第17話 新しい体制
ソニア操るミストラル機が上昇を始めた。
「隊長。全方位クリア。20カンバーグ以内に飛影なし」
第3飛行隊は定例の哨戒飛行に出ている。新たな索敵士としてソニアが配属されてから1週間となり、役割分担が更新されていた。ソニアは第3飛行隊にそれなりに溶け込んでいる。
「了解。そのままの方角を保って飛行を継続」
アリエッタが指示を出す。今でも、ソニアがソーントンの娘ということについては思う所がある。それでも、なんとか心の整理がついたのか、冷静な隊長としての顔を取り戻していた。というよりは、正確には取り戻さざるを得なかった。
「隊長~。方位マイナス15に何かい」
シーリアの言葉にソニアが言葉を被せる。
「方位マイナス15に竜蟲が3体。こちらに向かって急速に接近中!」
「ちょっとぉ。人が見つけて報告していたのにしゃしゃり出ないでよ」
「今は索敵士は私だし、それは私の仕事でしょ」
「私よりも見つけるの遅かったくせに」
「見つけてたわよ。ローリィに何か確認してただけ」
ソニアの使い魔はミミズクのローリィだった。遠くの物まで見える反面、視界が狭く首を回転させる必要があるため、マスターとの連携が欠かせない。マスターが異常を検知すると使い魔に伝達し、使い魔がその対象を観察した結果を報告することで遠方の詳細な情報を得ることができるのだ。
「何かを確認するより、報告が先でしょ」
「竜蟲ってことが分からなきゃ、対応方法が違うじゃない」
哨戒飛行中に何かに出会った際に、先任のシーリアが黙っていられず先に見つけて報告し、それに数瞬遅れたソニアが反発するという事態が数回起こっていた。これは慣れの問題であり、ソニアが劣っているということではない。
面倒なのは、別にシーリアにしてみれば嫌がらせをしているわけでは無く、習慣から抜け出せないというだけの話であるということだった。4機で編隊を組む飛行隊は空における最大の戦力ではあったが無敵という訳ではない。不意を突かれれば思わぬ被害を受けることもあった。
隊の目が複数あるということはそれだけでアドバンテージになることでもあるので、本来は歓迎すべきことである。ただ、その度に水晶体を通じて賑やかな応酬で満たされるのはやかましいことこの上ない。アリエッタはその間に入るだけで神経を使うことになり、自分の感情を差しはさむ余裕など無かった。
ソニアの発見した竜蟲は大きな複眼と大きな羽を4枚備えたほっそりとした体形で高速で飛行でき、鬼虻に負けず劣らずの脅威である。細い手にも関わらず力も強く、顎の力は箒に施した装甲も噛み切ることができるため、旧型の箒だと結構危険な目にもあう。
タイタンやギガントなどの重装甲機を凌駕するスピードも出るので、相手の数にもよるが、組み合わせが悪いと思わぬ苦戦をすることになった。
「ハンナぁ。あとはよろしく~」
シーリアはあっさりとギガントの進路を変えて、ゆっくりと回避コースを取り始める。
ハンナは鐙を踏みしめて空高く上昇を開始する。竜蟲と対峙するには死角である後方から接近するのが定石だった。可能ならば下側から接近できればなお良い。ハンナは機体を推進軸に沿って回転させ背面飛行のまま、竜蟲の上空を高速ですれ違い、高度を下げながら宙返りをこなして箒への力の供給を最大にする。コーラルⅢの最高速度なら容易に竜蟲の後方に付けることができた。
教科書通りの機動で下方から接近しつつ、ギガントを追尾するのに夢中の竜蟲に対して続けざまの発砲で2体を撃破する。だが、3体目は透明な羽をはばたかせるのをやめ、急降下を開始した。その上空を通り過ぎたハンナは舌打ちをする。
「隊長。そちらの方向に向かった最後の1体はお願いします」
「任せて」
アリエッタはハンナが上昇を開始すると同時に、シーリアと反対の方角に降下をして山の稜線ギリギリを飛んでいた。ハンナから逃れるように落ちてきた最後の竜蟲の横合いから突っ込むと羽の付け根を吹き飛ばす。竜蟲は錐もみしながら森の中へ落ちていった。
1ミトもかからず竜蟲3体を撃墜する腕前にソニアが驚嘆する。
「うそっ。早すぎる」
「ウチの隊にはハンナがいるからね。ざっとこんなもんよ」
「逃げてただけのシーリアが威張ることないじゃない」
「逃げてたんじゃなくて囮になってたの!」
「ハンナぁって情けない声出してたじゃない」
「うるさいわね。私とハンナはそういう関係なの」
「どういう関係よ」
「二人の秘密だもんねぇ、ハンナ。だいたい、ミストラルに乗ってるのに少しぐらい援護したら? 私はこのデカブツなんだから」
「援護しようとしたら、もう撃墜してたんじゃない。まさか、こんなに手際がいいとは思わないでしょ」
「二人ともいい加減にしろ」
アリエッタがついに割って入る。
「ハンナ、ご苦労だった」
「いえ、全部落とせずすいません。思ったより反応のいい奴でした」
「2体やれば十分だ。よし、当初の飛行ルートに復帰して哨戒を続けるぞ。ソニア、まだ居るかもしれないから気を緩めるな」
「了解しました~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます