4
組織の男に案内されて行き着いた先は、高級ホテルの一室だった。
ドアを開けると、うす暗い部屋の中央に
視界が部屋の暗さに
「元気そうだな、ドクター」
「遅かったじゃないか。ずいぶんと苦労したみたいだが大丈夫かね?」
「いや、たいしたことはないさ。それよりいちばん大変なパートはここからだぜ」
「それもそうだな」
そう言ってドクターはカラカラと笑った。その動きに合わせて、かれの
俺の視線に気がついたのか、ドクターは得意げな顔つきで箱をつまみ上げた。小さな黒い箱だった。大きさはトランプの箱と同じくらい。箱の表面にはいくつかのボタンと液晶パネルが付いていた。
「それが例の?」
「そうだ」
ドクターがうなずく。震える手で箱を受け取ると、大きさのわりにズッシリとした重みが伝わってきた。俺は
「なあドクター」やっとのことで声をしぼり出す。「本当にこんな小さな装置で夢が
「そうだとも。夢は実現する」ドクターの声は確信に満ちていた。「われわれの夢は現実のものとなる。この装置でわれわれは、永遠の命を得るのだ」
永遠の命――
ドクターと出会って三十年、これを手に入れるために頑張ってきた。プロの運び屋として、そしてドクターの右腕として、そこらじゅうをかけずり回ってきた。その苦労の結晶がこの小さな箱に収まっている――そう思うとなかなか
「感動しているところ悪いが、まだ仕事は終わってないぞ。いちばん大変なパートはここからだ」
「ああ、そうだったな。それで、こいつはどう使うんだ?」
ドクターに箱を返す。かれは目を細めて箱のボタンを押した。パネルが緑色に光ってドクターの顔を照らす。
ボタン操作を何度かくり返したあとで、ドクターはふたたび俺に箱を手渡した。箱の液晶パネルには、緑色の文字で大きく『04:00』の数字が
「タイマーを四時間後にセットした」
「タイマー?」
「そうだ。じつを言うとな、それは
「な、なんだって!?」
なにかの冗談だろうか?――しかしドクターはこんな
するとこの爆弾は本物か……この装置によって、永遠の命を得るという話も
「ククク、混乱しとるな。爆弾と永遠の命――この両者に、いったいどういう関係があるのか理解できんといった顔だ」
「そのとおりだ、ドクター。頼むから
「いいだろう。さて、きみは永遠の命と聞いてなにを思い浮かべるかね」
「なにって、そりゃあ……これから先ずっと生きつづけるとか、そういったことだろうな」
「普通はそう考えるだろう。わたしも最初はそうだった。人間の肉体を若返らせる。それがダメなら若いころの状態を維持しつづける。それが永遠の命というものの答えなのだと、そう思って研究を続けていた。
しかし壁にぶち当たった。長年の研究でわたしは思い知った。
しばしの沈黙。
ドクターは話をつづけた。
「なかば研究をあきらめかけていた、そのとき――
「時間?」
「そうだ、時間だ。時間を支配すれば、われわれは永遠に存在しつづけることができる。きみが考えている永遠の命とは、少し違った形の結末になってしまうが、しかしきっと満足してもらえるはずだよ」
「時間ねえ……あまりピンとこないな……。なあ、ドクター。結局この爆弾は何なんだ?」
「話を聞いていたのにまだわからないのか? それは時間を支配するための爆弾だ。これ以上の説明は言葉ではちとむずかしい。だが爆発させたときにすべてがわかる。きっときみにも理解できる。そしてきみだけでなく、われわれの組織のメンバー全員が理解するだろう」
ドクターの話はイマイチよくわからなかった。まあ、とにかく爆弾を爆発させればいいらしい。しかし本当にこんなことで永遠の命が手に入るのだろうか?
「あの建物が見えるか? あそこに向かえ。あれはこの街でもっとも高い
「おいおい、正気か? 街をまるごと吹き飛ばすのかよ」
「そうだ。そうしなければ時間は支配できんぞ。なんだ、いまになって
「いやそういうわけじゃないが……」
「なら早く行け。カウントダウンは始まっているぞ。それから周りにはよく注意しろよ。その爆弾を作るために
「大丈夫。俺はプロの運び屋だ。まかせとけって」
そういって上着の内ポケットに爆弾をしまうと、俺はホテルをあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます