十話 後世に曰く『ヘーラクレースの求愛』とかなんとか





 勝因は何を言ってもヘーラクレースの活躍、これに尽きた。

 あれだけの巨躯とそれに見合った膂力を有する大化生だ。もし普通に戦っていれば、私は順当に喰われていたかもしれない。性的な意味ではなく。

 ヘーラクレースがマレハーダの体内で暴れ回っていたから、こちらへの対応が雑になり。ウォータージェットの如き高圧水流のレーザーも、精妙さに欠けた射撃にしかならず回避も容易だった。

 体の内と外からの波状攻撃でマレハーダは成す術もなく斃されたのである。ヘーラクレースだけなら討伐に三日は掛かっただろうが、私が外から切り刻み海の幸の活き造りを調理していたから半日で終わった。逆に私だけなら斃せなかっただろうから、やはりヘーラクレースはスゴイという結論に至る。

 水没していく大化生マレハーダを眺め、つらつらと雑念を並べ立てつつ。私は脳裏に響くファンファーレに似た通知音を聞き、網膜に投影されたモニターを見ていた。




【メインクエストNo.15、神話生物の討伐をクリアしました】


【メインクエストNo.16、神話の怪物の討伐をクリアしました】


【メインクエストNo.17、神話生物の遺伝子情報取得をクリアしました】


【メインクエストクリア報酬、総計109ポイントを付与します。アヴァターラ『ニコマ・ソクオーチ』が現在保有するポイントは110です。ポイントの使用はコンソール画面より可能となっております】




 私の衣服や髪、体に掛かっていたマレハーダの白い血が、蒸発するように消えていく。私のアヴァターラを介してリアル側の運営が回収したのだ。

 早速私はコンソールを開きめぼしいスキルを選別してポイントを消費する。

 獲得するスキルは基本的にパッシブスキルしかない。アクティブスキルの類いは最上位スキルとして五つあるだけだ。

 しかし今はそんなものを手に入れられるだけのポイントは入手できないし、現状を乗り切るのにスキルが必要なのだから貯めておくこともできない。

 取得するスキルは決めている。これからすぐ後に使うことになるものだ。




【消費ポイント50『エネルギー』を取得しました】


【消費ポイント55『天使の声帯』を取得しました】


【残りのポイントは5ポイントです】




 肉体に変調をきたした感覚はない。しかし何か・・があったのは解る。なぜなら体全体に充実する、気力のようなものが明確に増したのだ。

 エネルギッシュな人間の熱意は、他の人間に波及しやすい性質がある。間を外したり空気を読まなかったりしたら途端に鬱陶しがられるものだが、そこは自分で気をつければいい。私に足りないのはこの手の気力、熱意だという思いがあったから、他者への影響力を高める狙いもあり『エネルギー』のスキルを取得したのである。

 問題は『天使の声帯』だ。試しに「あー」とか「うー」と声を出すも、特に声が変わった気はしない。これは元々私の声が、天使のように美しかったということ……? 変化を感じられないが、本命のスキルだった『エネルギー』よりも高いポイントを使ったのだ。これで効果がなければ運営にクレームを投げつける所存である。


「あ……スキルもどれを取得するか、安価で決めた方がよかったですね……」


 今更ながらに気づくも後の祭り。今後はそうしようと心に決めて私、反省。


 と、マレハーダが完全に水没した。スキルの獲得も済んだのだし、そろそろイリオンに行って目的を果たすとしよう。そう思って踵を返すと、海面に大きな水柱が立った。

 爆発したような音で、その正体を察する。うわぁ流石は神話の英雄、と感心させられた。障害にもならぬとばかりに崖を登り、私の背後に現れたのは一人の怪物的大英雄だ。私が振り返ってみると、濡れ鼠となったヘーラクレースが若干私を非難するような目をしていた。

 もしかしたら死んでるかもなー、と思ってはいたけれども。やはりというかなんというか、とても元気溌剌としていらっしゃる。


「死ぬところだったぞ」


 単刀直入、余分な装飾のない端的な文句である。見れば刀傷らしい掠り傷が顔についてあった。私の『無相極理の鋼〈デュランダーナ〉』による乱れ刺突が直撃しかけたらしい。

 素直に謝りたいが、ギリシア産の神話的英雄に弱みを見せたら何を要求されるか分かったものではない。それに故意に付けたのではなく、戦いの中での傷である。一発だけなら誤射かもしれぬのだし、恨まれる筋合いはないはずだ。

 それはそれとしてヘーラクレースは禿げていない。リアルの神話だと三日もマレハーダの体内にいたことで、その髪が胃液か何かによって全て溶けてしまい禿げていたはず。だが目の前のヘーラクレースの髪は、毛先こそ溶けているがほとんど無事であった。

 それもそうだろう、半日ほどしか討伐に時間を掛けなかったのだから。


「あなたは水底にいるのも似合いそうですよ」


 にこりとしながら言うと、ヘーラクレースは憮然とする。肌が浅黒いを通り越してほとんど黒くなっている、傷跡だらけの偉丈夫がそんな顔をしても可愛くなんてない。不機嫌な肉食獣じみた迫力があるだけで、気圧されはせずとも私は苦笑させられた。

 神話の英雄と言ったところで、実物と会ってみると、実力はさておき人柄には意外と人間味がある。そして何より『オリンポス』の人間は私を……『を忘れない・・・・・。そう思うと途端に好ましい存在に感じるのだから私も現金なものだ。


 私の笑顔を見てヘーラクレースは怒る気を失くしたらしい。やれやれとでも言うように肩を竦め、濡れている金の髪を後ろに撫で付けた。


「……まあいい。このツケはいずれ、お前に払ってもらうからな」


 男というよりは雄、といった眼。生気に溢れた眼光は野性そのもの。

 ツケを払ってもらうという言葉の意味を魂で理解した。何で払ってもらうと彼が言っているのか、その目が何よりも雄弁に物語っている。

 うぶな乙女ぶっても、彼は逃してくれそうにない。これみよがしに嘆息して見せる。


「私、まだ15歳ですよ?」

「もう大人だろう」

「私の故郷くにではまだ子供です。大人と認められるのは20歳はたちからなので」

「なに? イリオンでは20歳まで大人と認められんのか……呆れたよ、とんだ過保護な国もあったものだな。……仕方ないからお前が『大人』になるまで待とう。どのみちオレも、自由の身になるまで暫く時が掛かりそうだからな」


 私、嘘、言ってない。私、故郷、イリオンじゃない。


 ヘーラクレースは勝手に誤解してくれた。彼の勘違い、誤解が解けたら霧散する物だが、一応は言質を取ったと言える。五年の猶予を確保したのだ。

 それだけあれば上等である、その間に手を打たせてもらおう。私は誰にも、性的な意味で食われる気はない。聖なる者は清らかな身でないと、とてもではないが聖者と名乗れない――と、思うのだ。私の偏見だけども。

 そういう意味で自衛能力としての武力は必須になってくるだろう。ギリシアの英雄という奴は、みんながみんなヘーラクレースのように物の分別があるわけではない。いくら口で言っても『ウルサイヤラセロ!』と襲い掛かってくるのがほとんどである。とある女英雄アタランテーさんがその最たる被害者だ。


「さ、帰りましょう。お父様も私を救い、共に怪物を斃してくださったヘーラクレース様を邪険にはしないでしょう」


 私がそう言うと、ヘーラクレースは頷く。しかし彼には懸念があるようだ。


「オレがいきなり行って、約束もなしに対価を要求すれば、たとえ温和な王であっても気を悪くするだろう。大丈夫だと思うか?」

「ええ。まず大丈夫ではありませんが、ヘーラクレース様なら平気だと思いますよ。無事に脱出できるという意味で」

「……駄目なのか」

「駄目でしょうね」

「……参考までに聞くが、なぜだ?」


 なぜと言われても、そんなものは自明だと思う。

 大真面目な顔で聞いてくるなんて、もしかすると古代の人は、このあたりのことを察する機微――相手がこちらのアクションに対して何を思うかを考える性質がないのかもしれない。

