三話 煽っていくスタイル
295:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
キャァァシャベッタァァ!
なして外国の、それも古代の言葉が理解できるでござるか!
296:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
説明しようッ! 23×☓年を生きる人々は、進化発展を繰り返した翻訳技術『バベルの塔』により、言語による無形の国境を取り払うことに成功したのだッ! そこにネットとか現実とかの違いはないのであるッ!
もちろん世界や時代の壁も超えちゃってるゾ! だから良い子のお爺ちゃんお婆ちゃん、あなた達はボケたわけでも突然外国語を一挙に習得したわけでもないので勘違いをしてはいけない!
297:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》296
誰に説明してるんですかね……。
おれらが生まれる前にはもうあったじゃん。
あって当たり前でしょぉぉ?
298:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》297
おれの爺ちゃん婆ちゃんは150歳だ。めっちゃ元気。
ちなみにおれの爺ちゃん》》126な。
》》295はたぶん、今来たばっかの婆ちゃん。
299:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》298の爺ちゃんたち長生きし過ぎ元気過ぎぃ!
良いことなんだけどね!
ってか爺ちゃん婆ちゃんニコちゃん見てんのかよ!!
女神アーテーを名乗る少女に、私は鉄壁の微笑みを湛えて応じる。
動揺はない、とは言えない。
しかしそれを表に出すことはなかった。神様来たらラッキーとは思っていても、ギリシア神は軒並み危険な連中なので誰が来ても同じという認識があったからだ。
だからこそ表向き平然とした調子で、女神に訊ねられた名を答えた。
「偉大なる女神アーテー様。不肖の身の呼びかけに応じていただき感謝の念も絶えません。私はニコマ・ソクオーチと申します」
「ニコ・マソク・オーチ? 変な名前だ。さてはここらの人間じゃないな? んー……じゃあニコって呼ぼっか」
私のアヴァターラ名を口にするアーテーだが、どことなくイントネーションがおかしかった。が、さして気にすることもなく流す。
何せアーテーは、私の世辞に対して悲しげに、そして訝しげな反応を示したからだ。女神は言う。
「にしても、偉大なる女神、ねぇ……ニコはあたしのこと知らないの?」
「存じ上げております」
「ならさぁ、なんであたしを偉大だって言うんだよ? 持ち上げてくれるのは嬉しいけど、助けに来てあげたのは見え透いた世辞がほしかったからじゃないよ? あたしは破滅と不法の女神、そんなの偉大でも何でもないって分かってるしね」
『オリンポス』をはじめるにあたり、ギリシア神話の神格に関して予習しておいた『俺』に抜かりはない。神だけは敵に回してはいけないし、味方にしても安心できないが、睨まれるよりは全力で媚びておいた方が良い。
自嘲を含んだ釘刺しに、しかし私は首を傾げた。これは演技ではなく、素。元よりロールプレイに入った私は演技こそ素になる。だが元の私であっても、今の台詞は腑に落ちなかった。ここは媚の売りどころである。
「破滅に繋がる愚行、妄想を司り――人が持つ道徳的な判断力を失させ、盲目にさせる狂気の神。それがアーテー様のはずです」
「よく分かってるじゃんか」
「あなたが地上におられるからこそ、人は愚行を繰り返すようになった。しかし、アーテー様がいらっしゃらなければ、人は決して人たりえない」
「え……?」
舌の回転力こそパワー。勢いとそれっぽい言い分で誤魔化し好感度を稼ぐ!
神とのファーストコンタクトである、手加減はしない。全力の
「過ちを犯さず間違えない者。そんな者がいるとすれば、まさに完璧と言えましょう。ですがそれは、果たして人間と呼び得ましょうか? 如何なる賢者であっても間違える、故にこそ人は慎重であることや平穏の価値を知ることができ、人を思いやる心を大事に思えるのです。
人は人であるからこそ、因果応報の破滅を克服せねばなりません。故に破滅の因果など個々人の自業自得。それぞれが自己の振る舞いを気にかければよいだけのこと。いわばアーテー様は地上におられるだけで、あまねく人々へ人たりえる味を与えたと言えましょう。
人はこれを『人間味』と言います。アーテー様は人がより高次の存在へ成長するため、人にとって欠かせない課題を提示してもくれたのです。これを偉大であると称さずなんと称するのですか?」
「………」
糸目をさらに細めて、アーテーは私を見据えた。
鋭い眼差しには、彼女の神格ゆえか不吉なものを感じさせられる。
300:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
ニコちゃん! その病的な成り切りの凄さは分かったから正気に戻ろう!
301:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
おまえはいま見えてる地雷を踏もうとしてるんだぞ!
302:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》301
そうは言うがな……地雷でない神なんてギリシア神話にはほぼいないぞ。
だから逆に考えるんだ。地雷ってのは踏めばなくなると考えるんだよ。
303:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》302
これは天才。目からウロコだわ……。
304:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》302
天才現る。問題は踏んだ側も『なくなる』ことなんですけどね。
つかの間、沈黙が流れる。奇妙な緊迫感が流れた。だがそれも他ならぬアーテーに破られる。
珍妙な小動物を見下ろすかのように、曖昧に笑ったのだ。
「キミ……本気で言ってるね。嘘も偽りもなく、本心であたしを偉大だと思ってる」
それは、断定だった。明らかに確信を持って私の賛美を受け止めている。
神である故に賛美を受けるのが当たり前と思う傲慢さではない。心を覗いたかのような声音だ。
ここで、一歩引く。平身低頭するのだ。分を弁えているように振る舞う。
「神は神であるから偉大である――私のように矮小な者が、神が偉大であるか偉大でないかを論じるのは、そもそも出過ぎた行ないでした。謝罪致します」
「アッハ、面白い子だね、うん。キミを助けに来れてよかった。じゃあニコ、あたしについてきて! 特別にこのアーテー様がイリオンを案内してあげようじゃあないか!」
ありがとうございます、と頭を下げる。しかしその内心では、アーテーが口にした都市の名前に首を捻っていた。
イリオン。予習範囲に含まれていない名前である。にこにこしながら背を向けて、上機嫌に歩き出すアーテーについて行きながら呟いた。私の声を拾う集音マイクに、ぎりぎりで届く程度の声量で。
「イリオンってどこ? 私の予習範囲に入っていない名前なのですが……」
305:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
おっ。出番か出番かー?
306:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》305
出番やぞ、知識自慢ニキ。
307:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》306
よしきた。ニコちゃんの『オリンポス』実況始まってから、ギリシア神話の学習に時間を割いてきた実力を見せちゃる。次、長文いくぜ。
308:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
デュスノミアとかいう名前は流すとしてそもそも女神アーテーとは、ギリシア神話の英雄ヘラクレスが生まれる前、ヘラクレスに王様の身分をプレゼントしたかったゼウスに、「じゃあ次に生まれるペルセウスの子孫にミュケナイ王の身分あげるって宣言すればいいんじゃない?」と提案した女神だ。
ゼウスはこれを名案だと思いその通りにした。が、ゼウスの浮気によって生まれた子供全体に、異様で異常な憎しみを燃やす女神ヘラの手回しでご破算になった。ヘラクレスより先に別のペルセウスの子孫を生まれさせたことでヘラクレスは王様になれなくなったんだ。ゼウスも自分が宣言した内容を撤回できなかったからな。
で、ヘラの所業にムカついたゼウスは、八つ当たり気味にアーテーを地上に追放。二度と帰ってくんなとか命令した。そんでアーテーが地上の人間達の間で暮らすことになったから――ってくだりはさっきニコちゃんが言ってたな。
そのアーテーが落とされた場所がイリオン。このイリオン、後のトロイアなのよ。皆も流石にトロイアって名前は知ってるよな? トロイア戦争の舞台になったとこだ。
309:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》308
長文ニキありがとう。
310:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
トロイア……?
あっ(察し)
「あっ……」
虚空に浮かぶ半透明のモニター。プレイヤーである私にしか見えないそれに文字が走るにつれて、私は知識自慢ニキの説明に嫌な予感を覚えた。
トロイアのことは流石に知っている。ギリシア神話を学んで、トロイア戦争を押さえないわけがない。
今がどの年代か、正確なところを把握していないし、そもそもこの並列宇宙はギリシア神話に似ているというだけで、それそのものというわけではないのだ。だから現在地がトロイアであっても、絶対に何事かが起きるという確証はない。ないが……『オリンポス』がリアルでのギリシア神話に似通っているという前情報がある以上、ある程度は参考にしてもいいはずである。
現状、急務とするべきなのは年代の特定だろう。トロイア戦争以前にも、何度かトロイアは神話的事件の現場になっている。それにもしもトロイア戦争の真っ只中であったりしたら、可及的速やかに巻き込まれないようトロイアから離れないといけない。ゲーム開始早々に脱落するのはつまらないだろう。
そんなことを考えていると、くるりとアーテーが振り返ってきた。両手を後ろで組んで、彼女よりも幾らか背の高い私を見上げるようにして。
「人間に合わせて歩くのかったるいねぇ。これじゃいつイリオンに着くか分かりゃしないよ?」
「それは……申し訳ございません。イリオンがどちらへあるのか、方角だけでも教えてくだされば、後で私からアーテー様の方へお訪ねいたしますが……」
「あー、いいって。途中で放り出すのも無責任だし? それに後であたしを訪ねるって言ってもさ、地上にあたしを祀る
ひらひらと手を振る様はあくまで軽い。本人は気にしてなさそうだから何も言わないで、少しだけ眦を落とした。
そんな私に、アーテーは「アッハ」と笑う。
「あたしが言いたいのはさ、こっからイリオンまでそれなりに距離あるし、ちょっとばかしズルして行こうかなってコト」
「ズル、ですか?」
「うん――
311:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
うん?
312:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
伯母様? アーテーたんの伯母……ヒェッ(失禁)
313:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
待って。ちょっと待って。え? アーテーたんは誰呼んでるの?
314:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
ギリシア神の系塁はたしか……あっ(察し)
ふふ、怖い(白目)
ズルをすると言って、おもむろに天空に向け喚き立てるアーテー。私は彼女の突然の奇行に面食らった。
気でも狂ったか? さてはヘラにでも狂気を吹き込まれたのだろうか。いや元々狂気の神格なのだし、最初から狂っている?
と、普通なら思う。しかしここは神が実在している世界だし、アーテーとて神だ。奇天烈な言動にいちいち面食らっていたら今後『オリンポス』ではやっていけなくなるだろう。慣れるべきだ。
そう思っていると、ふいに天上から雷鳴が鳴り響く。
驚いて空を見上げた。
最初は雷鳴と履き違えたが、轟いたのはそれではない。まるで大きな構造物が爆破され、崩れ落ちていっているかのような、暴虐の破壊の音色である。
空が揺らめき、一つの位相を通過して、天上の雲を突き抜けてくる物があった。それが二頭の馬に牽かれた戦車であるのを見て取って度肝を抜かれる。
どう見ても飛翔体ではない物体が、空を走る力なんて有していないはずの馬に牽かれて、足場のない虚空を駆けてくるのだ。神話世界という前知識があっても、これには驚かざるをえない。
戦車を操るのは二本の巨大な両刃槍を携えた、人智を超えた美貌の女神だった。
たなびく長髪は真紅。狼の毛皮で編んだチョーカーを首に嵌め、漆黒のバトルドレスを身に纏っている。
血の色の瞳はアーテーよりもなお禍々しく、空に赤い軌跡を引く閃光は暴力の濁流とも表現できた。
