第13話 直談判
「再出撃の許可を」
「それは完全に私戦でしょ。承認できるわけないじゃない」
「……分かりました」
「隊長っ。そんなに簡単に引き下がるの?」
ジェーンの葬儀の翌日、第3飛行隊はアクス大佐の司令官室に押しかけてきていた。用件はバーリンゲンの空爆をもう1回やらせろというもの。その後の報告によれば、城の一部は空中戦艦の墜落に巻き込まれたことで破壊できたが依然として城としての外形を保っていた。
悔しさ一杯という感じで肩を震わせるシーリアをアリエッタの目配せを受けたハンナが抱きしめる。そして耳元に何事か囁いた。不満に頬を膨らませたシーリアを宥めながら第3飛行隊は部屋の外に出て行った。音高くドアをバタンと閉めて敬礼もしない。
格納庫の近くまでは大人しくしていたシーリアだったが、ついに不満を漏らし出す。
「ジェーンの仇討ちなのになんであっさり引いちゃったのよ」
ハンナとアリエッタは黙って格納庫に入っていく。
「べーだ」
シーリアは舌を出して、プリプリしながら自機に向かっていった。もうすぐ補充の魔女が着任し、シーリアは索敵士の任を解かれて、攻撃機に乗機が変わることになっている。それもシーリアには不満の種だった。優美なミストラル機を降りなければならない。例え新型の攻撃機だとしても心は踊らなかった。
シーリアは隊長を待たずにさっさと上空に舞い上がる。ミストラルならワイヤーなしでもなんとか離陸することもできるぐらいなので、離陸は早い。アリエッタとハンナが揃うまで上空で旋回して待った。ようやく揃ったところでアリエッタが指示を出す。
「方位145。第2巡航速度。竜蟲の目撃情報が入っている。見逃すな」
30ミトほど飛んだが空は平穏そのもので何も異常はない。退屈さを感じたシーリアはまたアリエッタに不満をぶつけ始めた。
「さっきの話なんだけど、やっぱり納得できないよ」
「そうだな」
黙殺されるか任務に集中しろと叱責されるかと思っていたら意外なことに肯定の言葉が聞こえてきた。
ハンナはこらえきれずにクスクス笑い始める。
「なによう。ハンナ。笑うことないじゃない」
「だって。シーリアっていつまでも子供っぽいなって」
「どうせ私は子供ですよーだ。でも、ジェーンのこと忘れてすぐ引き下がるような大人になるぐらいだったら子供のままでいいもん」
「別に私も隊長も忘れてなんかいないわよ」
「だったら、なんで許可が貰えないからってすぐに引き上げたの?」
「許可が出ないなら勝手にやるだけよ。私たちはそんな優等生じゃないでしょ?」
「え?」
「明後日は西側空域の哨戒飛行の予定よね。そのついでにちょっとバーリンゲンまで足を伸ばせばいいだけじゃない。更に言えば今日の午後、新型攻撃機ギガントが配備されるから、その慣熟飛行を兼ねればいいのよ。ミストラルだと爆弾積めないでしょ。シーリアだって爆弾ばら撒きたいんじゃない?」
「ちぇ。二人は最初からそのつもりでいたんだ。狡い、ずるーい。私だけ仲間外れにして」
「だって、シーリアが聞き分け良かったらアクス大佐にバレちゃうじゃない」
「うーん。そうかも。だけど、もっと早く教えてくれても……」
「シーリア。ごめんなさいね。だけど、誰に聞かれるか分からないでしょ。ここなら誰にも邪魔されずに話ができるから、それまでは黙ってたのよ」
アリエッタが謝るとシーリアの機嫌が直る。
「隊長もどんどん腹黒くなってくね。これなら、アクス大佐の後任務まるんじゃない?」
「……シーリア。変なことを言うのはやめてよ。空が飛べなくなっちゃうじゃない」
「だって、私と違って、隊長ってば頭もいいし、アクス司令官の言うことも良く分かってるぽいからさ」
「私はまだまだ現役よ。当面はシーリアのことをもっと鍛えなきゃ。それじゃ、右に転針して。目を皿のようにして探すのよ。見つけられなかったら帰投しないからね。夕飯食べそこなっても知らないわよ」
「隊長がいじめるぅ」
***
アクス大佐は第3飛行隊が出て行ったドアを見て盛大なため息をついた。ジェーンの件で腸が煮えくり返る思いをしたのは大佐も同じだった。確証は持てないが、中部方面軍はバーリンゲンで敵が待ち伏せをしているとの情報を掴んでいたのではないか? それをわざと伝えなかったのでは、という疑念が拭えないでいる。
ソーントン将軍のお供をして、ファンボルグ将軍に作戦結果を伝えたときの様子を思い出すとまた怒りがぶり返してきた。
「自慢の空軍も空中戦艦相手には分が悪かったようですな。我が軍でも空軍の手を借りんでもいいように開発を急がせておるところだ」
まるで、自分の飛行隊が役に立たないと言わんばかりの言い種にアクス大佐は奥歯をギリギリと噛みしめたことを想いだす。あんたの尻ぬぐいを引き受けたせいで私の大切な部下が死んだのだぞ。あの依頼は断るべきだった。アクス大佐は改めて自分の失敗を深く反省する。二度とこのようなことはさせないと瞳の奥に火が灯っていた。
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