発見


 ――


 大きくて、カラフル。


 アドバイスを聞いて納得した私は、学校が終わった後のバイト先に行くまで、街を注意して探してみる。どこかに、そういうの無いかな、落ちていないかな、と。


 だけど、そんなものは見つからない。というか、よく考えれば分かることだった。


 大きいのは、探せばすぐに見つかる。カラフルなのも、見つかる。けれど、それらは「普通に見たことがある」程度だ。友人が言っているのは「だれも見たことがない」ほどのものだ。


 通学路、電車の中、商店街。どこを探しても見当たらない。バイト中も、ヒントがないか意識する。けれど、どこを探しても、普通しか転がっていない。


「大きくて、カラフルなものなんて、無いんですけど」


 はぁ、とため息をつく。


 気が付けば、時計の針は9時を指している。すなわち、バイト先が、閉店時刻になったことを意味する。私の労働もあと少しで終了。店を閉めて、後片付けをするだけだ。


 私のバイト先は、○○アイスクリームという、いわゆるチェーン店だ。若い子が多く訪れるので有名。まあ、カラフルかもしれない。けれど、大きくなんかない。トリプルとかできるよ。でも、そのくらい見たことあるでしょ?


 お客さんの様子とか、同僚の様子とか、じっと観察してみるけれど、答えとなるようなものは無い。店舗の外でアイスの写真を撮っている人もいるけど、そんなのでバズるわけないのになぁ、と思う。


「やっぱり、私には無理なのかなぁ」


 最後のお客さんが帰って、店のシャッターを閉じる。一日も終わりかと思うと、急に疲労がピークに達する。特に、今日は街をずっと歩き回っていたから、ヘトヘトのクタクタだ。思わず、ぐったりとショーケースにもたれ掛かる。


「冷たい……気持ちいい」


 このまま寝ちゃいそうだ。なんて、嘘だけど。でも、そっと目を閉じてみる。


「もしもぉし?」


 何かに呼ばれて目を開ける。なんだ、店長か。私の様子を見かねたのか、顔を覗き込んでいた。本日の夜番は、男性の店長と私の2人だけ。まあ、恋愛って感情は無い。ただの上司と部下だ。


「あの、大丈夫? 気分悪かったら、まだ休んでていいよ」


 どうやら、私の様子がずっとおかしいから、病気じゃないかと心配してくれたらしい。なんて、いい店長だ。


「いや、大丈夫です! すみません」

「そう? 僕は帰るけど、まだ店にいていいからね」

「じゃあ、もう少しだけ」

「それなら、ケースの中身を廃棄しておいてね。ばいばい」


 そう言って、そそくさと帰る店長。なんだ、ゴミ捨てを押し付けただけじゃん!


「あ、そうだ」


 店長が帰り際に一言つぶやく。


「捨てるアイスは、食べちゃってもいいからね」

「はぁ? こんなに食べたら、太るって!」


 って、思わず口に出しちゃったけど、既に店長は帰った後だった。


 プンプンと頬を膨らましながら、ショーケースからアイスの残りを取り出す。チェーン店の決まりで、提供期限が切れたアイスはすべて廃棄しなければならない。


「よっこいしょっと」


 アイスの廃棄処理は大変に重労働だ。一種類ごとにケースから取り出して、シンクに集めて、それでいて、すべて溶けるのを待たなければいけない。こんなのを、か弱い女子に押し付けるなんて! 人でなし店長への不満しか湧いてこない。これこそ、SNSに投稿してやろうか。


 特に、この「ブルースカイ」という、真っ青なアイスの売れ残りが多すぎる。洗面器に1つ分、いや、2つ分はあるんじゃないだろうか。


 店長が「SNS映えと言ったら、青でしょ!」って言って大量に仕入れたけど、青いアイスって、そんなに売れるもんじゃない。個人的感想だけど、あんまり、おいしそうに見えないんだよね。


 それに、「ブルースカイ=空の色」っていうには、かなり暗い色。看板に偽りありだ。いっそのこと「富士山の色」っていうほうが、まだ納得してくれる。


「ん、富士山……そうだ!」


 あああ! まさに、その時、私はひらめいた。


 大きいのが「見つからない」のなら、「作れば」いい。今、手元にあるこれで、いくらでも作れるじゃん。なんという、天才だ。


 お題は、そうだ。富士山に決定! これだけ余っているんだし、余裕だろう。


 さっそく、廃棄するアイスを集める。青いアイス、白いアイス、他にもいろいろ。これで絵画ができるんじゃないかと思うくらい、何色ものアイスが集まった。


 では、作成に入る。まずは、テーブルにプレートを広げる。その上に、さっきのブルースカイを一盛り、二盛り……いや、こんなんじゃダメだ。全部使う! うん、大きいに越したことは無いんだ。


 それを丁寧に山の形に広げた後は、山頂に真っ白なバニラアイスを乗っける。まだ、冠雪って時期じゃないかな? でも、富士山と言ったら、こうでしょ。あとは、裾野には……そうだ! 抹茶とチョコで樹海を表現しよう。


 10分ほどだろうか。あっさりと完成した。高さ50cmはあると思う。そして、アイスクリームだから、とってもカラフル。廃棄分で作ったにしては、かなりの出来栄え。私って、こういう才能があるのかもしれない。


「あ、やばい。溶けてきちゃった」


 そうだ。悠長に自画自賛している暇はない。さっさと写真を撮らないと。慌てて、スマホを自撮りモードにして、富士山と記念撮影をする。写真映りは……完璧! 想像以上だ。あとは、コメントを入力して……


 <アイスクリームで作った富士山です! 見て、この大きさ!>


「投稿」ボタンをポチっとタップする。すぐに、撮った写真とコメントがSNSにアップされる。


 さあ、どうだ?


 ……1分……2分……まだかなとスマホを確認する。けれど、反応は無い。


「ソフトクリームより、全然すごいと思うんだけど」


 すっごい大きいし、すっごいカラフルだし。友人の言っている、「バズるコツ」の条件は完全に満たしている。これでダメなら、友人を問い詰めよう。オレンジジュースを返せって。


 まあ、それは置いておいて、このアイスの富士山を片付けないと。せっかく作った作品だけど、心を鬼にして、すべてシンクに流し込む。


 ――


 片付けが終わって、家に帰って、お休みの準備をする。けれど、いくら待てども、さっきの投稿がバズる気配は無い。なあんだ。やっぱり、友人は適当なこと言って、ごまかしたんじゃん。


「あぁあ、骨折り損だったな。いいや。寝よう。スマホのアラームをセットしてっと……」


 そう言って、テーブルのスマホに目を移す。


 ―― ブーッ ブーッ ――


 おや、バイブが鳴った。それは、何かの通知のサインだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る