第2話 世界に再び魔王が降臨する件
ロークの自宅のある断崖からは海を経て遠くにうっすらと絶壁に囲まれた島が見える。
その島には奇怪な形をした真っ黒な城が建っている。魔王の城だ。
ロークはその島を見つめ、魔力で島を探った。
秋になるとこのあたりは寒風が吹きすさび、海は荒れていた。
真っ黒な波が荒れ狂う様子が見える。
魔王がいなくても小舟で加護もなしに漕ぎ出せばあっというまに船は壊れこの暗くて黒い海に飲み込まれてしまうことだろう。
ロークは島を探り終え、ほっと息をついた。
魔王の力は感じられなかった。
ロークは自分の家の扉を開けた。
小さな小屋だ。
頑丈に作られてはいるが、ちょっとしたレンガの床に絨毯、暖炉に寝床、書棚くらいしかない。
ロークは暖炉に火打石で火をつけ、鍋を置いて湯を沸かした。
薪から吹き上がる炎を見つめていると赤毛の少女を思い出す。
赤毛を短めにまとめ、弓と魔術、法術が得意で聖剣の使い手に選ばれたのが不思議なくらいだった。
彼女は聖剣を振るって魔王と刺し違えた。
(……そんなキャラじゃなかっただろ
あれから10年。25歳だった自分も30代の半ばだ。
生きていれば勇者エリスは27歳。
ロークは女性として最盛期を迎えようとしているエリスの姿を想像することがあった。
しかし彼女は魔王と共に異次元に消えた。
勇者のパーティは解散し、ロークはこの魔王城に近いロッテンブルクにやってきた町のまじない師のようなことをやりながら生活していたのだった。
世の中が平和になったので強力な魔術も法術もあまり必要なくなった。
まじない師もこうなると必要にされるのはせいぜい羊の祈祷、漁師の船の加護、雨ごい、ちょっとした怪我や病気の治療といったくらいでなかなか生活は苦しかった。
そこでやむなく冒険の旅で手に入れたアイテムを少しづつ売って金にして賄っていた。
冒険者ギルドのクエストを受けるにしても、ロークとしては魔王城が心配であまりロッテンブルクを離れる気にもならずすっかり10年も経ってしまっていたのだった。
今の楽しみといえば酒場のサーシャをからかうことくらいか。
ロークは沸かした湯を取り分けお茶をいれ、残りでスープを作った。
戸棚からパンとチーズを取り出し簡単な夕食を済ませると習慣になっている決壊を身の回りに張り眠りに落ちた。
夢の中でロークは勇者パーティと再会していた。
いつも思い出すのは最後の魔王との戦いだ。
最後に仲間たちと杯を酌み交わし魔王の待つ邪教の間に突入した。
そして戦い。
魔法の激しい応酬、呼び出される異次元の魔物たち、壮絶な戦いだった。
光がきらめき、勇者エリスが聖剣を振るう。
聖剣は異次元の力を押し込め、魔王ごと、そして勇者と聖剣ごと異次元へ消えていった。
その悪夢はいつもそこで終わる。
そしてロークはバキバキバリバリという激しい音で目を覚ました。
小屋の屋根が吹っ飛び、重たい梁が落ちかかってきていた。
激しい風が吹きすさび、冷たい、冷たい風と雨がロークの結界を叩いていた。
「な……?」
結界で無事だったが、もし何もしていなけれは梁で潰されていたところだった。
あわててロークはローブを羽織り、家があった場所から飛び出した。
何かの攻撃か、魔法の気配を感じる。
ロークの小屋はばらばらに吹っ飛んでいた。時刻は夜。
風雨がロークのローブを乱打する。
ふと下方の街を見ると、真っ赤な火がいくつも上がっていた。
……襲撃だ。
強力な闇の力を感じる。魔王の眷属クラスのかなりの闇の力が蔓延し、街も今まさに魔物の襲撃を受けているところだった。
ロークは背筋に粟立つものを感じた。
魔王の力の片鱗を感じたのだ。10年前の魔王とそれは全く同じだった。
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