市場にて③

「む……。ハイネ様、この母娘と知り合いなのですか?」


(母娘って、私とマルゴットの事!? 同じ歳なのに失礼な!)


 バシリーと思われる声も背後から聞こえてくる。あまりに失礼な物言いに振り返りそうになるが、マルゴットにガシリと背中を固定され、阻止された。


「ここで振り返ったら相手の思うツボです。知らないふりをしましょう」


 ハッとしてマルゴットの顔を覗き込むと、修羅場か何かの時の様に鋭い表情をしている。


(知らないフリって、もうバレバレなんじゃ……?)


「お母様! あの熊をご覧になってください! とても投げ飛ばしやすそうに思えませんか!」


「え、ええそうね。可愛いマル……マル……マルゴーよ」


「マルマルマル!?」


「ちょっとどもっただけよ。ホホホ……」


 変な所に食いついて来たマルゴットに汗を流しながら、演技に付き合う。


「プ……ククク」


 背後の男は我慢しきれないとばかりに吹き出し、笑い始めたようだ。


(やっぱりバレてたのね)


 まだ演技を続けようとするマルゴットの頰をつつき、やめさせる。


「バシリー……いい見世物だったな。プクク……」


 後ろを振り返ればハイネが腹を抱えて、自らの膝まで叩いて笑っていた。バシリーまでもが口を震わせているようだ。


「ジル様、一体その恰好は……?」


「これは、その……。私のお気に入りの服なのですわ」


 モリッツが咎められてはまずいため、ジルは咄嗟に嘘を吐き、その場でクルリと回って見せた。


「アンタ……、その恰好だと40代とか50代にしか見えないよ」


 同年代の、しかも見た目が最上級なハイネに年増に見えると言われ、ジルはショックで倒れそうになる。いくらなんでもハッキリ言いすぎなんじゃないだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る