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 日向ひなたの様子がいつもと違う。迷いながら花帆かほたずねた。


「……何か、あったんですか?」


「あったというか、継続中というか、むしろようやく終結に向かっていると言えなくもない、というか」


 はぐらかすような言葉に、花帆は理解が追いつかない。何も発せずにいると、日向は手を組み、ぐーっと伸びをした。


「うち、親の仲が悪いんだ。そろそろ離婚かって感じで。何年も揉めてて、それ自体はもう慣れたからどうでもいいんだけど、不機嫌な空気が充満してる家って居心地悪いからさ」


 右から、天井を通って、左へ。ぐるりと視線を巡らせ、日向はほ、と息をつく。


「それから考えるとここって天国だよね。静かで落ちついてて、しかも本が山ほどある」


 何か言いたい。けれど、どう言えば伝わるのかわからない。考えながら花帆は訊ねる。


「先輩、本読む人だったんですか?」


「いや、図鑑とか写真集とか、見はするけど文字はあんまり。でも聞いたことがあるんだ。本は人類の思考の集積、って。百冊あったら百通りの考えがあるのか、と思うとなーんか、いろんな人間がいるんだよな、って気が楽になる」


 本がある、だけでよければ何も旧図書館でなくていい。新しい図書館だって静かなものだ。

 それなのに旧図書館を選んでいるのは、共鳴するものがあるからではないのだろうか。

 放課後のざわめきにあふれる教室棟に囲まれていながら誰もいない、来ない、静かな建物。そこにあるのに誰にも開かれないまま、長い時間を過ごした本たち。切れたまま替えられることのない電灯。

 花帆は初めてここに来た日のことを思いだしていた。

 寂しい、けれどだからこそ慰められて、心のこわばりが解けていくようだった。


(先輩も、そんなふうに思ったんじゃないですか?)


 もちろん、花帆の勝手な想像だけれど。

 誰かの心に踏みこむのは怖い。でも伝えたいことがある。


「もし、ですよ。それでもどうにも愚痴ぐちりたい、とか苦しい、とか。そういうことがあったらいつでも話してください。聞いてもらえるだけでもすごいパワーになるって、わたし今、ものすごく実感してるところなので!」


 勢いこむ花帆に、日向は一瞬だけきょを突かれたような顔をした。けれど、


「ん」


 うなずいた表情は穏やかで、花帆は思わず微笑んだ。

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