7/5>、☆複合魔法LV5、生活魔法LV8、☆治癒魔法LV5、強化魔法LV5、収納魔法LV4、耐久魔力体力強化LV3/3/3、個別耐性<毒4/麻痺4/石化4/熱3/冷気1/混乱3/睡眠2/恐怖2/呪詛2/苦痛2>、☆全固別耐性LV2。


残りスキルポイント:5

ユニークスキル:女神アルテナの加護、第六感、魔法の素質、分析。

固有スキル:女神アルテナの寵愛、女神アルテナの贖罪、魔法の才能、暗殺者の心得、転生者、転生者への加護、フォルテナの守護。

称号:なし



 ふはははは。スキルの多さだけは凄いだろう。やたらLV1や2が多かったりするが気にしてはダメだ。レベルも2年間魔物狩りやスキル上げで20上がって、LV30になったぜ。ちなみにカイ兄が16歳の時レベル32だった。カイ兄も王都で魔物狩りして、小遣い稼ぎしてたらしい。やりおる。


 SPはほとんど耐性系に消えた。調合失敗時の毒煙がトラウマでね。他に治癒魔法もSP使って上げた。治癒魔法は使えること秘密にしてるせいで使う機会ないからなっ。他は身体強化と体技を上げた。普通に上げるの辛くてな……。ちなみに普通の人はスキルチェック(俺はステータスチェックだが)を行うことができる。そこからSPを振り分けることで、SPによってスキルを上げることができるのだ。他の人はステータスまでは確認できないらしい。とは言っても、俺のステータスチェックも<分析>も基礎ステータスは不明だ。よって過信は禁物だな。


 そんなことを考えている間も馬車は進んでいく。そしていつの間にか日が暮れの時間になった。本日は平和な行程だった。明日はどうだろうか? とにかく今日はこの小さい宿場町のはずれで野営のようだ。そして俺は夕食を異空間庫から出すため、他の乗客が集まっている所から離れる。


 (さすがにこれバレるとやばいからなぁ)


 『そうですね~。できたての状態で保存されていますからね~』


 (周囲の目を気にすると使いづらい)


 『なら使わなければ良いのでは?』


 (こんな便利なモノ使わずにはいられない)


 『難儀ですねぇ』


 まあ、隠れて使いますか。暖かいご飯を食べ終わった後、皆の集まる馬車の近くへ行き、その隅っこでマントにくるまって寝ることにした。実は昨日ワクワクして眠れなかったのだ。子供かよっ? 14歳は子供だよっ! そんなアホな一人漫才を、頭の中でしている間に眠ってしまった。

 その後2日とも平和で盗賊もでず、魔物は遠くで見かけたくらいだった。オーガスト伯爵領内は街道の治安が大変良いらしい。よく領軍が街道闊歩してる所為らしいのだが。それに夜も1日行程ごとに宿場町があり、そこで安全に夜を明かすことができた。


 そして前側の幌を捲ってみると、遠目に交易都市ディレンバの城壁が見えてきた。


 「昼ぐらいには城壁の中に入れると思うぜ」


 御者の人がそう言ってきた。


 「城門通るのにあまり時間が掛からないんですね」


 「主にチェックされるのは荷だ。乗合馬車には荷がほとんど無いし時間が掛からない。それに商人とは別の受付なのさ」


 「なるほど。それなら分かります」


 この都市を出入りする商人が多いから、一般人、商人、貴族と別の受付をしているらしい。

 御者の人と話ながら、もうすぐそこのディレンバへ着くのが待ち遠しいと思うのだった。




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