 自分はこれだけのことをしてやったのだから、相手は相応の対価を支払うべき。そんな思想。良く言っても独善的、悪く言えば自己中心的に過ぎる。

 ヘーラクレースを『オリンポス』の人間、ひいては英雄という人種の基準にするのは馬鹿らしいが、ヘーラクレース自体が特大の個であるため、彼という人間を図っておくのは悪いことではない。彼という存在を知るために、例を出しながら探りを入れておくことにする。


「ヘーラクレース様はお金を持っていますか?」

「……? いや、今は持っていない。しかし普段なら巾着に入れて持っているぞ」

「ではヘーラクレース様がその巾着を落としたとします。そしてそれを誰かが拾い、ヘーラクレース様に届けに来たとしましょう」

「ああ」

「巾着を拾った者がヘーラクレース様に、拾って返しに来てあげたのだから、半分とは言わないにしろ三分の一ぐらいは貰いたいと言ってきたとします。ヘーラクレース様はどうしますか?」

「……拾ってもらわねば紛失したままだったのだからな。謝礼として支払うのも吝かではない」


 意外と良心的な答えだが、それを私は求めていた。どうやらヘーラクレースは倫理の面で多少は信頼を置けそうである。

 私はできるだけ分かりやすく説明した。


「その立場をひっくり返し、あなたが謝礼を要求する側に立ったとします。ヘーラクレース様に謝礼を求められたなら、どんな愚か者であっても断ろうとは思わないでしょう。なぜなら名声轟く英雄ヘーラクレース様に対し、下手な返答をしようものなら何をされるか分からないからです」

「………」

「今の例えを現実に当て嵌めてみましょう。ヘーラクレース様は私の身柄をイリオン王に要求するおつもりなのでしょう? 普通なら要求は通ります。何せヘーラクレース様は救国の英雄ですので、王女の一人ぐらいは渡してもいいと思うのが自然です。

 しかし私のお父様、イリオン王の価値観に照らし合わせますと、私の存在はお金で片付く問題ではない。ヘーラクレース様に置き換えて言うなら、巾着を拾った対価に信頼する武器を要求されるようなもの。到底頷けないとあなたの願いを撥ね退けるでしょう。お父様からすると拾ったお金の三分の一を寄越せというのではなく、身ぐるみ全て置いて行けと言われたようなものですので」

「待て、イリオン王はそれほど愚かな男なのか? 金の例えと国の危機、比べるまでもなく事の重みが違う」

「ええ。私のお父様は愚か者です。そして傲慢であり、勇気と無謀を履き違えてもおられる。……勘違いしてましたが、ヘーラクレース様は私の父、ラーオメドン様をご存知でないのですね。お父様は海神ポセイドン様や太陽神アポロン様の要求にも応じなかった、ある意味でとんでもない大物なんですよ。何よりお父様は私を愛しています。誰が相手であっても手放したくないと思っておられるはず。であれば、答えは決まっています」


(――愛と言っても、肉親への愛ではなく異性の愛でしょうけど。それも愛の後に欲と付きそうな。もっと踏み込んで意訳すると、あのお爺さんは私に欲情していただけなんですけどね)


 内心の呟きはあくまで秘める。ラーオメドンが私をどんな目で見ていたか、元が同じ男だから手に取るように分かっていた。

 殊にラーオメドンは神話通りの男だ。ヘーラクレースが相手でも上から目線で強く文句をつけてしまうだろう。ヘーラクレースはあからさまに呆れたようだ。


「ニコマ。お前の父親は愛する娘を生贄にするのか?」

「確かに私は生贄でした。しかし私が座して喰らわれるのを待つ女に見えますか? 私は自らの意志でマレハーダ討伐に志願したのです。この身が魔女の娘だと偽り、私ならあのマレハーダを討ち果たせると信じていただいた上で」

「む……そういえば半神なのは隠していたのだったか。ではお前はアレを単独で斃せたと言うのか?」

「いいえ、私だけでは討てなかったでしょう。しかし私は、あなたがここへ来ると知っていました・・・・・・・。故に不安はなかったのです」

「予言の力か。アポロンあたりにでも与えられたのか?」


 呟くヘーラクレースに、私は微笑みながら否定する。


「いいえ。私はアポロン様にお会いしたことはありません。そしてアポロン様に加護を授けられてもいません」


 それ以上は何も言わず口を噤むと、ヘーラクレースは私を探るように見てくる。


 彼がオリンポス十二神の中で最も知っているのは太陽神アポロンだろう。だがアポロンの性格上、無償で特別な加護を与えたりはしない。必ず対価を要求する。相手が女なら自分のものになれと言うはずだ。十年以上未来のイリオンで、カッサンドラ王女に対してしたように。

 そしてそれはアポロンでなくてもそうだ。神が人に特別な力を与える時は、必ず対価を求める。あるいは誓約を立てさせるだろう。私が未来予知じみたことを言った上でその力の出処を白状しない以上、『加護を与えた神の名を口にしてはならない』という、秘匿の誓約を立てさせられているとも取れる。

 私は別に、予言の力を持っているとは一言も言ってないだけで、別に騙すつもりはないのだけども。単に説明が面倒だっただけだ。それに、黙っていた方が面白そうでもある。仮にヘーラクレースが強引にでも話させようとしたら、彼の性格は秘密の共有には向かないと判断できるのだ。


「……なるほど。お前は予言の力でオレがここに来るのをあらかじめ予見し、自らの役目を果たすため、何食わぬ顔でオレを利用したわけだ。そしてイリオン王はオレに何も対価を払わん……と、そういうわけだな?」


 果たしてヘーラクレースは、追求してこなかった。

 私は笑みを深める。この男の人となりが、素直に好感を覚えられるもので。

 屑野郎ロールをするなら、ヘーラクレースを利用してやろうとするだろう。安価は絶対だ、覆す気はない。だから私は彼を利用するが……ちょっとだけ、素の自分で接することができないのが残念だった。

 意識を切り替え、ロールに没頭する。雑念、断つべし。ここにいるのは『ニコマ・ソクオーチ』という、黒幕系仮想聖女を目指す者なのだから。


「はい。お父様が気紛れを起こしたなら、なんらかの報酬は支払われるかもしれません。しかしヘーラクレース様の要求に機嫌を害すれば、余程の愚か者でも躊躇することを平気でなさるでしょう。お前が勝手にやったことに、なぜ自分が褒美をくれてやらねばならないのだ、とでも言うかもしれません」

「ふざけた男だ。やはり王という輩にまともな者はいないらしい。対面していれば殺してしまうかもしれんな」


 ――短気である。そして単純で、何より物騒だ。ラーオメドンの反応を予想して伝えただけなのに、それを信じて怒り出しそうになるだなんて。

 ヘーラクレースはこめかみに青筋を浮かべて、悪鬼のようなスゴイ顔をしていた。……顔芸かな? なんて思いをおくびにも出さず、彼が単純なのはラッキーだなと内心ほくそ笑んだ。誘導が楽チンでいい。

 こうなれば、おそらくヘーラクレースはこう言うはずだ――


「ならオレは、イリオン王に会わん。無駄に怒りを煽られるだけというのも面白くはない。五年後だ、オレはお前を攫いに来る。ニコマの命と国を救った対価は、救われた当人であるお前から貰おう」


 ――と。

 一言一句違わずとはいかないが予想通りの台詞だ。

 だが彼は、私の予想をすんなり超えることを言い出した。


「それからニコマ、あの獣を討った武勲は全てお前にやろう。オレは最初からイリオンになど来なかった……ということにし、お前が一人でマレハーダなる神罰の代行者を討ったことにしろ」

