第5話「待てと言われて待つ苗はいない」
エンドウもオクラも、種まきまでは前述通り、問題なく進行した。
それはもう問題なく進行したと、ここに記す。
記したから、もうそれは事実。
俺の歴史は俺が作るのだ。
まあ、それはいいとして。
さて、俺はいわゆるサラリーマンである。
平日は会社に出勤しなければならない。
そのために、朝の5時起き、21時帰宅という生活を続けていた。
何が言いたいかというと。
つまりは、日の照っている時間に家に居ないということである。
地域や季節によっては、午前4時から朝日を拝んでいる場所もあるのだろうが、
うちは南の方なので、日本の平均値に比べれば、日の出が遅く日の入りも遅い。
その、日の入りの遅いのを通り越して、日没以降の帰宅になるということは。
つまり植え付けなど、畑に置いての作業が、平日には出来ないということなのだ。
事情があり、これらの作業を他の人間に頼むことは出来ない。
要は自分で作業を行い、問題があれば対処、解決していく必要がある。
そして今回の相手は植物。
植わっている物であって動物よりも手間はかからないが、結局は生物。
育つのだ。
育苗開始から1週間で、トレーの穴から100%の確率で芽が出てきた。
それをながめて喜んでいたまでは良かった。
2週間でそれらが、まるでミニチュアの森のように育ったのに驚く。
生育のスピードが、予想外に速い。
素人の予想というものが、いかにあてにならないかという件については、
もうこの段階でそれを言っても、何の解決にもならない状態であった。
そして急いで植え付けようとしたら、まったく別の方向から茶々が入る。
台風が接近している。
そんな暴風暴雨の中に、これらの芽をさらしたらどうなるか。
風になぎ倒され、雨に流されて。
それはそれは、無残な姿をさらすことだろう。
俺の目にも、その結果は明らかだった。
納屋においたまま、水やりを続けながら、なんとか台風をやり過ごす。
日曜の襲来だったので、すぐに月曜の朝が訪れて。
植え付けがまたひと週ずれ込んだ。
この頃から、気になることがあった。
芽から苗に成長していくエンドウやオクラ。
これらが、気になるくらいに高く伸びているのである。
ひと言でいうなら、アンバランス。
華奢な茎に、空きすぎだと突っ込みたくなる間隔での葉の付き方。
なんというか、こう、触手的な伸びというか…
葉っぱの付いている触手というか…
本物の触手のように、曲がりくねっているわけではないのだが…
これはこういうものなのか?
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