第13話 虚無を食む

喪失と剥がれたネイルそのままで詩を書く夜に天使はいません


傾眠の副作用をむさぼって多剤投与の冬の日暮れる


ふるさとにつながらないのiPhoneも意識に直でつないでくれよ


医師に告ぐ「修道院へ行くつもり」魚群の群れに覆われた街


長崎のすべてが無となる部屋にいて虚飾の画面が告げる音声


抑鬱の日々も薬で無となるよ画面上の「お大事に」なぞり


終末を望むにはまだ轟音が足りないようだ電子音楽


「劇薬を飲んでるんだね」時間すら忘れてしまえるきみに会うため


いつわりの言葉を愛し惑星の圏外にある図書館へゆく


幽霊と空想上の友が増えぬいぐるみにも受肉させてよ


幽霊の季節は終わり墓場には蝶葬の死者が眠る終末


砂時計流れるたびに架空都市メタバースノイズとともに崩れゆく冬


「死へ向かう」花もこの手も紫のリボンで結び死化粧ネイルを塗って


黒髪は伸ばしてなおも足りなくてこの詩を纏うにはまだ遠い


きみ眠る夜の長さは無謬なり黒衣の数を厭い果てても


無謬なる眠りは遠く冬の夜埋める言葉を書物に求め


不眠症ヒュプノスの息凝固した薬はいらぬ星を求めよ


冬枯れの心を抱え音楽を薬代わりにきく痛み止め


雑炊を炊いても侘し味蕾さえ麻痺する真昼滅びゆく故郷むら


聴覚の鋭きままに奏でてよ絶望の音嵐の怒涛


終末の報せが届く年の瀬にきみと饂飩をすする日常


祝祭は忘却のみを神とする万物に降る恩寵として

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る