リアルの博物館にある最新の宇宙戦艦に匹敵する存在感を、たった一つの知的生命体が有しているかの如き迫力は、まさに超越者としか言えないものだ。
思わず身を固くする私の前に、戦車が砂埃を舞わせながら接地する。二頭の逞しい馬が前脚を上げて嘶いて、戦車から身を乗り出した女神が鼓膜を突き破らんばかりの大声で喚いた。
「おう! おうアーテー! 俺の姪、俺の姪アーテー! 何処にいる!? 確かにここらから声がしたはずだ!」
「ここぉ! ここだよ伯母様ぁ!」
「おう! おうそんなとこにいたのかアーテー! 相っ変わらずチビぃな!」
わざとらしく――だが明らかに素でアーテーを見つけられず、ぴょんぴょんと飛び跳ねた彼女を発見して、戦車の女神は豪快に笑った。
私の存在になんて目も向けていない。だがそれでよかった。不意打ちじみた登場を果たした彼女に視線を向けられていたら、その威圧感で失禁していたかもしれない。緩みかけていたものをなんとか引き締め、グッと気力を振り絞り女神の威圧感に対抗していると、アーテーと名も知らぬ女神は会話を続けていた。
「チビって酷いよ! それよりさ、聞いてよ。あたし、人間に神として崇められたんだ」
「ほう! それは重畳! 愚昧で矮小、見る目のないアホたればかりの小人の中から、俺の姪を崇める小人がようやく現れたか! それで、その小人がどうした!」
「ニコっていうんだけど、ソイツがさ、道に迷っててね。せっかくだからイリオンまで連れてってやろうと思ったんだけど、連れて行くまでがかったるくてさぁ。よかったら伯母様の戦車に乗せてってもらおうと思ったんだ!」
「なに? それは……それはつまり? この俺を……この俺を、小人ごときの脚として使おうというわけか!?」
言うなり、女神はアーテーの頭に拳骨を落とした。
ゴチンッ! と凄まじい打撃音が響く。それは見ている側の私が肝を潰さんばかりの轟音だ。
というかその衝撃の余波で私の髪がぶわりと浮いて、アーテーの頭がザクロの如く弾ける様を幻視してしまう。
今の音と衝撃波だけで、人間がこの女神の拳骨を受ければミンチになるのが容易に想像できる。だのに、とうのアーテーは涙目で痛がるだけで済んでいるようだ。これには自身の目を疑うしかない。
「俺を呼ぶからには戦であるべきだろうがよ! この戯けがッ! その上で伯母を脚に使おうとは馬鹿げていると思わんか!? このお馬鹿ッ! まあ、そんなお馬鹿なとこが可愛いんだがな!」
「な、殴るこたぁないと思うんだけど?」
「いつまで経っても間抜けが治らんアーテーには、これぐらいが良い薬だろうがよ。で――そのニコニコとかいう小人は、これか?」
突然水を向けられる。横目に私を一瞥してくる目には、敵意も殺意も、威圧しようという意識もなかった。
さりとて完全な無関心というわけでもない。たとえるなら、偶然目の前を横切っていった野良猫を見かけた時のような目だ。
私はその場に膝をついて頭を下げる。そしてできる限り慇懃に、丁寧に礼を示した。
「お初にお目にかかります。私はニコマ・ソクオーチ。女神アーテー様のご慈悲に縋り、イリオンへの道へ導いていただいておりました」
「………」
「異国の者ゆえ無作法を致すこともあるやもしれません。しかしこの胸に懐く神への敬意に偽りはなく――」
「ああ、いい。もう黙れよ、砂利」
大きな声で口上を遮り、女神は面倒臭そうに言った。
「俺はテメェのことになんざ関心はねぇんだ。俺の姪の初の信徒、ただその一点で生かしといてやるが、オリンポス十二神の一柱であるこの俺と直に言葉を交わそうなんざ百万年早ぇ」
「………」
「おう、一つ教えといてやる。どこの田舎から出てきたか知らねぇがよ、神に対する時は黙って言うこと聞いてりゃいいんだよ。返事も要らねぇ、言われたことだけやってろ。俺の姪はオツムがゆるゆるの馬鹿だから、テメェとも対等に口利いてやってんだろうが……いいな、俺含め他の神にそんな真似はすんなよ? 股ぁ開けっつわれたら股開け、死ねっつわれたんなら死ね。できないってんならブチ殺し確定だ」
「………」
うわぁ、と私は内心ドン引きした。なるほどこれが神、理不尽だ。もしや、アーテーが人間基準でのウルトラスーパーレアだったりするのだろうか。
物凄い横暴っぷりに、さしもの私も沈黙してしまう。というか下手に口を開こうものなら即座に神罰でも下りそうな予感すらした。沈黙は金、口は災の元として、素直に黙っておくことにする。
すると、アーテーが口を挟んできた。
「ちょっと伯母様、あたしの信徒いびらないでよ。別にニコ、悪いことしてないじゃん」
アーテーの信徒になった覚えはございません、とは言い出せない空気。物言いたげな顔もしない。ただ庇ってくれたのにはトキメいてしまった。
スレの中で『アーテーたん』呼ばわりされているが、私も今度からは親しみを込め、アーテーたんと呼ばせてもらおう。もちろん、心の中でだけ。
「あぁ? あぁ……でもな、小人って奴はすぐ増長しやがるんだぞ? ちょいとばかし踏みつけて、逆らう気力も湧かねえぐれぇに躾てやってた方がいい。イリオンの現王とか見てみろ、調子に乗ってアポロンとポセイドンの糞どもをタダ働きさせやがった。あの身の程知らずには今に神罰が下るが、小人どもの蒙昧さってのが分かるだろ?」
「でもそのイリオンの王と、ニコって別の人間じゃん。同じ括りで扱うなんて可哀想だよ。それにあたしさ、伯母様のすっごい懐深いとこが大好きなワケ。あんまり狭量なこと言わないでよ」
「はぁ? ……はぁ。このお馬鹿はまた、そういうお馬鹿なことほざきやがって……」
アーテーの文句に、女神は頭が痛そうな顔をした。そして悩む素振りを見せながら、私を見る。女神をジッと見上げる私を。
その血の色の瞳から、目を逸らさない。
不思議と怖さはなかった。女神に私を害そうという意志が欠片も見当たらなかったから怯えずに済んでいる。
やがて、ややあって女神は呟いた。
「……なんて目ぇ、してやがんだ。ここまで目の腐った女、見たことねぇ。この俺を直視して、怯みもしねぇなんて……どこかしらぶっ壊れてんのか?」
「………?」
「んなら、コイツの薄気味悪い神聖さってのも納得だわな。気狂いの類いなら神の道理を押し付ける価値も無い。……うっし、理論武装終了! おうニコニコ! テメェは狂人だ、んなもんで俺と直接口を利く無礼を許す! 狂人に道理を説くだけ無駄ってもんだからな!」
315:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
姪っ子に甘ぁい!
316:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
この女神、手の平ぐるんぐるんである。
317:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
……あの、身内に甘すぎません、この女神サマ。
や、気持ちはわかりますがね。仲さえよけりゃ姪は可愛いもんだし。
318:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
オリンポス十二神……戦車……アーテーたんの伯母……ヒィィ(失禁)
319:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
嫌な予感しかしない。
「……それは、まことですか? であるなら、感謝を。知らなかったとはいえ無礼を働いたこと、お許しいただきありがとうございます」
「いいってぇの。だが忘れんな、巫女でもなんでもねぇただの小人風情が、このオリンポス十二神の一角、
320:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
うぎゃぁぁあああ!?
321:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
やっぱりアレスかよぉぉ!!
322:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
はい死んだ、死んだよニコちゃん!
323:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
待て、おたつけ、素数を数えるんだ!
324:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》323
おたつけって何www
落ち着けって言いたいんならお前が落ち着けwww
325:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
落ち着けお前ら! 今この超絶美女神、アレイスって名乗ったんだぞ!
アレスじゃない、アレスじゃないんだ!(現実逃避)
326:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
はいはい女体化女体化、やっすいラノベかよ(震え声)
――その時、私に電流が走る。
今だ、今しかない。今こそやるべきだ。ここでヤらずにいつヤルの、ここでヤらなきゃ男が廃る。これぞ『俺』山口賢民が生き様、唯一絶対のルール。
一瞬にして『
「
327:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
……へぁっ!?
328:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
安価!? 安価ナンデ!?
329:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
ファーwww
スレの住民たちの動転が心地よい。
俺の沈黙に、アレイスが訝しげに問いかけてくる。
「おい、おいどうしたニコニコ。どうした? お?」
「いえ……アレイス様の寛大なお言葉に、感動を禁じ得ず……アレイス様、一つお訊ねしてもよろしいでしょうか?」
「おぉ、いいぜ。好きに聞けや」
「はい。では……」
言葉をそこで一旦切る。良い流れだ、これならいける。
小声で安価を募る。さあ、聞き逃すなよ住民たち。一度しか言わないぞ。
「安価。
一『アレイス様は男神だと聞いていたのですが、実際は違ったのですね』
二『ムスコ、ついてますかぁ?(煽り)』
三『アーテー様とアレイズ様を一生崇めます。つきましては――』
以上。安価は下3から下13までの多数決です。一番多い票を採用」
言いながら、俺は時間を稼ぐ。
あたかも口にすべきか否かを思い悩むように。さも重大な事柄を打ち明けようとしているように。
アレイスはじれったそうにしているが、一応待ってくれている。さあ今の内だぞ住民!
330:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
ちょwww 2www 選択肢の二番目ヤバイwww
三番で。全力で媚びていけ(真顔)
331:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
なに煽ろうとしてんねん!www
一番。
332:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
隙あらば煽っていくスタイル、嫌いじゃないわ!
でも命は大事に、わかりますね? 1で。
333:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
ROM専のおれが通りますよっと。2で。
334:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
気でも狂ってんのかニコちゃんはwww 2で。
335:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
1だな。
336:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
3で。
337:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
ニコちゃん……流石の拙者も真顔になるでござる。1で。
338:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
ニコちゃんさては、自殺志願者なのでは? 2で。
339:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
》》338
デスゲームに自分から凸ってる時点でそうとしか思えないんだよなぁ。
2
340:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
デスゲーム実況見に来てる奴がいまさら善人ぶんなよ……。
2だろ、おれらが本当に見たいのは……!
341:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
2
342:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
2
343:名無しに代わりまして英雄志望がお送りします
2だな。デスゲーム実況者、伝説の英雄ニコちゃんに求めてるのはスリリングな選択だ!
住民の生の声を聞いた。
これを啓示であると言わずなんと言うのか。
俺は決然とアレイスを見る。そして『
脳裏に描く文言は決めている。それを如何に自然な形に調理するかがイッチとしての腕の見せ所……!
「アレイス様。私は異国の者でございます。オリンポス十二神に関しましても風聞でしか知り得ておりません。そこで一つ、お訊ねします」
「んだよ、まどろっこしいな。どんだけ俺を待たせてんだか……いいから早く言え。待たせるのは好きだが待つのは嫌いなんだよ」
「では失礼して……」
ごくり。
と、遠くの次元で住民たちが生唾を呑み込む。
私もまた微かに緊張していながら、しかし安価をありのまま表現するために意地悪な顔をする。
愉快犯的性格の出しどころ……! 命を惜しむな名を惜しめ……!
「アレイス様。ムスコ、ついてますかぁ?」
――瞬間、空気が凍った。
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