市場にて③
「む……。ハイネ様、この母娘と知り合いなのですか?」
(母娘って、私とマルゴットの事!? 同じ歳なのに失礼な!)
バシリーと思われる声も背後から聞こえてくる。あまりに失礼な物言いに振り返りそうになるが、マルゴットにガシリと背中を固定され、阻止された。
「ここで振り返ったら相手の思うツボです。知らないふりをしましょう」
ハッとしてマルゴットの顔を覗き込むと、修羅場か何かの時の様に鋭い表情をしている。
(知らないフリって、もうバレバレなんじゃ……?)
「お母様! あの熊をご覧になってください! とても投げ飛ばしやすそうに思えませんか!」
「え、ええそうね。可愛いマル……マル……マルゴーよ」
「マルマルマル!?」
「ちょっとどもっただけよ。ホホホ……」
変な所に食いついて来たマルゴットに汗を流しながら、演技に付き合う。
「プ……ククク」
背後の男は我慢しきれないとばかりに吹き出し、笑い始めたようだ。
(やっぱりバレてたのね)
まだ演技を続けようとするマルゴットの頰をつつき、やめさせる。
「バシリー……いい見世物だったな。プクク……」
後ろを振り返ればハイネが腹を抱えて、自らの膝まで叩いて笑っていた。バシリーまでもが口を震わせているようだ。
「ジル様、一体その恰好は……?」
「これは、その……。私のお気に入りの服なのですわ」
モリッツが咎められてはまずいため、ジルは咄嗟に嘘を吐き、その場でクルリと回って見せた。
「アンタ……、その恰好だと40代とか50代にしか見えないよ」
同年代の、しかも見た目が最上級なハイネに年増に見えると言われ、ジルはショックで倒れそうになる。いくらなんでもハッキリ言いすぎなんじゃないだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます