第4話

ホームレスの男は人影のない住宅街を歩く。

(君は素直に私の言うことを実行してくれているみたいだね)

「一応、腹一杯になったのはお前のお陰だからな」

(あの家に着くまで、私の話でも聞いてみる?)

意識だけ生きるその猫は男に語る。




猫は伸びきった雑草の庭を歩く。

止まる場所はいつも大きな窓の前。

一声鳴いてみる。そして座る。

窓を開けて煮干しを恵んでくれるのは、いつもの老いた女。色々なしわの入った手の中にあるのは3つの小さな煮干し。

食べる前にお礼の一声。

食べ終えてしばらく座っていれば、今度は老いた男が窓を開ける。

米粒で埋め尽くされたしわくちゃであろう両手を差し出してくる。

猫は、その両手の米粒をひとつひとつ丁寧に食べる。

食べ終わってみれば、眼前に思った通りのしわくちゃな両手。

「お箸を使って食べなさいよ」

女の声が聞こえる。窓を閉められる。

それから気持ちのいい昼寝をしてその家をあとにする。





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