炎上が止まらない
石屋タマ
低迷
「ああ、もう! 全然バズらない!」
残暑が厳しい9月の学校。昼休み。
その屋上にたたずむ私は、スマホ片手に、がっくりとうなだれる。
画面に映っているのは、私のSNSのアカウント。女子らしく、ギャル語をふんだんに使って、同性受けを狙っているのがバレバレだったり。そうそう、タピオカミルクティーやチーズドックなど、今時っぽい写真をたくさん投稿している。
中学までずっと、親からSNSの利用が禁止されていた私は、高校に入ってすぐアカウントを開設した。友人や家族、バイト先の同僚など、片っ端から頼み込んで、とりあえず、50人にフォロワーになってもらった。
あれから半年がたった。そろそろフォロワーも増えてきて……ないんだなぁ。これが。始めからずっと、まったく変化がない。
バズらせて、フォロワーを一杯増やして、人気者になって。それが、私の思い浮かべていた青写真だった。けれど、現実は上手くいかないもので……
「この投稿は自信があったのになぁ」
昨日の夜の、バイト先からの帰り。電車の中でスマホをいじっていたら、酔っ払いが長椅子に寝転んでいるのを発見した。いびきまでかいている。それが、あまりにも大胆な寝方だったから、おもわずパシャリと写真を撮って、SNSに投稿する。
<爆睡するおじさん発見! ていうか、いびきがすごいw>
翌朝、さぞかしバズっているかと期待してスマホを開いてみたら……
―― リツイート 0 いいね! 2 ――
いいね!したのは、私の兄。そして、私の隣でパンを食べている友人の女子の2人だけだ。
「だれも反応しないなんて、おかしくない? ていうか、そこ! あんたも、リツイートぐらいしてもいいんじゃない?」
口を尖らせて恨み節を友人にぶつける。すると、彼女は思わず噴き出した。
「アハハ! そんな投稿でバズるわけないじゃん!」
「うっ……」
反論したいところだが、彼女のフォロワーは1万人。これまでたくさんの投稿をバズらせて来た人間を相手に、その手の話でかなう訳がない。
正直に言うと、私がSNSを始めたのも、その友人の影響が大きかった。フォロワーがたくさんいる彼女は、学校でもちょっとした有名人。皆からちやほやされているのを見て、いつしか、私もそうなりたいと思うようになっていた。
「じゃあ、どうすれば良いわけ? バズるコツを教えてよ」
そう、なんで私の投稿がバズらなくて、友人のそれはバズるのか。フォロワー数? いや、それだけじゃない。何かが、根本的に違う気がする。
「やだよ、自分で考えなよ」
パンに食べることに夢中な彼女は、私の話しなどまるで聞いてくれない。
「お願い! この通り! オレンジジュース、あげるから!」
「ん、これだけ?」
「これだけで!」
このオレンジジュースはバイトで貯めた金で買った、大事な宝物だ。まあ、すぐに飲むんだけれど。でも、少ないお小遣いで彼女にしてあげられることなんて、これくらいだ。
足りないなら、これならどうだ! とばかりに、出来る限りの角度で頭を下げる。まさに、折り畳みガラケーを閉じたときのような姿になる私。プライドなんて、ないよ! どっかに捨てたよ!
「ちょっと、やめてよ! 分かったって」
「ありがとう、心の友よ!」
思わず友人に抱き着く。
「ああ、うっとうしい!」
「で、どうすれば、いいのでしょうか? 先生!」
「いや、あんたの先生じゃないし……まあ、いいや」
友人は「こほん」と咳払いをして話を続ける。なんだかんだ言って、先生っぽさを見せつけてくる。
「えっとね、簡単に言うと、だれも見たことが無いものを投稿しなきゃだめ。酔っ払いが寝ている姿なんて、みんな見慣れているじゃん」
おお、なるほど!……と思ったが、すぐに疑問がわいてくる。
「いや、見たことないものなんて、それこそ、どこにあるのよ?」
「それを探すのがキモなんだけれど」
「面倒! そのキモのキモを教えてよ」
そう、もっと直接的な答えが知りたい。
「本当にもう、横着なんだから……じゃあさ、『映え』って分かる?」
「聞いたことあるけど」
確か、SNS映えって、みんなが言っている。ちょっと前に流行語大賞に選ばれていたような気もする。
「それを狙うの。重要なのは、とっても大きくて、カラフルであること。そういうものを投稿するんだよ」
「大きくて、カラフル……」
「例えばさ、これ」
友人は、そう言ってスマホを見せてくる。画面に映っているのは、それこそ、私の人生では一度も見たこともないようなソフトクリームだった。赤白黄の3色がきれいにセパレートされているし、大きさも、隣で映っている友人の顔の倍以上はある。
「うわぁ、すっごい! おいしそう!」
「でしょ。これ、リツイート1000件もついたんだよねぇ」
「へえ……」
1000件……そんな数字、私の投稿には、一度もついたことがない。
「分かった? こういう写真を撮るの。すぐにバズるから」
「うん……分かったような……」
もうちょっと教えてよ、と言おうとしたのもつかの間、
―― キンコン、カンコン ――
午後の始業を伝えるチャイムが鳴り響いた。
「やば! 昼休み終わっちゃうじゃん!」
友人は私からオレンジジュースをぶんどると、食べているパンを流し込む。そして、急いで教室に戻っていった。
「あ、ちょっと!」
一人取り残された私は、友人の言葉が頭から離れないでいる。
「大きくて、カラフル……」
そう言われると、何か見つかるような……
「ていうか、私も教室に戻らないと!」
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