第15話 詰問
アクス大佐はハンナ達を睨みつけていた。
「どうしてバーリンゲンのシュッフェン城が無くなったのか、あなた達が良く知っているんじゃないかしら?」
「そうなんですか?!」
ハンナは目と真ん丸に見開き、口を大きく開けて驚愕の表情を作ってみせる。
「ひょっとしたら、お引越ししたのかも」
シーリアがいい事を思いついたというように言う。
「大佐殿が小官たちが知っているとお考えになった理由はなんでしょうか?」
生真面目な姿勢を崩さずにアリエッタが質問する。
「あなた達以外に、大きな石とコンクリートの塊を吹き飛ばせる存在が居るわけないでしょっ!」
「第1から第5までの飛行隊ならできるんじゃないですかね。頑張れば第6でもやれるかも」
第1から第5までの飛行隊の実力に優劣は無い。第6以下は新人の構成比が高く進攻作戦には不安が残った。シーリアは自分の発言に混じる不適切さに気づいて慌てて付け足す。
「あ、でも、うちらは今3人だし、ちょっと厳しいかも。あ、そうだ。保管してた魔法弾の封印が悪くて、どっかんってしちゃったのかもしれないですね」
「小型の隕石が落下した可能性もありえます」
「超大型の岩石魔獣が出現したのかもしれませんね。こちらも警戒を強化しましょう」
あくまでしらを切りとおそうとする第3飛行隊の面々にアクス大佐は手にした書類を示した。
「陸軍の情報部からの報告書よ。ドロイゼン中枢部に送り込んであるスパイからによれば、先日、ファハール空軍によりシュッフェン城が吹き飛んだということでもちきりだそうよ。ついでに空中戦艦1隻を完全破戒。その他兵器の損害も多数だそうね」
アクス大佐は目の前の顔を見回すが、皆平然としている。
「前後の情報を繋ぎ合わせると、あなた達が西側空域の哨戒飛行に出た日と一致するのは偶然なんでしょうね?」
「そりゃあ、毎日どこかしらには飛んでますから」
「格納庫に保管してある爆弾の数が足りないのは?」
「あー。報告忘れてる分があるからじゃないかな。バーリンゲンの時とかも忘れちゃってたかも」
「報告はきちんとするように言ってるはずだけど」
「これから気を付けます」
いつものように誠実そうな表情で善処を約束するハンナだったが、言ってる方も言われてる方もその発言を全く信用していなかった。しおらしそうな態度に騙されてはいけない。なんと言っても魔女なのだ。特にハンナは性質が悪い。飛ぶことと牛乳にしか関心が無いように見えて、爆撃の腕はピカ一だし頭も悪くない。
戦果だけで言えば、もう大尉になっていて当然だし、少佐でもおかしくは無かった。ただ、昇進に十分な功績を上げると何かしら、突拍子もないことを始める。ヘドセンバークの戦いでも装甲獣4体を撃破して大尉にという話が出ているところに隊から離脱して幼竜を送っていくという勝手な行動を取って沙汰やみとなった。
アクス大佐は、ハンナはわざと昇進しないようにしているんじゃないかと疑っている。昇進して飛ぶこと以外の仕事が増えるなんてまっぴらと考えているらしい。別にハンナに限ったことではなく、真面目に任務をこなすアリエッタの方が変わり者と言えた。
アクス大佐はふーっとため息をつく。
「まあ、いいわ。ドロイゼン空襲任務は解除されたわけじゃないから、時間がかかったにせよ達成したことに陸軍から文句は言わせない」
「なら、いいじゃないですか」
シーリアは相変わらずあっけらかんと言う。
「良いわけ無いでしょう。どこの隊の実績かソーントン閣下に聞かれて私は何と答えればいいのよ?!」
「極秘ということでいいのではないでしょうか」
「どういうこと?」
「ですから、この基地のことは大佐に権限があります。別に全てを明らかにする必要はないかと。あまりいい子にしすぎると空軍ということを忘れられてしまうのではないでしょうか?」
「失礼ですが、大佐も魔女でいらっしゃいます。少しはじゃじゃ馬でいいんじゃないですか」
アリエッタとハンナの発言に考えこむアクス大佐だったが顔を上げるとニヤリと笑った。
「そうね。時々、自分が何者か忘れそうになるけど、そうだったわ。いいでしょう。今回の件は私が適当に処理します」
どうやら追及をかわせそうになりシーリアが安堵の表情を示すとアクス大佐は厳しい声を出す。
「都合のいいときだけ、私を魔女として扱うのはやめて欲しいわね。もし、今後こういうことをするときは、仲間外れにしないで頂戴」
了解しました、との返事をしない3人の目は、とは言っても司令官だしな、と語っていた。
「なるほど。あなた達にとってみれば、私は魔女という前に司令官なのね。よーく分かったわ。じゃあ、仕方ないので司令官として命令を出します」
アクス大佐は、そこで息を止めて声量を大きくした。
「今日中に全隊の弾薬・爆弾の在庫量を一覧にして報告しなさい! いいこと、第3飛行隊の分だけじゃないわよ!」
うぇーという表情をする3人にアクス大佐の部屋の扉をノックする音が響いた。
「ソニア・ソーントン准尉、参上しました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます