第3話「紀元前からの大先輩」

 まだだ。

 まだ慌てるような時間じゃない。


 この台詞を、本当に口にしてしまうときが来るとは思っていなかった。

 だからと言って実際、あせってみてもどうなるものではないし。

 要はこの残存資材を使って、自分が納得できる展開にすればよいのだろう。

 余裕を持たせた購入も、別の角度から見れば無駄使いとなる。

 罪悪感を感じる趣味は、灰汁が浮かんだ鍋のようなものだ。

 純粋に楽しめない。


 スナップエンドウ(以下エンドウ)のほかに、何か育苗してみればよいのだろう。

 さすがにそこまでは、すぐに気付く。

 しかし、エンドウだけに注力していたため、こういう展開を予測していなかった。

 なら、今から予測しよう。

 これからの季節…つまりは夏に向かっていくことを考える。


 夏が来る。

 夏というなら青空、強い日差し、夏休み、そして夏野菜だ。

 エンドウに近しい青々さ、見るだけでも元気の出る作物を思い浮かべる。

 まあ、植わっている姿ではなく食卓に上がっている姿ではあるが。

 夏の昼食や夕食に、食卓に上がっていたとき、嬉しさを感じる野菜…。


 そうだ。

 オクラとかどうだろう。


 好物の夏野菜だ。

 調べてみれば、エジプトで、とある。

 紀元前とかさらっと書かれている、世界史レベルの大先輩の貫禄に驚く。

 そこまで歴史のある作物なら、種も栽培方法も確立されて、失敗もないはずだ。


 植えたオクラが豊作で、ボールいっぱいに収穫できた光景を思い浮かべてみる。

 朝採れの新鮮なところを、間髪入れずに調理するのはもちろんだ。

 塩ゆでしたところをほおばって、コリコリとする歯応えを楽しむのが好みだし。

 暑さの盛りに天ぷらで、そうめんと一緒に自作めんつゆに浸して楽しむのもいい。

 エンドウと一緒に野性味あふれる野菜炒めってのも、これまたそそるじゃないか。

 夏に来て、辛い中華も定番だ。

 辛口の麻婆豆腐に、刻んだオクラを入れれば、ねばりのとろとろはもう絶品。

 そこに定番のノンアルコールビールをぐいぐいぐいっと入れた日には。

 人生かくあるべしってくらいに、たまらないこと請け合いだろう。


 よし、よーしよしよしよしよしよしよしよし。

 早速、買い物に行こうじゃないか。

 

 一日のうちに数回も買い物に行くことは多々あった。

 しかし、種を購入するために複数回という経験はない。

 突発的行動?

 いやいや、ここはほら、積極的活動と言ってくれたまえよ。


 計画的購入?

 それなにおいしいの?

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