「……え?」

「野心があるのだろう? マレハーダめを斬りつけながら、高々と吠え立てていたのが聞こえた。なに、恥じることはないぞ。女だてらに何を目指すのかは知らんが……ニコマ。お前からは破滅の臭いがする・・・・・・・・。お前が身を立て、大人物と成れば……それはそれは面白そうだ」


 低い声で笑うヘーラクレースの顔を、まじまじと見詰める。

 信じ難い申し出だった。あの中二ロールで飛び出した台詞を聞かれていたのに赤面するも、そこは無視するとして。

 名誉を重んじる英雄という人種が、自分から名誉を捨てるようなことを言い出すなんて……何か裏があるのかと懐疑的な気持ちになったとしても、それはなんら不思議な心の動きではないだろう。


「……なぜ、私にそこまで? 出会ってまだ一時間も話していません。あなたを利用した私に名誉を譲るなんて、不気味です」

「フン。率直に物を言う女だな? そういうところ・・・・・・・だ、お前がそう・・だから気に入った。だから名誉なんぞ幾らでもくれてやるのさ」

「………?」


 いまいち要領を得ない説明に首を傾げると、ヘーラクレースは笑う。私の偽りで出来たものとは違う、剥き出しの感情を見せていた。

 彼は、喜んでいたのだ。


「オレは、ヘーラクレースだ」


 噛み締めるように、英雄の名を唱える。重い名だ。


「そう、オレはヘーラクレースなのさ。故に誰もがオレを畏れ、まともに口を利ける者は滅多に現れん。オレを知りながら平然と利用し、オレを前にしても欠片も怯えず、オレと共に戦いながら遠ざからない……ああ、お前がイイ女だから贔屓してやろうと思った。それ以上の理由なんぞ無い」

「………」

「ニコマ。オレはお前を手に入れる。美しいから、というのもあるが……何よりオレを……このオレを恐れないから欲しくなった。嫌なら言え、お前の気に入らないところがオレにあるなら、最大限直す努力をすると約束する」


 ちょっとなんですかこの人。かなり本気なんですけど。私のロールの清らかさに惚れ込むのは分かるけど、いきなり過ぎる。こわい。

 ちらりとコンソールを開いてスレを覗いてみると、それはもう辺り一面に草が生い茂っていた。私は嘆息する。思考が追いつかない。なので、ここは逃げよう。


「では五年後にまた会いましょう。私から何かあれば、その時に言わせていただくということで」

「良いだろう。迅速に残りの勤めを片付け、五年と言わず四年、いや三年でお前を攫いに来る。そしてニコマが大人になる残りの二年を共に過ごそう」


 グイグイ来ますよこの人。凄まじいバイタリティーに私タジタジ。

 咳払いをして一礼する。この流れはマズイ、今の私では到底太刀打ちできる気がしない。五年、いや三年以内に私も彼に対抗できるようにならないと、真剣に貞操が危険で危ない。

 では、私は帰りますと告げ、そそくさとイリオンに向かう。

 そんな私の背中に、ヘーラクレースは一時の別れを惜しむように言った。


「オレの名は、アルカイオスだ。ヘーラクレースと名乗る前はその名を使っていた。神々はこの名を知っている、もしも神に手を出されそうになったのならアルカイオスの名を出せ。そうすれば無事でいられるだろう」

「……お心遣い、感謝します」


 遠回しに『コイツ俺の女だからな』ってアピールしたいだけじゃないですかヤダァ!

 誰がお前の名前なんか使うもんか! 自分で切り抜けてやるもんね! ……どうにもならなくなったら使わせてもらおう、うん。


 こうして私はヘーラクレースと別れた。

 半日も戦闘をこなしても、ほとんど疲れていなかったというのに、なんだかドッと疲れてしまったらしい。イリオンに向かう足が重い。

 私はヘーラクレースを天敵に認定すると共に、心の中で思ってしまう。なんだか憎めない人だったな、と。そんな不思議な印象が、ひどく胸の中に残った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る