反響


「うそ……来た……来た来た!」


 それは、突然にやってきた。さっきの投稿が急にリツイートされだした。1件、2件と増えるたびに、バイブが鳴動する。その間隔は、1分に1回だったのが、10秒に1回になって、そして数秒に1回、いや、正確な間隔が分からないほど、頻繁に鳴り出した。


 SNSの画面を開いて、投稿を確認してみる。


 ―― リツイート 152 いいね! 230 ――


 3桁を超えたのは初めてだ。いや、違う。リツイートもいいね!もカウンターがひっきりなしに回っている。これなら、1000件超えるのも時間の問題だろう。


 <びっくり!>

 <すげぇ、こんなの見たことない>

 <食べきれないwww>


 投稿に返信がついている。その内容は、どれも好意的なものばかりだ。


「じゃあ、フォロワーは……」


 期待を持って確認してみる。投稿前はぴったり50人。今は……150人! 一気に増えた。いや、この値も、どんどんとカウンターが回っている。


「やった!」


 ついにバズった! 感動のあまり、ベッドの上でガッツポーズをする。


 始めてのバズりに、私のテンションはどんどんと高まっていく。


 もっと褒めてほしい、もっと広めてほしい。


 ―― ブーッ ブーッ ――


 またすぐに、スマホが鳴動する。


「また来た! って、あれ?」


 その通知は、SNSからの通知では無く、私の兄からの電話だった。


 学生である私と、フリーターである兄とでは、一緒にいる時間がほとんど無い。だから、ちょっとしたことでも、スマホで会話することが多い。もう11時だけど、兄はまだ、バイト先で頑張っているみたいだ。


 通話ボタンを押して、電話に出る。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「お前、SNSの投稿だけどさ」

「ああ、見てくれたんだ。すごいでしょ、あれ」


 身内から褒めてもらえるのは、特別にうれしい。けれど、兄が伝えたかったのは、そういうことでは無かった。


「いや、あんなことしちゃ、ダメだよ」

「え、何でよ?」

「あれは、バイトテロだって」


 バイトテロ? ああ、聞いたことがある。バイト店員が、店で悪ふざけして炎上するやつだ。でも、この投稿は違う。確かに、はしゃいだかもしれないけれど、そこまでじゃない。もともと捨てるものを活用しただけだし。そもそも、誰にも迷惑かけていない。


「やだなぁ、そんなんじゃないって。廃棄分を使っただけだよ」

「そうだとしても、あれだと誤解されるから。消した方がいいよ」


 消す? 絶対にダメだ。せっかく、投稿をいろんな人に見てもらえている。こんなチャンス、二度とないかもしれないのに。


「別に大丈夫だって。ていうか、お兄ちゃん心配しすぎ!」

「だけど――」

「いいから。もう、放っといてよ!」


 そう言って、通話を終了する。


 まったく、兄は、どうしてこんなに心配するのか。


「もしかして、あれかな」


 兄もSNSアカウントを持っているけど、フォロワーは200人。まだ、私のよりは多いけど。それも、もう少しで追い抜く。そうすれば、私のほうが上になる。


「嫉妬かぁ。大人気ないんだから」


 兄もフォロワー数を気にしているんだな、と。まあ、いいや。後で教えてあげよう。こうやれば、簡単にバズるよって。


 それに、バイトテロが、どうしたって? そんなこと、投稿の返信には、全然書かれていない。みんな、喜んでくれている。賞賛してくれている。「いいね!」って思ってくれている。


 ―― ブーッ ブーッ ――


「ほらほら、また返信がきたよ」


 今度はなんて書かれているんだろう。スマホを開いて確認する。


 <こんなことして、いいの?>


「あれ?」


 その内容は、これまでの返信の雰囲気とは、ちょっと違っていた。何かを疑問に思っている。「いいの?」って、何か悪いのかな。


 でも、それを境にして、明らかに何かが変わった。そう、一言でいえば「風向き」というものか。

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