第14話 再戦

「うわああ。ちょっと待って。うええ、こんなに飛ばしにくいなんて聞いてないよお」

 シーリアが泣き言を言う。最新型の攻撃機ギガントの慣熟飛行に出たものの、今までの乗機に比べるとあまりの反応の悪さに閉口していた。


 元々、大パワーの箒5本の出力調整も大変なところへ、追加のパイロンに爆弾槽を追加してるのだから始末に悪い。装甲がタイタンよりも20%増しな為に慣性制御するだけでシーリアの目が回った。

「ひょっとして、ミストラルって扱いやすい機体だったの?」


「私もコーラルⅡに乗り換えた時は苦労したわね。Ⅲ型に切り替わったときはそれほどでも無かったけど」

 ハンナの言葉にアリエッタも同意する。

「ミストラルは扱いやすいからね。練習機と感覚が近いし」


 ギガントはあっちにフラフラこっちにフラフラしながら飛んでいた。

「もし厳しいようだったら先に帰投しててもいいわよ」

 アリエッタの言葉にシーリアは喚きだした。

「やだやだ。私も絶対にあのお城ふっ飛ばすんだから」


「だったら、もう少し箒のパワー調整を慎重にね。そんなに左右にぶれてたら爆弾も当たりっこないわよ」

「あ、隊長。オージが見つけたわ。前方15カンバーグ、高度400に空中戦艦が1隻待機中。こちらに背を向けてるみたい」


「わざわざ遠回りした甲斐があったわね。それじゃあ、このまま東に向かって直進しつつ攻撃よ。成功しても失敗しても一度きり。長居は無用。ハンナは上空から急降下爆撃で空中戦艦を撃破。シーリアはシュッフェン宮殿を瓦礫に変えて。私は羽ばたき機を墜とすわ」


 山陰を這うように飛行してきた第3飛行隊からコーラルⅢが飛び出すとみるみるうちに空高く駆け上がっていく。高度1500に達すると水平飛行に移り、フルバーストで更に加速し、そこから徐々に高度を下げながら一直線に空中戦艦に向かって突進する。


 空中戦艦は硬式飛行船に速射砲やロケット発射台などの武装を取り付けたものだ。船体部分は50もの独立した浮遊嚢を内蔵し、数個が破壊されただけでは飛行能力に影響が出ない。本体装甲の外側には角度をつけて別の装甲版が取り付けられており、大型砲の直撃の場合も外側の装甲を剥離させることで本体に影響が出ないようになっていた。


 この飛行戦艦の登場により、今まで圧勝だった空戦において、少なくとも敵方の防衛戦においてはファハール側の一方的な勝利が難しくなっている。ただ、これだけの巨大かつ超重量の物体を自力で飛行させるだけの機構がなく、地上からの牽引によって移動する必要がある。機動力は亀並みなために攻撃に随伴はできなかった。


 その空中戦艦による優位も最近では覆されつつある。コーラルⅢが急降下し爆弾を連続投下することによって、落ちることが証明されていた。ハンナは上空からほとんど垂直に降下をしてくるとタイミングよく連続して投下ボタンを押す。空中戦艦の外装甲からわずか1バーグのところをかすめて通り過ぎた。


 機首を上げながら、ついでとばかりにボタンを押し、空中戦艦を牽引する巨大な使役獣にも1発おみまいする。サイレンが鳴り響く中、大きな爆発音がその音をかき消すように大気を震わせた。ハンナは可能な限りの半径で方向転換を決めると半ば傾いた飛行戦艦の周囲の飛行を始める。


 コーラルⅢに対して、ロケット弾が斉射されるが、機体の影を捕らえることもできずに虚しく飛行を続けて地面に着弾し炎をあげた。一度離脱するコースを取るように見せかけて反転すると45度の角度で上昇しながら、再び発射孔からカプセルを吐き出すと、そのまま上空での旋回を始める。


 さしもの空中戦艦も本体に数発の命中弾を受けて身もだえしていた。ついに竜骨が耐えきれなくなったのか、クォンという音が響いてねじ切れる。二つに分離しながら地上へと落下をはじめ、炎の雨を降らせて地面に激突すると盛大な火柱をあげた。


「やるぅ。私も負けられないっ!」

 シーリアはギガントの大口径砲を発射して、城の対空火器に叩きつける。ノロノロと旋回させて、コーラルⅢを追おうとしていたところを城壁ごと吹き飛ばした。反動でギガントも大きく振動する。


 シーリアはなんとか姿勢を立て直すと、機首を上げて上昇しながら城の上を通過する。全爆弾槽から一斉にカプセルを投下した。すぐに激しい爆発音と光・熱の狂乱が巻き起こりギガントの機体を激しく揺らす。

「あわわ」


「シーリア。よくやったわ。安定飛行の為にパイロンごと投棄しちゃいなさい」

 アリエッタはギガントを追跡しようとする羽ばたき機を次々と撃ち落としながら指示を出した。そして、自分自身も用は済んだとばかりに東に向けて加速し戦場を離脱する。索敵用のミストラルが随行していない以上、自分が隊の目を兼ねる必要があった。


 めぼしい地上の兵器にも行きがけの駄賃とばかりに爆撃を加えていたコーラルⅢもギガントの右後方に位置し、3機で斜めになるように編隊を組む。ハンナが振り返ると彼方になったバーリンゲンから発生する黒煙がはるか上空までに達していた。

「お城、跡形も無くなりましたね」


「そのつもりで来たんだから当然でしょ。それよりも帰ってからなんて言い訳するか考えなきゃ」

「やっぱ、隊長ってば大変ですね」

「なに、他人事みたいに言ってんの。さすがに今回は私一人じゃ済まないと思う。全員大佐に呼び出されるわよ」

「うえー。胃がキリキリするかも」

「牛乳飲むと落ち着くわよ」

「チョコの方がいいよお」



 

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